老婆の心臓が貫かれた。衝撃からか老婆の目を大きく開きながらも口角は決して下がらない。
そんな様子を僕は顔に飛んだ血を拭うという冷静そうな行動をしながら眺めていた。
(え、あぁ、え。老婆が刺された?なんで?なんでだ、。これ、血、!ち、か!どう、、したら、?!)
老婆の死に追いつけなさすぎて外も内もぐちゃぐちゃだ。一先ず本当に死んだのか確認だ。老婆の顔が見えるように血がついた手を動かし死を確定させる。
男が槍を抜いた。抜く際に支えになっていた槍の角度が変わり老婆は倒れてしまった。
「これで女衆は治るのか?」
「恐らくな。まだ死んでないようだが直に死ぬ。そうすれば治るはずだ。次はこの子だ。1人じゃ苦しませてしまう、手伝ってくれ。」
男達の話が終わると女を抱えた者以外がカグヤを囲むように動く。
僕の老婆が倒れた。死んだ。けどやっぱり悲しさは少しで、動揺が多くを占めてる。
老婆が死んだからだろうか。ひたすらに頭の中で繰り返されていた老婆から僕への信頼の言葉が加速されリピートされる。もっと不思議なのがリピートされる度に胸の高鳴りが激しくなっていくことだ。
(なんでだろう、、。なんでこんなにも高鳴っているんだろう。)
▶▶▶▶▶▶▶▶
殺されることを察しているカグヤの胸中は混沌だった。老婆からの信用に応えたいという気持ちが高まれば高まるほど、この知らない男達への殺意が湧く。殺意が高まれば高まるほど老婆が話したカグヤの物語が思い出されていき、自らが創作物の主人公であるかのような全能感に浸っていく。
自らの感情ではないような質感の怒りと自らの感情であると認識できる全能感を感じている。
これらの感情と同時に前世の記憶が更にでてくる。現実逃避を繰り返し、自己中心的であった自分。前世では決して感じることがなかった感覚。それらが混ざり合い、自分が自分でなくなっていく強烈なアイデンティティの崩壊と再構築が始まった。
とてつもない頭の痛さと自分が空っぽになりそこに新たに泥が詰められているような感覚が永遠に感じられるほど続いた。転げ回りながら無くせない意識を呪う余裕すらなくひたすらこの感覚が無くなることを願い続けた。
再構築が終わる。
全能感が溢れている。
周囲を見るにあの永遠は実際には1分も経っていないようであった。
そして全能感に従い、カグヤはこれから殺す男たちの顔を見るために顔を上げた。
「こいつっ、、。笑ってやがる、、。」
「やっぱり俺らが正しかった。こいつは駄目だ。始めよう。」
男達がカグヤの顔を見て不気味に思ったのか今までの薄い緊張感は無くなり、張り詰めるような緊張感が場を包んだ。
男達の1人が問答無用にカグヤに槍を突き刺す。それに続くように他の男達もカグヤを殺しにかかった。
小さな子供に10本以上の槍が刺されるという異常な光景が出来上がる。
「う、動か、、。押せねぇっ!?」
槍はカグヤの身体を貫けてはいなかった。それどころか皮膚にすら達していない。どの槍の先端もカグヤの体に沿うようにして曲がった白い板のようなものを押し続けている。硬いものがぶつかり合うような少し高い音が槍の数だけ鳴っている。
(殺そう。僕はカグヤ、、。最強なんだ。逆らう奴は殺さないと。)
「僕はカグヤだ。」
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まずはこの男をやろう。この男は僕を攫ったやつに似ている。心臓を貫くんだ。
手のひらから骨の先端を出し、貫く準備をして、一気に接近する。
「まずはお前。」
「まっっっ!?」
男の心臓を、手のひらから細い円錐のようにして伸ばした骨の槍が貫く感触がある。怒りが少し引き、その分を更なる全能感が埋め始める感覚がある。
(僕は最強だ!だってこんなにも呆気ない!)
「僕の命はお前らなどに消化されるためにあるんじゃない。僕の命は僕のためにのみ存在する。」
強い怒りと全能感で前世では絶対に言えないことを恥ずかしげもなく言ってしまえる。前世の記憶がただの知識となっていき、新しい人格が形作られる、そんなような感覚に襲われる。
(この感覚に身を任せよう。
この感覚は僕を最強でいさせてくれる気がする。)
感覚に身を任せるまま身動きを取れていない男達に指から筋肉の力を使い指の骨の弾丸を飛ばした。
「ぎゃっ!」
「がっ?!」
骨の弾丸が男達の頭を貫いたのを確認し、身体全てが武器になり盾になることも理解する。
この能力と才能は僕よりも体格が良い奴を容易に殺せる素晴らしいものだ。
(この能力と才能があれば、、、。
どこまでも!どこまでもいける!もっと⋯!もっと試したい!)
そう思うと身体はより軽くなり、自由自在に動く様な気がした。。
抵抗されようがどんどんとアリを踏み潰すように殺していく。
どんな体制からでも攻撃ができ、守ることができるこの肉体は最強の矛であると同時に盾でもある。
警戒なんて要らない。
女だろうが、意識があろうがなかろうが関係ない、試せたらそれでいい。
自分の能力と才能に、そして今は微かにしか残っていない怒りに身を任せていたらいつの間にか周りは血だらけであり、僕しか立っていなかった。
巨体を持った男の土手っ腹を貫いている子供の背丈にはアンバランスにすぎる腕と一体化した巨大な骨の槍を振い男の体を捨てると、疲労と同時に様々な感情が湧いてすぐ消えていったが幸福感のみが残っていた。
「僕はカグヤなんだ、、。」
最高だ。老婆を殺されたこととか、なんでこいつらが僕を殺そうとしてきたのかはどうでもいい。今は、今までに感じたことがない多幸感に身を任せ、眠りたい、、、。
『びちッ』
カグヤが血溜まりに寝息を立てながら倒れる。
それを見ていたのは最初にカグヤに貫かれた男だった。
「こん、、っ。こんな終わり方があっていいのか、、、、、!。」
血を吐き、残り短い命を削りながらあまりにも唐突に起きてしまった非現実的な現実を嘆く。
「これが正しい終わり方だ。カグヤ一族は血塗られた一族。正しき道に戻っただけだっ、、、、、。」
同じく心臓を貫かれたはずの老婆も死にかけながら反論の言葉を紡いだ。
男からの返事はなく、既に事切れているようであった。
老婆は男の様子を確認することなく、身動きひとつ取ろうともせず、意識がないカグヤに語りかけた。
「初めに言ったね、カグヤ。私はお前を救えないと。だがお前は私を救える、、。救ってくれた。あの日から忘れることが出来なかった怒りをお前は消化してくれた。
そしてこれからも生きるお前はこれからも救われないだろう。お前は生まれる時代を間違えたのだ。」
老婆は死にかけながら予め決めていたかのように流暢にカグヤへ言葉を発し、事切れた。
この場には小さな寝息一つが響き続ける。
本編で具体的な解説を自然に出来そうにないのでここで話します。
老婆は少女といえる頃にカグヤ一族に攫われ、血を薄める為に使われました。そのことを老婆は隠しながらずっと恨んでおり、さらに自分の第一子が強いカグヤの特徴を示してしまったために殺されています。その頃にあまりの怒りに念能力を発現します。オーラの認識はなくとも催眠能力のみを自覚し、その能力を使いカグヤ一族に復讐を誓います。
今作の主人公であるカグヤが2歳頃に示した濃く引き継いだ特徴を確認し、カグヤを復讐に使うことを決める。カグヤを世界の敵にし、カグヤ一族を終わらせることを決意する。そのためにカグヤに紙芝居をし、最強のカグヤをイメージさせ、最後に全てをかけた念で自らの怒りを含んだ新たな最強であろう人格をカグヤの中に作り出した。
こんな感じの展開でした。