下ネタ注意です。
表記ミスにより投稿し直しました、申し訳ありません。
「クソがぁッ!!なんで俺があんな野良犬野郎なんかに落とされなきゃならねぇッ!!」
ベイラム部隊AC格納庫の中から大きな怒声と衝撃音が聞こえる。
どうやら一人の男が拳をACの脚部装甲に叩きつけたようだ。通常なら手首の骨が折れるどころか、拳の骨が砕け散るだろう。
しかし男はそれを気に掛けることもなく、何度も何度も叩きつける。
「クソッ、クソッ!あ゛ぁ゛気に入らねぇッ!!……何見てんだテメェらァ……!?」
彼は
ベイラムグループ専属のAC部隊『レッドガン』、その番号持ちだ。
番号は大まかな序列を示しており、戦場ではパルスシールドを盾に一方的に制圧、時にはACによる肉弾戦も辞さない苛烈な戦い方を好む。
本人もまたその戦い方に見合う性格をしており、今日は特にその気が強い。
周りにいる整備班や他のパイロット達が巻き込まれまいと、それを戦々恐々と遠巻きに見ているが、それすらもイグアスは気に入らなかった。
テメェらからぶっ潰してやろうか。そう考えたイグアスの前に待ったをかける男がいた。
「おい、そろそろ落ち着けよイグアス」
「……ヴォルタか」
G4『ヴォルタ』。イグアス同様『レッドガン』の番号持ち。
タンク型ACを駆り、高い火力を装甲と共に押し付ける戦い方を好む荒々しいパイロットだ。
決して素行のいい男ではないが、長い付き合いもあってかこういう時のイグアスの対処方法を熟知している。
「俺も落とされたから気持ちは分かるけどよォ、
「んなことは分かってんだよッ。気に入らねぇモンは気に入らねぇだけだ……!!」
先に行われた三機ものACを投入して行われた作戦、『多重ダム襲撃』。
惑星ルビコン3に蔓延る『ルビコン解放戦線』、その治水拠点であるダムを襲撃する任務に取り掛かっていた。
解放戦線などと銘打っても所詮はMT部隊が関の山。到底戦力差の開きは埋められない。
楽な任務だった。この任務を速やかに終え、次の『壁越え』を万全の状態で迎える為、全ての雑魚共を蹴散らして任務完了。そうなるはずだった。
共に参加した
「ヴォルタァ、お前は何とも思わねぇのかァ!?俺達ァ負けたんだッ!レッドガンの精鋭がッ、あんな野良犬一匹にッ!」
「今言ったってしょうがねぇだろうが。まずはACを直す。リベンジはそっからだ、あんまり熱くなるんじゃねぇ」
「ミシガンの野郎、整備費用は奴らが持つとも言ってたなァ……ハナっから俺達が勝つのに期待してなかったってことかよ……クソッ!!」
帰投する道中は散々G1ミシガンに無線越しに罵声を浴びせられ、戻ってからも耳鳴りがする程デカい声で罵倒される。
ようやく解放されたかと思えば今度は負けたという惨めな気持ちがイグアスの心に襲い掛かる。
ヴォルタはこのままでは整備もままならんと腰を上げたのだが、それも焼け石に水と言わんばかり。
努めて冷静に諭そうとしたが、イグアスの烈火は、言葉では治まらなかった。
そんなイグアスはふと、ある事を思い至った。
「……ハンドラー・ウォルターか。どうにもミシガンと知り合いくせぇな」
「多分な。そうでなきゃこんなクソみてぇな裏切りがまかり通るわけがねぇ。じゃなきゃ今頃奴はぶっ殺されてる筈だ」
『レッドガン』は掛け値なしに強い。
現在ナンバーを所持しているのは『歩く地獄』とまで称されるミシガンを筆頭に、G2『ナイル』を次点に。
G3『五花海』も金勘定を好むが実力は高い。ここにいる二人は言わずもがな。
ナンバー持ちの中ではG6『レッド』が最も新入りだが、彼もまたこの地獄のようなレッドガンに魅入られて鍛え上げた猛者。かなりの実力者だ。
そんな彼らを容易に、それも単騎で敵に回せるAC乗りなどこの世には存在しない。
ヴェスパーのトップならばそれもするかもしれないが、それでもその場の勢いで決定はしないだろう。
「それに向かう時はいなかったヘリ、帰りにいたよな。ってことはハンドラー・ウォルターも、そしてあいつもここにいる可能性が高ぇな」
「オイ、いくらなんでもそりゃねぇだろう!?ACでやるってんならともかくよ……!」
「勘違いすんな、何もしねぇ。……だが、面ぐれぇ拝ませてもらおうじゃねぇか」
イグアスの提案に、ヴォルタは躊躇しながらも首を縦に振った。
目を離して暴行沙汰になれば、それこそミシガンが黙ってないからだ。
「医務室にいるって聞いたが……なんでガレージじゃなくてこんなとこにいんだ?」
「レッドに聞いたが、どうも身体が不自由って話だ。ミシガンとの話し合いの間、ある程度清潔な場所で待たされてるって感じか」
「ケッ、気に入らねぇ。そんなやつに戦場が務まるかよ」
二人が向かったのはレッドガン基地医務室。
どうやらイグアスの予想は当たり、ハンドラー・ウォルターとその猟犬は二人ともこの基地に立ち寄っているらしい。
修繕費の見積もりや賠償の話でもあるのだろうと道中出会った五花海は言っていたが、そんなことはどうでもよかった。
この扉の向こうには因縁の相手、あの憎きレイヴンがいる。
それだけが今のイグアスにとって全てだった。
「どんな野郎がいるのか、精々見せてもらおうじゃねぇか、よォッ!」
「ぶっ壊したらまたミシガンに殺されるぞ……」
ドアを蹴破るように開くイグアスに、ヴォルタは呆れを隠さない。
まさかこれ、俺も連帯責任になるのか?そんな考えが頭を過ぎるが後の祭り。
既にドアはプランと力無く開いてしまった。
「オイ野良犬ゥ!さっきは世話んなったなァ、礼を言いに来てやっ……たぜ……」
そこにいたのは、車椅子と複数の点滴チューブに繋がれた、真っ白な手術着のようなものを纏った女だった。
外見から分かる特徴は驚くほどに少ない。顔中、否。衣服で隠れていない指先や足首には隙間なく包帯が巻かれており、まるで酷い火傷患者のようにその身を包んでいる。
それを除いて見えている部分と言えば眼、鼻、口、顔のほんの一部、長く光る白髪だけだ。耳すら見えない。
しかしそれすら目は虚ろ、口は動く気配すらなく。本当に呼吸をしているのだろうか?そう感じるほどに微動だにしない。
それは無茶をした『強化人間』が至る末路そのものだった。
(バカ、な。ここまで削ぎ落されて……ッ!?)
(イグアスと同世代の強化人間……だってのに、なんだこの差は……!?)
強化人間にも世代がある。
第1世代から始まり、現行最も最新と言われるのが10世代型。
そして更に区分して分けたのが『新世代型』と『旧世代型』だ。
前者はニューエイジと呼ばれ、過去の旧世代型を優に超える人間性能の引き上げに成功している。
彼らは代価さえ払えば、ACパイロットとして更なる強化を受けることが出来る。
しかしそれより前の『旧世代型』とは決定的に違う点がある。それは
現行の強化人間手術は夥しいほどの屍が積もってようやく安定したもの。その基盤となる『第1世代』の強化手術の成功率は、1割を切る。
イグアス、そしてレイヴンの世代は第4世代。とてもじゃないが安定した成功率を誇るとは言えない。
それでも目の前の女とイグアスの差を分けるものがあったとするなら、それはたった一つの幸運に過ぎない。
(だが……それよりもだ……)
(そんなことよりも……)
しかし二人はそんなことはまるで意に介さない。
二人は目を奪われていた。
腕に繋がれた点滴チューブ?全身を覆う包帯?感情を灯さない瞳?
否、そんなもの二人の心には響かない。数多の戦場を駆け、幾度も見てきた敗残兵の末路はそんなものだと知っている。
その程度で彼らは怯まない程度には歴戦の猛者だ。敵として現れたのならば、人間性に問題のあるイグアス等はむしろ嬉々として揶揄するだろう。
では彼らは何を見たのか?
((おっぱいでっか……))
レイヴンの胸は大きかった。ただそれだけのことだった。
その胸は手術着の前面にあるボタンがはちきれそうなほど服を押し上げて主張している。
それほどまでに胸が大きい人間には、今までイグアスもヴォルタも出会ったことが無かった。
しいて言うならミシガンの胸筋はでかいが、あれを見て興奮する奴などレッド以外にはいないだろう。
(でけぇ……いや、でけぇな……)
(でっか……え、女ってこういうもんなのか……?)
彼らが知る女はミシガン主催のブートキャンプに参加するような、根っからの軍人しかいない。
それもあの過酷なミシガンのシゴキに喜んでついてくるような奇人変人共。
『青少年の健全育成』の名のもとに無理やり参加させられた二人からすれば、あれらを女として見ることなど到底不可能だ。
しかし目の前の女は違う。
背こそ標準と言ったところだが手脚は細く、手弱女という言葉がよく似合う程に儚い雰囲気。
唇は薄くピンクで、静かに佇む姿はまるでドールのようだ。
更には胸がでかい。二人からすればそれが最も重要なのだが。
彼らは歴戦の傭兵だ。だがそれ故に、悲しい程に女日照りだった。
「……チッ、なんか白けちまったなぁオイ」
「あ、あぁ。そうだなイグアス。まったくだ」
苦し紛れに悪態をつくも、憐れな程様になっていない。
二人の視線はレイヴンの胸に釘付けだからだ。
イグアスはボヤきながらもガシガシと頭を掻いて視線を外し、もう一度見ればまた胸に視線が。
ヴォルタは気まずそうに顔を伏せるも、もう一度顔を上げれば主張の強い胸に目が行く。
二人は何か言葉を発してここを離れようとするが、その度に思考が邪魔をする。
即ち「今ここで切り出したらなんか意識してるみたいで恥ずかしくねぇか?」と。
こういった気まずさは、二人にとって初めての物だった。
「……」
そんな二人を視界に入れつつも、レイヴンは微動だにしない。
彼女は強化人間となった代償が大きく、感情機能のほぼ全てがまともに働いていない。
目の前で気まずそうに立っている二人のことも、人間が二人いる、以上の感想は無いのだろう。
しかし本来の目的を思い出したイグアスがハッと我に返り、レイヴンに近づいて啖呵を切り始める。
「あー……オイ、野良犬。俺の事は忘れてねぇだろうなぁ?」
「……」
「俺がッ!G5のイグアスだって言ってんだよッ!テメェ、さっきはよくもやってくれやがったな、アァ?」
「お、俺ァG4ヴォルタだ。俺達二人相手に勝つとは、中々やるじゃねぇか。ミシガンがG13として拾ってきたってのも、頷けるぜ」
気を取り戻したイグアスが真正面から顔を近づけて威圧的に声を荒げるも、レイヴンはまるで意に介さない。
ヴォルタはイグアスが攻撃的な分なるべく相手を刺激しないよう言葉を選んだが、その配慮もあまり意味が無いように思えた。
「ヴォルタ、こいつのことをG13なんて呼ぶんじゃねぇよ。……ムカつくやつだぜ、スカして何考えてんのか分かりゃしねぇ」
「見た感じ、感情機能に声帯まで落ちてんのか。そりゃあ任務中も喋らねぇわけだぜ」
「最低限のやり取りはモニターと思考入力でなんとかなってるってとこか。ったく、気に入らねぇ……あ?」
こいつに勝つためには、俺も同じくらい何もかもを捨てなきゃならねぇのか?
そう考えてイグアスの脳裏に嫌な音がチラつくも、その直後の行動にそんなものを気にする余裕を奪われてしまう。
「……」
「ぐぉっ、テ、テメェなにしゃ……ぐ……」
レイヴンは近づいたイグアスの頭を両手で引き寄せ、その胸に沈めた。
言い換えれば強く抱きしめた。
「イ、イグアス!?お、おま、何を!?」
「お、俺じゃねぇ!こいつがっ、クソッ、思ったより力強ぇなこいつ!?」
レイヴンは暴れるイグアスを力で抑え込む。
その細腕からは想像も出来ない程の腕力で、自分の体重の三倍はありそうなイグアスを容易に抑え込む。
体勢も悪かっただろう。座っているレイヴンに覆いかぶさるように倒れてしまった為力を込められる場所が手元にはない。
かと言って無理やり引きはがすにもやはり体勢が悪い。レイヴンの左手はイグアスの両腕を封じるように回しており、右手は頭の裏に添えられている。
腕に力を込めても、まるでビクともしない。コーラル技術による恩恵か、あるいは強化人間手術の影響か。
レイヴンの身体は、強かった。
(や、やわらけぇ……って馬鹿がッ!ンなこと考えてる場合かッ!こんな状況ミシガンに見られでもしたら……ッ)
「戻ったぞ621……貴様、何をしている」
「ちっ、違ェ!こいつが俺を、いい加減離しやがれってんだァ!」
誰かが部屋に入ってきた瞬間、ほんの僅かにレイヴンの力が緩む。
その隙間を見計らって、イグアスは渾身の力で腕を振り払う。
ほんの少し、ほんの少しだけあのままでもよかったのではないかという気持ちをブチ切れたミシガンの顔を想像することで抑えて振り返る。
そこにいたのはミシガンではなかった。初老で杖をついてはいるが、確かに鍛えた跡のある男。
噂に伝え聞く、ハンドラー・ウォルターその人であった。
「お前は確かG5イグアスに、G4ヴォルタと言ったな。うちのパイロットに何の用だ。……まさか報復のつもりか?」
「んなわけねぇだろうが。……顔見に来ただけだ。嘘じゃねぇよ」
「そうなのか?」
「え?あ、あぁ。そういうのはミシガン、それにナイル副長にも止められてるからな」
『本任務における報復行動の一切を禁止する。自分の無力さを理解できるまではゴミ拾いでもしろ、役立たず共』
それがミシガンより全隊員に告げられた指令であった。
ミシガンは自分達に鬼のように厳しいが、決してクズではない。
指令を与えられた以上はそこには意味がある。それを無視するほどレッドガンは無能ではなかった。
「そうか。……どうやら、621はお前のことを気に入ったらしいな」
「あぁ!?なんでそうなんだよッ!」
「見ての通り621は感情の起伏が、ほぼ無いに等しい。自発的な行動など、それこそ作戦中の自己判断程度しか行わない」
イグアスの背後にいる621を見て、ウォルターはほんの僅かに目を細める。
自分の都合で戦わせている無貌の
こうしてACから降りている間だけは、それらの仮称で呼びたくない。そんなウォルターの感情が、ほんの僅かにだけ溢れた。
「そんな621がお前を見た時、大きな行動を起こした。ハグは親愛の表れだろう、俺もされた」
「口を挟むようで悪ぃが、こいつは手術の影響でそうなったのか……?」
「……そうだ。第4世代の手術は成功率もそうだが、状態の不安定さという欠点もある。だが少なくとも、G5に見せた行動は悪いものではあるまい」
ヴォルタの質問にも丁寧に答え、ウォルターは小さく溜息をつく。
そんなヴォルタは、イグアスを横目でチラと見やる。
(もしかしたら……俺もイグアスも……)
苦楽を共にした親友、互いに戦場を生き抜いてきた戦友。
それがもし……どちらかが、あるいは両方が
果たして今日まで生き残れて来ただろうか?共に生きることを誓って揃えたエンブレムは、今日まで戦場を駆けていただろうか?
そう思った瞬間からヴォルタはほんの少しだけ、目の前の女に同情した。
「もしお前達がいいというのなら……たまに621と話してやってほしい」
「はぁ!?なんで俺達が!」
「俺はこいつに……621に少しでも、生きる意味を与えてやりたい」
ウォルターはゆっくりと、腰を曲げてそう言った。
「お前達が、621の生きる理由の一つになってくれると、俺は嬉しい」
「……クソが、誰がそんなことすっかよ」
「イグアス!」
悪態を吐き出し、イグアスはそのままウォルターの横を通り過ぎて部屋から出て行ってしまう。
慌ててヴォルタが声をかけるが、それを聞き入れることもなく去ってしまった。
「……悪ぃな、あいつも悪気があるわけじゃねぇんだ」
「分かっている。……あの調子なら、いい話し相手になってくれるだろう」
「あぁ?あんた、あいつの何を見てそう思ったんだよ?」
「俺は人を見る目はある方だ。誘いを無碍にする男じゃないだろう」
ほんの少しだけ満足そうに、ウォルターは頷く。
一方のヴォルタは、訳が分からなさそうに眉を寄せた。
長く親友をやってる俺以上にイグアスの本性を見抜くなどありえるだろうか。
なんとなしに後ろを振り向いて、またヴォルタは驚かされた。
「それに621も、また話したがっているようだしな」
出ていったイグアスに向けて、レイヴンは小さく手を振っていた。