鴉がG5を好きになるだけの話   作:飛び回る蜂

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グリッド086視察

 

 

 

 

新着メッセージ 1件

 

 

G6 レッド

────────────

 

 

G13 レイヴンに伝達!

 

 

イグアス先輩と交戦したそうだな。

そのことでミシガン総長より貴様への伝言がある。

 

 

「ドーザーの塒は随分居心地がいいようだな」

「G5もそこにいるな?丁度いい、少しは見られる顔にしてこい!」

 

 

以上だ!ミシガン総長はこの機会に

二人により多くを学んで来いと仰せだ。

 

 

RaDは武器の改造屋でもある。

ACの専門知識について、得られる見識は多いはずだ。

 

 

なるべく多くの情報を持ち帰り

今後の自己研鑽に役立ててもらう。

 

 

ベイラムグループからの任務遂行も忘れるな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロの機体が二機、RaDのガレージへと運ばれてきてからすぐ。

 それぞれのパイロットは応接用の部屋へと通されていた。

 ドーザーとは荒くれものとならず者の集まりだが、RaDは商売も行う都合上こういった部屋を自前で用意している。

 防音に優れ、邪魔も入らない部屋が無くては商談は出来ない。今回はそこを使用している。

 

 

「さて、そんじゃ話でもさせてもらおうかね、ビジター、それにレッドガン」

 

「……G5イグアスだ」 

 

「はいよ、イグアスだね。にしてもあんたら……」

 

 

 この時、イグアスは3人掛けの客用ソファに座っていた。

 その隣を譲らない人間がいた。そう、621だ。

 

 

「そういう関係だったとはねぇ」

 

「違ぇよッ!こいつが勝手に引っ付いてくるだけだ!」

 

「……」

 

 

 621は態々車椅子から降り、イグアスの隣にぴったりと座っていた。

 車椅子に付帯した細い点滴チューブを繋いではいるが、イグアスの傍からは決して離れまいと寄り添っている。

 明らかにおかしな距離感と、動いた時たまにイグアスの腕に当たる胸がますます集中を掻き乱していた。

 

 

「別に否定することないじゃないか。あんたもビジターは俺の()()だって言ってたろう?」

 

 

 その言葉を口にした時、ピクリと621が動く。

 イグアスに嫌な予感が走り、ギギギ……と横を向くと、そこにはじっとイグアスを上目遣いで見つめる621がいる。

 目に光は無い癖に、どこか期待するような視線。感のいいイグアスは既に嫌な予感を感じていた。

 

 

「……違ぇからな。テメェは俺の獲物だってことだからな!?勘違いすんじゃねぇぞ!?」

 

「あんだけ熱烈な告白しといて、そりゃあないだろう?女に恥かかせる気かい?」

 

「適当なこと言うな、そもそも告白じゃねぇからなっ!?……おいやめろ腕を取るんじゃねぇっ!」

 

 

 スルスルと流れるようにイグアスの腕を抱く621。

 ピカピカと光るモニターには『大好き』と書かれており、イグアスの脳に更なる混乱を呼ぶ。

 腕を取れないと分かると動きが変わり、イグアスの身体に寄り添うようにピタリとくっつく。

 触れるか触れないかだった距離が一気に詰められ、既にキャパシティ限界のイグアスを強く刺激する。

 カーラはそれを見て大きく笑い、冷静に指示を回す。

 

 

「お熱いねぇ。チャティ、録画してくれるかい?」

 

『了解した。ボス、人間の精神構造は複雑だな』

 

「男の子ってのはそういうもんさ。口ではあれこれ言うんだよ、素直になればいいのにねぇ」

 

「は、な、し、や、が、れ!!」

 

「……」

 

 

 愛しい愛しいと言わんばかりにガッチリと掴んで離さない621と、引き剥がしにかかるイグアス。

 先ほどまで互いに命を掛けて戦い、そして共に生き残った二人が見せる光景としてはあまりに幼稚だ。

 それはカーラにとって、とても尊く大切なものに見えていた。

 

 

「アンタ、アイツらが襲撃した時真っ先にビジターの盾になってたね」

 

「あぁ!?……勝手に死なれたら寝覚めが悪ぃってだけだ」

 

「死んでほしくない奴がいるっていうのは、いいことさ。何かに没頭してばかりじゃ、見落とすものもある」

 

 

 まるで自分の事を語るように、静かに呟く。

 イグアスは対面した女から感じた違和感を言語化することが出来なかった。

 外見はドーザーの女頭領らしく奇抜珍妙さを感じさせる。

 しかしその話法や自分達を見る視線には外見や年齢に見合わない、ただならぬ何かが含まれている。

 そんな気がしてならないのだ。

 

 

「こっ、この……だぁクソッ!でぇ!?俺と何を話そうってんだよ。言っとくがレッドガンのことなんざ話す気はねぇぞ」

 

 

 あまりに力強く抱き着いて離れない621の引き剥がしを諦め、渋々話をする体勢に戻る。

 

 

「別に構やしないよ。最近開発に行き詰っててね、息抜きみたいなもんさ」

 

「……テメェら武器造りまでしてんのか」

 

「まぁね。開発、修繕、改造はウチの十八番さ。せっかくだ、あんたの機体も弄ってあげようか?安くしとくよ」

 

「余計なことすんじゃねぇ、あれは……『ヘッドブリンガー』は俺だけの機体だ」

 

 

 イグアスの、レッドガンへの帰属意識はそこまで強くない。

 無理やり連れてこられた身からすれば収容施設のようなものだ。

 好きになる要素など欠片もありはしない。

 

 だが『ヘッドブリンガー』は違う。あれはただの機体ではない。

 長い間共に戦ってきたイグアスの半身。この機体があるからこそ今の自分がある。

 朝起きて自分の身体が改造されていて喜ぶものなどいない。勝手に改造されるなど、それこそ冗談ではないのだ。

 

 

「はいはい。笑いどころが一つくらいあってもいいと思うけどねぇ」

 

「絶対に元通りにしろ、フリじゃねぇぞ!?」

 

「分かってるって。おっと、自己紹介がまだだったね」

 

 

 そう言うとカーラは改まった表情で椅子に座り直し、手元の端末を立てて二人に見せる。

 端末にはエンブレム、複雑に絡み合ったミサイルの軌跡が描かれている。

 

 

「私はカーラ、『灰被り(シンダー)』カーラ。好きなように呼んで構わないよ」

 

『チャティ・スティックだ。カーラの補佐をしている。この基地で入用があれば、俺に言え』

 

 

 シンダ・カーラ。RaDの頭目にして第一技師。

 今まで作り上げてきた武器、兵器は数知れず。

 奇抜珍妙突飛な兵装は彼女のポリシーの元産まれ、今も戦場を賑わかせている。

 

 

「『灰被り(シンダー)』だと?それに……そいつはまさかAIか……?」

 

『そうだ』

 

 

 その名を聞いたイグアスの中に、強い困惑と疑念が生まれる。

 

 

灰被り(シンダー)……50年前のアイビスの火、その生き残りだと?ふざけてんのか?どう見ても面と年代が合わねぇだろうが)

 

(それにこの『お喋り(チャティ)』野郎もそうだ。こんな技術がコーラル漬けのドーザー連中から生まれる訳がねぇ。何を隠してやがる……?)

 

 

 決定的な情報がないイグアスの考えは当たらずとも遠からず、しかし核心を突くことはない。

 それらに考えを巡らせようとした途端、イグアスを強烈な耳鳴りが襲う。

 

 

「ッ、話は、後にしろ。クソ、耳鳴りが……」

 

「ちょっと、どうしたんだい?」

 

「っせぇ。……耳鳴りがするだけだ。部屋はどこだ、俺は休む……」

 

「分かったよ。チャティ、案内してあげな」

 

『了解した。G5、部屋を出たら通路の蛍光表示に従ってくれ』

 

「気が向いたらうちのシミュレーターを使いに来な。空けとくよ」

 

 

 あぁ、とだけ言い残してイグアスは、ふらつきながら部屋を出ていく。

 そして出ていくイグアスを、621はじっと見つめている。

 そこに感情が込められているわけではないが、閉じた扉の向こうを静かに見つめている。

 それを見たカーラは、予てから気になっていたことを聞いてみることにした。

 

 

「あれが、あんたの好きな男かい?」

 

「……」

 

「なるほどね。悪ガキだが、いい男じゃないか」

 

 

 先の戦闘での行動を、カーラはよく見ていた。

 もしあの不明機体との戦闘後、戦いを続行しているようならカーラは間違いなくイグアスを見限っていただろう。

 戦うことだけに囚われた狂犬など、カーラからすれば厄介者のそれでしかない。なんならレイヴンに援軍を寄越す可能性すらあった。

 しかしそれは成されなかった。カーラは態度に出さないだけで、イグアスのことをかなり気に入っていた。

 

 

「戦場で仲間を守れる奴は、それだけで一等物さ。ビジター、あんた男を見る目があるね」

 

「……」

 

「……驚いた、あんたも喜びを表に出すことがあるんだね」

 

 

 小さくモニターが点滅しているだけではない。

 見た人の多くはそれに気づくことすらないだろう。

 

 

 

 

 それでも微かに、621は笑っていた。

 

 

G5、イグアス。彼はあなたにとって、特別な人なのですね

 

私も……あなたにとって、そうあれたらと思います

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャティによって案内された部屋は、ごく普通の部屋だった。

 ベッドがあり、机と椅子には通信用の端末があり、部屋上部には換気口がある。

 窓は無いが、休息を取る分には十分な部屋だろう。

 天井に取り付けられたスピーカーから案内人の声が響いている。

 

 

『機体を修繕する間、ここで過ごしてもらう。用があるならそこのブザーを押せ』

 

「ご丁寧にテメェの監視付きか。ご苦労なこった」

 

『当然だ。無策で所属付きの兵士を入れる程、ボスも俺もお人よしじゃない』

 

「人じゃねぇだろうが」

 

『言葉の綾だ。安心しろ、お前のプライベートに関わることはない。じゃあな』

 

 

 そう言うとプツリと音声は切れてしまった。

 イグアスはすぐに所持している自身の端末を立ち上げ、先程の戦闘データをレッドガンへと送信する。

 不明機体の照合、それらへの警戒を組織全体で厳とする為だ。

 送信してすぐ、複数名の隊員からこれらの目撃情報が集められる。

 決定的なのは『BAWS第2工廠調査』におけるレイヴンの提出データ。

 

 

「……野良犬も戦ってやがった。ってことは、アイツを狙った線が濃厚か」

 

 

 621の、ひいてはレイヴンの現在の立ち位置はかなりベイラムグループ寄りだ。

 レイヴンは届く依頼をほとんど断らない。その上任務の成功率は、台頭してきたAC乗りの中でも一線を画す。

 明らかに罠であるもの、立場を悪くしかねないものについてはハンドラー・ウォルターが弾く。

 

 そして明らかに共有すべき事柄があると判断した時、ウォルターは情報の公開を躊躇わない。

 BAWS工廠調査任務もその一環だ。ルビコンに介入する上での脅威、それらの情報を先んじてリークしている。

 独立傭兵にとってこれらの情報は飯の種になる。企業からすれば金さえ積めば面子を潰さず情報を得られるのだから、そういう意味でも独立傭兵によるリークは意味がある。

 とはいえ、独立傭兵が手の内を明かすのは大きなリスクになる。レイヴン程の腕前からしたら然程気にならないのかもしれないが。

 

 

「こっちは提供元がアーキバスだと?あの機体、連中にも噛みついてやがんのか」

 

 

 イグアスが知るより以前、既に無人機に関してアーキバス、ベイラムは密かに共同歩調を取っている。

 アーキバスが誇る強化人間部隊『ヴェスパー』。それを襲撃する動きが以前より見られるのだ。

 それだけならアーキバスに敵が増えただけで済むのだが、企業は先日のBAWS第2工廠の件に危機感を持っている。

 あの不明機体達の目的は未だ不明だが、隠したコーラルの源泉、支脈の存在を抹消する為に動いている可能性があるからだ。

 コーラルの確保という点を鑑みて、あれら機体の情報は2グループ間で共有しているのだ。

 

 

「あとはミシガンがなんとかすんだろ。……寝っか」

 

 

 戦い以外の頭脳労働など趣味ではないイグアスにとって、それらの考察など何の興味も引かない。

 奇妙な兵器との戦いは次に活かしにくい。それよりももっと実戦的、大型MTやACと戦いたい。

 さっきシミュレータを使っていいとも言っていた。武器屋なら武器データも豊富だろう、様々な装備の試着が出来るかもしれない。

 それに優秀な戦闘データはいくらあっても困らない筈。ひと眠りしたら、行ってみるか。

 そう考え、考え疲れたイグアスは端末から小さく音楽を流し、明かりを消して眠りについた。

 

 

───I've already fallen.

 

 

 端末から、どこかの星の(ふる)い歌が流れる。

 

 

───I can't drive my head.

 

 

 どこまでも、何も考えずに落ちていけそうなこの歌の没入感が、イグアスは好きだった。

 

 

───It's that I fall in you.

 

 

 この歌を聴いていると、自分はそれ(AC)無しじゃ何者にもなれないのだと自覚する。

 虚無感で胸が満ちるが、不快ではない不思議な感覚。

 

 

───Fall in you……

 

 

 ただ目を閉じて、深い眠りへと落ちていった。

 

 

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