鴉がG5を好きになるだけの話   作:飛び回る蜂

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G2ナイルの杞憂

 

 その日、レッドガン基地は揺れた。

 

 

「お、おい……イグアスの奴、なんだよあれ……」

 

「どうしちまったんだ一体……!?」

 

 

 あの後イグアスは無事『グリッド086』から帰還し、戻って早々シミュレーター室に籠った。

 これには周りの兵士達も目を見開く。イグアスといえば自主訓練といったものをしない男である。

 最低限の訓練を行えばあとは自由と言わんばかり、人の努力を鼻で笑い見下す男であるイグアスがだ。

 だからこそミシガンはイグアスに対して厳しいのだが、本人は知る由もないし知ろうともしないだろう。

 

 しかしイグアスには体裁だの評判だの、そんな下らないことを気にする暇がない。

 帰り際持たされた()()()()に一から目を通し、脳内で自身の機体構成と照らし合わせてイメージする。

 何十、何百パターンと繰り返し反復で行われたそれを、イグアスは試したくて仕方がない。AC乗りとして試さずにはいられない。

 そうして取った行動が、シミュレーター室への駆け込みだった。

 

 

『……ははっ、なんだこりゃあ。こんなに変わるもんかよ……っ!!』

 

 

 テスト用ACデータを僅か数十秒で仕留めたイグアスの口に笑みが浮かぶ。

 それもその筈、『グリッド086』でレイヴンと行った模擬戦、その数およそ100戦。

 お互い手を変え品を変え行われたそれは、二人の実力を飛躍的に高めた。

 

 イグアスはレイヴンから三次元機動の扱い、そして距離を詰めるタイミングとその手法。

 レイヴンはイグアスからレッドガン仕込みの射撃方法、接近をいなされた後のカバーリング。

 

 最終的なスコアは小さくない水を開けてレイヴンの勝利に終わったが、イグアスはとりあえず満足していた。

 互いに無いものを戦いの中で教え合い、教わったことを実践して更に発展させる。

 繰り返し行われたそれが、自身に大きな成長を促していると自覚したからだ。

 

 そしてそれを最初に見ていたのが、G2ナイルである。

 

 

『どれ、一手指南願おうかね』

 

 

 よく見てみれば、イグアスの兵装に変わりが見られる。

 強化人間の機能の一つ、武装の切り替えへの違和感を消すことが出来るのは有名な話だが、それにしたって普段使っていない武装だ。

 一朝一夕で扱えるものではない。にも拘らずイグアスは()()を十全に扱っているようにも見える。

 レッドガンでは中々見ない兵装だ、もし使いこなせるなら陳情への意見通しだってやぶさかではない。

 ナイルからすればそんな軽い気持ちで対面したのだが、イグアスからすれば違う。

 

 眼前の敵は今、舐めてかかっている。

 

 

『……ナイルか。面白ぇ、来いよ』

 

 

 こと戦いとなればもう誰にも譲る気は無い。

 負けてやる気など毛頭無い。たとえ相手が上官だろうが同僚だろうが関係ない。

 力を振るう絶好の機会、願っても無いチャンスだ。

 イグアスは己の意思で、ナイルの挑戦を受けたのだ。

 そんな二人の戦いは熾烈を極めた。

 

 

『イグアス!随分と腕を上げたな、誰に教わった?』

 

『へっ、教えてやるもんかよ。今日こそアンタらの上を取るぜ、ナイル』

 

『……ふっ、調子に乗りすぎだぞ?だが構わんよ、それでお前が強くなるなら!』

 

 

 ナイルは模擬戦が始まってすぐ、イグアスの挙動から今の力量を察した。

 回避行動からそれは明らかで、ミサイルに()()()()()()()()()()()()からだ。

 上から撃ち下ろされるミサイルには下を潜り、正面から放てば流れるように回避に移る。

 それだけでしかないが、その初動に至るまでが以前とは比べ物にならない程早い。

 

 

(以前なら振り切ろうと無駄にブーストを吹かし、そこにミサイルを()()ことで対処出来ていたものだが……なるほど、これは一筋縄ではいかん)

 

 

 そうして始まったG5対G2による5本先取の模擬戦。これに多くの兵士が気づき、現在に至るまで観戦者は増え続けている。

 その勝敗に賭けが始まった当初、勝敗のみに絞ったレートは9:1という酷いものだった。

 続けて見に来たヴォルタが手持ちの金を全てイグアスに突っ込んだときは多くの人間が笑ったし、実際ヴォルタも後で物笑いの種になるだろうと踏んでの事だった。

 

 だが戦いが続くにつれ、その笑いは少しずつ減っていった。

 

 現在のスコアはイグアスが3本、ナイルが4本。スコアだけ見れば正に互角に近い勝負を繰り広げている。

 だがこのスコアは表面上の物だ。イグアスは先に3勝を奪われた後から、ナイルに()()()している。

 そこからナイルが追い上げ、現在3-4。波乱の展開にモニター室の兵士達は静まり返りながらも、熱を帯びた視線は画面から離れることはない。

 そして、それはレッドガンの番号持ちも同様であった。

 

 

「イグアス先輩……副長相手に一歩も譲っていませんッ!頑張れーッ!イグアスせんぱーいッ!」

 

「うるさっ、というかここからじゃ彼には聞こえないでしょう。しかしG5、いつからあれ程やるように……?」

 

「分からねぇ。どうも出撃から戻ってすぐここに来たみたいでよ……おっ!いいぞォ!行けぇイグアスッ!」

 

 

 モニターにはナイルの機体『ディープダウン』へと肉薄する『ヘッドブリンガー』が映し出されている。

 ナイルの機体『ディープダウン』の兵装のほとんどがミサイルで構築されている。

 遠距離、かつ遮蔽の無い場所では凄まじい猛威を振るう構築だが、その分接近戦に脆い一面もある。

 そこはイグアス同様、僚機前提の運用という面も大きいだろう。近寄られることをそもそも想定していないのだ。

 

 だが、今の『ヘッドブリンガー』は違う。

 両手の武装こそマシンガンとリニアライフル、近中距離での射撃戦を意識した元の構築から外れていない。

 

 問題なのは肩武装の二つ。この二つが全く違う装備に置き換わっている。

 右背後ユニットにはHML-G2/P19MLT-04。ファーロンダイナミクスが誇る第二世代の傑作『ハンドミサイル』。

 左ユニットにはHI-32:BU-TT/A、タキガワハーモニクスが作成を手掛けた『パルスブレード』。

 

 イグアスは考え続けていた。自身の戦い方に噛み合う構築を。

 効率的、そして理想的な戦いが出来る、攻撃性をより高めた構成を。

 乗り手と構築が噛み合った、今の己にとって最高の機体を。

 

 そうして考えに考え抜き、そして辿り着いたのが継戦能力より瞬間火力重視のハンドミサイル。

 守りを捨て攻めに転じる為のパルスブレードである。

 

 

「うはははっ!!オイ見ろよお前ら!イグアスがやったぞッ!」

 

「うおーっ!副長が撃破された!これで4-4で並んだぞっ!」

 

「マジかよっ!オイ、このままじゃヴォルタの一人勝ちになっちまうっ!!」

 

 

 画面上では『ヘッドブリンガー』が『ディープダウン』の胴を横薙ぎに両断し、撃墜するシーンが映る。

 こうして勝敗が付く度に、モニターの前では一際大きな歓声が上がる。一番盛り上がっているのは当然ヴォルタだ。

 まさかノリで掛けた金がとんでもない額になるとは……ということではもちろんない。

 

 あのイグアスが、二人いればどんな任務も乗り越えられると豪語していた親友が。

 力を付けて、今まさに己の力で空へ羽ばたこうとしているのだ。あの『レイヴン』と同じように。

 比喩表現ではあるが、ヴォルタはそう思わずにいられなかった。

 

 

「泣いても笑ってもこれで最後だ!頼んますよぉ、副長ぉー!」

 

「行けG5ッ!お前の底力見せてやれーッ!」

 

「イグアスゥッ!お前ならやれるッ!ナイルにぶちかましてやれーッ!!」

 

「ビビんじゃないよイグアス!あんたならやれるよっ!」

 

 

 もはや賭けの結果等、誰も気に留めていない。

 目の前の闘争の行く末に、誰もが目を奪われていた。

 

 

(チッ、流石に一筋縄じゃ行かねぇ。だが勝つのは俺だ……ッ!)

 

(なんということだ……イグアス、お前は……!)

 

 

 そしてそれは、イグアスと戦っているナイルにとっても同じことだった。

 ナイルの知る限り、イグアスの戦い方は静と動……というには荒いが、それをスイッチして戦うのが特徴的だった。

 高火力重装甲鈍重のヴォルタ機が狙われないよう前線で盾を張り、無視して背後に行こうものなら全力で噛みつく。

 言い方は悪いが番犬、本人の気質も重ねて言うならまるでハイエナのよう。矢面にこそ立つが、ジリジリと相手の焦りを誘発する戦い方の筈だ。

 

 だがナイルの考えは今日、今この瞬間から覆された。

 元々精度の高かったライフルとマシンガンは更にキレを増した。

 ハンドミサイルは汎用的な物に比べ速度も火力も断然高い。届くまでの軌道は直線的なのだが、今までの物とは避け方が異なる。

 連携を外す機動を覚えるまで随分いいようにされてしまった。

 全体的に火力と衝撃力を増しており、一つでも受け損なえばブーストチャージとブレードの連撃が待つ。そうなれば敗北は必至。

 

 隙を見せなくなったイグアスの戦い、対面したナイルは『猟犬』を想起する。

 一瞬でも隙を見せれば喉笛へと食らいつき、噛み千切るまで離さない冷静で獰猛な獣。

 もはやイグアスは痩せこけたハイエナなどではない。そう呼ぶ者がいればナイルは愚か者と断ずるだろう。

 

 

(イグアス!!お前という奴は、どうして今まで燻っていたのか分からん程じゃないか……!!)

 

 

 ナイルは歓喜していた。あのレッドガンの問題児、聞かん坊だったイグアスが、戦いの場でこれほどまでに落ち着きを見せている。

 刃を交えて心を理解する達人のように、AC乗りにとって対峙するACの挙動はその人間の心を映す。

 間違いなく、イグアスは強くなっている。ともすれば、ミシガンにまで届くのも遠くない程に。

 

 

(だが、まだ負けてやれん……俺にも意地があるのでな……ッ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熾烈な戦いの果て、やがて決着がつく。

 

 

「あ、相打ち!?」

 

「───い、いや!パルスアーマーが間に合ってる!ナイル副長の勝ちだっ!」

 

 

 

 ミサイルの発射に合わせたリニアライフル、それをナイルが読み切る形でパルスアーマーを展開し防ぐ。

 チャージライフルは衝撃に備え姿勢を制御する必要がある。そこにミサイルの直撃を受けて敗北となった。

 その差はほんの僅か。『ディープダウン』の残りAPは既に500を切っている。もし先の一撃を受けていれば撃破は十分にあり得ただろう。

 結果は、4-5でナイルの勝利。だがそれ以上に多くのものを、見ている人間へと与えた。

 

 

「すっげぇ……イグアス、あんなに強くなってたのかよ……!」

 

「ナイル副長相手にここまで食い下がるなんてすげぇじゃねぇか!」

 

「流石だぜイグアス!俺ぁ信じてたぞッ!」

 

「どうだか。……これではまだまだ泥船とは呼べませんねぇ。いやはや参った参った……」

 

 

 各々が称賛の声を上げる中、シミュレーターから出たナイルはイグアスに声をかける。

 その顔はまるで、成長を喜ぶ父や祖父のそれであった。

 

 

「あの歓声が聞こえるか?……全部、お前に向けられたものだ」

 

「……うるせぇ奴らだ。負けたんだぞ、俺は」

 

「そうだな。だが、ただの負けじゃあない。……見違えたぞ、イグアス」

 

「なんだぁ?あんたが俺を褒めるなんざ、明日はコーラルでも降るか?」

 

「はは……っ!そうなったら、俺達にとってありがたいことだなぁ」

 

 

 二人のやり取りは終始和やかに行われ、やがてナイルの差し出した握手の手をイグアスが返す。

 ナイルにとってイグアスの成長は心から喜ばしいことであった。

 ミシガンによって強制的に入れられ、暴力的と言っていいミシガン流の訓練は本人からすれば苦痛でしかない。

 ナイルはその過程で、イグアスは力に魅入られ道を踏み外してしまわないか心配していたのだ。

 だがそれは杞憂に終わった。ナイルは内心、ほっと溜息をつく。

 

 

(G13か、ミシガンが目をつけるわけだ。いつか直接礼を言わねばならんな……)

 

 

 それを促したのは間違いなく『レイヴン』である。

 彼女のことを知らぬものはレッドガンにはいない。なにせイグアスの『いい人』と噂される女だ。

 ナイルは目敏く、イグアスは彼女の前では男らしくありたいのだろうとアタリを付けている。

 それを指摘することも無く、遠目から離れて見守るミシガンへとアイコンタクトを送る。

 

 

(もう大丈夫そうだ。……こいつはこれから伸びるぞ)

 

(甘やかすな。ようやく一端のパイロットになったに過ぎん)

 

(分かっているとも)

 

 

 顔こそ厳めしいが、ミシガンの角が取れた態度を察せるのはナイルだけだろう。

 踵を返して去っていくミシガンを見送りつつ、イグアスに声をかける。

 

 

「イグアス、また時間が空いたらやるぞ。鍛えてやる」

 

「どういう風の吹き回しだか知らねぇが……次は完全にぶっ潰す、覚悟しとけや」

 

「やれるものならな。……俺もG2だ、そう簡単に通してはやれんよ」

 

 

 以前のイグアスなら負けた時点で悪態をつき、対戦相手に「今日は調子が悪かっただけ」と宣いさっさと引っ込んでいただろう。

 自分を見つめなおす機会でもあったのか、やはりレイヴンか。

 なんにせよ、レッドガンにとって追い風なら、ナイルにとって問題ではない。

 そんな折ふと、ナイルは疑問を覚えた。

 

 

(どうしてグリッド086にレイヴンが?あそこには海を越える為の移動手段など……いや……まさかな……)

 

 

 大陸間輸送カーゴランチャーの存在を思い出すが、あれを使うことはまぁまずないだろう。

 あれは人間を運ぶ為のものでは無い。

 では何のために?そう考える度にカーゴランチャーが頭を過ぎり、ナイルの不安を増長させる。

 その不安を拭う為にも、ナイルは質問を投げかける。

 

 

「それにしても随分ミサイルへの対処が上手くなったな。一昼夜ではどうにもなるまいに」

 

「クソみてぇにミサイルを降らせるイカれ野郎どもが乱入したお陰でな。何がフルコースだ、いつかぶっ壊してやる……!」

 

「お、おぉ。勉強になったのなら構わんのだが……それよりどうだ、あの装備は。馴染むか?」

 

「……後で正式に装備の申請は上げる。だがミシガンが通すかまでは分からねぇな」

 

「ふむ、ミサイルはともかくタキガワか……よし、ミシガンには俺からうまく通してやろう。任せておけ」

 

 

 そこにいた全ての人間に熱い余韻を残しつつ、二人の模擬戦は無事幕を閉じた。

 

 

 





『ヘッドブリンガー』の構成

BML-G1/P20MLT-04(4連ミサイル)
  ↓
HML-G2/P19MLT-04(4連ハンドミサイル)



SI-27:SU-R8(パルス盾)
  ↓
HI-32:BU-TT/A(パルスブレード)

その他外装、内装に変更はありません。


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