第一話 知らない場所で目が覚めるとかトラウマだよね?私はそうは思わなかったけど
なんだろう…?
草の匂いと水の匂い…風が集まって…なんだろう?
目を開けると、そこには満天の星。綺麗…。
体を起こす。野原だ。背の高い草が茂って、風に吹かれてる。鼻に草の先が当たって擽ったい。
一際強い風が吹いて何かが視界を横切る。自分の髪だ。風に煽られて長くて白い髪の毛がチラチラと……ちょっと鬱陶しく思う。
野原の端には海が見える。細波を立てて飛沫を散らしてる。風が強いのは側が海だったからかな?
「…くちゅンっ」
鼻先がムズムズしてくしゃみが出た。可愛い音に混じり声が漏れたけど、そこで少し思い出した。
私が女の子だったことを…。
視線を下ろすと、髪と同じ純白のワンピースを着ていると気付く。
袖が無いからかな。ちょっと肌寒く感じる。くしゃみも出るよね。
徐に立ち上がってみた。
小高い丘の野の中心。広い海。月明かりの綺麗な星空。
舞台や小説のロケーションとしては最高だね。
………ぶたい…、しょうせつ………?
何となく思ったけど、なんだろそれ?
思い出せない。大切なこと……でも無かったと思うけど……。
そもそも、私は誰だっけ?
細く白い手をニギニギしたり顔をふにふに触るけど、背の低い小さな女の子ってことくらいしかわからない。
鏡もないから、自分の顔がどんなかもわからない。
………かがみって何だろ?
一瞬だけ過ぎる言葉はたくさんあるのに意味がわからないものばっかりだ。
でも不思議とモヤモヤしないし、不安にもならない。怖いとも感じない。
なんだろう。なんなんだろう…?
とっても大切なことを忘れてると思う。
思い出さないといけないことが、帰らないといけない場所が、大切な人…家族…、使命………あったような、無かったような…。
あれ?なんか ふわふわする。眠いのかな?
草むらに倒れてしまった。
ひたすらに眠い。……さっき力を使いすぎたからだ。
………さっき?また変なことを思った。
何をしてたのかな?誰といたんだっけ?
あぁ…ダメだ。すごく眠たい……。
ーーーーーーーーー
瞼越しに光が差し込んでる。眩しいよ。
目を開けたら視界が真っ白になっちゃった。
太陽が真上から光を浴びせてくる。暑いよ。
汗…は、かいてないけど、ほんのりと首元が暑い。
体を起こして辺りを数回キョロキョロ。
すっかり明るくなったから周りの状況が鮮明にわかった。
昨日は見えなかったけど遠くに森が見える。
他に目ぼしいモノは見当たらない。
……何だかわからないことが多い。
でも、不思議とわからないままで良いとも思うし、思い出した方がいいとも思う。
昨日思った『ぶたい』と『しょうせ』…なんだったかな?もう思い出せないけど、それに付いても今はどうでも良いと感じてる。
変なの。
……あ、さっきからお腹に違和感があったけど、これはアレだ。お腹が空いてるんだ。……空いてるよね?
空腹は何となく感じるけど、食べなくても大丈夫な気もする。命に関わりはしないと言うか、何と言うか……なんだろう?
変なの…。
辺りをキョロキョロ。
うん、何もない。海と空と森だけだ。
食べられそうなモノがあるのは…森か海か…。
海なら魚とかいるかな?取れるかな?
竿とか無いけど……あ!竿のイメージは出来る。覚えてる。……何でそれは知ってたんだろ?
なんか記憶が虫食いみたい。
……うん、それは今はいいや。お腹がくーくーするのを止めたいのが先。
さてと、魚を取るなら竿が無いから作らないと…。
作れないよね?作り方知らないし材料も無いよね?
じゃあ森だ。森なら木の実とかあるかも。
でも遠いよ。すごく遠い。
歩いて向かったら一日は掛かりそう。
よく見たら私はワンピースしか着てない。
靴も履いてなければ……。
ありゃりゃ、下着も無しですか、そうですか。
着の身着の儘って言うんだよね。どうでもいいけどね。
でも困ったな。
裸足じゃ尚更危なくて迂闊に動けないよね。
この辺の草は背も高いから歩くの大変だし、毒蛇とか毒蜘蛛とかいるかも。
噛まれたら痛いじゃ済まないし、怪我しちゃうよ。
森になんてとてもじゃないけど行けない。
手を伸ばせば届く距離…なんてもんじゃないくらい遠いーーーーーー
なんて考えながら徐に手を伸ばしたら……、景色が一変した。
思わず目を見開いちゃった。
驚くよね。驚かない訳がないよね。
ここ…森だよ?森の中だよ?
本日三度目の辺りキョロキョロ。
すごい。何で森の中にいるんだろ。
瞬きしてなかったからわかる。
一瞬だった。本当に一瞬で景色が変わった。
そして何故か確信が持てた。
私が瞬間的な移動をしたんだと。
私ってそんな不思議な現象を起こせる系の女の子だったの?
ちょっとびっくりを通り越してるよ。アメイジングだよ。
何よりもびっくりなのは、伸ばしたままの手が一本の木に触れていて、その木に美味しそうな木の実が付いてることだね。
欲しいものが目の前にある。手に取らない訳ないね。
迷うことなく一つ手にしてムシャリ。
……甘味がイマイチだね。旬じゃないみたい。
でもお腹に溜まるなら贅沢は言わないよ。
一口一口感謝の気持ちを込めながらいただくよ。
ある程度食べたことでお腹は満たされた。
ごめんね。旬じゃないとか言って。助かったよ。
お腹のくーくーも収まったし、さっきのをもう一回やってみたい。
徐に手を空に翳してみる。
さっきと同じように木々の隙間から青空を狙ってゆっくりと掴む動作をーーーーーー
ありゃりゃ、出来ちゃうんだね。
てっきり一度切りだったり何かの偶然かと思ったけど、出来ちゃうんだ。
お陰様で空の上にいる。
自由落下する音が耳に痛い。ゴーゴーとうるさい。
思ってたよりも天高く移動したみたい。
地平線が僅かに弧を描くくらいには高くまで行っちゃった。
寒い。空って結構寒いみたい。
早く降りないといけないけど、もしかしてこのまま落ちたら私は死んじゃうんじゃないかな?
なんにも考えずに空に移動したけど、ちょっと考え無し過ぎたね。今日の反省ポイントだね。
無事に降りられたら改善点を纏めた方がいいね。
よし、どうやって無傷で着地しようかな。
地面に向かって手を伸ばす。
さっきと同じく握る動作をしよう…として止めた。
いやね、あれでも地面抉れるくらいにめり込むかも知れないし、それはそれで死んじゃうかもだし…。
じゃあ他にどうしようかな?
瞬間移動するとしたら…海しかないね。
浅瀬だと怪我するかもだし、そこそこ沖合にしないと危ないかな?
なんだかんだ地面が近くなってきたし、ちょい急ぎ気味で手を翳す。
風に煽られて狙いが付けづらい。むつかしいよ。
頑張れ私。自分で招いたピンチだけど、そこそこヤバい状況だよ。気合い入れてーー!
それで煽られる腕が大人しくなる筈もなかった。
結局だいぶ地平線付近で手を握った私は、ドボンと水に落下する感覚を体感する。
バタバタと暴れながら浮上したら、いい具合に何かを手が掴んだ。
助かった。
まともな記憶は昨日からしか持ち合わせてないけど、屈指の大ピンチだった気がする。
それなのにあんまり息も上がってないし、動揺も少ない。なんだろう。私ってへんな子だな。
……て、あれ?
なんか手首を掴まれたような。
そのまま引き上げられてるような。
いや、間違いでもなんでもなく引き上げられた。
『小船』の上にずるりとね。
長い髪と薄いワンピースからポタポタ海水が滴る。
不思議と水に浸かってる時よりも上がった時の方が嫌な感じするよね。語彙力無い?わかってるよ、そんなの。無いモノは無いんだよ。
さて、私の手を掴んだのは誰かな?
記憶曖昧な私にとって初遭遇の人間だ。
二人いるね。若いお兄さん達だ。
一人は金髪に丸メガネのお兄さん。
もう一人は黒髪に麦わら帽のお兄さん。
前者は珍獣でも見るような視線を向けてきて、後者は面白いモノを見つけた!…みたいに目をキラキラさせてる。
何かわからない言葉を喋ってる。
うん。わからない。
知らない単語が多いとかそんな話じゃなくて、言葉全部がわからない。
知らない国の言葉って感じだね。
全く何もわからないもん。
いやはや、本当に…私は誰で何処に来ちゃったんだろう?
レイ「この娘どっから……」
ロジャ「この出会いは運命だ‼︎」ドン‼︎‼︎
純白幼女「体びしょ濡れ気持ち悪い」