雪山での決戦が終わって早三日。私は体調を取り戻したんだよ。
無限城に連れ帰られた初日は、丸一日高熱に魘されて昏睡状態だったみたい。その間、不死でも無敵でもなくなってた。お兄さんの命令で、お兄さん以外のいかなる人も……それこそ上弦であっても私の眠る部屋には入れなかったらしい。私が不死身を取り戻すまでは面会謝絶だと言って……。
二日目には体は死なない化け物に戻ってた。意識も取り戻して、松葉杖があれば動けるくらいには回復したよ。でも、事情を聞きつけた堕姫ちゃんが初日からずっと部屋の前で待機してて、その後から付きっきりで面倒を見てくれた。だから移動する時は文字通りずっとおんぶに抱っこだった。嬉しかった。
堕姫ちゃんだけじゃなく、他の上弦のみんなもお見舞いに来てくれたよ。妓夫太郎さんは堕姫ちゃんと一緒だったし、玉壺さんは回復効果を付与した壺を部屋に設置してくれた。お爺ちゃんは無事に目が覚めて良かったと部屋が洪水になる程泣いてただけだったけど、堪らなく嬉しくて貰い泣きしちゃった。恥ずかしい…。猗窩座さんは私の眷属達の為にご飯をたくさん持って来てくれた。ほらね?猗窩座さんに任せておけば全部大丈夫でしょ?…なんて言ったら頭に手刀を落とされた。でも、全然不快じゃなかったよ。手刀の形にして撫でられた感じだった。普通に撫でてくれたら良いのに。童磨さんは信者達に作らせた寄せ書きをプレゼントしてくれた。会ったこともない人達からの寄せ書きって初めてで困惑した。たぶん信者達も困惑してたと思う。黒死牟さんは部屋には入らず襖を少しだけ開けて一言声を掛けてくれた。『…無事でなによりだ』って。勘違いしないでね。この数年間 黒死牟さんとはずっとこんな感じ。他の上弦にも同じ対応だよ。…黒死牟さんはちょっと仲間との関わり方を難しく考えてるだけ。考え過ぎて距離が出来ちゃうタイプだね。でも大丈夫だよ。私達の方からいつも勝手に寄っていくからね。
お兄さんは……私が目を覚ましてから部屋を出て行ったっきり、一度もお見舞いには来てくれなかった-----
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『世界渡り』が出来るようになりました。
うん。なんかね。意識が戻ってすぐに気が付いたんだけど、左手に力が溢れてたんだ。今すぐにでも両手を ぎゅっ すると移動しちゃうと思ったから、意識して握らないようにするの大変だったよ。
この世界での役目?目標?……そんな感じの何かが達成されたみたいだね。たぶん『竈門兄妹に出逢う』ことがそうだったんだと思う。それだけじゃなかったとは思うんだけど、それが最後のピースになったのは間違いないね。
竈門兄妹……。炭治郎……禰豆子……。
あの二人はこの世界に於いて何か重要な存在だ。それは私達 鬼側とって、きっと悪い存在な気がする。でも、この世界にとっては正しい存在だと思う。
そう判断した私は満足に動かせない体で上弦のみんなを集めた。そして伝えた。あの雪山でのこと。私が感じた二人の兄妹のこと。ありのままを全部伝えた。私自身何のことだったのか わからないから、正しく伝えられたかはわからないけど、兎に角あの二人には注意してと訴えた。
……でも、みんなはそれよりも、私がもうすぐ消える事実に驚いてた。私が別の世界から来たって話はしてたけど、その力は既に失われたと思ってたみたいだね。
ある上弦は唖然とし、ある上弦は冗談でしょ?と真実を受け入れず、またある上弦は咽び泣いて行くなと懇願した。……そんな会話の中にもお兄さんは居らず、その後も現れてくれなかった。
結局、私がこの世界を去る当日になって、やっと現れるまでは-------
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じゃあ、そろそろ行くね。
そんな一言で、場は静寂に包まれた。
無限城の中でも特に綺麗な睡蓮が浮かぶ大きな溜め池。その場所でみんなは私を送り出してくれようとしている。
私が他の世界に行くとカミングアウトしてから今日までの数日間は大変だった。
堕姫ちゃんには『ずっと居よう!離れたくない!何でいなくなるの!バカ!!』と、泣き付かれてどっちが姉で妹だか わからなくなっちゃった。
妓夫太郎さんに慰められてもそれは治らず、何度も何度も背中を摩ってあげることしか出来なかった。……それでも納得できないと飛び出して行って、結局 今この瞬間もここには居ない。妓夫太郎さんは居るけど、堕姫ちゃんはたぶん来ないだろうと言ってる。妓夫太郎さん、堕姫ちゃんのことをお願いね。知ってるだろうけど、すごく寂しがりやさんだから。もちろん、妓夫太郎さんも大好きだよ!……でも、せめて最後に堕姫ちゃんに謝りたかったなぁ。
「ヒョッヒョッ!
おぅふ。大きいね。大きい。私の三倍の大きさあるよこの壺。ちょっと旅のお供にはキツイかな〜?スライムじゃなくて、キングスライム連れて歩く感じだよね?それに自立して歩いてくれないからだいぶ苦しいよね?ごめん!要らないや!!
ガーーーン!!と、ショックの擬音が頭に付いた玉壺さんだけど、その気持ちは すごく嬉しいよ。ありがとね。
「おぉぉ…孫よ。やはり行ってしまうのかぁ…。怖ろしい怖ろしい…孫のいない生活など考えられぬ…儂はこの先どうしたら、どう生きていけば良いんじゃぁ……」
お爺ちゃん。私は死ぬ訳じゃないよ。旅に出るだけなんだよ?旅には終わりが必ずあるし、それにお爺ちゃんも私も寿命は無いんだから、生きてさえいればまた会えるよ!だから鬼狩りなんかに負けないでね!お爺ちゃんには長生きしてほしいもん!最後にぎゅ〜ってしてよ!…ね?お爺ちゃん!
「孫よ。……あぁ、わかった。可愛い孫には旅をさせろというからな。儂は待っておる。ずっとずっと待っておるからな。どんなに遅くとも死に目には会いに来ておくれ…」
枯れ枝みたいに細い腕で ぎゅっと抱かれた。低い体温のお爺ちゃんだけど、この瞬間は他の誰よりも暖かいと思った。……絶対にまた会いにくるからね。約束するね。
「お前の眷属達はしっかり面倒を見ておいてやる。何も気にせず旅に出てこい。だが、忘れるなよ。こいつらは しばらく預かるだけだ、永遠に面倒を見る気はないからな!遅くなり過ぎないうちに帰って来るんだぞ!!」
猗窩座さんは親指で後ろを指し示した。そこには私の大切な眷属達が勢揃いしてる。みんな きゅんきゅんと悲しそうな声を上げてる。ごめんね。本当は連れて行ってあげたいんだけど、私の左手の力は世界を跨ぐごとに細かく能力を変えてるから、みんなを私の中に留めたままで世界を渡ったら最悪消えちゃうかも知れないんだよ。そんなの私は耐えられない。だから、この世界でお兄さんや上弦のみんなと待っててほしいんだよ。私の代わりにみんなを守ってあげてね。これはみんなにしか頼めないことなんだよ?
別れが寂しくないように、私の目が覚めてからはずっと外に出して一緒にいたけど、やっぱりお別れは寂しいね。…みんな、おいで!最後にいっぱい、い〜っぱい甘えさせてあげるね!!
私が両の手を広げると、眷属のみんなはバーゲンセールの主婦ばりの速さで駆け寄ってきた。あ、ちょっと、ま、待って!一人ずつ、一人ずつだよ!君たち自分の大きさわかってる!?私の何十倍も大きい子もいるんだからそんなに積み重なったら私がプレスされちゃうよ!1トンの力で作るイカのお煎餅みたいになっちゃうよ!!あぁ、お爺ちゃんが やーちゃんの下敷きに!!お爺ちゃ〜ん!!死に目が早過ぎるよ〜〜!!!生きてお爺ちゃ〜〜〜ん!!!
「やれやれ、零ちゃんは最後の最後まで騒がしくて面白いね。君がいなくなっちゃうと無限城が酷く静かになりそうで心配だよ。でも、その分俺が明るくしていくつもりだから、何も心配しなくていいんだよ?」
童磨さんは明るく振る舞ってると思い込んで逆に暗くすることもあるから、そこは注意してね。せっかく私が和気藹々の楽しい職場に変えたのに、またブラックでギスギスした無限城には戻りたくないでしょ?しっかり頼むね、これは紛れもなく童磨さんにしか任せられない大切なお仕事になるんだよ!
「大丈夫 大丈夫!万事俺に任せておいてよ。あ、異世界に綺麗な女性が居たら、腕一本でいいからお見上げに欲しいな!」
う〜ん。約束は出来ないけど、頭の片隅には置いておくよ!でも期待はしないでよね?私が人間を好きなのはわかってるでしょ?
『わかってる わかってる』と、期待に胸を膨らませてる童磨さん。…本当に大丈夫かな、心配になってきたね。やっぱり行くのもう少し後にしようかな?
黒死牟さん……は、来てないかぁ。堕姫ちゃんと同じでこの場にいない上弦の一人だよ。なんだかんだお世話になったから、お礼が言いたかったんだけどなぁ。
……あ、忘れるところだった。鳴女さ〜ん!
無限城に木霊する程の大きさで声を出すと、脳内に鳴女さんの返事が届いた。鳴女さんは雪山に柱達を呼び寄せた罪に問われそうになったけど、そんな筈がないと私が強く押して粛清を免れたんだよ。実際にお兄さんの調べでも鳴女さんが裏切った形跡は無かったし…。でも、無限城は隅から隅まで上弦達で調べまわったけど、異常は無かった。不気味ではあるけど、各自城内でも油断せず行動することになった。でも、みんな ならきっと大丈夫だと信じてるんだよ!
話が脱線しちゃったね。鳴女さん、改めて今日までありがとう!頻度で言うと一番お世話になったのは鳴女さんだから、感謝の気持ちとして『お兄さんをぶった斬っても良いよ券』を置いて行くね。これを使えば、お兄さんを思う存分叩っ切れるよ。琵琶の音色に磨きが掛かると良いね!……え?お兄さんは了承してるのかって?いや、全然!……あ、そんなにガッカリしないでよ。大丈夫。私の左手の力を付与した券だから、斬ってもお兄さんは誰に斬られたのか認識も出来ないからね。怖い怖いだね。お!やる気満々だね鳴女さん。その調子だよ。綺麗な琵琶の音色で無限城を彩ってね。
……後はお兄さんだけど、やっぱり来てないよね。どうして来ないんだろ。最後にビンタしてほしいだろうと思って両手は最高のパフォーマンスにしておいたのに……。
『誰がそんなことを望んだんだ?化け物め…』
あ!空間が歪んだと思ったら懐かしのお兄さんだ!もう!どうしてたんだよぉ!逢えないのかと思って心配してたんだからね!!
ん?その赤い球は何かな?ビー玉みたいだね。
「私とお前の血をふんだんに練り込んだ血玉だ。本来ならお前のような化け物には必要ないだろうが、戻る際に必要にならんとも限らん。故に、特別にくれてやる。感謝して呑むといい……」
……お兄さん、もしかして、ずっとこれを練ってたの?その為に私に会いに来られなかったの!?……お兄さん(キュン‼︎)…… え、待って何?呑めって言った?それに お兄さんと私の血って言ったよね?え!私が不死身じゃない時に血を抜いたの!? モ・ラ・ル!!!……あ、要りません要らないです。お気持ちだけ貰っておくから、それは未来の上弦の為に取っておいてあげてください。あ、ちょ、頭抑えないでよ!無理矢理呑ませようとするな〜!……うわぁ!?何みんなで私を押さえつけてるのかな!?あ、やめて、離して!流石に上弦全員と眷属達に抑えられちゃどうにもならないんだよ!!
-----やられたんだよ。まさか全員が初めから結託してたなんて……。そんなに血の塊を幼女に食べさせたかったのかな?どんな悪趣味なプレイなのかな?口の中が鉄の味で満たされて気持ち悪いんだよ。旅先でお腹壊したら恨むからね?漏れなく全員鬼狩りに首を差し出してやるんだからね!
ん?あれ?黒死牟さん、いつの間に居たのかな?気が付かなかったんだよ。……え?入れ替わりの血戦をするの?今から私と?
……もちろんだよ!そう来なくっちゃね!熱い展開をわかってるね!!ん?本気で掛かってこい?そのつもりだよ!だから眷属は使わない。私本来の力だけで行くね。さぁ掛かってくるんだよ、上弦の壱!無弦の零の椅子を奪い取ってみせるんだよ!!!
……と、息巻いて挑んできた黒死牟さんは壁の染みになったんだよ(本当にシミになった)
何でなのかな!?そこは死闘の末に私を倒す流れじゃないのかな!!?何をビンタ一発でKOされてるのかな?初めて出会った頃と何一つ変わらない負け方なんだよ!お前を超える為に研鑽を重ねた…。とか言うから期待してたのに一切変化無しだよ!ガッカリ・オブ・ガッカリなんだよ!!!
「くっくっくっ……やはりお前は化け物だな。黒死牟はお前と出会う前と比べて一回りも二回りも強くなったというのに、お前はそれを歯牙にも掛けないか」
……うわぉ、お兄さんが笑ってる。いつもの人を見下した下卑た笑みじゃないよ。本当に楽しそうにクツクツと笑ってるんだよ。……普通にイケメンだね。
「さて、そろそろ時間のようだな。左手が急かしているようだぞ?」
その言葉で自分の左手を見下ろす。定期的に発光してる。たぶん、この光は『世界渡り』までの残り時間だね。この輝きが最大にまで強まったら、両手を握らなくても勝手に『世界渡り』が発動するんだと思う。そんな気がするよ。
「梅ちゃあぁぁん!!!」
ハッとして顔を上げた瞬間、正面から ぎゅっと抱きしめられた。あぁ、堕姫ちゃん……堕姫ちゃんだ。良かった、最後に会えた。会えたよぉ…
「梅ちゃん。これ!これ持って行って!今度遊郭に来たらご馳走するって言ったお菓子!向こうでお腹が空いたら食べてね!!」
籠に入ってるのは、羊羹だ。それも金箔が散りばめられた高級な羊羹。それに幾つか別種のお菓子も入ってる。乱雑に入れられたそれは急いで準備したのだと窺い知れる。どれもこれも遊郭ですら手に入れるのが難しい最高級のお店のお菓子ばっかりだよ。私のために四方を巡って集めてくれたのかな?ありがとう堕姫ちゃん。大切に食べるね。
「梅ちゃん!絶っ対に戻ってきてよね!またみんなで遊ぶんだからね!!」
涙を溜めながら強く応えを促す堕姫ちゃんはすごく眩しい。…うん。約束だよ。絶っ対にまた帰ってくる。どんな手を使ってでも、必ずここに帰ってくるよ。この場所が……この無限城が、私の大切な家なんだからね!
お互いに強く抱きしめ合い、ぽろぽろと涙が溢れる。それは二人ともだ。堕姫ちゃんの目からも……私の目からも……。
左手の発光が強くなってる。もう幾許も無さそうだね。堕姫ちゃん、危ないから少し離れてて。
名残惜しそうに私から手を離して妓夫太郎さんの横に立つ堕姫ちゃん。
……みんながいる。みんなが私の旅立ちを見送ってくれてる。
私が『私』になって、初めて誰かに旅立ちを見送ってもらえてる。心から嬉しいとそう思うよ。
左手が遂に光を無限城いっぱいにまで広げる。お別れの時だね。でも、最後じゃない。またここへは戻る気がする。気休めじゃない、本能がそう言ってるんだよ。
「-----
……?
輝きを増す視界には、もう誰の姿も見えていない。真っ白に染まる世界で、ただお兄さんの……無惨さんの声だけが聞こえる。
「お前には、無弦の零として『無邪鬼』の名を与える。……必ず戻れよ。私の悲願を果たす為には、お前が必要なのだからな………」
……!!
無惨さん!ありがとう!!みんな、ありがとう!!!行ってくるんだよーーー!!!!
その言葉がみんなに届いたかはわからない。世界は真っ白に染まって耳鳴りもしない程の静寂が私を包んだから。
でも、怖さはない。不安なんてない。あるのはただ、期待と未知への-----憧れだけだもん!
ここまで見てくれてありがとね!
次の冒険が終わったら、また会いたいんだよ。
私にオススメの世界もあったら教えてね!
遊びに行くかも知れないんだよ〜
…めちゃくちゃにしても良いならね?(不敵な笑み)
コメントも待ってるよ!
みんなの感想が何よりのエネルギーだからね〜
感想をくれないと、
……たいしゃ って何だろ?まぁいっか!じゃあ またね〜!!