幼女だよ。異世界を巡って自分探しをしてるよ   作:KDAL

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第二十三話 久しぶりの再会って案外何とも思わないものだよね?薄情なだけだろって?…そうなのかなぁ(やっぱり打たれ弱い)

 

 

 

「はあぁああぁぁぁ!!!」

 

大天狗の力を開放した若葉が『八艘飛び(はっそうとび)』でバーテックスを切り刻んでる。完成体のバーテックスは外殻が厚くて、通常の剣撃では歯が立たないんだよ。でも、大天狗の力を上乗せした若葉なら傷を付けられた。私の左手の力も合わさって、本来内臓に負担の掛かる八艘飛びのデメリットを打ち消してる。刃から溢れる獄炎も若葉の身を焼くことなく敵のみを焦がしてるね。今の一撃でスコーピオンはバラバラになって消滅した。さすがは若葉なんだよ!

 

「バーテックスぅ!神樹様には、このタマが近づけさせないぞぉーー!!」

 

身の丈に合わない巨大な(たて)を振り回して、打ち出される爆弾を星屑ごと巻き込んでヴァルゴを叩く。その正体は輪入道の精霊を憑依させたタマだ。私達を乗せて飛ぶことも出来るそれは、勇者達の絶対の楯だよ。それを砕くことが出来る存在なんていない。いるわけがないんだよ!

 

「千景さん!そっちに誘導しました!お願いします!!」

 

「わかったわ!伊予島さんはジェミニを追って!」

 

振り返ると、雪女郎を身に宿した杏がマシンガンのように連射するボウガンでピスケスを追い詰めてた。ピスケスはイカやクラゲみたいな見た目をしてて、その外見通り地中を泳ぎ進むような敵だね。触手のような足をウネウネさせてこっちを撹乱しようとしてるけど、杏の力で足を凍らされてる。大きさの割に機動力があるピスケスには杏が適任だと思ってたんだよ。

 

動きの遅くなったピスケスを倒す役目は千景に引き継がれたね。既に七人御先を使用して七人に増えてる。これからスライスされるピスケスの姿が容易に想像できるよ。

 

「!!……無垢ちゃん、危ないです!」

 

うわっと!ありがと、杏!また身の守りが疎かになってたんだよ。危ない危ない。常に全員を視界に留めておかなきゃいけないから、自分のことが後回しになっちゃうね。しっかりしないと…。

 

ピスケスに注目してた時、足下から二本の鎖が伸びてきた。杏が教えてくれなかったら両腕ごと胴体に巻き付かれてたね。

 

キッと下を睨みつけると、神樹の根の隙間から二体のジェミニが仲良くこっちを覗いてたんだよ。やっぱり私を捕まえようと企んでたね。

 

今私が捕まることは、比喩でも何でもなく『勇者側』の敗北に直結するんだよ。みんなの『切り札』をノーリスクで何度でも発動出来る私は、バーテックスに……引いては『天の神』に取ってこの上なく邪魔だからね。おまけに瞬間移動まで使えるんだから、何が何でも消しておきたい筈なんだよ。この異常な敵の数も私がいることを織り込んでの侵攻なんだろうね。……ちょっと自分の力をひけらかし過ぎたみたい。今後の方針としてよく考えないとね。能ある鷹は爪を隠すって言うもん。

 

「無垢ちゃん!ジェミニには私が付きます。安心してみんなのサポートに専念してください!」

 

わかったよ!杏も無理しないでね。何かあればすぐ呼ぶんだよ!私の言葉に強く頷いた杏は巨大な根を掻き分けるようにして視界から消えていってしまう。すぐ『宙渡り』が出来るように、みんなの姿は常に視界に捉えておきたいけど、どうしても無理な場合もある。……信じるしかないんだよ。

 

「くぅ…!無垢ちゃん!ごめん、そろそろ切れそうだよぉ!!」

 

酒呑童子の力で二段階目の変身をしている友奈からヘルプが来た。任せて、すぐに行くんだよ!右手を友奈に翳して隣に移動した瞬間、淡い光が友奈を包む。その瞬間を待っていたように、星屑達が一斉に向かってきた。大口を開けて迫るそいつらを尻目に、私と友奈は手を繋いで一緒に宙渡りで遠くへと飛んで回避する。

 

比較的安全な場所に出ると、友奈の精霊憑依が解けた。強化変身の時間切れだ。一人につき三分間。それが精霊を憑依させておける時間なんだよ。私の力でも憑依の時間を伸ばすことが出来ないのは訓練で実証済み。諦めるしかないね…。その時間を過ぎたら、みんなは強化変身が解けちゃう。そこが敵にとって最大のチャンス。ご丁寧に胸元に残り時間が表示されるから、敵にも丸わかりなんだよ。誰かな?こんな要らない表示を付けようと言った開発者は!?次のアプデでは絶対に削除してもらうんだよ!炎上案件なんだからね!

 

精霊変身は本来三分も憑依させていれば、肉は裂け、心は磨耗して意識を保つことも難しいと思う。でも、私の補助があれば大丈夫だよ!そんなの全部無いことにしちゃうんだからね。友奈!もう一度 酒呑童子を呼び出して!

 

左手で桜の花を作り出し、その枝を友奈に巻き付けると、その身体が発光する。輝きが終わると同時に、再び精霊を宿した友奈が飛び出していく。その際『ありがとう!行ってくるよ!』と声を上げた友奈は、さっきまで戦っていたアリエスとタウラスに向かっていく。一人で二体を相手にするのは危険だけど、酒呑童子の力は伊達じゃないからね。友奈なら大丈夫だよ!

 

「無垢!私も限界だ!頼む!!」

 

次は若葉だね。大丈夫だよ!今行くからね!右手を翳して移動。一緒に退避。そして左手で精霊の力を再び呼び起こす。

 

「無垢ぅ!タマもだァ!」

 

右手を翳して飛ぶ。タマの周辺には星屑がいないね。なら、この場で再変身だよ!

 

「無垢ちゃん!私も……もうすぐ切れそう!」

 

千景の隣に移動。退避。……待ち伏せされてた!?もう一度右手を翳して飛ぶ。ギリギリ避けられたね。今のうちに精霊変身!

 

「無垢ちゃん!私もお願いします!!」

 

根の隙間から顔を出す杏に狙いを定める。移動。ここなら敵は来ないね。再変身だよ!

 

 

 

───無垢!無垢ちゃん!無垢ぅ!無垢!無垢!!無垢ちゃん無垢ぅ無垢!無垢、無垢無垢ちゃん無垢ぅ無垢!無垢、無垢無垢ちゃん無垢ぅ無垢!!!

 

───移動。退避。変身。迎撃。移動。また移動。迎撃。退避。変身。迎撃。移動。移動。迎撃。退避。変身。移動。退避。退避変身移動退避変身!!!

 

 

 

───もう、どれだけ繰り返したかな?どれだけ繰り返せば良いのかな?バーテックスは減ってない。倒れる端から星屑がどんどん蘇らせてるから。まるで無尽蔵に湧き出してるみたい。永遠にも感じる戦いの中で私達はその刃と拳を振り続けてる。また友奈の変身が解けそうだね。移動。退避。変身。さぁ行って!友奈の背を押して送り出す。また星屑が私に噛みつこうとしてる。無駄だよ。何度やれば理解するの?バカなのかな?拳を叩きつけて黙らせる。あ、千景の変身が解けかけだ。行かなきゃ。大丈夫?すぐに変身させるからね?え?なにかな?私の顔がどうしたの?良いから行って。敵はすぐ側にいるよ。私はタマの所に行くから。タマお待たせ。すぐに再変身させるからね。え?なに?聞こえないよ?そんな呆然として…いや、今は時間が無いね。さぁこれで大丈夫だよ。今度は杏のところに行くね。ちょっと!腕を掴もうとしないでよ。宙移動に巻き込まれちゃうよ?杏、お待たせだよ!え?なんで泣いてるの!?どうして私に組み付いて泣いてるの?…あぁ、そうだよね。いつまで戦いが続くのか不安なんだよね?大丈夫だよ。私がいる限り、絶対にみんなに負担なんて掛けないからね。よし、再変身出来たよ。じゃあ、私は若葉のところに行くよ。またね、杏。ちょっと、杏まで手を引っ張らないでよ。一刻を争うんだよ?急いで行かなくちゃ............ ... .. .. .

 

 

 

「───無垢ちゃん!!ダメです!!!」

 

涙を流す杏の叫びは神樹の結界全てに響いている程に大きかった。バーテックスや星屑の蠢きと攻防戦の爆音を押し除けてだ。それだけ逼迫していた。目の前の友達が言い表しようもない凄惨な状況にあるからだ。それは他の勇者達もわかっていた。気が付いていた。だが、止められない。その友達があまりにも素早く移動することで、知らせることも止めることも出来ないのだ。今の状態がバーテックスの攻撃よりも、星屑の不意打ちよりも危険だとハッキリわかるのに………。

 

そんな友達が次は若葉の前に現れた。間も無く解ける変身を掛け直す為に。

 

「無垢!もうやめろ!このままではお前が!!」

 

肩を掴んで訴えるが、その友達の目は虚ろだ。何も宿してはいない。だが、動きは止まらない。今も左手から伸びる桔梗の蔓を若葉に絡めようと動いている。掴んだ両肩が生暖かくヌメっていた。それは純白のワンピースを赤く染め、少女の手足にまで滴っている。

 

少女は……無垢は全身から血を吹いていた。穴という穴から赤黒い液体を流す姿は痛ましいという言葉では表現出来ない。光の消えた瞳と流血により血色の悪くなった顔色が相待って、まるで死体が動いているようだ。

 

若葉に桔梗の蔓が絡まる直前、若葉は自分の刀でそれを断ち切った。これ以上、無垢に力を使わせてはいけない。直感的な行動だった。

 

「無垢!無垢、聞こえないのか!?私だ、若葉だ!返事をしてくれ無垢!!」

 

必死の訴えも赤の面積を増やす妖精には届かない。再び左腕から蔓を伸ばそうとするだけだ。

 

「乃木さん!後ろ!!!」

 

千景の叫びを聞き、咄嗟に無垢を抱いて横へと飛び避ける。刹那の間をおいて、星屑の群れがそこを通過する。以前にも見た『擬似バーテックス』だ。何百の星屑が一体の大型を型取ったもの。今は大蛇を模した姿になっている。それと同じ蛇型が何体も控えていた。

 

「珠子!無垢を楯のワイヤーで縛ってくれ!これ以上、瞬間移動も切り札も使わせてはダメだ!!」

 

「あ、あぁ…わかった!」

 

珠子の楯は強靭なワイヤーを伸ばすことで投げた楯の回収が出来るが、それが無垢の体に巻き付くと、両腕ごと絡め取って楯に縛り付けて拘束してしまう。尚もギシギシと音を立てながら抜け出そうとする血濡れの無垢だが、自身が拘束に弱いことは当然仲間達にも伝えており、その甲斐あって無垢の動きを制限されられていた。

 

「くそ!迂闊だった。私はどうして考えもしなかったんだ!大きな力に代償が無い訳がなかったのに…。私達が本来背負う筈の痛みも苦しみも消えた訳じゃない。全部、無垢が肩代わりしてくれていただけだ!!!」

 

言葉にしなくても、勇者達は察していた。無垢の姿を見て気が付かない筈はない。この子は強いから、傷付かないから、死なないからと…。屈託のない笑顔を絶やさない少女の内で燻り蓄積されていた負荷に誰も気が付かなかったのだ。あの 察しの良い ひなた でさえも、そして本人でさえも……。

 

精霊の憑依は心身を共に蝕むもの。そう、『心』身なのだ。身体だけではなく心も侵す。正史で その影響が顕著に現れたのは千景だった。自分以外の何者も信用出来ず、恨みと呪いを募らせてしまい、切り札を使用してまで若葉を殺そうとする奇行に走った。そして、最期には自分自身も……。

 

たった数回の切り札の使用でそうなるのだ。今日まで百回以上の切り札の負荷をその身に宿してきた無垢の負担がどれ程のものか……想像も出来ない。だが、本人が気付かないことなどあると思うか?いやいや、そんなことはない。川の堤防が突然決壊するように、その日まで使っていたコップが急に割れるように、限界が いつなんどき に訪れるかなんて、誰にもわからない。或いは、他の勇者達と同じく精密検査を受けていれば何か出てきたかも知れないが、レントゲンも採血も不可能な無垢ではどのみち不可能な話だっただろう……。

 

 

 

「乃木さん!バーテックスが!!」

 

楯に縛り付けられ、動きを止められたことにより それまでの疲労が一気に出たのか、無垢は項垂れて意識を失った。そのタイミングで、バーテックス達が無垢へと向かう。

 

バーテックスにしてみれば最大の敵が満身創痍となったのだ。今攻めなくていつ攻めるのか?そう言わんばかりの行動だった。

 

「若葉ぁ!一度逃げよう!無垢が起き上がるのを待って、それから…」

 

「ダメだ!それでは神樹様に辿り着かれる!」

 

珠子の言葉を遮るように声を上げて、若葉は刀の鋒を神樹に向ける。そこには数体のバーテックスが神樹に向かい突き進んでいる光景があった。片や無垢を。片や神樹を。どちらかを攻め落とせば勝てるのだ。両方に進むのが定石というものだろう。

 

歯が割れんばかりに食い縛る若葉。だが、無垢はもう起き上がれないだろう。全身を赤く染め、肌色の部分を見つける方が難しい。

 

「切り札だ……それしかない!」

 

その言葉に、全員が息を呑んだ。

 

無垢の補助無しの切り札。それは命を削り取る行為。訓練ですら僅かにしか試したことがない。無垢がいたから……無垢に甘えていたからだ。

 

「無理よ!バーテックスはまだあんなにいるのよ!?たった三分の切り札じゃ、もう殲滅なんて出来ないわ!!」

 

「いや、そうでもない。千景、よく見てみろ!」

 

絶望に染まる千景を落ち着かせるように、若葉はこちらに向かってくるバーテックスを睨みつけた。その視線の先を勇者達は見つめ……、気が付いた。

 

「あれ?あいつ、完成体じゃない。……未完成体だぞぉ!?」

 

「タマっち先輩の言う通りです。それに、他のバーテックスも殆どが……」

 

勇者達に詰め寄るバーテックスの半数以上は、未完成体だった。皮だけを取り繕った劣化個体。一回目の戦闘で相手にした姿にまで格が落ちていた。

 

「バーテックス共も相当無理が祟っているんだ。そもそも、これまでだって一度倒せばその場で復活などしなかった。それだけ奴らも今回の戦いに全てを賭けているのだろう」

 

若葉は神樹に向かうバーテックスと無垢に迫るバーテックスを見比べた。凡そ比率は七対三…。こちらが七で、神樹側が三だ。残った星屑も殆どが合体して長大な大蛇と化して無垢に向いている。……天の神が どちらに重きを置いてるかが窺い知れた。

 

「……珠子!杏!千景!三人で無垢を守れ!私と友奈で神樹様に向かうバーテックスを倒す。それまで持ち堪えてくれ!!」

 

苦虫を噛み潰したような表情の若葉に、待ったをかける者など誰もいなかった。ただ強く頷き、応えるのみだ。

 

勇者達は思う。御役目の為じゃない、世界の為でもない。友達のために……ずっと甘え続けて、小さな妖精に負債を溜め込ませ続けた自分達への贖罪のために!絶対に守り切ってみせる!!

 

遠くなる若葉と友奈を一瞥した後、残った三人の勇者達は妖精を狙う天の神の刺客を睨みつけた。絶対に渡さない、殺させない!魂に訴えるような強い眼差しは、感情の無い筈のバーテックスを、ほんの僅かに たじろがせたように見えた………。

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

……。あれ? 私はどうしたんだろう?

 

眠ってるのかな?真っ暗だもん。

 

耳鳴りも何も聞こえない。なにこれ?

 

本当に寝てるだけなのかな?

 

瞼が開かない。それだけ深く寝てるのかな?

 

昨日は……何してたっけ?

 

……今日は…、何をするんだっけ?

 

明日は?何があるんだっけ??

 

私って……なにだっけ?何処だっけ?……誰だっけ?

 

……知らない。思い出せない。なんか眠い。すごく眠い。

 

……よし、寝よう!考えてもわからないものはわからないもんね!!

 

おやすみなんだよ〜〜。すやぁ……

 

 

 

『───何を眠ろうとしているんだ?化け物…』

 

……え?

 

 

急に辺りが白くなった。と思ったのも束の間。私は懐かしの無限城にいた。……わぁ、数年ぶりの我が家って感じだよ〜。この階段と廊下だらけの薄暗い感じが良いよね。でも、これって夢だよね?わかるよ。何となくそうだって思うんだ。う〜ん、それにしても、数年振りに見て思うけど、無限城にはファンシーさが足りないよね。よしよし、今度巷で人気が出てる『サンチョ』のぬいぐるみを散りばめよう!

 

夢の中だからかな?手元に抱えられるくらい大きなサンチョの抱き枕が ポコンっと現れた!うわ〜サンチョ可愛いんよサンチョ〜!

 

『そんな奇天烈なモノを撒き散らすな。無限城の厳かな雰囲気が薄れる……』

 

お?サンチョを抱える傍らで理科の実験みたいなことをしてるお兄さんを発見だよ!こっちに背中向けてるけど、はっきりわかるね。久しぶり!夢の中だけど元気にしてたかな?

 

『夢ではない。ここはお前の精神世界だ。生命の危機に陥いり、意識が混濁したことにより、お前にとって心の安定となる心象風景と私の魂が繋がっ………あぁ、理解出来ていない顔だな。なら夢で良い。そう思っておけ』

 

あ!今私のこと お馬鹿を見る目で見たよ!鼻で笑ったね?聞こえたんだからね?よし、数年間溜めに溜め続けた力で渾身のビンタをかましてあげるんだよ!歯を食いしばれ!お前の血は何色だぁ〜!

 

『そんなことより、ここで のんびりしていていいのか?』

 

え?のんびりって何かな?私は普段からのんびりなんだよ。エブリシングのんびりなんだよ?

 

『……お前が良いなら別に構わん。外で戦っているお前の仲間達など、私にはどうでも良い。お前さえ生きて私の下に戻れば、それだけでな』

 

ん?外?ここって夢なんでしょ?なら私は寝てるんだよね?そもそも、仲間ってどういうことかな?黒死牟さんや堕姫ちゃん達が鬼殺隊と戦ってたりするの?

 

『まだ気が動転しているな…。勇者などと大層な神輿を担がされている哀れな人間どものことだ…』

 

……ゆーしゃ……?

 

ゆー……しゃ……。

 

…………。

 

……………………。

 

……………………………… . . . 勇者。

 

 

 

『……思い出してきたか?思い出したか?自分がこの世界で何と呼ばれていたか。先刻まで何と戦っていたのか……』

 

……………うん。……そうだったよ。

 

手に持ったサンチョが ポトリ…と床に落ち、霧となって消える。改めて自分の身体を見つめた。あぁ、血だらけだね。これは酷すぎるよね。今からでもタグにR-18Gに変えようかな?

 

床には血溜まりが出来て、私の身体の穴という穴からは大量の血が流れてる。これって私の質量よりも沢山の血が出てないかな?不死身だけど死んじゃうんじゃないかな?

 

………私はどうして死に掛けてたんだろう。現実の世界だと全然気が付かなかったけど、夢の中だとハッキリわかるんだよ。こう……胸の奥に黒いモヤモヤがあって、それが私を包んでる感じだけど。

 

『それは呪いだ。勇者共が背負う筈だった負債。お前はそれを左手の力で自身に抱え込み続けていたのだ。数回程度なら何の支障も(きた)さなかったのだろうが、百を超える力の行使により身体が持たなくなったのだろう。負荷を打ち消しているのではなく、自分自身に『溜め込む』力だと気が付かなかったのは失敗だったな……』

 

でも、私は不死身で無敵なんだよね?そもそも効かないものが、回数を重ねたくらいでどうして死に掛けちゃうのかな?

 

『それこそ単純な話だ。お前が本当は『不死身』ではなかったと言うだけのことよ。人智を超える馬鹿げた頑丈さを持ち合わせていても、そこに限界は存在したのだろう。特に、呪いは外面ではなくお前の内面……『心』を蝕むものだ。お前の心は外面よりは脆かったのだろう。何れにせよ、お前にも効果のある攻撃手段があると知れたのは収穫だった……』

 

うわぁ……何だか弱味を握られた感じだね。怖い怖いだよ。寝首を掻かれないようにしなくちゃ。そういえば、禰豆子の名前を聞いた時も、心がすごく揺れる感じがしたんだよ。う〜ん……『私』の記憶に深く関わったり、心に干渉される攻撃には要注意だね。前者は兎も角、後者は対策出来そうだし、何か考えておかなくちゃ!

 

……さてと、それじゃあ お兄さん。私戻らないといけないの。出口は何処か教えてくれないかな?

 

ポタポタと血が滴る音に混じって、私はお兄さんに問い掛けた。久しぶりの会話は楽しいけど、急いで戻らないといけないもん。私がいないとみんなが……

 

『戻る?何故だ?お前には関係のない話だろう。奴らがお前の何を知っていた?何を思い出させてくれた?……この数年、お前の中から外の世界を眺めていたが、これ程『異世界』とやらが詰まらないとは思っても見なかったぞ。落胆させてくれたな?』

 

お兄さん、ちょっと言葉に棘があるよ。確かに、この世界で私は『私』に繋がりそうなモノを見つけられてないよ。でも……いや、そうだね。……うん。認めるよ。今の所、この世界ではコレと言った収穫が無い。

 

『ならさっさと次の世界に渡るが良い。お前の左手も……既に準備は出来ているようだぞ?』

 

こっちに振り返ってもいないのに、お兄さんは私のことを見透かしたような発言をするね。でも、その通りなんだよ。だって、左手が僅かに光ってるもん。これ『世界渡り』が迫ってるってことだよね?

 

最悪だよね。何でこんなタイミングかな?私は……私達は今戦ってるのに。たぶん、この世界の命運が掛かってる瀬戸際なんだよ?……なのに、なんで今なのかな……。

 

『その力はお前の意志を尊重していないのだろう。お前と溶け合い、内側から左手の力を調べていた私にはわかる』

 

……溶け合い?あぁ、やっぱりお兄さんは、あの不味い『血の塊』だったんだね。何となくだけど、別人って感じだもん。すごく似てるけど、お兄さん本人じゃないよね?

 

でも、それは今は良いんだよ。……それで『別人』のお兄さん、ここの出口だけど。

 

『教える訳がないだろう。今、お前の不死性は安定していない。そんなボロ雑巾のお前を戻せば、間違いなくバーテックス共に嬲り殺しにされる。そんなことを私の『本体』は望んでいない。私はお前が死なないように監視する役割を担っているのだ。お前達、勇者共の言う『御役目』と同じだ』

 

思ってくれるのは嬉しいよ。素直に嬉しい。ありがとう。でも、今は一刻を争うんだよ。早く戻らないと友達が、『さっきの質問の続きだ。奴らがお前に何を与えた?お前を程よく使うだけの存在だ。まだ勇者どもは可愛げがあるが、大社の連中は甘く評価しても屑だ。その程度はお前でもわかっていただろう?』

 

………。

 

『答えろ。お前は何の為に世界を渡っている?』

 

……『私』を探す為。

 

『では、この世界で何を見つけられた?』

 

……特に、なにも。

 

『手掛かりの一つでもあったのか?』

 

………ねぇ、別人さん。

 

『私ならお前の正体を突き止められる。お前と混ざり、過去のお前の旅まで(さかのぼ)っているが、中々に興味深い糸口を見つけたぞ。……聞きたくはないか?』

 

………ねぇ。

 

『お前の知らない『お前』に繋がる重大な手掛かりだ。それを知りたいなら世界を渡れ。次の世界に渡り、お前の安全が保証されたら話してやろう。無駄なことに時間を割くな。この世界は滅びに向かっているのだ。お前がそれに付き合う必要は毛程もありはしない』

 

…………… 。

 

『お前のような稀有な存在は、こんなくだらない世界で散るべきではない。さぁ、その両手を握り締めろ。こんな世界など振り返る価値もない。私と共に有れ。私達と共に未来永劫の「無惨!!!」……!!!』

 

いつの間にか私の正面に立っていた別人さんごと、仮初の無限城に亀裂が入った。私の怒声で夢の世界が割れそうになってる。

 

別人さんの……お兄さんの言ってることは正しいと思うよ?この世界に来て、私は何も掴めてないもん。何もわからないまま何年も過ぎた。無駄に時間を掛けて、自分の為にならない人助けを続けてる。お兄さんの所にいた時は違ったもんね。お兄さんは私のことをずっと調べてくれてた。私の正体も左手のことも。だから、左手が『眷属』を従えられる力だってわかった時、むーちゃん や ゆーくん達の情報もたくさん集めてくれたもんね。私自身の力になればって。もちろん、鬼側にとっての戦力強化って言う打算もあったのはわかってるよ?でも、それが全てじゃなかったでしょ?

 

『……もう一つ序でに言ってやろう。貴様は人間が好きだと事あるごとに宣っているが、それは解釈違いな言い方だ。貴様の言う『好き』とは、人間と言う『種』を愛玩動物として好いているに過ぎない。犬と猫ならどちらが好きかと言う選択に『人間』が含まれており、どうせ選ぶならこちらだと言う。……それが貴様の人間が好きと言う定義だ』

 

みんなのことをそんな目で見てたつもりはないよ。……て、言いたいんだけど、ちょっと痛い所を突かれたね。薄々そうかなって思ってたもん。私は薄情な所があるもんね。面と向かって言われるとグサっと来るものがあるよ。だってそれって『化け物』の考え方だもん。無意識に人間とペット感覚で触れ合ってるなんて、私って本当に何者だったんだろうね。ちょっと『私』を知るのが怖く感じるよ……。

 

でもね。それでも『今』の私は勇者のみんなを助けたいんだよ。みんなが背負う筈だった負債を抱えてでも、何とかしてあげたいって思ってる。

 

『……何故拘る。この世界の人間(勇者)共に、お前は何を見出している?』

 

私と溶け合った。なんて言っておいて、それに気が付かないなんて、お兄さんはまだまだ私のことを理解してないね。簡単だよ。……『心』。私は勇者の仲間達と……みんなと一緒にいると、心が揺さぶられるんだよ。

 

楽しい。嬉しい。悲しい。ツラい。悔しい。怖い。驚き。ハラハラ。ドキドキ。ワクワク。……そんな心の揺さぶりを噛み締めるのが、とっても気持ちが良いんだよ。

 

『それがどうした?お前に繋がることなど何も出てはいないではないか?』

 

お兄さん。私はね?ずっとず〜っと『私』を探してる。でもね、それだけじゃないんだよ?

 

私は……『旅』をしてるんだよ。肌に感じたことのない感覚。心に留めたことのない気持ち。それら全部を味わって咀嚼して、ごっくんって飲み込んで、その過程で私は『私』を探してるんだよ!

 

『………。』

 

近道も遠回りも、なんなら寄り道だってするけれど、それらは全部『道』なんだもん!無駄なことなんて何一つ無いんだよ。どんな些細なことも事象も、きっといつかは自分に返ってくる。その時、私は胸を張って言いたいんだよ!

 

─── あぁ、大変だったけど、良い旅だった!……ってね!!!

 

『………わからん。お前が何を言っているのかさっぱりだ』

 

えへへ、実は私もよくわかってないんだよ。思い浮かんだ言葉をそのまま喋っただけだからね。無駄な会話になっちゃったかな?

 

『あぁ、無駄だな。これ以上無い程に生産性が感じられない。これだから人間という種は理解が出来ないのだ』

 

あれ?私は化け物じゃなかったのかな?

 

『………もういい。好きにしろ、気分が悪い。行きたいなら、勝手に行くがいい。出口はそこだ』

 

また理科の実験に戻ったお兄さんは、私の後ろを指差した。あぁ、こんなところにあったんだね。いつも鳴女さんが出してくれてた襖だもん。気が付かなかったよ。

 

 

 

───でも、こうしてお兄さんと出会えた以上、まだ出て行く訳にはいかないよね。

 

てくてく とお兄さんの後ろに歩いて立つと、その袖をぐいぐい引っ張る。

 

『……なんだ化け物。さっさと行け。貴様の顔など見たくも無い』

 

そんなに拗ねないでよ。幼女に言い包められて悔しいだけでしょ?明日の朝には腹の虫も治ってるってば。あ、ちょ!頬っぺた引っ張らないでよ!夢の中なのに痛い!現実の方が痛くなくて夢の方が痛いってどういうことなのかな!?

 

私の頬をぐい〜っと引っ張って虐めるお兄さんは、パッと手を離すと私を見下して聞いてきた。『まだ何かあるのなら、さっさと言って失せろ』…だってさ。うん、そうだね。本当に時間も無さそうだから、要点だけハッキリ言うね?

 

─── お兄さん。バーテックス倒すの手伝ってよ。

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

「くっそぉ!こいつら動きが早過ぎるぞぉ!」

 

「いいえ、私達が遅くなってるんです。憑依を解いた状態だと、こんなにも動けないなんて……、きゃっ!!?」

 

「伊予島さん!……ぐぅ!!!」

 

やってはいけないと分かりつつも、神樹の根を盾として勇者達は逃げ回っていた。そうでもしなければ、もう まともに逃げることすら叶わないのだ。切り札など既に使っている。全身をハンマーで叩かれたような激痛に苛まれながら、三人はそれでも懸命に逃げていた。しかし、それも終わりだ。周囲をバーテックスや星屑に取り囲まれ、逃げ場を失ってしまった。

 

周りをぐるりと囲んだバーテックス達は狙いを定める。勇者達にではない。その中心で弱々しく血を流す妖精に向けてだ。

 

若葉達はまだ来ない。援軍の期待は出来ない。向こうも大変な戦いになっている筈だ。……絶対に間に合わない。

 

「くぅ……もう一度、切り札を!」

 

「千景さんダメです!次に使ったら千景さんの身体が!!」

 

助けないと。守らないと。他の誰でも無い。私がやらなくちゃいけない。私に居場所をくれた子を、大切な親友を与えてくれた無垢を!!

 

「来なさい!七人御-----」

 

そこまで叫んだ時、背後の妖精から音がした。声では無い。『音』だ。それもメキメキと割れているとも肉を潰しているとも取れる異音。

 

その音を聞いたのは千景だけではない。珠子も杏も同じものを聞いた……いや、見たのだ。

 

振り返った先、楯に固定された妖精から、肉肉しい怪物の腕が伸び上がる光景を。

 

「『「ウオォアアアァァァァァーーーーー!!!!」』」

 

幼い妖精の見た目からは信じられない咆哮。それは幼女の胴体より太い赤紫色の肉腕に付いた無数の口から発せられた。身体が芯から震え上がる。この世の全ての憎悪を煮詰めたような震撼が神経まで走ってくる。牙とも爪ともつかないものをびっしりと生やした口は禍々しく、一目見ただけでわかる程の『害意』を感じさせた。

 

これは自分達ではどうにもならない『何か』だと勇者達は悟る。周りのバーテックス……いや、天の神ですら、眼前で目覚めようとする存在に理解が追いついていないだろう。

 

刮目せよ勇者。怖れよバーテックス。(おのの)けよ天の神。お前達が相対するは鬼の王。─── この世界に迷い込んだ絶対の存在なのだ。

 

 

 

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