幼女だよ。異世界を巡って自分探しをしてるよ   作:KDAL

24 / 57
第二十四話 誰かを助けようと思うなら。躊躇ったらダメだよ。人はすぐに死ぬんだから。迷ってたら間に合わないんだよ……

 

 

 

豹変した妖精は激進する。

 

珠子の楯のワイヤーを最も容易く引き千切り、野獣の如き咆哮と共に突き進んだ。

 

背後の勇者達の静止も無視して突貫し、文字通り身体を弾としてバーテックスに風穴を開ける。その先で待つ数体のバーテックスも幼女の触腕から放たれる刃で微塵斬りだ。

 

容赦なんてカケラも無い無慈悲で凄惨な攻撃は続く。遠くから光の槍を飛ばしてくるサジタリウスの攻撃を弾きながら幼女は口を開けた。風を…空気を…大気を集めて圧縮すると、極太の光となって吐き出す。光線やレーザーと言い換えた方が想像し易いだろう。それがサジタリウスを守ろうと間に入ったキャンサー諸共、バーテックスを塵に変えた。

 

しかし、敵は未完成型。外殻が破壊されたことでワラワラも内部の星屑が現れる。『質よりも量だ』とでも言いたいのか、妖精を包囲するように群がり始めた。

 

だが、それを想定していた妖精は、右の腕を肉の塊にしてボコボコと膨らませる。まるで風船か爆弾のように丸々と実ったところで、肉袋は本当に爆発した。いや、厳密には違う。それは増殖や分裂に近いものだ。破裂した中から飛び出るは『鬼』。鬼の王が生み出した下僕の鬼共だ。彼らに知恵は無い。ただ命じられた行動を取るだけの雑魚鬼に過ぎない。だが、それが何十、何百と集まれば厄介な存在となるだろう。更に言えば、鬼達は死なない。どれだけ傷を負わせても即座に再生するのだ。この世界には存在しない『日輪刀(にちりんとう)』でなければ彼奴等を滅ぼすことは叶わず、日の光も届かない神樹の結界の内部では無敵の存在と言えるだろう。ちょうど、少し前の星屑と勇者の対比と言えようか。既に多くの同胞を失った星屑達の倍近く現れた鬼は、迷うことなく星屑に手を伸ばす。まるで熟れた果実を貪るように嬉々として星を喰らう鬼達により、妖精を取り囲む星屑の檻は取り払われた。少女を阻む存在は消え、蹂躙が再開される。

 

舐めて掛かるなよ天の神。妖精が助力を願ったのは分体とはいえ鬼の祖。異世界に君臨する最強最悪の悪鬼なのだから……

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

「なぁ……無垢だよな?あれは……無垢、なんだよな?」

 

「「………。」」

 

遠くで激しく動き回る仲間を三人の勇者は唖然と見つめていた。目の前の光景が信じられない。神樹だのバーテックスだの天の神だの……そんな存在を認知していても尚、自分の脳が現実を受け入れられないのだ。

 

さっきまで……ほんの少し前まで意識を飛ばし、血だらけで気を失っていた仲間が、突然悍ましい腕を生やしたかと思えば、鼓膜を破る程の激昂を吐いて飛び出して行った。神樹によって編まれた頑強なワイヤーは千切られ、まるで猛獣が解き放たれた後のような状態だ。

 

「わかりません。でも、今の無垢ちゃんは、まるで獣のような……」

 

「あの子の失っている記憶が戻って、その力を使っている……とか、そんな感じなのかも……」

 

「記憶が戻ったって言っても、あれじゃ別者だぞぉ……‼︎…二人とも上だ!」

 

珠子の叫びで我に返った杏と千景は咄嗟に左右へと飛び退いた。二人の立っていた場所は途端に爆発し、風圧で勇者は宙を舞った。

 

「ヴァルゴ・バーテックス!?……二人とも、私達もやるわよ!もう無垢ちゃんだけに重荷は背負わせない!!」

 

頭上から爆弾を打ち込んできたのはヴァルゴ。ピンクでファンシーな見た目とは裏腹な攻撃を放つ存在と取り巻きの星屑達は三人の勇者を屠ることを優先したらしい。

 

遠くへと離れていく妖精とそれを追う大量のバーテックスを尻目に、三人の勇者は再び声を上げて駆け出した。それぞれの精霊の名を呼び、二度目の憑依変身を行いながら……

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

楽しい〜!鬼化すごく楽しいよ!身体がすごく軽いの!羽のようだって表現する人いるけど、そんな比じゃないよ?軽過ぎて無重力だね(逆に動けないんじゃ?)

 

え?千景達がすごい心配してたのに、何でそんなに元気なんだって?知らないよそんなの。鬼化で痛いのも疲れてるのも全部無くなってるんだから仕方が無いでしょ?鬼化解けたら元に戻るって別人さんは言ってたけどね。今が万全ならそれで良いんだよ!

 

あ、ほらほらバーテックスさん達、何を及び腰になってるのかな?次は君だよ?歯を食いしばってね?その歯ごと胴体鳴き別れにしてあげるからね。

 

はい、ズバーンだよ!庇おうとした星屑の集まりの擬似バーテックスと一緒に叩っ斬ってあげたよ?仲良くあの世で懺悔でもするんだね。

 

……なんか闘争心が跳ね上がってるね。鬼化の影響かな?別人さんの力に呑まれそうとかそんなんじゃなさそうだけど、強くて楽しいならオールオッケーだよね!(いつものと同じ)

 

思い出したよ。そうそう、私は考えるよりも行動だった。勇者のみんなと長くいたから、ついつい初心を忘れちゃってたね。私は常に楽しくをモットーにしてるんだもん!ジーク戦士長を見習わなきゃね!ゲームセットにしてやんよ〜!!

 

誰とも知れない戦士長なる人は置いといて、次の獲物は〜……よし、君にしよう!おんどりゃクソ森!!ビタミン剤注入しちゃるけコッチこいやーー!!!(アドレナリン増し増し)

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

……はい。バーテックス殆どやっつけたよ。え?見所を全部すっ飛ばしてるじゃないかって?ズバーンでドカーンでバッコーンだったよ?(擬音祭り)

 

鬼の力ってすごいね。リミッター全解除って感じだもん。私は時間制限有りだし、別人のお兄さんからは『これっきりだ』と言われたから二度と使えないかも知れないけれど、病み付きになりそうだよ。今度ストレス発散したい時に土下座でお願いして変身させて貰おうかな?やっちゃえ バーサーカー!

 

……あぁ、でも残念。あと二体のバーテックスを残して時間切れになっちゃった。

 

スコーピオンとタウラスを残して鬼化が解けちゃったよ。元の血濡れ幼女に戻されちゃったね。別人さんは鬼化は持って一分だって言ってたけど、結局三分くらいは鬼になってたかな?今度お兄さんに会ったら大幅に鬼化持続させられたって自慢しなくちゃね。

 

え?身体が痛くないのかって?……痛いよ。すごく痛い。手足動かないし、感覚も無いもん。ピクピクとしか動かせないし、仰向けに倒れたまま起き上がれない。

 

あ、スコーピオンが鋭利な針状の尻尾で私を狙ってるね。30メートルの巨体が持つ針は普通に腕くらい太さのあるヤバぁな凶器だね。でも無駄だよ。私は不死身の身体だから………

 

……もしかして、今私の身体は不死身じゃなくなってたりする?痛みと眩暈でハッキリとはわかんないけど、その可能性はあるかも。別人のお兄さんもそんな事を言ってたような気がするし、こんな時の私の感は無駄に当たるんだよ。

 

だとしたらマズイよね?死んじゃうよね?この小説ここで終わりかな?ご愛読ありがとうございましたって言わないと…。無理だね。声も出せない。喋ろうとすると吐血しちゃうもん。お兄さんも吐血してた(させた)けど、やっぱり苦しいね。

 

 

………どうしよう………ほんとに死んじゃう。

 

ダメだね。右手も動かない。飛べない。避けられない。逃げられない。迫ってくる。私のお腹目掛けてスコーピオンの太い針が突き刺さ----------

 

 

………

 

………………

 

…………………………

 

……………………………………… あぁ。

 

タマ、杏。どうして私の前に出たのかな?タマは何でそんなボロボロの楯を構えて……。杏はどうして私を突き飛ばしたのかな?

 

……なんで、……私の代わりに、二人が刺されたの???

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

絶句。そんな表現しか出来ない。

 

タウラスを引き受け、スコーピオンに狙われる無垢を助けるように珠子と杏に向けて叫んだ自分の選択が間違いだったと千景は理解した。

 

スコーピオンの鋭く太い針が珠子の楯を容易く砕き、珠子と杏の胸を貫いた光景。それを唖然と見つめる無垢。真っ白になる思考の中、スコーピオンは針を抜き、赤く染まった二人はその場に伏せた。

 

……誰かの絶叫が響く。無垢ではない、虚ろな目で倒れる珠子と杏でもない。それが自分の口から出されたものだと自覚する暇もなく、千景はスコーピオンに向けて飛び出した。

 

だが、それは止められる。他でもない、今戦っていたタウラス・バーテックスの妨害によってだ。激しい鐘の音波は衝撃波となって千景を襲い、動かなくなった獲物にタウラスからの洗礼が物理的に届く。

 

30メートルの怪物による体当たりは強力であり、千景は一瞬で弾き飛ばされる。その身体は神樹の根に叩きつけられ、小さなクレーターを作った。

 

肺の空気が全て出され、各部位から血が飛沫となって噴き出す。頭も強く打ったのだろう。意識を失う瀬戸際だ。仰向けに倒れたまま、なんとか視線だけを無垢達に向けると、スコーピオンが改めて無垢にトドメを刺すべく、その針を再び構えているところだった。

 

助けないと、救わないと、私が……私のせいで、二人を、無垢を、失うことになったら……絶対に耐えられない!そう思う千景だが、その身体は動かない。切り札の連続使用は肉体と精神に尋常ではない負荷を掛けており、最早指一本動かせないのだ。

 

タウラスも千景に向かってきている。他の勇者共々仕留めようとしているのだ。動かない敵など良い的でしかない。

 

しかし、千景は自分のことよりも無垢達を気に掛けており、常に視線をそちらに向けていた。だからこそ、その後の光景はハッキリと目に焼き付けることが出来た。

 

無垢が二人を庇おうとしている。血を吐きながら地を這って二人に覆い被さった。そんなことをすれば、三人同時に串刺しにされるだけなのに……。

 

───やめて!逃げて!!死なないで!!!

 

そう叫びたいのに、千景は声が出せない。それは血の塊となって吐き出されるだけとなる。

 

もうダメなのかと。ここでみんな死んでしまうのかと。諦めにも似た感情が芽生えそうになった時、千景の目に光が届く。

 

その光は視線の先の無垢から……無垢の左腕から発せられていた。その輝きの意味を勇者達は無垢から教えられていた。

 

───『世界渡り』

 

無垢がこの世界から別の世界に渡る際の輝きだと本人から聞いていた。目の前の発光がそれなのだと、千景は薄れる意識の中で察した。

 

思わず背けたくなる程の光量になった輝きだが、千景はその光景を最後まで見続ける。その光の中心に、スコーピオンは迷わず鋭利な針を突き刺した。刺突の音は鼓膜を揺さ振り、確かな衝突を実感させる。

 

だが、その音は神樹の根に深く突き刺さった針の音だった。その先に無垢は……いや、珠子と杏を含む、三人の姿は無かった。

 

獲物を見失ったスコーピオンは辺りを見渡し、三人を探していたが、とうとう見つけられなかった。やがて目標を残った勇者に……千景へと変える。

 

当然だろう。無垢達が居ないのだ。この場で唯一残っている獲物は千景一人なのだから。

 

薄れる意識の中、千景は思う。きっと三人は大丈夫だ。無垢が庇ったんだ。無垢が守ってくれたんだ。きっとそうに決まっていると。そうあって欲しいと。

 

……結局、最期まで無垢に甘え続けることしか出来なかった。面と向かってお礼も、お別れも言えなかった。でも、みんなさえ生きていてくれたら……私はもう、それだけで良い………。

 

スコーピオンの針が自分に振り下ろされる時、千景は死を覚悟した。仲間達に最大級の感謝と謝罪をしたいと思いながら………。

 

朦朧で霞み、涙で歪む視界には、桜の花がスコーピオンを殴り付け、桔梗の花が迫る針を切断する光景が写ったが、脳がそれを正しく理解する前に、千景は意識を失った───

 

 

 

───後に、バーテックスの大侵攻は勇者側の勝利として世に発信される。天の神は無茶な侵略行為により力を大きく消耗した。更に人間の底知れない力と闇深く悍ましい下僕()を呼び出す力に恐れを成し、その後暫くの間、大きな侵攻をすることは無く、人類には平穏な時間が続くことになる。

 

だが、勇者側の被害も甚大だった。遺体の確認は出来なかったが、生き残った勇者達の証言と神託から勇者二名は死亡したと結論付けられる。また、神樹と同格とされる守護妖精を失った事実は、人類にとって この上ない大損失として知れ渡った。

 

メディアとネット界隈では、生き残った勇者達を称賛する者と非難する者の二極に分けられ、連日連夜 激しい口論が繰り広げられることになる。そして、人一倍ネットの声に敏感な『彼岸花』は、事情を何も知らない無知で愚かな二極化した片方に対して、言葉ではとても表せない憎悪を募らせていく。

 

『妖精を守れなかった勇者は無能。役立たずの勇者は死んで正解。どうせ死ぬならその前にヤらせて欲しかった』……そんな下卑た書き込みを一言一句逃さず彼岸花は吸収し続ける。

 

今はもう居ない二人の勇者と純白の妖精。大切な仲間達との思い出が詰まったアルバムをひしゃげる程に強く抱き締め、食いしばった唇から鮮血を流しながら………。

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

……飛んだ。飛んじゃった。

 

思わずだった。痛む身体を無理矢理に動かして、二人に覆い被さり針から守ろうとした。

 

でも、その時に強く両手を握り締めちゃった。

 

……ここは何処なのかな?辺りは夜なのかな?真っ暗で、草が生い茂って、木々が葉を揺らす音と土砂降りの雨の音がすごく煩く聞こえる。まるで嵐の中に放り出されたみたい。

 

………世界を、渡っちゃったんだ。もう息をしてない二人を、道連れにして……。

 

タマ、杏……生きてる?生きてるなら応えて。応えてよ。……ねぇったら

 

目を開けたまま動かない。二人は動かない。

 

嘘だよね?死んでないよね?だって勇者の衣装はそのままだよ。胸には……すごく大きな風穴が開いてるけど……心臓があった筈の場所は抉れてるけど、でも、ほら、なんか……奇跡とか起きてさ……ね?

 

………お願いだからさ。生きてるって言ってよ。動いてよ。手を握り返してよ。どうして………庇ったの?私は、死ななかったかも知れないのに……なんで私よりも弱い二人が私を庇おうとして……死んで……

 

 

雨の音が煩い。

 

風の音が煩い。

 

草の掠れる音が煩い。

 

自分の心音すら………うるさい───

 

 

 

「───おやぁ? 妙な力の流れを感じて来てみれば……これは これは……」

 

後ろから男の人の声だ。言葉はわから……いや、わかる。わかるよ。何でかな。もしかして世界を渡ってない……いや、それは今どうでもいい。今は構ってられない。二人をなんとか……早く、なんとか、しないと。

 

「そこの君。被さってる二人は、お友達かな?」

 

ねっとりとした声色で話しかけてくる。煩い。黙っててよ。早く二人の血を止めないと……傷口が広くて深い。血と一緒に内臓まで出てきそう。

 

「可哀想に。見た所……既に死んでいるね。でも、僕なら助けてあげられるよ?」

 

……まるで全てを見透かしているような言葉。こっちの事情が筒抜けみたいな声に寒気がした。でも、不思議と『嘘』じゃないと思った。後ろの人なら、二人を……タマと杏を助けてくれると───直感した。

 

 

 

………ほんとに……二人を、助けてくれるの?

 

 

「あぁ、本当だとも。僕がその二人を救ってあげよう」

 

振り返った先には、黒いスーツを着た長身の男の人がいた。顔はよく見えない。真夜中で嵐のせいもあるけれど、私も呪いに蝕まれたせいか視界が朧げだ。でも、僅かに笑みが見えた。自信に満ち溢れているような、新しい玩具を見つけたような……そんな笑顔に見えた気がする。でも、二人に覆い被さる私には救いを差し伸べる存在に思えた。そんな男の人は私に手を伸ばして、最後に一言………不気味な程の笑顔で 力強く声を出した。

 

 

 

「───もう大丈夫。僕がいる」

 

 

 







ここまで読んでくれてありがとう!

次の世界の冒険が終わった頃にまた会おうね。

あなたのコメントを待ってるんだよ!

たった一言のコメントで、私はご飯十杯は食べられるんだからね(本気)

コメントをくれない悪い人は、パパに言って個性を奪い取って貰うんだよ。

……パパって誰だろ?それに個性なんて概念なんだから、奪える物でもないのにね〜

じゃ、バイバイだよ〜〜!!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。