私がこの世界に戻って数週間後、ヒンメルが入れ替わるように旅に出た。
御葬式はすごく大きな規模で国を挙げて行われてる。本当にすごい数の人が集まって来てるんだよ。地方の貴族や領主なんかもいるらしい。当然だよ。ヒンメルは世界を救った勇者なんだもん。今の世界があるのは魔王さんを倒したヒンメルの力があってこそなんだよ。……いや、厳密には私の誤解を解いてくれたことが最大の功績だと思う。
私は魔王さんよりも強かったからね。自惚れでも何でもなく事実としてそうだったもん。別の世界の鬼の王様や神様でも私は殺せなかったんだし、不思議なことじゃないんだよ。
……自分で言うのはイヤだけど、私はそんなに頭が良くないから騙され易いんだよ。だから魔王さん達に嘘を刷り込まれてこの世界の人達を殺しちゃった……。そんな私を止めてくれたのがヒンメルだった。後少しみんなと出逢うのが遅かったら、この世界は今頃……。
俯き気味に聖堂の床を見つめていた私は、何となく左右に立つ仲間達をチラリと覗いた。
ハイターは優しげな表情を浮かべて、横たわるヒンメルの隣に花を添える参列者に目を向けてる。既に覚悟が出来ていたのかな。そんな達観した雰囲気を感じるよ。アイゼンも同じだね。蓄えた髭や兜で目元しか見えてないけど、後悔は無さそうな表情だよ。……でも、フリーレンは違う。
項垂れて床を見てる。強く握られる拳は僅かに震えてて、何かを押し殺す嗚咽が響く。時折目元から水滴が床にパタパタと溢れ落ちてる。
私が戻ってから、フリーレンは魔法の収集をやめてヒンメル達と過ごしてた。五十年前の何事にも興味の無さそうな態度は鳴りを顰めて、積極的に私達を知ろうと沢山会話のやり取りをした。私はそれが楽しくて嬉しいばっかりだったけれど、フリーレンはすごく真剣だったよ。まるで別人になったみたいに。何がフリーレンの心情に揺さぶりを掛けたのかはわからないけれど。
……あぁ、私が涙を流さず、表情の一つも変えないから参列者から『酷い』とか『薄情』だって声が聞こえるね。……酷いのはそっちじゃないかな。私は悲しくないだなんて思ってないんだよ。寂しいよ。すごく寂しい。でも、私は涙を流せないんだよ。流しちゃダメなんだよ。
私はみんながヒンメルと一緒だった時間の半分も付き合いが無かったし、元魔王軍なんだもん。たくさん人を殺したんだもん。ヒンメル達の敵だったんだもん。……何よりも、私の安っぽい涙を見せたらダメだと思った。それはヒンメルにも、そしてフリーレンにも失礼だから。
涙っていうのは、流そうと思って流すものじゃないんだよ。自然に湧き出るものなんだもん。それが純粋で清らかな本当の涙なんだよ。こういう場だから涙を流さないといけないって思って流すなんてそれこそ薄情で酷い行いだよ。現に、私の目元は濡れてない。きっと、私にとってヒンメルはその程度の存在だったんだよ。あれだけ膝枕をしてもらって頭も撫でて貰ったのに最低だよね。自分が気持ち悪いと思うよ……。低俗な化け物だと、そう おもーよ………
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式も終盤に差し掛かった。ヒンメルが入れられた棺桶が地面に埋められていく。スコップで一掬い一掬い、丁寧に土が掛けられていく。それは死者に暖かな布団を掛ける行為だってハイターが言ってた。一気にドバッと掛けたらビックリして飛び起きるかも知れないからって。
…………。
……………………。
……………………………… 飛び起きてほしい。
膝枕をしてほしい。頭を撫でてほしい。優しく起こしてほしい。ご飯を あ〜ん してほしい。声を聞かせてほしい。お喋りしてほしい。手を繋いでほしい。一緒に散歩してほしい。添い寝してほしい。笑ってほしい。驚いてほしい。ガッカリしてほしい。怒ってほしい。もっと、もっともっともっともっともっと、、、
……………………………… もっと、一緒にいてほしかったなぁ。
自然と身体に力が入る。唇を噛み締めちゃう。目元に何かが集まる。ダメだよ。出て来たらダメ。みんなに失礼。私の軽い涙なんて失礼の極みなんだよ。手で反対の腕を掴んで思いっきり爪を立てる。痛みは感じないし、不死身の身体だから傷も付かないけど、そうでもしないと穢れた水を出しちゃいそうだったから。
……ハイターやめてよ。頭を撫でないで。汚水を出す後押しをするような真似をしないでよ。怒るよ。本当に怒るんだよ。……フリーレンも触らないで。背中を擦らないでよ。自分の方が涙で ぐしょぐしょなのに、私に構ってる暇なんてないでしょ?
「アトリ……泣いていいんだ。あいつの為に、そしてお前の為にも涙を我慢しないでやってくれ」
囁くアイゼンの言葉で、いつの日か別世界の双子に言った自分の言葉が重なった。泣いて ないて 鳴いて……全部の悲しいを出し切って、明日からまた頑張って生きろ。
今の私には『死者の呼び起こし』の力は無いけど、ヒンメルならきっと そう言ってくれると、心から思った。
じんわり顔を上げたと同時に、私は……『私』になってから、たぶん初めて大粒の涙を流しながら声を上げて わんわんと泣いた。
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「それじゃ、お先に……」
馬車に乗り込んだハイターは、そんな台詞を残して聖都に帰って行ったんだよ。最期になるだろうからって私達の顔を食い入る様に見てからね。私は頭をたっぷり撫でて貰ったし、ぎゅっと抱き締めて貰った。いろんなモノを貰いっぱなしになっちゃったんだよ。何かお返しがしたいって言ったら、いつか墓に酒を備えてくれって言われた。わかったんだよ。樽で用意するから楽しみにしててね。五十樽くらいはお墓に置いておくんだよ。肌にしみた水から作った故郷の酒とかね(何の話?)
ハイターの馬車が見えなくなっちゃった。ん?フリーレンも行くの?趣味の魔法収集を再開するんだよね。……それは序でなの?……そっか、人間を知る旅なんだね。すごく良いと思うよ。未知を知る楽しさと心地良さは最高だからね。それに関しては私が保証するんだよ!応援してるからね!!
……え?私も付いて行っていいの?確か、トラブルメーカーはお断りなんじゃなかったかな。……そこら辺にも心境の変化があったんだね。良いよ!私も自分を探す旅があるしね。一人より二人の方が絶対に楽しいんだよ!今度はいつまでこの世界に居られるかわからないけれど、それまでは私がパーティの前衛として頑張るからね。魔王さんでも傷付けられなかった無敵の身体に任せ
別世界のお姉ちゃんの口癖を交えて ふんす!とやる気を出した私に「程々にね」と言ってフリーレンは頭を撫でてくれた。アイゼンにも来て欲しかったけど、もうお爺ちゃんだから無理は出来ないんだって。少し寂しい。
ハイターと同じくアイゼンにも沢山撫でて、ぎゅ〜っと抱き締めて貰った後、見送られながら私とフリーレンは手を繋いで冒険旅行に出発したんだよ。私もフリーレンも長命さんだからね。すごく長くて楽しい旅になるといいなぁ。
─── 二人が王都を出発した頃、ヒンメルのお墓に供えられた二輪の白い花が静かに揺れたとか、揺れなかったとか……。