魔導書の解読を始めて二年が経った頃、自室でのんびりしていたハイターにフリーレンから結果が伝えられた。この魔導書には不老不死も延命の魔法も記されてなかったって……。
それを聞いたハイターは驚愕の表情を浮かべてたんだよ。でも、それは延命出来ない事実に対してじゃなくて、別の要因がありそうな雰囲気だった。
しばらく放心してたハイターだけど、フェルンの魔法の上達具合について恐る恐る尋ねた。どうして今そんな話を……と思いながらフリーレンの返事を待ってたけど、それは前の返事と変わってなかった。
───連れては行けないって……。
椅子に腰掛けて項垂れるハイターから真実を聞いたよ。……なるほど、上手く考えたね。難解な魔導書の解読の片手間でフリーレンに魔法の先生としてフェルンを教育してもらって、最終的に一人前に育て上げる。その後、ネタばらしをして私達の旅に同行させると。
生臭坊主……と、悪態を吐くフリーレンに乾笑いで返したハイターだけど、ちょっと落ち込んでるね。
この家にフェルンを一人残すのが心配なのかな。二年間この辺りは散策したけど、危ない魔物は居ないし、食料も豊富なんだよ。スローライフをする分には申し分無いと思うんだけど、ハイターには何か思う所があるのかもね。
「………あと一年待つよ。あの一番岩を撃ち抜けたら、フェルンを連れて行く」
ここでお世話になって二年。フェルンとも知らない間柄じゃなくなったもんね。フリーレンからの提案を受け入れて、ハイターは優しい笑顔を向けた。
連れて行くとは言ってるけど、心良くは思ってないんじゃないかな。私達の旅は危険と隣り合わせだからね。ここで平和に暮らしてる方がずっと安全だもん。森の中で穏やかに過ごした方がフェルンの為になるからね。もちろん、フェルンが残りの期間で目覚ましい成長をした時は話が変わってくるけれど。
まぁ、無駄な魔導書の解読もしなくてよくなったから、フェルンの勉強に費やせる時間も増えるし、一年もあれば余裕で一人前になるだろうね。今から三人での旅が楽しみなんだよ〜
この時の私はそんな楽観的な考えだった。でも、扉の隙間から私達の会話を盗み聞いていたフェルンが焦りを感じたのか、魔法の勉強を寝る間も惜しんで打ち込むようになったのは計算外だったかな。そういう時って空回りしちゃうものだよ。うまくいかなくなるのは当然だよね………
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「フェルン。もう止めよう」
雨風が吹き荒れる嵐の中、崖向こうの一番岩に魔法を撃ち続けていたフェルンに、フリーレンから終わりを告げる言葉が飛んだ。
ハイターとの約束から既に一年半が経ってる。フェルンは腕を上げたけど、それでもまだ一人前と認められるまでには及んでない。だからこそ、あと半年期限を引き延ばすことになった。でも、それが益々フェルンを焦らせる枷になっちゃったんだろうね。
現に条件として出された一番岩はまだ撃ち抜けてない。タイムリミットは、もう過ぎちゃってるんだよ。
「魔法使いじゃなくても生き方は沢山ある。街に出て働いても良いし、この森で暮らしても良い。焦らなくても、時間を掛けて生き方を探せば───」
「それでは ダメなのです!!!」
フリーレンが諭す中、闇雲に魔力の塊を飛ばしていたフェルンから聞いた事もない大声が響いた。おぉ、そんなに大きな声が出せたんだ。か細い喋り方のフェルンしか知らなかったから少し驚いたんだよ。
肩で荒く息をするフェルンが私達に振り返る。初めてあった時と比べて随分髪が伸びたね。それに背も高くなった。もう幼女とは呼べないかな。折角の幼女仲間だったのに、少し残念だね。将来は間違いなく美人になると分かる顔立ちなんだよ。
でも、今目を引くのはその顔色だね。……酷く青褪めてる。魔力切れ間近なんだと思う。足は生まれたての子鹿みたいに震えてるし、手にした魔法の杖が本来の使い道として地面に突き立てられてる。そうしてないと立ってられないんだと思う。
ふらふらのフェルンから語られたのは、ハイターとの出会い。捨てようとした命を拾われ、育まれ、今日まで生かされた恩に報いる。助けて良かったと、救って良かったんだと思ってもらえるように、フェルンは今日まで研鑽を積んできた。それをハイターに見届けて貰わなくちゃいけない。それが自分に出来る恩返しなんだって……。
でも、足りなかった。間に合わなかった。今のフェルンの力じゃ、一番岩に魔力を届かせるのに───あと一歩足りない。
………仕方がないね。ハイターからの頼みだし、このままお別れしたら後味が悪いもん。純白幼女が手を貸してあげるんだよ。
なんと言い聞かせようかと頭を捻るフリーレンの側を離れて、今にも倒れそうなフェルンに近寄る。苦しそうな息遣いのフェルンの背中に『左手』を添えて優しく摩ってあげた。……ありゃりゃ、あなたも私に諦めるよう促すつもりですか!って言われちゃった。相変わらず私のことが嫌いみたい。出会ってからずっとフレンドリーな関係を築こうと頑張ってたんだけどね。おはようからおやすみまで、なんならお風呂やトイレにも付いて行って親密度を上げようとしてたのに、おかしいね?
フェルンからの質問に否と答えながら、よしよしと背中を摩り続ける。………ねえ、どうかな?少し身体が楽になってきてない??
何のことかと顔を顰めたフェルンだけど、自分の体調の変化に気が付いてきたみたい。青褪めた顔色は健康的な肌色に戻って、ふらふらだった足取りもしっかりしたんだよ。
よしよし。じゃあ次は肝心の一番岩だね。ねぇ、もう一度その杖で岩を狙ってみてよ。それと、今度は私の合図で魔力弾を撃ってね?
急な体調の回復に戸惑ってたフェルンだけど、ニッコリと笑う私から何かを感じ取ったのか、再び崖向こうの大岩へと杖を構え直した。
……あ、フリーレンが私のやろうとしてる事に気が付いたみたい。小走りにこっちに走ってくる。止められる前にサクッと終わらせないと。
────── 撃って。
フェルンがしっかりと一番岩に狙いを定めたのを見計らって、彼女の背中を軽く押す。それを合図にして、杖は見たこともない極太な魔力の塊を放った。
別の世界で見たゴジラの熱戦に似た魔力砲は、崖向こうの一番岩……それどころか、崖そのものを大きく抉りながら消し飛ばした。
その余波は私達の背後に生える木々の葉を一斉に散らせ、側まで来ていたフリーレンごと後方へと吹き飛ばす。
「えっ!?……あッ……えぇぇ!!?」
予想外の大魔力放出に戸惑うフェルンも杖からの圧で身体が浮かびそうになってる。フェルンが飛ばされないよう、背後から彼女の腰に両手を回して私の体重も上乗せした。私の軽い身体じゃ大して力にならないかもだけど、このまま飛ばされる訳にはいかないからね!フェルン!根性の見せ所なんだよ〜!!
私の声掛けに頷いたフェルンは、気合いで杖が暴れ回らないように魔力が放出し終わるまで耐え続けた。その杖から伸びる青白い破壊の輝きは、斜め上に向けていたことから、近くの聖都からも確認出来たみたい。翌日、聖騎士が森へ大量投入される程の事件になったんだよ。迷惑掛けてごめんね〜
……長く続いた魔力砲は、やがてその放出を終えた。杖の先から魔法の残滓をぷすぷすと煙みたいに吹き出す状態になってる。……あ、杖の先端が刺股みたいに二つに割れちゃった。吐き出す魔力が強過ぎて杖が耐えられなかったみたいだね。責任を持って弁償するよ。お代は国の王様にでも付けといてね(ダメです)
目の前で起きた……いや、自分が起こした光景に惚けてたフェルンだけど、まるで糸が切れたみたいにうつ伏せにバタンきゅ〜しちゃった。ちょっと過剰に魔力を渡し過ぎたかな?外したら次はないと思ったから仕方がなかったんだよ。目を覚ましたら謝っておかないと。
倒れたフェルンに怪我が無いことを確認して、私は一番岩が鎮座していた崖向こうへと視線を向ける。件の一番岩は、原型を残さないどころか、崖そのものが大きく抉れてた。サイタマがジェノスにパンチを寸止めした背後で削れた崖みたい。誰のことかさっぱりだけど、それが近い見た目だと思うよ。
「……アトリ、後で説教ね」
うわぁ……すっかり忘れてた。フェルンのバカでか魔力の余波で すっ飛んだフリーレンが後ろでひっくり返ってる。表情が怖い怖いだよ。目がジトっとしてるもん。いつも通りの無表情なのに何故か怒ってるのがすごく伝わるんだよ。ヒンメル〜 助けて〜!
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「フリーレン様、アートリクス様、ありがとうございました。お陰で、ハイター様に恩を返せました……」
フェルンの感謝の言葉を聞きながら、瓶のコルクを ぽんっと抜いて、フリーレンがハイターのお墓に持参したお酒を注いでる。街外れの小さな墓地の一角。聖都の司教だった人のお墓にしては質素だと思ったけど、他でもないハイターからの頼みでこうなったみたい。あんまり仰々しいと誰もお墓参りに来てくれないだろうからって。
ハイターはフェルンのパーティ入りが決まってから暫くして天国に旅立った。心残りのフェルンがフリーレンの弟子(仮)となったことで安心したのかな。杖を使わなくても歩けるくらい元気だったのに、眠るようにして旅立ったんだよ。
……え?弟子(仮)ってどういうことかって?一番岩を撃ち抜いたのは私の助力もあったからね。まだ一人前としては認められてないからだよ。別に一人で撃ち抜くことは条件じゃなかったからね。ん?屁理屈だろうって?そうだよ〜(開き直り)
でも、旅を通して一人前にするってフリーレンは言ってた。フェルンは頭が良いからね。あと一年もしないうちには免許皆伝が貰えると思うんだよ〜
そうそう。一番岩を撃ち抜いた後から、フェルンが私に対する反応も変わったんだよ。それまでは私が近付くと逃げたり威嚇して来てたのに(猫かな?)最近は普通に接してくれるようになったの。
様付けは こそばゆいけど、まぁそのうち『アトリ』って呼び捨てにしてくれるんじゃないかな?その日を楽しみに待ってるんだよ〜
あ、フリーレンが私にもお酒を掛けてあげなさいって言ってる。わかったんだよ。約束してたもんね。肌に染みた水からは作ってないけど、とっておきの秘蔵酒を買ってきたからね!
「……あの、アートリクス様……。お酒の量が……」
ん?ハイターとの約束だからね!ちゃんと お酒は五十樽用意してあるんだよ。ほらほら、フェルン達も見てないで手伝って!私一人じゃ日が落ちても注ぎ終わらないんだよ〜
「え?そんなに沢山要求してたの?? 生臭坊主め……」
───ハイターの預かり知らぬ所で アトリの妄言が一人歩きしている中、嬉々として樽から柄杓に入ったお酒を振り撒くアトリに疑問を持ちながらも、フリーレンとフェルンは同様にして酒を注ぎ続けた。
その後、墓地の管理人が発狂しながら止めに入るまで酒撒き祭りは続いたとか……。
〜嘘か本当か雑談シリーズ〜
生真面目な弟子「フリーレン様。一番岩を撃ち抜いた時の異常な魔力は何だったのでしょうか?」
自堕落エルフ「あれはアトリの仕業だよ。あの子は内側に底知れない魔力を溜めてるからね。それを他者に譲渡出来るのがアトリの『力』なんだよ」
生真面目な弟子「それ程 膨大な魔力を持ってらっしゃったのですか。でも、私はアートリクス様が魔法を使った所を一度も見たことがありません。それに魔力も一切感じられませんが……」
自堕落エルフ「アトリは魔法が使えないんだ。魔法使いの適性が無いからね。魔力は無尽蔵に持ってるのに、それを自分では使えないんだよ。それと、あの子は魔力を完全に抑え込めるんだ。それも無意識のうちにね。私でも感知することは出来ないよ」
生真面目な弟子「……あれだけの魔力を秘めていながら魔法が使えないなんて。アートリクス様も、きっと残念に思ってるでしょうね」
自堕落エルフ「そうだね。魔法が使えないと知った時は落ち込んだらしいよ。でも、厳密に言うと一個だけ使える魔法があるんだ。魔法と言うよりは『呪い』に近いものだけどね」
生真面目な弟子「……呪い、ですか。どのようなものなんでしょう?」
自堕落エルフ「まぁ、そのうち分かると思うよ」
倫理観ぶっ飛び幼女「お〜〜い、二人とも〜〜!!そこで赤黒くて毒々しい蛇を見つけたから捕まえて来たよ〜〜!!」
自堕落&生真面目「 「元の場所に返してきなさい!!!」 」
アトリ(´・ω・`)ショボン……