幼女だよ。異世界を巡って自分探しをしてるよ   作:KDAL

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第?話 何気ない日常のワンシーンなんだよ。たまにはこんなお話も無いとね〜。てか、更新が遅すぎないかな!?本編も全然進んでな───ブツッ(通信が途絶する音)

 

 

 

ゴソゴソと、店の裏手から小気味のいい不器用な音が聞こえてくる。

まだ夜も明けきらぬ午前五時。アビドスの乾いた風が、トタンの隙間を抜けてヒューヒューと鳴く時刻だ。

 

柴関ラーメンの店主たる俺は、巨大な寸胴鍋の蓋を開け、沸き立つスープの様子を覗き込んだ。じっくりと時間をかけて煮込んだ豚骨と醤油の香りが、冷え切った厨房をいっぱいに満たしていく。アクを丁寧にすくい取った俺は、きゃっ!と言う小さな悲鳴を聞いて、裏口の方へ視線を向けた。

 

「あ、痛たた……またやっちゃったよぉ……」

 

案の定、入ってきたのは額をさすりながらへなへなと笑う、うちの住み込みアルバイトの娘だった。

名前は───ユメ。高校生にしては見事なプロポーションと裏腹に、驚くほどおっとりしていて、そして恐ろしいほどの『ドジっ子』だ。どうやら、今朝も物置の鴨居に頭をぶつけたらしい。

 

「おう、ユメ。怪我はねえか? 毎朝毎朝、よくそれだけ綺麗に頭をぶつけられるもんだな」

 

「えへへ、すいません大将。でも、この世界………じゃなくて、アビドスの朝の空気ってとっても気持ちよくて、つい上を見上げちゃって」

 

出たな。ユメの謎の言い淀み。たまに出る謎めいた発言だが、もう慣れた。所謂不思議ちゃんなんだろう。ユメは……。

 

彼女は てへっ、と人懐っこい笑顔を浮かべた。本来ならこんな所でバイトなんてしてないで、学校で勉強をしてないといけないんだろうが、その辺の細かい事情はあえて聞いちゃいない。ただ、行くあてのなさそうだったこの少女を、俺は飯を食わせる代わりに雇うことにした。それだけの話だ。

 

「よし、それじゃあ開店の準備だ。まずは店の前の砂払いから頼むぞ」

 

「はいっ! お任せください!」

 

くるりと元気よく回転しながら返事をして、ユメはホウキを手に取った。

 

その直後、「わわっ!?」という短い悲鳴と共に、彼女は足下のバケツに足を引っかけて派手に転んだ。ガシャーンと派手な音が店内に響き渡る。

 

「……ユメ、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫! 床の雑巾がけを同時にやったと思えば……」

 

痛む腰をさすりながら親指を立てる彼女に、俺は思わず深いため息をついた。だが、その顔は不思議と嫌な気はしていなかった。砂漠化が進み、人が減り続けるこの寂れた街で、彼女の明るさは貴重な灯火だったからだ。

 

 

 

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十一時。暖簾を掲げると同時に、数少ない常連の職人や、怪しげなヘルメットを被った連中がパラパラと店に入ってくる。

厨房の熱気は最高潮に達し、俺はひたすら麺を茹で、湯を切り、スープを注ぐ。

 

「柴大将! 三丁目の整備工場から、チャーシューメン三つと餃子の出前が入ったんだよ〜!」

 

固定電話で注文を受けたユメが声を張り上げて伝えてきた。

 

「おう、いつもの現場だろ? そろそろ掛かってくると思って上げておいたぞ。 アツアツのうちに運んでやってくれ」

 

「はいっ! 行ってきます!」

 

岡持ち(おかもち)にラーメンと餃子を素早く収め、ユメは元気よく店を飛び出していく。

普通の人間なら、この砂に足をとられるアビドスの道。そこを岡持ちを持って走れば、スープはこぼれ、麺は伸びちまうだろう。だが、ユメには『出前担当』として無類の才能があった。

 

店の外へ出たユメは、遠くの曲がり角に視線を定めると、すっと右手を前方に翳した。

彼女がそっと右手を握り込む。

 

───フッ。

 

空間がわずかに歪んだかと思うと、ユメの姿はその場から消え去り、次の瞬間には遥か先の路地の曲がり角へと『瞬間移動』していた。

 

彼女の持つ不思議な能力。右手を翳し、その手を握った場所へと一瞬で身体を転移させる力だ。これがあるからこそ、彼女の届ける出前は、アビドスで一番早くて熱いまま食べられる。

 

(……まあ、着地を失敗してよく電柱にぶつかってるがな)

 

遠くで「ふみゃッ!」と何かが激突する音と悲鳴が聞こえ、俺は苦笑しながら次の麺を茹で始めた。

 

 

 

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夕方になり、客足がひと段落した頃。

出前をすべて終えたユメが、案の定、膝をすりむきながら帰ってきた。

 

「ただいま〜、戻ったんだよ〜……。あうぅ、最後の着地で砂に足をとられちゃって、なんでこの体すぐに転ぶのかなぁ……。 あ!でも、ラーメンは一滴もこぼしてないよ!」

 

「おう、偉いぞ。ほら、冷やしとけ」

 

勝利(?)のVサインで戻ったユメに、俺は冷たいおしぼりを放り投げる。ユメはそれを嬉しそうに受け取ると、赤くなった膝に当てた。

 

「大将のラーメン、みんな美味しい美味しいって食べてくれたんだよ。私まで嬉しくなっちゃった!」

 

「そいつは良かった。お前が早く届けてくれるから、美味い状態で食えるんだ。感謝してるよ」

 

「えへへ……、大将に褒められた〜」

 

彼女はカウンターの丸椅子に腰掛け、ふにゃりと和むような笑みを浮かべる。

この街の未来は、決して明るいとは言えない。砂は日々街を侵食し、企業の影がちらつき、治安は悪化の一途を辿っている。それでも、こうして飯を美味いと言ってくれる客がいて、ドジを踏みながらも一生懸命に働いてくれる子がいる。それだけで、この暖簾を守る意味はある。

 

「よし、ユメ。少し早ぇが夜の部に入る前に賄いだ。何が食いたい?」

 

「えっ、いいの!? じゃあ……大将特製の醤油ラーメンで!」

 

「あいよ」と短く応え、俺は今日一番の気合を込めて麺を鍋に躍らせた。

 

湯気の向こう側で、ユメは嬉しくそうに割り箸をパチンと割って待っている。

 

アビドスのけたたましい風の音に負けないよう、俺は熱々の器をカウンターへと滑らせた……。

 

 

 




〜嘘か本当かシリーズ〜

ユメもどき「大将のラーメン美味し〜!」

ホルス「今日は珍しくチンピラに絡まれなかったなぁ……」

パクパクとラーメンを食べるユメもどきを遠くのビルの屋上で見守っていた『鷹の目』がいたとかいなかったとか。
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