第?話 ちょっと待って!大◯洋さんって私にとってはすごく特別な人なんだよ!そんな人の世界に放り込むなんて心の準備がぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!
「……今すぐ10億ドルを用意してください。用意できなければ爆弾起爆させます!」
テレビに映る銃を突き付けられてるキャスターさんが怯えながら犯行声明を読み上げるのを観て驚きながらもソフトクリームを食べる手を止めてるられないでいるのは誰でしょう。はい。純白幼女の私だよ!
街の大型テレビモニターの様子がおかしいと道行く人たちがざわざわして注目するもんだから、吊られて私も見上げてたんだけど、イタズラでもジャパニーズドッキリでもなく本当みたい。
目立つ白髪をポニテに纏めて、赤い目を少しでも隠せるように目深にツバの長い帽子を被っていた私は、預かってる自分のスマホをポッケから出すとタプタプと操作して電話を掛けた。
…………。……ダメだね。繋がらない。
電源を落としてるのか、それとも“落とされてる”のかは知らないけれど、今日あのテレビ局に行くって話だけは聞いてるから現場にいることはわかってるんだよ。
相棒のシンディとはいろいろあって別行動をしてて、今あの場にいるのはあの人と警察の佐久良主任だけのはずだよね。
ここは日本だけどあの人のことだからいつも通り銃は携帯してると思う。でも、それは心配しなくていい理由にはならないんだよ。
……ふむふむ。運悪くスタジオに居合わせた、というよりも出演するからこそ、この時を狙われた国のお偉い様はそんな大金は用意できないの一点張りだ。『他の世界』の同じ日本のトップはそれなりに頭が回る人もいたけど、この世界の総理さんはダメみたい。
反抗的な発言が祟ってか、犯人が時限爆弾を起動させたって言ってる。巨大モニターには爆弾の設置場所と同じ場所にカメラが設置されてるのか、ビルの壁面が映されてるね。
……あの場所は渋谷かな? この世界が他の日本と殆ど変わらないのはわかってるから、何となく察せられるよ。伊達に何度も日本(パラレルワールドだけど)に来てないからね!
ソフトクリームのコーンまで食べきった私は、移動の邪魔になるから帽子をソフトクリーム屋さんの机に置いた。後で取りに来るつもりだけど、無くなったならそれはそれで良いよね。今は緊急事態なんだもん!
あ、私が帽子を外した時点で何人かが私に気付いたみたい。目立つ白髪に赤目だし、LASTMANのバディとしてそれなりに有名だからね。
あ、撮影はやめてほしいかな? 後々面倒らしいから、そのスマホはポッケにしまってほしいんだよ〜
次第にあちこちから私に注目する人たちが増えだしたから、さっさとこの場から離れて現場に向かおうかな。預かってた最新型のインカムの起動ボタンを押しながらそれを耳に取り付けてると、案の定連絡が届いた。ごめんねシンディ。オヤツタイムだったからさ〜
インカムの向こうから切れの良いツッコミともお叱りとも取れるシンディの声が反響する。私のマイペースはいつものことだから、そろそろ慣れてほしいかも〜。シンディとは交換なんとかでアメリカで初めて知り合ってから2年くらい一緒だったけど、あの頃からこのノリは変わってないんだよ。
わかってる。テレビに映されてる時限爆弾の場所に向かえば良いんだよね? え?違うの?私はこのままテレビ局に行くの??
なるほど。機動力のある私は何かあってもすぐ動けるように現場に先行するんだね。了解!じゃあ、爆弾の方はシンディたちに任せるんだよ〜!
インカムの向こうの頼れるシンディに告げると、いつの間にか人集りに囲まれつつあった場所から空に向けて右手を伸ばす。
何人か察しの良い人たちはその場から数歩後退りして空間を作ってくれる。うん。どの世界もそうだったけど、日本の人たちってモラルがあるから大好きなんだよ!
じゃあ、私はあの人の───皆実さんのいるテレビ局に直行するね。場所はスマホの地図アプリで見てるから迷わずに行けるはずだよ!
青空に翳した手のひらを ぎゅっと握りしめると、そこにいた私の姿はパッとかき消えた。残されたのは| 空渡り〈瞬間移動〉でいなくなった私に驚きや感動の声を上げる人たち。それに、私が机に残した帽子だけだった……。
--------------------
皆実さーーん!無事で良かったよ〜!!
テレビ局の隣に面したビルの屋上で待機してた私は、インカムから聞こえる第一村人───皆実さんからの通信に誰よりも早く反応した。
スタジオ内の人質や犯人に協力していたアナウンサーさん(犯人に利用されてたらしいよ)まで含めて全員が逃げられたみたい。流石は皆実さんだね。何年も一緒にいるけど、あの人の運の良さとセンスはすっごいんだよ!
私も皆実さんだけが持ってる特別なスキルを学ぶ為に頑張ってるけど、未だにあの人には全然敵わないところがあるもん。暗闇の中でも音だけで相手の居場所を把握して制圧できちゃう能力とかすごくほしいもん! ……まぁ、単純な戦闘力なら私が上だけどね〜(謎の張り合い)
脱出した皆実さんの下に駆け付けると、まだやるべきことがあると言って、居合わせた警察、渡辺さんの肩を借りて地下の駐車場に向かい始めた。もちろん私も一緒に行くよ!パーティメンバーなんだもん。犯人を追わないといけないからね!
--------------------
……これってどんな状況かな? なんで渡辺さんが皆実さんの首にナイフを突き付けてるの!?
───地下駐車場に辿り着いた時、皆実さんが妙な音がすると言って別方向に進みだした。そこにはスタジオを占拠した犯人たちがいて、逃げるための車の準備をしてたんだよ。
この局からは一般人やスタッフは全員避難済みだと聞かされてたから、人質を取られる心配はない。ふふん、なら後は簡単。相手が誰であろうと、どんな武器を持っていても不死身の純白幼女である私の敵じゃないんだよ!皆実さんと渡辺さんはここに隠れてて。私がすぐに倒してくるからね!!
……と言って振り返った時には、皆実さんの首にナイフを突き付ける渡辺さんの構図が出来上がってたんだよ。
--------------------
……なるほど。渡辺さんも犯人グループの───私たちがアメリカで追ってたテロ組織の一員だったみたい。
皆実さんを人質に取られた私は、そのまま犯人グループの前に突き出されて抵抗も出来ないまま後ろ手にきつく縛られて、オマケに目隠しまでされちゃった。
ぐぬぬ。私の能力って縛られたり目隠しされると使えなくなるのを殆どの人に知られちゃってるんだよね。監視社会の悪いところなんだよ。
犯人グループ……渡辺さん達は、私と皆実さんの二人に懸賞金が掛けられてるのを知ってて、生きたまま差し出そうと目論んでるみたい。
皆実さんの場合は死体でも相当な額が支払われるそうだけど、そうなると私の“枷”が無くなって暴れ出すから、生かした状態で……って感じかな。
目が見えなくされた以上、皆実さんの安全が保証されないと何もできない。なんとか出来ないかと頭を捻ってると急な浮遊感を感じた。
たぶん、犯人の一人にお米様抱っこされたんだと思う。このまま車の中に放り込まれて拉致コースなのかなぁ……。
おっ!なんて考えてたら突発的な銃声!皆実さんが撃たれたとかじゃなさそう。だって犯人っぽい男の野太くて汚〜い悲鳴も聞こえたもん!!(いくら犯人でも失礼)
「皆実さん!!」
あの声はシンディだ!皆実さんの相棒が来てくれたんだよ! むぎゅッ!! 私を抱えた犯人に硬い地面に落とされた。痛くはないけど不快なんだってば!
途端に辺りで銃撃戦が繰り広げられ始める。たぶん駆け付けられたのはシンディだけ。でも、皆実さんにも銃が投げ渡されたみたい。
皆実さんの持つレーザーサイト付きの銃から伸びる赤い一筋の線。それが相手に伸びた時「SHOOT!!」と、シンディが合図を送って皆実さんが発砲。アメリカのFBIで見せてたいつものやり方で戦ってるんだと思う。
私もいつまでも地面に転がってるだけじゃ良いところがないね。腕は後ろ手に縛られたままだし、目隠しも外れてないけど、柔軟な体をよじよじと動かして立ち上がる。飛び交う銃弾を気にすることもなく、大きく息を吸い込んでシンディに向けて声を上げた。
───シンディ! 私にも指示を出してーっ!!
一瞬戸惑ったシンディだけど、すぐ私の今の姿と言葉で意味が読み取れたみたい。その場でゆっくりと回転すると、シンディの聞き慣れた声が届く。
「JUMP!!」
その声の瞬間、私は回転を止めて目の前に思い切り頭突きのポーズで飛び出した。腕は封じられたけど、足を自由にしたままだったのは迂闊だったね。地面に亀裂を刻みながら、私の体は大砲の弾みたいに犯人へと衝突した。
くぐもった嗚咽と一緒に壁に衝突する感覚。力加減は意識したから相手は死んでないと思う。肋は逝ったかも知れないけれど……。
倒れた相手を無視して、もたつきながらも再度起き上がる。次の相手に狙いを付けようとしたけど、時を同じくして車が走り去る音が聞こえた。分が悪いと思ったのか、無事だった犯人たちだけで逃げたみたい。責任から逃げるなーーっ!(誰かの全く似てない声真似)
私の名前を呼びながら駆け寄ってくる足音の方にヨタヨタと向かうと、すぐに腕の縄と目隠しが外された。 あ、シンディ!助けに来てくれてありがとう!私だけでもどうにか出来たと思うけど、シンディのお陰で早めに解放されたんだよ〜
あっけらかんと話す私に呆れながら怒るシンディと何故か笑顔の皆実さん。いつもの3人って感じで和むね〜(緊張感なし)
あ!それよりも、逃げた犯人の車の特徴とナンバーを覚えてる? 私が空渡りで追いかけて捕まえてくるんだよ〜!
やる気満々にぴょんぴょん跳ねる私だけど、皆実さんは優しく頭を撫でながら制した。なんでかな? 今ならまだ追い付けると思うよ?
疑問を飛ばす私に、皆実さんは町中で騒ぎを起こすと一般人が危ない。それに、渡辺さんの襟に発信器を取り付けてるって教えてくれた。相変わらず抜け目がないね。敢えて相手を泳がせた訳だ。なら、後は網を張って犯人を一網打尽にして試合終了ってことかな?
む?シンディに元恋人の佐久良主任から電話だ。想い人の安否が心配で掛けてきちゃったんだね?シンディは罪な男なんだよ〜
彼の横腹を突つくと煩わしそうな顔付きで怒られた。きゃーっ!シンディが恋人と あっちっちなんだよ〜!
割と本気で鬱陶しく思われたみたいだけど、弄るのが楽しいから忘れた頃にまたやっちゃおう(害悪幼女)
それで、佐久良主任からはなんて電話だったのかな? ……え?佐久良主任じゃなくて、犯人から? えぇ!?佐久良主任犯人に捕まったの!!?(今日一番の驚き)
--------------------
はい。佐久良主任は簡単に助けられたよ。場所の特定はさっき皆実さんが話してたように発信器の滞在場所から割り出した。
私たちが救出に来たタイミングで爆弾を起爆させて纏めてボカーンを狙ったみたいだけど、そんなことは百戦錬磨のLASTMANたちには通じないよ。
なんか固定カメラをいろいろと弄って犯人の裏をかいたみたい。……え?説明が下手くそだって?仕方がないでしょ?幼女には難しいことなんてわからないんだもん。
“眼下”で逃走しようとしていた犯人たちにタネ明かしをする皆実さんとシンディは気分が良さそう。コナンくんとか毎週これしてるけど、最高に楽しいらしいよ。私もいつかは推理とかして犯人をあっと言わせてみたいね(話の脱線)
案の定逆上した犯人たちが銃を取り出して皆実さんたちを狙ったけど、予め呼び集めていた警察が取り囲み出したらあっさりと降参した。これにて一件落着……かと思った矢先、犯人の一人が車に飛び乗った。
シンディたちが発砲するけど、運転席で屈みながらアクセルを踏む相手には当たらない。包囲したパトカーとパトカーの間にぶつかって無理矢理突破した相手は、そのまま大通りの方へと向かって走り出す。
ちらりと皆実さんに視線を向けると、半笑いで頷いた。これは“やっちゃう”許可を貰ったということで良いんだよね?
今回は私の十八番の出番はないかと思ったけど、最後には ちゃんと用意されてるなんて、この世界は案外気前が良いみたい。さすがは私!しっかりとラストを取りに行くんだよ〜!!
逃げる車の前方に右手を向けて握り込む。空で浮かびながら待機してた私は、逃走車の前に躍り出るように瞬間移動する。相手は冷静な判断が出来てないのか、ペダルを思い切り踏み込んで速度を上げた。あれれ?私が誰なのかを忘れちゃったのかな??
目前に迫る車に向けて、私は右手を振り被り、この世界ではあまり使うことのない必殺の一撃を声高々に繰り出した!
───不死身、パーーーっンチ!!!
直接当てるのではなく、車体と道路の間辺りを狙った渾身。それは衝撃波みたいになって車を軽く空へと舞い上げる。
空中で見事な放物線を描きながら私の頭上を越えた車は、そのまま道路に激突して走行を止めた。たぶん運転手は死んでないと思う。……たぶんね?
後から追いついてきた警察の人たちに気絶した状態の最後の犯人も捕まって、これで本当に一件落着!……と言いたいんだけど、どうもテロ組織に私たち3人が改めて懸賞首としてリストアップされるみたい。
シンディも言ったけど、そんなの望むところだよ! あなたたちの組織は私たちが必ず み〜んな捕まえるからね!!
この後、不死身パンチの威力が強過ぎて道路を陥没させたり、空を不用意に飛び過ぎて悪目立ちしたことの始末書をたくさん書かないといけなくなると知らない私は、皆実さんとシンディが見守る中ぴょんぴょんと跳ねてこれからの戦いに興奮し続けちゃうのだった……。