唐突だけど、私は風になってる。
言葉通り、風の速度で街道を走ってる。おーちゃんの背中に跨ってね。
山に向かう道中、おーちゃんが通せんぼするように前を塞ぐから、もしかしてと思って背中に乗ったらすごい速さなの。
私の瞬間移動ならすぐだけど、途中で人に出会う可能性もあったからね。これの方がいい。
……瞬間移動って呼び方は味気ないな。よし、もう少しだけオリジナリティのある言い回しに変えよう。そのうち良い名前が浮かべばいいなぁ〜
なんて考えてるうちに、たどり着いたよ山の麓。ご丁寧に看板が付いてる。読めないけどね(ダメじゃん)
結局誰とも遭遇しなかった。青いイノシシとか大きな蜂とは何度もすれ違ったけどね。
なんかみんな追ってきてたけど、おーちゃんが早いからすぐに諦めてた。
それにしても、この場所って人間が殆どいないのかな?おーちゃんはどう思う?
……あぁ、可愛い。コテンと首を傾げてる。可愛い成分が溢れてるよ!
撫で撫でしながら歩いてると、大きな洞窟が見つかった。入り口はすごく大きな口を開けて風を吸い込んでる。
私の長い白髪も風と一緒にそよそよと洞窟に流れていく。
よし。行ってみよう。何かこの先にある気がする。もしかすると、この辺りの人達は洞窟内に住んでるかも知れないしね…。
無いか。あんな立派な街があるのに態々洞窟なんて…
でも、街は透明なぷるんぷるんで殆ど行けなかったし、もしかするとそういう呪いとかに合ってる街だったのかな。すごく興味深いね。
鼻歌混じりに洞窟を進む。おーちゃんも警戒しながら一緒にどんどん奥へ進んで行く。
お!第一洞窟村人発見!…と、思ったけどあれは何かな?
二足歩行の…犬?
赤黒い肌に鋭い爪と牙、それに手には棍棒。頭には甲冑のヘルムを付けてる。
どう見ても人間じゃない。バケモノ?モンスター?キメラ?なんだろう…おもしろい!
目をキラキラさせてたらその輝きに気が付いたのか二足歩行の犬がこちらに走って来た。
目は真っ赤に光ってて敵意剥き出しだ。痛くは無いだろうけど、たぶん軽く吹っ飛ばされるよね?この場所だと私は非力な女の子みたいだし、ちゃんと避けないと……おッ!おーちゃんが行ったよ!?
おーちゃんすごい。スピードで翻弄してる。と思えば後ろから首元の地肌に喰らい付いた。良いぞおーちゃん。そのまま首をもぎり取っちゃえ!(バイオレンス)
え?…あ、ま、待って待って本当にもぎり取らなくても良いんだよ。言葉の綾だからって…あぁ、うわぁ…(ドン引き)
私の思考が届いたみたいに暴れるそいつの首をぐちゃぐちゃと もぎり取った。怖いよ おーちゃん。私が『私』になった日から怖いものなんてそんなに無かったけど、今のおーちゃんは怖いよ。見た目がグロテスクなんだよ〜
獲物を仕留めたおーちゃんは褒めて欲しそうにトテトテ歩いてくる。尻尾をプロペラみたいに回しながら絶命したそいつの首を咥えてだ。
ストップだよ おーちゃん。それはそこにペッして来なさい。私は欲しいなんて思ってないからね?ね!?
ん?おーちゃんの咥えてる頭と背後で頭部を失った体が光出した…なんだろう?
あ、細かい結晶になって消えたよ。爆殺四散だよ!
血溜まりも消えたし、初めから何も無かったみたいだ。なにこれ?生き物って死ぬとこんな感じになるんだっけ?
私の認識は相変わらず当てにならないし、わからないことがどんどん増えていくよ。
そういえば、昨日から視界の端の方に文字とか何かのメーターとかが映り込んでるけど、これはなんだろ?
ろじゃ達と居た時には無かった気がするけど、それに、おーちゃんと出会ってから一つメーターが増えた気も……。
うん。やめようやめよう。今は洞窟の奥へ進むことだけ考えた方がいいね。きっとその内わかる時が来る筈だよ。
今は洞窟の奥へレッツラゴーだよ!
「おーっ!」と掛け声を上げるとおーちゃんも一緒に遠吠えで合わせてくれた。嬉しい。
ーーーーーーーーー
最深部まで来たかな?豪華な見た目の大扉が出て来たよ。
途中幾つか分かれ道や行き止まりはあったけど、おーちゃんの鼻のお陰で迷わずたどり着いた。ありがとね、おーちゃん。帰ったら沢山もふもふしてあげるね。
さて、この扉の奥には宝箱かな?それとも次の迷宮が待ってるのか。そう思いながら扉を力一杯に押す。重たい扉だ。なかなか動かない。おーちゃんも頭でぐ〜っと押してくれてる。もうちょっとで私達が入れるだけの隙間が出来るよ。がんばろう!
やっと開いた僅かな隙間、そこをヨジヨジしながら中へと入る。
広い。なが〜い長方形の部屋は薄暗くて、部屋の天井を支える幾つもの支柱が目を引いた。
でも、恐怖の感情が抜け落ちてる私には関係ない。
未知への期待に胸を高ならせながら足裏のペタペタ音を響かせて進んで行くよ。
すると、まるで日が差したように部屋が七色に輝き出した。眩しいよ。
思わず目を瞑ったけど、次に瞼を開けた時、その先には大きな大きな二足歩行の犬がいた。
さっきの犬の超大型版だ。左手には円盤型の盾、右手には伐採力高そうな太い斧を持ってる。
すごい殺気。肌がビリビリする。でも、やっぱり怖くはないや。
私を見つめる大きな敵は深く息を吸い込むと、部屋全体に行き渡る咆哮を放った。
空気と床が振動してる。すごい、動けないよ。
あ、突進して来た。これは避けられないーーーーーー
ーーーーーーーーーえ?おーちゃんが横から私を吹っ飛ばした?
待って、その位置だと あの大きなやつの体当たりが当たっちゃうよ?
視界からおーちゃんが消えた。…違う。突進して来たそいつごと入り口の壁に激突したんだ。
壁とそいつの間には…おーちゃんが……。
壁は酷いクレーターとなって抉れてる。突進したそいつは全くの無傷なのに…壁だけは無惨にボロボロだ。
おーちゃんは?
おーちゃんはどこ?無事だよね?
……あれ?今アイツの後ろで何か弾けた。爆殺四散したよ?
視界から何かのメーターが一本消えた。ねぇ、これ何のメーターだったの?緑色だったメーターが一気に赤くなって消えたんだけど?
……。
…………うん。わかってる。
命のメーターだよね。わかったよ。今わかったよ。
溜め込んでた肺の空気を…はぁぁぁ〜と、吐き出す。
熱いね……、暑いね。厚いね。アツい…ねぇ?
何か知らないけど、斧を構えたよアイツ。
それで私に酷いことするつもりでしょ?エロ同人みたいに。
……また、私は訳のわからないことを。
あ、ほら、来たよ。アイツが迫って来た。
その大きな斧で私の首を刎ねようとしてる。ただ立ってる私には避けることは出来ない。
巨大な凶器はその大きさに見合わない速度で発光しながら私の首へと振り下ろされ、そこで止まった。
こいつが自分の意思で止めたんじゃ無い。私の首にぶつかる瞬間に止まったんだ。
止めたんだ、私が……黄金色に輝く左手で防いでね。
怯んでるところ悪いんだけど、この胸のモヤモヤを晴らさせてもらうね。
そのでっぷりと膨らんだ狙い易いお腹を差し出せ!
斧を軽く弾くと、暴風と共にそいつは大きく体勢を崩した。ほら、避けなくて良いの?何となくだけど、この左手は一撃必殺だと思うよ?……そう、避けないならこのままいくからね!!
黄金の手はガードした盾ごと豆腐のように腹へと食い込んだ。
苦しみに悶える声を撒き散らしながら暴れてる。
左手が刺さったままの私はブンブンと振り回されてるけど関係ない。
悪足掻きを無視して腕を更に奥へと突っ込み抉った。
その瞬間、命が潰えたのを感じた。こいつが絶命したと肌で感じたよ。
コイツの横に無数にあるメーターが一瞬で空になったし、間違いなく……終わったね。
次第にコイツの体がブレ始めて、大きな爆殺四散を迎えた。
支えを無くした私の体は宙に投げ出されて、そのまま地に伏せる。
ゆっくりと上体を起こすと、空中に目立つ文字の羅列とファンファーレが流された。
そこに綴られた言葉が《Congratulations!》と書かれていたと知るのは、もっとずっと後になる……。
もうすぐ四千人◯すK氏「…本物だ。私の偽りの世界に…、本物が現れた!あの少女は何だ?ウイルスやAIではない。もっと崇高で神聖な何かだ。直接会って確かめたい。だが、もしもそれで少女が気を悪くして去ってしまったら…不可侵が最善か?今の環境を気に入っているなら、余計な手出しはしない方がいいのか? 間も無くベータテストも始まる。多くのプレイヤーが集まった時、少女はどんな反応を?……見たい、集めたい。もっとあの少女のデータが欲しい!!!」
白「なんか悪寒を感じる…。おーちゃんの温もりが恋しいよ…グスン」