教師「可愛い教え子たちから失望されたいンゴねぇ……せや!」 作:羽虫の唄
(|)「ボ〜ンドルドルドル!(鳴き声) モンスターが破壊されて苦しむ相手の姿は素晴らしいドル!」
〝レガリア〟──とは。
掌程度の大きさのカードを媒介とし、モンスターを召喚・使役することで相手と競う、古来より伝わる決闘方法を指す言葉である。
「──僕のターン、ドロー! 手札から〝叫竜サクェンドラ〟と〝殲滅竜デスマッシャー〟、それから〝金剛甲獣ダイアロック〟、最後に〝回帰の不死鳥エターナルフレア〟を召喚!」
叫竜サクェンドラ |
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| 属性:火 種族:スケアリー・ドラゴン 分類: |
| ▪︎このモンスターが攻撃する時、相手の〈盾〉の効果を持ったモンスターを1体破壊しても良い。
▪︎Eブレイク このモンスターは、相手の |
殲滅竜デスマッシャー |
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| 属性:火 種族:スケアリー・ドラゴン/ジェノサイダー 分類:召喚 PP:6000 |
| ▪︎このモンスターは可能であれば必ず攻撃を行う。
▪︎攻撃後、このモンスターを破壊する。
▪︎Zブレイク このモンスターは、相手のLPを2枚ブレイクする。 |
金剛甲獣ダイアロック |
|---|
| 属性:水 種族:シェル・ウォーリアー/ハードロック・クォーツ 分類:召喚 PP:8000 |
| ▪︎〈盾〉 この効果を持つモンスターは相手モンスターの攻撃を防ぐことが出来る。
▪︎このモンスターは攻撃を行えない。
▪︎そのターン、このモンスターが相手モンスターとの戦闘で初めて勝った時、一度だけ行動状態を回復しても良い。 |
回帰の不死鳥エターナルフレア |
|---|
| 属性:火 種族:フェニックス/フレア・バード 分類:召喚 PP:1000 |
| ▪︎このモンスターが召喚された時、デッキから〝回帰の不死鳥エターナルフレア〟以外の、名前に〝不死鳥〟とあるカードを1枚手札に加えても良い。
▪︎このモンスターが破壊された時、墓地へ送る代わりにデッキへ戻す。その後、デッキをシャッフルする。 |
少年が声高らかに召喚を行い、彼の目前に、体の至る所に鋭い棘を生やした竜と、恐ろしい爪と牙を備えた竜、次いで光り輝く甲殻を背負った二足の獣、そして燃え盛る炎を纏った不死鳥が姿を現した。
「エターナルフレアの効果! デッキから、〝不死鳥の加護〟を手札に加え、そして発動!」
不死鳥の加護 |
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| 属性:火 分類: |
| ▪︎自身の、名前に〝不死鳥〟とあるモンスター、または種族に「フェニックス」とあるモンスターを1体指定し、破壊する。そうした場合、自身の、名前に〝不死鳥〟、または種族に「フェニックス」と無いモンスターを1体指定し、〈復活〉を付与する。
▪︎〈復活〉 この効果を持ったモンスターは次の自分のターンが開始するまでの間、「相手モンスターの効果」・「相手モンスターとの戦闘」・「相手の呪文によって」墓地に送られた時、1度だけバトルゾーンに出すことが出来る。(この時、そのモンスターが持つ「破壊された」・「墓地に送られた」・「バトルゾーンに出た」効果は発動しない) |
「エターナルフレアを破壊し、〈復活〉をダイアロックに付与! 続けて、エリアカード〝背水の陣〟を展開!」
背水の陣 |
|---|
| 属性:水 分類: |
| ▪︎自身のモンスターのPPを+1000する。
▪︎自身のLPが残り1の時、更に+5000する。
▪︎このカードが展開された時、自身の他のエリアカードを全て墓地に送る。 |
「僕のLPは現在1…。モンスターのPPに、合計+6000!」
ダイアロックの頭上で数度
仲間が倒れたこと。そして背面が全て水に沈み、後が無くなったことで、モンスターたちは覚悟を決めた表情となる。
『なっ、PP10000台が3体も?! 並のモンスターじゃ、突破も防御も出来ないぞ!!』
『しかも1体には厄介な〈復活〉があるし……』
『LPが1のこの状況を逆手に、〝背水の陣〟を使うとは。中々素晴らしいプレイングですね……』
試合の行末を見守っていた観客らが声を上げる。驚愕する者も居れば、少年のプレイングに感心を示す者など、反応は様々だ。
「──これで僕の手札は0。アタックフェイズへ!」
宣言により、フェイズが移行。召喚や呪文の発動が行えるコールフェイズが終了し、相手への攻撃等が可能となるアタックフェイズへ。
「サクェンドラで攻撃! 攻撃時の効果によって、〈盾〉を持つモンスターを1体破壊! LPを1枚ブレイクだ!」
雄叫びを上げた竜により、唯一召喚されていた相手のモンスターが、呆気なく倒される。
「──なんと、素晴らしい」
少年のプレイングを前に、そう言葉を漏らしたのは……なんと言うか、変わった出立ちをした、対戦相手の男性だった。
色調を統一された仮面と、重苦しそうなパワードスーツ。傍目から見たら、普通に不審者である。
男の呼び名は実に様々だ。
時には、既存の型に囚われず、様々なコンボを生み出し続けることから、──「新しきボン
或いは、カードを我が子同然に慈しみつつ、カードや構築されたデッキを保管しておく
若しくは、パラダイムシフトを引き起こし、それまでは忌避され、禁忌とされていた闇属性のカードたちに文字通りの夜明けをもたらしたことで──「黎明卿」と謳われ。
「素晴らしい、素晴らしいです。実に素晴らしい──」
文字通り、生ける伝説であるレガリストとの対戦。
白熱──なんて言葉では到底言い表すことの出来ない、一瞬の油断も許されない一進一退の攻防を繰り広げていた少年は、首筋を伝う汗を拭いながら思考を広げる。
(これで相手のLPは3から2に……! 次にデスマッシャーで攻撃をすれば、相手のLPは0。そうなれば……)
(──いける、勝てるッ!!)
「──〝
「っ!?」
その声を聞く迄は。
枢機へ還す光 |
|---|
| 属性:闇 分類:呪文/ |
| ▪︎相手のモンスターを1体指定し破壊する。 |
「〝殲滅竜デスマッシャー〟を指定、破壊します」
「くそっ、デスマッシャー! ……ターンエンド、です」
生命線としてライフゾーンに置かれつつ、ブレイクされた時にその真価を発揮する、アサシンカード。
その中でも至極単純……故に、強力無比な効果を持つ1枚が牙を向く。
(攻め切れなかった……くそっ!)
光線に貫かれ、墓地に送られるデスマッシャー。
後一歩のところで勝利への道筋が失われ、表情を歪み、崩すこととなる少年。
(読み間違えた! 万が一を凌ぐ為にダイアロックに〈復活〉を付与するんじゃなく、攻めることにだけ集中するべきだった……!!)
後悔したところで、既に後の祭り。
確かに、この1ターン相手の攻撃を凌ぐことさえ出来れば、まだ少年には希望はあるのだろうが……相対するこの男は、それを許さないから、伝説と謳われているのだ。
「私のターン、ドロー」
優しさを感じるその声は、しかし少年には自身の死を告げる死神の声に思えてならなかった。
「召喚。──〝
バトルゾーンに現れたのは、淡い色の満月──に見紛う、繭。
変化は直ぐに起きる。ぶりゅり、と。肌が粟立ちそうな不快な音に合わせ、繭から、粘液塗れの歪な形の蜘蛛が生み堕とされた。
「閉じろ」
無理矢理に人の形を取ろうとしているかの様な、悍ましい蜘蛛のモンスター。生誕と同時に、非対称な無数の目で少年の姿を捉えたファーカレスが、全身の至る所から黒い糸を射出し、ダイアロックたちを縛り上げる。
月に触れる者 |
|---|
| 属性:闇 種族:パラサイト/フォーリナー 分類:召喚 PP:1000 |
| ▪︎このモンスターが召喚によってバトルゾーンに出た時、〝月に触れる者〟を除いた全てのモンスターを〈封印〉状態にする。
▪︎〈封印〉 この状態になったモンスターは、次のターン終了まで行動出来ない。
▪︎Eブレイク このモンスターは、相手のLPを1枚ブレイクする。 |
「そんな。サクェンドラ、ダイアロック!」
完璧とは言えずとも、最善ではあった筈の布陣が、たった1枚のカードによって崩れ去る。
如何にPPが高かろうとも、〈復活〉を付与されていたとしても、行動を封じられてしまえば意味が無い。
「ファーカレスで攻撃。……これで貴方のLPは0、私の勝利ですね」
その宣告を皮切りに、割れんばかりの歓声が轟いた。
▼▼▼▼▼
『まさかあの状況から勝つだなんて!』
『あの盤面であのカードを引くとは、やはり彼は勝利の女神に愛されているんだな!』
『双方、素晴らしいプレイングだった! 少年も見事だったぞー!』
地を揺らすほどの賞賛の声。それらを一身に浴びつつ、対戦相手であった少年と幾つか言葉と握手を交わしてから、彼──ボンボルドは試合場を後にした。
そして。
「……どうしてこうなった?!」
ぐんにゃりと、誰もいない通路の真ん中にて。腰から下が軟体動物に変貌を遂げたとしか思えない様な勢いで崩れ落ちた。
「いや勝ててたじゃん。あの少年勝ててたじゃん! なんであそこであんなメタメタなカードを引いちゃうのぉ私!?」
その声に、彼が身に付けるカートリッジの内の1つから、先の勝敗を決したファーカレス君が「えっ。自分なんか悪い感じっすか」的な雰囲気を出す。
「何故、何故なんですか。──どうして私は、こうも『引き運』だけは良いのですか!!」
数多くの試合にその名を刻むだけに留まらず、歴史にその名を残しつつある伝説の男。
そんな彼には、ある秘密があった。
実は、ただただ運が強いだけで実力なんてものは皆無に等しいと言う──誰にも信じてもらえない秘密が。
「いやおかしいんですよ。ここぞとばかりにメタ能力を持ったカードだけ引いたり、わざとミスプレイしたらしたで、後々、それが伏線みたいになってしまうし……!」
実力が伴っていないにも関わらず、結果だけが次々と残っていってしまう。それが彼であった。
レガリアの申し子と地元で持て囃されている内は、まだ良かった。事態が一変したのは、どこからか凄腕のレガリストが居ると聞きつけた『学園』に招待され、深く考えることなく入学してしまったことだろう。
当時、最強とされていた学園の生徒会長とのバトルで勝っちゃったり、噂を聞いて決闘を申し込んで来た隣国の王子を軽くあしらってしまったり、なんか命を狙われていた異国のお姫様的少女を助けてしまったり、と。
あれよあれよと言う間に功績を残して行く内に、気付けば今では生ける伝説などと呼ばれる始末。
ただ運が良いだけなのに。
決して皆が称える様な存在では無いと本人は思っていても、その豪運故に結果としてそうなってしまう男は、いつしか心の内に1つの欲望を抱く様になる。
それは──、
「あぁ〜〜〜……! いやだぁ褒められたくない期待されたくない、失望されたいぃ〜…ッ!!」
インポスター症候群。或いは幸せ恐怖症。
時代や世界が異なれば、そう名前を付けられていたかもしれない、その精神状態は、結果として『人々に失望されたい』と言う、歪んだ願望を常に持つ抱くになってしまった。
そうして男が辿り着いたのは、
しかしながら、彼が望めば望むだけ、その願望は淡く儚く散っていくのが現実である。失望されようとすればするだけ株が上がり、度し難さを再現しようとすればするだけ慈悲深いと称される。
なにこれなんかの呪い?
「──先生ぇ〜! さっきの試合、凄かったねー!」
「これで通算2000連勝達成だぜ!」
「ふ……っ。それでこそ、我らが〝アルアローラ〟の教師と言うもの」
「……お見事」
そうこうしていると、通路の向こう側から、彼の教え子たちが駆け寄って来た。一様に、各々賞賛の声を発しながら。
「いえいえ、あれは運が良かっただけのこと(ガチ)。そう褒められるほどのことではないですよ」
半ばゲル状になるまで融解していたボンボルドであるが、教え子の声を聞いた途端、勢い良く立ち上がり姿勢を整える。
失望はされたいが、可愛い教え子たちの前では自然と格好をつけてしまうのは、教師としての悲しい
悔しい、でもしっかりしちゃう!
「またまた先生ったら」
「謙遜しすぎだっつーの。それに、運も実力の内ってな!」
「その通り。事実、貴方ほどとなれば勝利の女神が贔屓にしていたとしても、なんら不思議ではありません」
「……先生はすごい」
「おやおやおや」
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──本当はそんな凄い人間じゃないんです。やめて下さい、お願いだから失望してください!
……そんな心中が知られることはなく、今日もまた一つ、伝説の存在としての歩みを進める1人のレガリストが居た。
男の名前はボンボルド。
「黎明卿」と、人は呼ぶ。
需要があれば続く、かも。