ひとりちゃん係から脱出せよ   作:ギタ男

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ぼざろ全巻揃えたので初投稿です。


第1話

 俺がその不名誉な名誉職に就いたのは、今世での小学1年生でのことだった。

 

 通称『ひとりちゃん係』。

 

 いや、それは少し酷すぎやしないか……主に俺に対して。俺が転生者などではない、ただの小坊であったならば全力で泣いて拒否していたであろう苦行だぞ、それは。だって、ひとりちゃんってつまり、あの後藤ひとりをだぞ。学校にいる間ずっと構ってあげる係って、拷問だろ。あとついでに後藤ひとりに失礼すぎる。

 

 まあ、でも、俺がその役目をいやいやながらに引き受けたのはそれに終わりが設定されていると知っていたからだ。この世界は、きっと『ぼっち・ざ・ろっく!』って漫画の世界で、きっと俺の幼馴染は天才ギタリストで、そのうちバンドを組んで世に羽ばたいていく。それがわかっていたから、俺はお役御免になるその日まで『ひとりちゃん係』を甘んじて受け入れようと思ったのだ。

 

「後藤さ、バンドとか組まねぇの?」

 

 しかし、高校二年生になっても後藤ひとりは結束バンドに入らなかった。

 

 俺は努めて冷静に、ルートを外れないように行動に気を使って生きてきたつもりだった。万が一にも後藤がギターに興味を持たないなんてことがないようにしっかりと教育を施してきたし、小遣いの少ない後藤のためにギター雑誌を買ってやったり、CD買ってやったり、誕生日には高めのヘッドホンだって買ってやったし、俺は十全に努力した。努力して後藤にベストな環境を整え続けてきたのに。

 

 何故、お前は未だにバンド活動をしていない?

 

「あ、あびゃばッ」

 

 俺に詰め寄られた後藤は、グデリと軟体生物が如く床に溶け広がった。これは漫画的フィルターであって、現実に起きているわけではない。この世界に転生して以来、俺の網膜は調子がおかしいのだ。俺は眼前の冒涜的光景に目を背けながら、手さぐりに液状化した後藤を救い上げて粘土のようにこねて成型していく。あまりにも非現実的な行為で、俺だって未だにこれが現実であるとは認めていない。手に伝わるこのぬめぬめした感覚も、所詮は神経の異常……錯覚にすぎない。そうであってくれ。

 

「あ、すみませんすみませんまたご迷惑をおかけしてすみませんいつか自立して立派な人間になるのですみません」

 

「いや、質問に答えてよ」

 

 せっかく成型してやったというのにこのスライムときたら、謎の呪文をぶつぶつ呟いていて話にならん。

 

「あっあっ、あのですねそれにはマリアナ海溝よりも深いわけがありまして私と同レベルで競える人間がというか私のスピードについてこられる人間がいないというかすみません嘘ですホントは人に話しかけられなくってああなんで私はこんなに駄目なんだろうここまで御膳立てされてバンドの一つもやれない私はミジンコ以下……プランクトン後藤です私はプランクトン後藤……波に攫われ魚に食べられるだけのちっぽけな存在なんだ……きっと私はこれからもずっとこうなんだろうな、ずっとプランクトンから抜け出せずに一生を終えるんだ。あ、うぺ、きぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!

 

………あ、これから私のことはプランクトン後藤と呼んでください」

 

「……そう(諦め)」

 

 まあ、原因はわかっている。

 

 この世界は、喜多郁代が逃げなかった世界だ。

 間違えてベースを買わずに、ちゃんと練習して初心者レベルまで上達して、逃げずに自信を持ってSTARRYに赴いて、初心者レベルの演奏を披露して、そのまま結束バンドとして活動してしまっているのがこの世界だ。だから伊地知虹夏はギターを探さなかったし、後藤は結束バンドに入らなかった。実際に結束バンドに喜多が加入しているのは確認済みなので、恐らくそうだ。

 

 で、その諸悪の根源たるはきっとこの俺だ。

 

 バタフライエフェクトだ。

 俺という本来はそこに存在しなかった人間が存在することで、世界の位相がズレたのだ。ほんの些細な玉突き事故が、喜多郁代が逃げないという結果を生み出した……。

 

 何という現実だろうか!

 俺という存在そのものが、俺を『ひとりちゃん係』に縛り付けていたとは!

 

 その衝撃たる事実に思い至った日、俺は秘かに枕を濡らした。

 

 それから俺は頑張った。頑張って後藤に結束バンドに入ってもらうため……延いては俺が『ひとりちゃん係』から解放されるために、無理して路上ライブさせてみたり、STARRYに連れて行って結束バンドの演奏を聴かせてみたり(STARRYでバイトをさせようとしたら全力で拒否された)。それでも駄目そうだったので俺のバイト代を叩いて後藤の宅録音源をCDプレスして近所に配って歩いてみたり、本当にもう、出来る限りのことをやった。

 

 そんな俺の努力を見ていた後藤の父は、ぼそりと言った。

 

「なんか綿部くんって、ひとりのマネージャーみたいだね!」

 

 その刹那俺の脳裏に浮かんだのは、後藤のために仕事をとり続けて敏腕マネージャーと化し、果ては起業して自らのプロダクションを起こして俺以外の奴に『ひとりちゃん係』を譲り渡そうとするも、誰も後藤の面倒を見切れずに結局俺が社長兼任で一生後藤の面倒を見続ける羽目になるという妄想……そして難病にかかり余命いくばくもなくなった俺は、無駄に生命力の高い後藤(御年98)の行く末を憂いながら息絶えるのだった。アーメン。

 

ワルクナ…嫌ですよそんなの!」

 

「ひどい!」

 

 責任取って娘の面倒を見ろ!と騒ぐ後藤父を無視してその時は帰ったが、高校二年生となった今、その危機は着実に現実となろうとしていた。

 

「あっ、綿部くん廣井さんからメールです……」

 

 後藤が差し出してきたスマホには、ラインの通知画面が映る。差出人は廣井きくりだった。

 

 現在、後藤は流れの助っ人ギタリストとして活動していた。無理して他人とセッションさせまくってきた甲斐があったのかなかったのか……結局未だにバンド組めてないし。原作を知っている俺としては是非とも結束バンドに加入してもらえると安心するのだが……最近は後藤の面倒を見れるなら誰でもいいかなと思い始めている自分がいる。

 とはいえ原作キャラたる廣井きくりとの接点が持てていることは大きい。SICK HACKに加入させてやってくれないかと頼んだら「ひとりちゃんには他のバンドの方が合ってると思うなぁ~」などと秒速で拒否られはしたが、たまにメンバーに欠員が出た時に助っ人で呼ばれたりするようにはなった。全く飲んだくれのクセして危機管理能力だけは敏感に発揮しよってからに。

 

「あぁ、後藤また助っ人頼むってよ。謝礼は5000円だって」

 

「ゴッ!?」

 

 これは安すぎるとかではなくて、そんなにもらってもいいの!?の意だな。後藤にとって5000円は大金なのだ。まぁ、スーパーアルバイター綿部の異名を持つこの俺からすれば端金だが。相場は知らんが、後藤に5桁与えたらどうなるか目に見えているので、5000円以上は天引きして将来の貯金に回していたりするのが実情である。

 

 にやけ面を晒して皮算用を始めた後藤であるが、こちらとしてはそう喜んでもいられない。さっさと流れのギタリストなんざ卒業させて早いとこバンド活動させないと真面目に身が持たん。過労で死ぬ。死んでしまう。死ななくても後藤専属マネージャーになるのだけは勘弁。

 

 カルマなんだろ!?早く来てくれ結束バンド!

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