ゲイリー・ビアッジは動揺した。ごく普通の少年に心を読まれたかのように看破してきたことに。
表情自体は怪しまれず、完璧に演じていた。自分の異常性を覆い隠すように完璧だったはずだ。一体どこでぼろが出た?そもそもぼろが出るなんでありえない―――!!
「…………随分とおかしなことをおっしゃいますね」
「あぁ、自分でも変だとは思ったよ。まぁそもそも、杏理咲がこういう技術とかを公の場で平然と言う時点で技術者としては禁忌みてーなものさ」
怪しまれないように演じ続けるゲイリー・ビアッジと、彼を見つめる衛宮霧仁。
霧仁は飲みかけているお茶を一気に飲み、コップに中身を空にしてしゃべり続けた。
「……実のところ、俺は杏理咲みてーに戦術機兵とかモビルスーツがどうとか全くの専門外だ。よくつるむ連中の話には全くついていけねーよ。
俺はそんな世のため人のために貢献するとかじゃねぇ、ましてや俺みたいなモンは異端児みたいなもんよ。それもあってか、不似合いな二人………だなんて揶揄われたりしてらぁよ」
「………ではなぜ貴方は彼女とともに?」
「そんなの決まってらぁ――――――お前みてぇな不貞極まりない野郎をとっちめるためだ。
そもそもあんたは気づいていないと思うが―――――杏理咲の奴がしゃべってるとき、ずっと端末に視線を向けていたよな?」
「それは内容を把握するために―――――」
「それだけじゃねぇ……あんたは俺たちと会った時から今まで―――――俺に一度たりとも目線を向けていなかったろ」
「……………!!」
この少年がただ者ではないことは分かっていた。しかしこれは勘が鋭いという次元ではない。
そもそも仙波杏理咲の端末に視線を向けていたことは誰だって看破できるし、何ならいかようにもごまかすことはできる。だが視線を向けていないことを指摘されたのは完全に想定外だ。
ちゃんと衛宮霧仁にも顔を向けて会話したはず、彼にも話題を振るように投げかけたはず。視線だけを彼女に注目することなんて不自然さに拍車を―――――。
「……侍が二対一で勝負を仕掛けるとき、一人の方は必ず視線を正面に向ける。その方が相手二人の動きや所作を見ることができるからな。
確かにあんたは俺にも話を振ってきたし、質問を投げかけた―――――だがその体の向きは終始杏理咲の方に向いていた。俺に話しかけるときだけ、顔を向けた」
「……どういうことかわかりかね―――」
「何が言いたいかって?だったら簡潔に言ってやるよ。
あんたは俺を視界に映らないような態勢で、終始杏理咲の方に向かって話しかけていた。対等な立場で、正々堂々と、真っ向面から対峙するつもりなんて最初から無かったろ?
良好な関係はってのは、対等なコミュニケーションから………軍人であるお前でもわかるだろ」
鋭い目つきが刺さる――――これは、西洋の剣で斬られた感覚ではなく、日本刀で斬られたような感覚だった。
一瞬の隙を突くように……相手の間合いに踏み込み、そして斬る。
どうやらこの衛宮霧仁は………ただ勘のいいガキではなく、洞察力も優れているらしい。
――――ゲイリー・ビアッジの頬に、一つ雫が伝う。
「あいつをどうにかだまくらかして研究データ盗って、自分の手柄にするつもりだったか?いや……このご時世だ、杏理咲を適当に使い捨てるつもりだったろ」
霧仁は立ち上がり、杏理咲が持っていたタブレット端末の電源をオフにした。
「………あいつの技術はお前みてぇな悪代官に渡すつもりはねぇ。とっとと帰りな」
そう吐き捨てて立ち去って行った。その途中で席を外していた杏理咲と会話する様子が聞こえたが―――――今のゲイリー・ビアッジには耳に届く余地すらなかった。
否、その表情はゲイリー・ビアッジとしてではなく。
「……………戦争屋の顔に泥を塗りやがって…………あのガキ………!」
冷血で無慈悲な戦争屋――――アリー・アル・サーシェスがそこにあった。