「くっそ……サムライとかなんとか言いやがって……なんなんだあのガキは」
戦争屋としての表情になったアリー・アル・サーシェスは先ほどの赤毛の青年の言葉を思い出し、腹立たしさを表すように盛大に舌打ちした。
油断していた自分にも非はある。だが衛宮霧仁のすべてを見抜くようなまなざしは、まさしく日本刀そのもの。
洞察力に優れている―――と一括りに言えそうにもない直感の鋭さ。そして、明確な敵意と侮蔑のこもった怒りの感情を視線だけで訴えた気迫の強さ。
仙波杏理咲のような善悪のつかない子供ならある程度の嘘方便で信じ込ませ適当に扱うこともできる――だが衛宮霧仁のように
―――――あの二人は、今後関わらない方が得策だ。アリー・アル・サーシェスはそう判断した。
途端、妙な記憶が突然フラッシュバックしてきた。あの少年のまなざしに見覚えがあるということなのだろうか。
そもそも機械生命体とやらがこの地に侵略してきてから、やけにリアルな夢を見るようになった。それと同じく
―――――薄汚れた部屋、スーツの女、自分が与えた傷。
―――――女の強情な瞳、得も言われぬ醜い感情、破壊欲。
本能的に生きてるアリー・アル・サーシェスが次にする行動は――――――――
――――――そこでいつも目を覚ます。まるで飼い殺しにされているようなもどかしさと、存在しない記憶の在処に胸が締め付けられそうになる。
見覚えが全くない、と言ったら嘘になる。だが思い出しそうで思い出せない、霞がかかった記憶を思い出すにもなかなか――――――。
「なにかお悩みなのかなぁ……ゲイリー・ビアッジ少尉殿」
「…………………はい?」
カフェのテーブル席に悠々と腰をかけた男に話しかけられた。小柄な身丈に遭わないファーコートを羽織っていて、どこか蠱惑的だ。
今日は厄日だ―――――と言わんばかりに思わず苛立ちと不快感を露わにするところだった。
しかし彼は徹底してゲイリー・ビアッジとしての表皮を演じ続けた。
「どこかで知り合った方ですかな?私の知る限りでは面識がないようにも見えますが?」
そういった彼は意味深に感嘆を漏らし――――――耳を疑うことを言ってきた。
「じゃあお兄さんは、異世界の存在とかは信じる?」
「………………何を言っているのかわかりかねますが」
頭がおかしい奴だ。と言いたいところだが――――――嫌悪感に満ちているものの、頭の中にある霞がかった記憶が唸るように、呼応しているように反応する。
何か、何か覚えがある。
異世界という言葉を聞くのは、初めてではない気もする。
思い出しそうで思い出せないもどかしさに、青年は「あの女狐の名前は言いたくねぇけど………」と舌打ち交じりに呟く。
そして―――――その言葉は、アリー・アル・サーシェスの記憶を呼び起こした。
「鞘師遊麻」
「…………………―――――――――!!!」
するりとリボンがほどけるように霧が晴れる。そしてそれと同時にあの夢の正体も。
否、あれは夢ではなく――――――――確かに起きた現実だ。
薄汚れた部屋で、スーツの女を徹底的に痛めつけた。
女の強情な瞳に、得も言われぬ醜い感情と破壊欲が沸き起こり――――――彼女を凌辱した。
その女の名前は――――――――鞘師遊麻!
そして、鞘師遊麻はある人物を追ってきた――――――そう、その人物こそ目の前にいる青年!
「……………はっ、そういうことか――――――!!!!」
興奮でハイになった頭では、ゲイリー・ビアッジとしての表皮は剥がれた。そこにあるのは紛れもなく残虐非道の戦争屋としてのアリー・アル・サーシェスだけ。
「それで、何の用だ?」
仰ぎ反るように座った青年の眼は、サングラス越しでもわかるほど悪戯と悪意に満ちた視線だ。
そして、青年は言った。
「面白い戦争の話があるけど、どうする?」
その返事は、聞くまでもなかった。