一言で言い表すなら化け物だ。
SF映画で見るような、得体の知れないありふれた
モビルスーツにも匹敵する体躯に、硬質的な銀の機械ともとれるエイリアン。
それは、駆逐したモビルスーツの爆炎に照らされて炎の色を反射していた。
銀の体躯は打撃衝撃をものともしない硬質的なものでありながら、先端部分だけを硬質化させた伸縮自在の触腕を体のいたるところから繰り出してくる。
銀と水銀の両側面を併せ持った得体の知れないこの生命体は、既に十機中六機のモビルスーツを大破させ、パイロットを慈悲もなく虐殺の限りを尽くす。
―――――まるで、殺戮と蹂躙を尽くすためだけに生み出されたことの見せつけるだけの、殺し、殺戮、蹂躙―――――。
一方的な殺戮を目の当たりにしたグラハム・エーカーは、目を見開き閉口するしかなかった。邪知暴虐の破壊行為に絶望にも似た感情が沸き起こる。
彼は近接戦を得意とする―――――だが目の前の生命体は接近を一切許されない。
伸縮も追撃も自由自在の触腕を前に一定の距離を保つしか他がない。
一機、また一機と同胞は殺されていく。
断末魔を上げる暇など与えない、一方的な暴力。
嗚呼―――――なんと度し難い生き物か!
グラハム・エーカーは歯を食いしばり、目を凝らした。
どうにかあの生命体の弱点を探して叩かなければ、死んでいった同胞たちにも顔向けができない。
ここで討たれて死ぬなど―――――グラハム・エーカーが許さない!
ふと、ある一点だけ触腕が発生しない部位に気づいた。背中にある突起した部分が見える。そこだけが、先ほどから変化がない。
―――――絶対的な絶望の渦に、一つ光が見えた気がした。
機体の通信を使い、他のパイロットへと指示を送る。それに伴いモビルスーツは散開する。
―――――だが一機だけ、グラハムの予想から外れた行動を取る機体があった。
「ここで攻撃しなければどのみち全滅する………淘汰された仲間の為にあのインベーダーを討ち取る」
通信機から聞こえたのは、慟哭にも似た決意の叫びと共に、モビルスーツの武器を構えて牙突していく。
「あの、野郎……っ!!」
グラハムの言葉は、届く訳がなかった。
刹那――――空気が劈くような気配がした。
しかしそれは、自分が他のパイロットに指示を出したその時から始まっていたらしい。
前腕を地面に着けて背を空へと向けているうちに――――淡く、青白い光が生命体の背に灯る。
瞬きをする間に、光は強くなっていく。
「その光は―――――――全機、散開し…………っ!!!」
グラハム・エーカーが気づいた頃には―――――淘汰は始まっていた。
轟音とともに響いた、青白い電磁砲。
それはモビルスーツを巻き込み天へと昇り―――――――99%の絶望は、絶対的な絶望に変わり果てた。
勝てるという希望は、轟音とともに切り裂かれた。
元の二足起立の体勢に戻り、レンズのような無機質な瞳でモビルスーツを見据える生命体。
「は…………ははっ」
グラハムの思考を黒く塗りつぶしていく―――――――その絶対的な絶望の前に、笑うしかなかった。
しかし、あれを放置すれば米国に住まう一般市民達の安全を脅かされる。ユニオン所属のパイロットの名が廃る。
だが、どうやって戦えばいいのか――――この絶対的な絶望に対して。
―――――刹那、あのエイリアンにだけ踏みしめる地面を陥没させ身動きが取れなくなっている。
自然現象として考えられないほどの高重力がかかったのだろうか――――明らかな奇襲に態勢を崩し、辺りを見回している。
グラハム・エーカーは目を見開いた――絶望の中に突然現れた光に。
レーダーには反応がない。
あの生命体と同様なのか、はたまたモビルスーツ用のレーダーには引っかからないサイズなのか。
だとしてもユニオンの技術開発で極小範囲だけの重力を強くする装置など聞いたことがない。では一体何なのか――――そう考えあぐねているうちに生命体は突然鎖で拘束を受ける。
圧倒的密度で拘束されているせいで例の触腕も出せないのか、鎖を千切らんともがいている――――どういう仕組みか、鎖によって表皮が硬さを失っているようだ。
この好機を逃せばあとはない、攻撃を出来るうちに仕留めなければ――――!!
「何が起きているかはわからんが………総員!あのエイリアンから距離を取り攻撃を!
あの電磁波の攻撃の手は読めたっ!!」
背中が発光をし出し、口を開いた。その口に攻撃を仕掛ければ最悪暴発して自滅をするだろう。
迷わず口を狙って狙撃をするが電磁砲の方が速かった。グラハムに目掛けて砲撃が向かってくる――――――がその砲撃は一筋の雷によって打ち消された。
コクピット内にいてもわかる耳を劈くような轟音と閃光に目を瞑り、目を開いたときには、死闘は終わりを告げていた。
「………倒した……のか?」
あれだけ苦戦した怪物が、死ぬ時はこのように一瞬とは―――――なんと味気ないことか。
喜ぶべきか悔やむべきか……しかし今は姿のない協力者を探すべきだろうか。
思考がぐちゃぐちゃとまとまらない中、突然暗号通信が機体に届いた。
『処理は任せる。全ての未来はお前達次第、来るべき時まで待て』
「…………なんだと」
訳が分からない。
しかし探しても見えないその協力者が暗号通信を残したということは、もう既に去るということなのだろう。
謎に包まれたエイリアンとそれを倒した姿なき協力者。
そもそもあのエイリアンの正体は何だろうか。
「いいだろう……この借りは必ず返そうではないか…!その来るべき時とやらに――――――っ!」
快活な宣言が夜明け前の空にこだました。