聖剣を持つ男   作:ほろろぎ

5 / 5
最終話 ホルダー ─所持者─

「オリバー、ナナオ。ミリガン先輩の方は任せる」

 

 シュラはそれだけ言い残すと、自らの「技」が破壊した壁の穴へと歩いていく。

 その先には、神の眷属と呼ばれるほどの強大な力を持つ魔鳥──紅王鳥(ガルダ)が、彼を待ち受けていた。

 

「シュラ、待て!」

 

 一人でガルダの相手をしようなど、無謀という言葉でも言い足りない。

 オリバーは、友人がむざむざ命を捨てに死地へ(おもむ)こうとするのを制止した。

 

 しかし、シュラは彼の声にも振り返らず、足も止めない。

 かといってオリバーも後を追えない状況にある。

 

 今オリバーがナナオと共に対峙しているのは、上級生であるヴェラ=ミリガン。

 生物を石化させる石蛇(バジリスク)の魔眼を持つこの魔女こそ、彼らの仲間である少女──カティ=アールトを危険にさらしている張本人なのだ。

 

「オリバー、杖を構えられよ」

 

 少年の横で、ナナオは静かに言った。

 

「なに、シュラの事なら心配ござらん」

「しかし彼は魔法が……!」

「貴殿も見たでござろう。鳥の人を一蹴した、あの技を」

「…………」

「確かにシュラは魔法を使えぬようだが、拙者や貴殿には無いチカラ(・・・)を持っているでござろう。名前は確か……」

「『小宇宙(コスモ)』……と言ったか」

 

 ナナオはうなづくと、ニコリと一つ微笑浮かべ

 

「今は信じるでござるよ。シュラのこすも(・・・)とやらのが、あの鳥の人に打ち勝つのを」

「……そうだな。それしかない、か」

 

 オリバーも覚悟を決め、杖剣をミリガンへと構える。

 こちらはこちらで難敵だ。

 シュラの方も心配だが、まずは自分の身を考えるべきだろう。

 

「話はまとまったかい?」

 

 それは余裕の表れか。

 二人の会話が終わるのをのんびりと待っていた魔女の一声で、オリバーらの気が引き戻される。

 

「あの魔眼につかまるな!」

「承知いたした!」

 

 薄い笑みを張り付け待ち構えるミリガンへ、オリバーとナナオの即席コンビは戦いを挑んでいった。

 

 

 

 

 

 一方──壁の向こう側では、シュラとガルダが対峙したまま膠着(こうちゃく)していた。

 

 シュラの身を案じるオリバーと同じように、シュラの方でもまたオリバーらのことを心配していた。

 キンバリー魔法学校では、学年が一つ上がれば生徒間の力量は圧倒的に開きがあるものと聞く。

 

 一学年とはいえ上のミリガンなら、それもバジリスクの魔眼という特性を持つ彼女であれば、二人がかりでも容易には勝てないだろう。

 

(──と、いつまでも彼らのことを案じてもいられんな)

 

 シュラは意識を目の前の敵に集中させる。

 炎を操るとされるガルダは、それ(ゆえ)か赤い羽根を生やしていた。

 

 が、どうしたことだろう。

 全身を(おお)っているはずのその赤羽根は、大部分が抜け落ちたかのように消え去り、下にある屈強な肉体を大気へと(さら)していた。

 まるで、なんらかの意思を持った者の手によってむしり取られてしまったがごとき、無残な有様である。

 

(やったのはミリガン先輩。おそらくそれは、ガルダの力を制御するための方法なのだろうな……)

 

 シュラの推測は当たっていた。

 二年生のミリガンとはいえ、神鳥とも呼ばれるガルダを素の状態で支配下に置くのは不可能に近いだろう。

 故に彼女は、魔力の源でもある羽根を千切り取ることで鳥人の魔力を減退させていたのだった。

 

 ──しかし、である。

 

(さっきジャンピング・ストーンで奴とかち合った時、俺が攻撃を()らすことが出来たのは、奇跡に近かった)

 

 いくら力を大きく失しているとはいえ、そこは神の眷属。

 魔法も使えないシュラと比べれば、その力──未だ十全。

 

(俺にやれるのか? 一人であの魔鳥を?)

 

「……否、やらねばならない」

 

 友を、アテナ──女神と信じたカティを救うためにも、シュラはなんとしても勝たねばならなかった。

 

「FUOOOOO!!」

 

 その覚悟を感じ取ったのか、ガルダは一鳴きした直後、飛翔しシュラへと飛びかかって来た。

 

 再びジャンピング・ストーンで攻撃をかわすか?

 いや、初撃をかわせたのは幸運にすぎない。

 同じ手を、この神鳥は二度と食わないだろう。

 

「むおっ!」

 

 加速を乗せたガルダの足蹴りが飛ぶ。

 固く閉ざされた城の門を打ち破る破城槌をも凌駕(りょうが)する、固く重たい一撃を──シュラは両の腕で受け止めた(・・・・・)

 

(なんという、圧倒的『暴力』!)

 

 攻撃は止めたが、その衝撃はシュラの内腑へと伝わり、口の端から薄っすらと血がこぼれる。

 

 右脚での蹴りを止められたガルダ。

 羽根で宙へ浮かび上がると、次いで左足での蹴りを放った。

 

 シュラは右腕を盾にして身を守る。

 ならばとガルダは中空から、両足(・・)での連撃を見舞う。

 

(人外の闘法──!)

 

 両腕をクロスさせ攻撃を防ぐシュラと、そのガードを崩そうとラッシュを仕掛ける魔鳥。

 

(くっ、ガードの上からでも重い……ッ)

 

 このままでは、すぐにでも押し切られてしまう。

 シュラは()えて一撃を貰うことで吹っ飛ばされる。

 それによって敵との距離を一度開けることに成功した。

 

 再びガルダは空を駆け、迫ってくる。

 シュラはチラと、壁の向こう──工房で眠りに付かされているカティを見た。

 

(彼女の側で、生き物の命を奪うのは気が引けるが……)

 

 いささかの躊躇(ためら)い。

 されど、ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 

「なればこそ……今こそ輝け、我が」

 

 ── 聖 剣 抜 刃(エクスカリバー) ──

 

 光の線が走った。

 同時に……ガルダの胸が、大きく切り裂かれた。

 

「KUOA!?」

 

 鳥人の目が見開かれる。

 まるで人が驚いた時の表情のように、ガルダの顔は驚愕の色で染まっていた。

 

 自らの飛行速度を大きく上回る超・高速──否、光速によって行われた攻(光)撃。

 これこそシュラの持つ、小宇宙(コスモ)の真髄。

 

「なんだい、今のは……!?」

 

 その様子は、隣りの工房で戦いを繰り広げていたミリガンら三人も手を止めるものだった。

 

「おお……今のがシュラが言っていた手刀の切れ味にござるか……!」

 

 ナナオも感嘆の声を漏らす。

 少年の手の平は研ぎ澄まされた刃物のごとき切れ味であり、その身から繰り出された攻撃は、ただの技ではない。

 まさに──「業物(わざもの)」。

 

 胸部を通して背の翼まで切り落とされたガルダ。

 それを前に悠然(ゆうぜん)とたたずむシュラ。

 

 少年の体から発される黄金(ゴールド)闘気(オーラ)に、オリバーはシュラの持つ手刀が、伝説に名を刻む「エクスカリバー」と重なって見えていた。

 同時にオリバーの脳裏に、一つの単語が()ぎる。

 

 それは「魔剣」。

 この世界に六本のみが存在する、世界を支配するに匹敵する絶対の術理。

 

(だが、シュラの持つのは聖剣。彼こそが──この世界で唯一の『聖剣所持者(セイクリッドソード・ホルダー)』なのか)

 

 突如、工房の向こう側のホールが炎に包まれた。

 ガルダが行使した魔法によって起こされた火災である。

 

 鳥人はシュラのエクスカリバーによって羽根を切断され、すでに空を飛ぶことは出来なくなっていた。

 だがこの魔鳥には、まだ火と風の二つの精霊の加護が残されている。

 

 ホールを覆う炎は、シュラの呼吸を困難にさせた。

 窒息狙い……のような悠長な方法ではない。

 炎の熱は瞬く間に上昇し、少年の肉を服の上からジリジリと焼き始める。

 

「このままでは、こちらが不利か」

 

 シュラは右手を手刀の形で固定し、ガルダ目がけて駆けた。

 酸素が尽きる前に、次の一手で決着をつけようと。

 

 しかし、それはガルダによって誘導された結果に過ぎない。

 

「KUOOOOOOO!」

 

 魔鳥の咆哮に呼応するように、その周囲で不自然に風が巻き起こる。

 ガルダの起動した魔法によって起こされた風は、竜巻となって迫るシュラを巻き込んだ。

 

「むうッ!?」

 

 神鳥の羽ばたき(ガルーダフラップ)によって、シュラの体は風に吹かれる木の葉のように、軽々と打ち上げられる。

 竜巻はホールの天井を破壊して、シュラは迷宮の空へと突き飛ばされた。

 

 このままでは、なにもしなくとも転落死は確実。

 その上でガルダは、さらにダメ押しの一手を構えていた。

 

「KIA!!」

 

 鳥人の両手に炎が宿る。

 炎は逆巻く風に乗って勢いを増し、炎の渦となって落ちてくるシュラへと立ち昇っていく。

 

 風と火を同時使用する最大威力の魔法攻撃は、「インドラを滅ぼす」とも形容される『スレーンドラジット』の名がふさわしい攻撃であった。

 

「…………」

 

 勝利を確信してか、動かないはずのガルダのクチバシが、ニヤリと歪むようにシュラには見えた。

 炎の竜巻は少年の目と鼻の先まで迫っている。

 このままあとは、肉体が炭化し骨すら残らない高温で焼却されるだけなのか……。

 

 シュラは──右手に加えて、左手(・・)も手刀の形を作る。

 

『 双 剣 抜 刃(ダブルエクスカリバー) !!』

 

 聖剣は二振りあった。

 

 両腕によって振るわれた(つるぎ)の軌跡は、神鳥の起こした炎の竜巻を物理的に切り裂く。

 光速の手刀は自身を丸ごと飲み込まんとした竜巻を、ダイス状に細かくカットしていく。

 

 威力を失い、ちりぢりに霧散する火の欠片。

 その先でガルダは、呆気にとられたようにクチバシを大きく開けていた。

 

 ──なんなのだ、このモノは? これが本当に人間か?──

 

 そう言っているような呆然自失の鳥人の姿。

 シュラはその前に、受け身をとって着地に成功する。

 

 肉体での攻撃のみならず、二つの魔法の同時攻撃すらも防いだ人間に対して、ガルダは恐れにも似た感情を抱きつつあった。

 とどめを刺すなら隙を見せた今しかない。

 

 しかし、シュラは動かなかった。

 

「……ッ」

 

 スレーンドラジットを無理矢理切断した際に、代償として彼は両腕に酷いダメージを追ってしまったのだ。

 皮膚はただれ、筋肉は所々が黒く焼け()げ、おびただしく出血している。

 もはやこの戦闘で使い物にならないのは、誰の目にも明らかである。

 

 けれど、それでも尚──シュラの瞳から闘志は消えていない。

 

「GAAAAAAA!!」

 

 魔鳥が叫ぶ。

 未だ戦意の消えぬただ一人の少年の姿に、ガルダは恐怖し、なんとしてもその命を刈り取ろうと両腕のカギヅメを振るう。

 なりふり構わない神鳥のただの暴力は、それ故に純粋な破壊の力を持ってシュラへと迫る。

 

「──すまぬ」

 

 一言、シュラは敵対者に対し、謝罪の言葉を口にした。

 ガルダとシュラの体がすれ違う。

 

 ゴトリ、と音を立てて地に落ちたのは──ガルダの首であった。

 

 両腕が使えなくなったシュラは、両の足(・・・)でもって鳥人の頭部を切り落としたのである。

 

「俺のエクスカリバーは腕だけに宿るものではない。俺の体は両手、両足がエクスカリバーなのだ」

 

 手刀のみならず、少年は四肢のすべてに聖剣を宿していた。

 肉体と、そこに生じた小宇宙(コスモ)と呼ばれる未知の力によって、神の眷属であるガルダを(くだ)したシュラ。

 魔法が支配するこの世界において、誰にも無しえぬ、想像すらできぬ勝利。

 まさに、──埒外(らちがい)の男。

 

 

 

 

 

 シュラが工房に戻った時、オリバーとナナオの戦いも終わりを迎えていた所だった。

 倒れているのはヴェラ=ミリガン。

 死闘を制した二人は、疲労困憊といった表情で、それでもシュラの姿を見て笑顔を浮かべた。

 

「まさか、本当に一人でガルダを倒してしまうとはな」

 

 シュラの両腕に治癒魔法をかけながら、オリバーは呆れと感心が混じった様子で言った。

 

「お前たちこそ、よくあの魔眼持ちの上級生相手に勝てたものだな」

「オリバーのおかげでござるよ」

「いや、そんなことはない……」

 

 そのあとに続く言葉を、オリバーは口に出さなかった。

 勝利のカギは自分にではなくナナオにあった。

 

 シュラは知らないことだが、オリバーは確かに見た。

 ナナオが──この世に存在しない、「七つ目の魔剣」を使ったのを。

 

(恐らく彼女自身気づいていない、無意識の行動だろう)

 

 オリバーはそう見当をつけた。

 ナナオの魔剣がどのようなものか、全容は判明しないが──その切っ先は光を超える「超・光速度(タキオン)」へと達していたとみて間違いない。

 それはまさに、神の領域。

 

 聖剣を持つシュラと、魔剣を持つナナオ。

 二人の所持者(ホルダー)が、もし敵になるようなこと(・・・・・・・・・)があれば……オリバーには想像もしたくないことだった。

 

 

 

 

 

「君にはつらい知らせだが、今回の件はそういうことになる」

 

 迷宮を脱し、学内の医務室へ担ぎ込まれたカティを前に、オリバーは今回起きた事の顛末(てんまつ)を包み隠さず語った。

 同じ志を持ち、心を許した先輩からの手酷い裏切り。

 少女にはさぞやショックな出来事であろう。

 

「そっか……でも、今回はいい結果に終わったんだよね!」

 

 だが、周囲からの心配を余所に、カティは勝ち気にふるまう。

 

「あのトロールが殺されることは無くなったし、ミリガン先輩も悪気があった訳じゃない。ここはああいう人たちばっかりなんだから、むしろ皆私色に染め直してやろうじゃない!」

 

 ワッハッハ、と気丈にふるまう少女を見て、シュラとオリバーは

 

「強いな、彼女は」

「ああ。カティのような優しい人こそ、真に強い人間というんだろうな」

 

 仲間として、友人として、カティ=アールトという人間の(たくま)しさ、折れぬ心の強さを誇りに思うのだった。




心が強ぇんだ。

かなり唐突ですが、これが予定通りの最終回です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。