【第1章完】お嬢様はゴールキーパー!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第10話(4)横浜プレミアムのミーティングのようなもの

                ♢

 

 横浜市某所。ある一室に横浜プレミアムの面々が集まっていた。

 

「ふわ~あ~」

 

 本牧空が盛大にあくびをかます。

 

「おい、ミーティング中だぞ」

 

 空の隣に座っていた鶴見奈々子がギロりと睨む。

 

「だって退屈なんだもん~」

 

「退屈なんてことはない。大事なことだぜ」

 

「え~」

 

「え~じゃない、ミーティングで相手の情報を知り、味方の共通認識を深める……これによって、試合に勝つ確率は格段に上がる。故にこの時間はとても大切なんだぜ」

 

「鶴見……立派な心掛けだ」

 

 横浜プレミアムのキャプテン、八景島紅が深く頷く。

 

「そうだろ? なんてったって俺様だぜ?」

 

 奈々子がウインクする。

 

「筋トレしながらでなければ、もっと褒められた態度なのだがな……」

 

「え?」

 

「え?じゃない。なんだその右手に持っているものは……」

 

「ダンベルだよ」

 

「それは分かる。何故に今それが必要なのだ?」

 

「時間というものは有限だ。効率的に体を鍛えなければいけないからな」

 

 ダンベルを上下させながら奈々子が紅の問いに答える。

 

「ミーティングに集中してないじゃないか……」

 

「集中しているさ」

 

 奈々子が今度はエキスパンダ―を持ち出し、両手で引っ張り始める。

 

「言っているそばから違う器具を持ち出すな……!」

 

「話はちゃんと聞いている。問題ないぜ」

 

「問題あるだろう」

 

「俺様くらいになるとマルチタスクをこなすのは朝飯前のことだ」

 

「お腹すいたな~」

 

「本牧、ちょっとだけ我慢しろ。鶴見、やはり気になってしょうがないのだが……」

 

「気にしないで進めてくれ」

 

「そうは言ってもだな……」

 

「先に筋トレが終わってしまうぜ?」

 

「はあ、まあいい……話を続ける。先の対戦の映像を確認しよう」

 

 ため息をひとつついてから、紅が話を再開する。モニターに映像が表示される。

 

「……」

 

 画面に円が映る。

 

「……これが登戸円。ポジションはアラだな。守備的なポジショニングを取ることが多いが、攻撃面でも侮れない実力を持っている。他の面子に比べるとやや地味だが……」

 

「うちで言えば、お前みたいなもんか?」

 

 奈々子が斜め後ろに座る黒髪おかっぱ頭の大柄な女性に話を振る。

 

「………」

 

 おかっぱ頭は無言でいる。

 

「なんだよ、怒っているのか?」

 

「…………」

 

 おかっぱ頭は無言を貫く。

 

「なんとか言えよ」

 

「……………」

 

「亜美ちゃんは試合中とか練習中以外、話しているのを聞いたことないな~」

 

 空が笑う。紅がおかっぱ頭に対して語りかける。

 

都築亜美(つづきあみ)……ゴレイロとフィクソの双方を高いレベルでこなしてくれるお前は決して地味ではない。目立ちこそはしないが……」

 

「………………」

 

「いや、うんうんと頷いているが、都築よ。それは地味だってことだろうが……」

 

 奈々子の言葉を亜美は無視する。紅が再び口を開く。

 

「続けるぞ……これが等々力雛子。ポジションは彼女もアラだが、登戸に比べると、より攻撃的なポジションを取ることが多いな。得点力は案外高い」

 

「品のないヘアスタイルですわね……」

 

 全体的に青みがかった縦ロールの髪型の女性が紅茶を口にしながら呟く。

 

「まるで自分が上品かのような物言いだな……」

 

「鶴見さん、脳筋の貴女には理解出来ないでしょうね……」

 

「なんだと……?」

 

 奈々子がアームバーで大胸筋を鍛えながら、縦ロールを睨む。

 

青葉瑠璃子(あおばるりこ)……そういう言い方はやめろ。鶴見は筋トレをやめろ」

 

 紅が二人を注意する。瑠璃子と呼ばれた女性はティーカップを置いて呟く。

 

「このお二人はアラだということですが、アタクシに言わせれば攻守両面で中途半端ですわね。今度の試合ではアタクシが華麗で優雅なプレーを見せて差し上げます……」

 

「意気込みは頼もしいが、ミーティング中だ。ティータイムは後にしろ」

 

 紅が瑠璃子を再度注意する。

 

「この時間のティータイムはルーティンワ―クですから譲れませんわ」

 

「ワークじゃないだろう……まあいい、これが御幸真珠……ポジションはピヴォだな。やや粗削りだが、ここぞという時の決定力は侮れないぞ」

 

「またもや品のなさそうな方ですわね……」

 

「この場合、品の無い方が厄介だけどね……」

 

 瑠璃子の近くに座る白髪交じりのお団子頭が特徴的な女性が苦笑する。紅が尋ねる。

 

港北泉(こうほくいずみ)……お前ならどう対処する?」

 

「調子付かせると面倒だね。前を向かせないようにするのが良いんじゃないかな」

 

「……出来るか? Bチームの連中はなかなか手こずっていたが……」

 

「おいおい、キャプテン、ぼくを誰だと思っているの?」

 

 泉と呼ばれた女性が両手を広げる。

 

「団子三兄弟の生き別れた妹さん」

 

「実は団子が本体」

 

「瑠璃子と奈々子はちょっと黙っていてくれる?」

 

「お饅頭食べたい」

 

「空、人のほっぺを見てそういうこと言わないで。丸顔なの結構気にしているんだから」

 

 泉は空に突っ込みを入れる。

 

「まあ、なかなかチャーミングだと思うぞ……これが大師ヴィオラ……基本はアラだが、フィクソもこなすな。ゴレイロを務める時もある。このチームには不可欠な存在だな」

 

「澄ました顔してプレーしやがって……誰かさんとはまた違ったベクトルでムカつくな」

 

 限りなく丸刈りに近い短い赤髪が印象的な女性が呟く。

 

「あら……」

 

 瑠璃子が赤髪の女性に視線を向ける。

 

「なんだ? 気に障ったか?」

 

「いいえ、単細胞な貴女がベクトルという言葉をご存知なのが驚きで……」

 

「ば、馬鹿にすんな!」

 

「落ち着け、三ツ沢(みつざわ)カンナ……冷静さを欠くと、この大師の思うつぼだぞ」

 

 紅が声をかける。カンナと呼ばれた女性が自らの頭を撫でながら応える。

 

「こういう堅実そうなやつこそ、突っつくと意外と脆いんだよ。おれには分かる」

 

「ふっ、弾丸小僧のお手並み拝見だな」

 

「おい筋トレ馬鹿、誰が小僧だ……」

 

 カンナが奈々子を睨む。泉が口を開く。

 

「砲弾少女の方が良いんじゃないの?」

 

「黙れ温泉饅頭」

 

「お、温泉饅頭って!」

 

 泉が頬を膨らませる。

 

「泉、落ち着け……次はフィクソの百合ヶ丘恋。知っている者も多いと思うが、このチームにとってまぎれもない大黒柱だ。『鋼鉄の貴婦人』、『川崎の鉄壁』、『微笑みの将軍』……と二つ名も数多い」

 

「ふん、相変わらず生意気そうですわね……」

 

 瑠璃子が目を細める。

 

「なに、二つ名でフットサルをするわけじゃないだろう……」

 

 奈々子がレッグプレスで内転筋を鍛えながら呟く。

 

「いいことを言うな、鶴見。願わくば筋トレを止めて欲しいところだが……」

 

 紅が目を細める。奈々子が首を振る。

 

「鉄壁を崩すには必要なことだぜ……」

 

「この試合では結構抑えられちまっているな? 大丈夫か?」

 

 カンナが笑みを浮かべながら、奈々子に語りかける。

 

「……同じ轍は踏まねえよ」

 

「へえ、そりゃあ楽しみだ」

 

「……次はこのプレイヤーだな、ピヴォの鷺沼魅蘭……ドリブルが厄介だ」

 

「なかなか面白そうなドリブルをするな、大丈夫かよ、キャプテン?」

 

 カンナが紅に尋ねる。

 

「前回の対戦である程度の傾向は掴めた。それに、優れたドリブラーは誰かさんの相手ですっかり慣れているからな……」

 

「おっ? 嬉しいことを言ってくれるじゃないの?」

 

「リップサービスを真に受けるなんて、心底おめでたいですわね……」

 

「あんだと?」

 

 カンナが瑠璃子を睨む。紅が注意する。

 

「やめろ……最後はゴレイロの溝ノ口最愛……フットサル歴はまだ半年にも満たないそうだが、優れたプレーを見せている。このままだと、近い内に我々にとって大きな壁になり得るだろう……そこでだ、本牧……」

 

「完膚なきまでに叩き潰せってことでしょ~?」

 

 空が頬杖を突きながら応える。

 

「そうだ、分かっているならいい……」

 

 紅が笑みを浮かべる。亜美がボソッと呟く。

 

「映像が終わった……」

 

「ミーティングは以上だ。川崎に乗り込み、川崎ステラのやつらを再び叩きのめす! その為には……絶対に集合場所だけは間違えるなよ! いいな!」

 

 紅の声が部屋中に響く。

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