【第1章完】お嬢様はゴールキーパー!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第12話(1)鉄壁に生じた隙

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「くっ、同点に追いつかれてしまったわね……せっかく2度もリードしたのに」

 

 ハーフタイム、ベンチに下がってきた雛子が呟く。

 

「雛子ちゃん、ここは逆に考えるようにしましょう」

 

「逆に?」

 

 恋の言葉に雛子は首を傾げる。

 

「そう、同点で凌いだ……ってね♪」

 

「そ、そういう考え方もあるかもしれないけれど……」

 

「……後半はどうします?」

 

 ヴィオラが恋に尋ねる。恋が首を傾げる。

 

「どうしますって?」

 

「いや、例えばメンバー交代とか……」

 

「う~ん……特に代えなくても良いんじゃないの?」

 

「い、良いのですか?」

 

「うん」

 

 恋が首を縦に振る。

 

「メンバーを代えることによって、ゲームの流れを変えることが出来る可能性もあるかとは思うのですが……」

 

「このハーフタイムを挟むことによって、ゲームの流れはある程度は変わると思うわ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ええ、多分」

 

「た、多分って……希望的観測じゃないですか……」

 

 ヴィオラが戸惑う。

 

「もし変わらないようだったら……」

 

「ようだったら?」

 

「わたしが変えるわ。多少強引にでもね」

 

「!」

 

「それでどうかしら?」

 

 恋が微笑みを浮かべながら問う。

 

「……自信があるのですか?」

 

「むしろ自信しかないけれど?」

 

「……まあ、それで行きましょうか……」

 

 ヴィオラが頷く。

 

「ワ、ワタクシの出番はまだですの⁉」

 

「魅蘭ちゃんは切り札だからね……ここっていう勝負所で投入するわ」

 

 恋が魅蘭に対して、微笑みながらウインクする。

 

「……ふむ、前半の内に同点に追いついたのは良かったな……欲を言えば、逆転したかったところではあるがな……」

 

 横浜プレミアムのベンチでコーチが腕組みをしながら呟く。

 

「あともう一歩の所で崩しきれませんでした……」

 

 ベンチに腰かけた紅が口を開く。

 

「そうだな。ただ、三ツ沢のドリブルは実に効果的だった……」

 

「ふふん!」

 

 コーチの言葉にカンナが鼻の下をこれでもかと擦りながら胸を張る。

 

「あの流れでもう一点取れないというところが、なんとも詰めが甘いですわね……」

 

「ああん⁉」

 

 瑠璃子の呟きにカンナが反応して、キッと睨む。

 

「やめろ、二人とも……!」

 

 紅が瑠璃子とカンナを注意する。

 

「このハーフタイムで向こうも対応してくるはずですわ。何か手を打っては?」

 

 瑠璃子がコーチに提案する。奈々子が苦笑する。

 

「おいおい、指揮官気取りかよ……」

 

「脳筋さんは黙っていてくださいますか?」

 

「あんだと⁉」

 

「だからやめろ……!」

 

 紅が今度は瑠璃子と奈々子を注意する。

 

「確かに……対応される前に先手を打つのもアリだな……」

 

 コーチが頷く。紅が尋ねる。

 

「それでは……?」

 

「ああ、後半の頭から本牧を投入する。いいな?」

 

「は~い」

 

 空が片手を挙げて応える。

 

「誰と交代ですか?」

 

「都築と交代だ」

 

 紅の問いにコーチが答える。

 

「うん? ってことは……?」

 

「ああ、鶴見、お前がゴレイロだ」

 

 首を傾げる奈々子にコーチが告げる。

 

「まあ、しゃあないか……」

 

 奈々子がユニフォームをゴレイロ用のものに着替える。

 

「勝ち越して、さらに点差をつけろ。後半の序盤が勝負だ、気合を入れていけ!」

 

 コーチの檄に対して横浜プレミアムのメンバーが力強く頷く。

 

「ピィー!」

 

 後半開始のホイッスルが鳴る。川崎ステラのキックオフである。川崎ステラがまずは自陣で落ち着いてボールを回していく。

 

「おらあ、行けえ!」

 

「ほ~い」

 

 カンナの声に応じ、交代で入ったばかりの空が相手にプレッシャーをかけていく。

 

「あっ⁉」

 

「よしっ!」

 

「し、しまった!」

 

 空の圧力に押されて、雛子がトラップミスをして、ボールがこぼれたところを空が拾う。

 

「よっしゃ! よこせ!」

 

「ほいさ!」

 

 空がすかさずカンナにボールを預ける。

 

「⁉ 中央に⁉」

 

 ヴィオラが驚く。前半はサイドライン際でボールを受けていたカンナがピッチの中央でボールを受けたからである。カンナが笑う。

 

「へへっ、決めつけはよくないぜ!」

 

「真珠さん!」

 

 ヴィオラが真珠に声をかける。

 

「させるか!」

 

「遅えよ!」

 

「ちっ⁉」

 

 近くにいた真珠が体を寄せたが、カンナにあっさりとかわされる。

 

「もらった!」

 

「そうは問屋が卸さない~♪」

 

「なっ⁉」

 

 シュート体勢に入ろうとしたカンナから恋が巧みにボールを奪取する。こぼれたボールはサイドラインを割る。

 

「ふう……」

 

「ちっ……」

 

「大丈夫?」

 

 恋が体勢を崩して躓いたカンナに対し手を差し伸べる。

 

「~~ご心配なく!」

 

 カンナがそれを無視してバッと立ち上がる。

 

「あらら……」

 

 恋が苦笑する。

 

「……百合ヶ丘恋、中央突破にも即座に対応してきましたわね……」

 

 瑠璃子が忌々し気に呟く。

 

「お嬢~ボール頂戴~」

 

 空が呑気な声色でボールをキープする瑠璃子に向かって手を振る。

 

「い、今ひとつ緊張感がありませんわね……!」

 

 瑠璃子が少しズッコケてしまう。空が促す。

 

「早く早く~」

 

「わ、分かりましたわ!」

 

 瑠璃子が鋭いパスを空に通す。

 

「ナイス~♪」

 

「まあ、変に小細工するよりは力で押した方が良いかもしれませんわね……」

 

 瑠璃子が自分に言い聞かせるように呟く。ヴィオラが声をかける。

 

「雛子さん! ここは二人で行きますよ!」

 

「ええっ!」

 

 ヴィオラと雛子が空に対して体を寄せる。

 

「おっとっと~」

 

「くっ!」

 

「と、取れない!」

 

 空の巧みなボールキープにより、ヴィオラと雛子はボールを奪うことが出来ない。

 

「と、とにかく前を向かせなければ!」

 

「オ、オッケー!」

 

「よっと……」

 

「むっ⁉」

 

「なっ⁉」

 

 空が二人を背負っているにも関わらず、強引に前を向こうとする。対応するヴィオラと雛子が揃って戸惑う。

 

「な、なんてパワー⁉」

 

「マ、マズい!」

 

「ふふん~」

 

「あらよっと♪」

 

「!」

 

 恋が空からボールを上手く奪ってみせる。

 

「柔よく剛を制すってね~♪」

 

 恋がボールをすかさず真珠へと繋ぐ。

 

「あ、あっさりと取られちゃったな……」

 

 空が後頭部をポリポリと掻く。

 

「よっしゃあ!」

 

「ふん……!」

 

「うおっ⁉」

 

 真珠から瑠璃子がボールを奪う。瑠璃子がそのままボールを持って持ち上がる。

 

「……スピードやパワーが駄目ならばこれで!」

 

 瑠璃子がサイドラインにポジションを取ったカンナにパスを出して、前方に空いたスペースにすかさず走り込む。意図を汲み取ったカンナが瑠璃子へリターンパスを即座に返す。

 

「そらっ!」

 

「上出来!」

 

「ひょいっと♪」

 

「‼」

 

 瑠璃子とカンナのワンツーパスを恋がカットし、ボールが川崎ステラ陣内から横浜プレミアム陣内に転がる。恋が額の汗を拭う。

 

「ふう……」

 

「くっ、コンビネーションにも反応するとは……」

 

 瑠璃子が唇を噛む。

 

「……三ツ沢、積極的に仕掛けろ!」

 

 紅がボールをサイドライン際のカンナに渡す。

 

「よしっ! ……むっ⁉」

 

「……」

 

 カンナの前にヴィオラが絶妙な間合いで立つ。カンナがドリブルを一瞬躊躇ってしまう。

 

「こちらに戻して!」

 

「ちいっ!」

 

 カンナが後方に回った瑠璃子にボールを下げる。

 

「さて……」

 

「青葉! ボールをくれ!」

 

 紅がパスを要求しながら上がってくる。瑠璃子がそれを見て横パスを出す。しかし、パスの勢いがいまいち弱い。それを見た恋がパスカットしようと紅の前に立つ。

 

「もら~い♪」

 

「うおりゃあ!」

 

「⁉」

 

 そこに自陣のゴールマウスから猛然と駆け上がってきた奈々子が豪快なシュートを放つ。ボールは強烈な弾道を描き、ゴールネットを激しく揺らす。奈々子がガッツポーズを取る。

 

「どうだ! 見たか!」

 

「八景島ちゃんは囮だったのね……まんまと釣られちゃったわ……」

 

 恋が首を左右に振る。これでスコアは2対3。横浜プレミアムが逆転した。

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