「…機体はもう限界だが、まあ戦い抜けた以上文句は言えないか」
『コーラルを…動力に使うなんて…』
ループザループは連戦に次ぐ連戦で大きな損害を受けており、突如現れたC兵器との戦闘で遂に膝をついた。ドーザーの拠点というのは碌なものでは無い、巨大な自走式溶鉱炉なんてものが存在しているとは思わなかった。
「死んだ回数が二桁に収まっただけマシか、全く滅茶苦茶だ」
機体ごとスクラップにされて溶かされるのはごめん被る、半壊した機体でアサルトアーマーを放ち焼け死んだ方がマシというのも酷い話だが。
「にしてもこの辺りには使えそうな移動手段は無かったな、カーゴランチャーは衛星砲の妨害が…」
ACやMTを投入するのには余りにもリスクが高い、やはり名の通り物資輸送に使うのが関の山だろう。やはり別ルートの方が確実だと思ったが、傭兵の機体はコンテナの中に入り込んでいった。
「は?」
『アンタは乗らないのかい?』
「何を言っている、第一こんな状態の機体で乗れるかッ!」
『あのビジターは乗るみたいだけどね。どこで嗅ぎつけたのかは知らないが、流石はウォルターの猟犬ってところか』
「狂犬の間違いだ、見境なしに依頼を受けやがる」
何処からか電力が供給され、射出用のレールが向きを変える。奴らは本気で打ち出すつもりだ、正気とは思えない有様に彼は青ざめた。
「死ぬ気かーッ!高度が少しでも上にズレれば撃ち落とされるぞぉーー!」
『もう打ち出すよ、アンタは黙ってな』
猟犬は星になった。
後から分かった話だが、その後氷原に展開していたアーキバスの調査部隊を殴り付けに行ったらしい。生きていると分かって複雑な気分になったのは言うまでもない。
ー
ーー
ーーー
「寒いッ!」
「ヘリの格納庫じゃあ無理ないな、ACのジェネレータであったまりゃいい」
「ブースターで暖を取ってもいいか?」
「外装に穴開けたいのかお前は」
氷原での作戦行動は今までとは違ったキツさがある、強烈な寒さにやられながらシナノはひとりごちた。アーキバスとベイラムの調査部隊は既に進展を得ているらしく、最近はあるとかないとか言われている地下空洞がちょっとした噂になっている。
「…緊急連絡だ!高度落とすぞ!」
「了解だ」
司令部からの連絡は非常に簡潔で恐ろしいものだった、惑星封鎖機構が動いたのだ。その勢力と技術力は非常に強力で、今まで好き放題やって来たツケが回って来たと思う他ない。
「執行部隊が動いた、強襲艦がアーキバスの調査拠点を吹っ飛ばしたらしい!」
「機体は戦闘モードに切り替える、何かあれば投下して軽くしてくれ」
「悪いがそうするぞ、乗せてても心中するだけだこんなもん」
ヘリごと墜落して撃破されたAC乗りは案外多い、かく言う先代G7もそうだった。アーキバスの斥候を片付ける任務を遂行する筈だったが状況が状況だ、前線からは一刻も早く離れなければ。
「不味い不味い不味い!レーダーに感あり、後方だ!」
「強襲艦か?」
「それにしちゃ速い、こんなところで特務仕様機か何かとカチ合うってのかよ!?」
「機体を降ろしてくれ、迎撃する」
「すまんが頼む、コイツじゃ振り切れねぇ」
外気温が低すぎるため砲身が割れやすくなると整備班に言われ、使い慣れた少微肩部ガトリング砲は置いて来てしまっている。MTを相手取ることを考えた結果、代替装備としてファーロン製の6連ミサイルとメリニットの軽グレネードを採用した。軽グレネードに関してはG4との模擬戦で非常に痛い目を見た装備だ、負荷も軽く二脚には打って付けと言える。
「惑星封鎖機構の機体か、慣れた装備で戦いたかったが」
「そうもいかねぇよ、ハッチ開けるぞ!」
信じられるのは両手のパイルバンカーとランセツライフルだけだ、ハッチが開いたことで乱れた大気が格納庫の中に雪を運び込む。温めておいた機体が触れた雪を溶かし、レールが伸びて外へと運び出された。
「投下するぞ、行ってこ…」
刹那、機体が揺れた。外れたハッチが宙を舞い、くるくると回りながら落下して行く。咄嗟に機体の頭を横に向ければ、格納庫が大きく裂けていた。
「被弾したのか!」
「吊り下げてる格納庫をやられた…ロックが外せねぇ、そっちで外せるか?」
「ならこれも被弾したということで頼む」
パイルバンカーを格納庫の上に叩き込み、機体を固定していた器具を吹き飛ばす。それを受けてヘリは多少姿勢を崩したが、なんとか姿勢を立て直して低空へと退避していく。
「基地で待ってるからな!回収要請は聞き逃さねぇ!」
「了解だ」
敵の速度と高度を見るに相手は飛行しているが、幸運なことに一機のみだ。レーダーに捉えられた以上排除しなければならないのだろうか、相手がBAWSのMTだったらその判断も正解だっただろう。
「識別はLC…にしては早過ぎる、やはり仕様が違うのか」
執行部隊の運用するLC機体はここまで長時間の飛行を可能とした設計では無いはずだ、おそらく巨大なバックパックが推力の源だろう。
「ミサイルで動きを見るしかない、行けッ!」
放たれたファーロン製ミサイルはご自慢の誘導性能で敵へと猛進するが、敵機から放たれた光によってそれは欺かれた。ミサイルは悉く外れ、見当違いの方向で自爆するのみだ。
「フレア!?」
ミサイルの誘導を妨害する装備だ、残念ながらACには今のところ搭載出来ない。だが熱源を放つだけで高性能なファーロン製ミサイルを欺けるとは思えない、見かけ以上に封鎖機構の技術力が詰まっているのかもしれない。
「ミサイルが使い物にならないか、厄介だな!」
「企業のACか、想定とは違うが…対処可能な範囲だ」
相手は飛び続けられるがこちらは落ちるのみ、地に足をつけなければ機体エネルギーの回復もままならない。
「仕方ない、いっそ落ちた方が後が楽か…?」
ライフルを撃ち込みつつ機体を落下させ、氷原の地と脚部が接する。雪が積もる大地では思うように動けず、ブースターの炎が中途半端に雪を溶かすために余計滑る。
「…さて、今回はどうするか」
基礎的な機体性能が段違いな相手をどう倒すか、悩ましいことだ。しかし相手がレイヴンでは無いと言うことに少し安心している彼がいた。封鎖機構はACを寄せ集めと揶揄するが、本当に恐ろしいのはその寄せ集めなのだから。