訓練生はルビコン川を渡ることが出来るか?   作:明田川

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惑星封鎖機構

「…寄せ集めがここまでやるか」

 

脚部の跳躍力に頼ることをやめ、ブースターの推力だけを気にしつつ操縦桿を後ろに倒す。敵に正面を見せつつも後退し、出来る限りの火力を投射して回避を強要した。

 

「不思議だ、まだ楽な相手だと感じてならない」

 

機体はACよりも良い物なのかもしれないが、これといった怖さがない。やけに頑丈な盾が邪魔だがそれだけで、何か大きな決定打となり得る武装が無いからだろうか。

 

「協働前提の機体、支援機か?」

 

恐らく何か近接戦が可能な機体と協力するのが本来の使い方なのではないだろうか。だがヘリやMTを排除するために投入され、運悪くACと遭遇した…と言うのが現状だろう。

 

「盾を壊さないことには状況が動かない、やるしかないか」

 

大豊の大容量ジェネレータであれば多少の空戦にも付き合える、今まで消極的な動きを見せていたのは相手の出方を見ていたに過ぎない。惑星封鎖機構が相手の戦型を解析するように、ACのパイロットも同じように相手を見る。

 

「上がれぇえッ!」

 

ペダルを踏み込むと地面に対して垂直に噴射口を向けたブースターが炎を吐き出し、機体を一気に相手と同じ高度にまで押し上げた。上昇推力は特別高いわけではないが、それでもそれ相応のエネルギーを消費すれば十分飛べる。

 

「急に動きを変え…貴様ッ!?」

 

「惑星封鎖機構の機体にリペアキットは無いんだったよな」

 

アサルトアーマーを放つよう入力された機体の背中が大きく開き、パルスの奔流が放たれる。ACSを一瞬で負荷限界に追いやられたLCはどうにかしようともがくが、既にパイルバンカーは準備を終えている。

 

「吹っ飛べ!」

 

打ち出された杭は盾を突き破って敵機まで到達し、炸薬の力で一気に装甲を引き裂いた。しかし当たりどころが良かったようで、相手は片腕と背部推進器の半分を失うに留まった。

 

「これでどうにかなってくれると助かるんだがな」

 

深々と突き刺さった杭を引っ込めず、そのまま機体ごと敵機に張り付いた。そして放つのは肩部のミサイル、この至近距離ではフレアの欺瞞も効果を発揮することは出来ない。メリニットのグレネードも放つか一瞬悩んだが、この近距離では敵機と心中することになりそうだ。

 

「頼むからくたばれッ!」

 

「企業のACに、ここまで…やられっぱなしというのもなァ!」

 

「コイツまだ動…」

 

LCは片手を塞いでいたライフルを投げ捨て、ループザループの頭部に向けて拳を加速させる。ACよりも高性能なアクチュエータが唸り、頭部側面のセンサーが丸ごと機能を喪失した。

 

「狙いやすい所を殴ってくれて、助かる!」

 

しかしそれも想定の範囲内だ。チャージを終えたBAWS製のバーストライフルを構え、パイルバンカーの杭を抜く。LCから離れたACが自由落下を始めるその瞬間、銃口は装甲がない敵機の首元へと捩じ込まれた。

 

「企業のACは想定以上の脅威…システムへ…」

 

敵機のパイロットは何かを言い切る前に事切れたのか、それ以上の言葉を通信機が拾うことは無かった。上手く動力系を破壊したのか、敵機は爆散することなくある程度原型を保っている。

 

「封鎖機構の通信妨害がキツいな、助けを呼んでも来てもらえるかどうか」

 

少々惜しいが折角の戦利品も置いていくことになりそうだ、発信機でも付いていれば追跡される危険性もある。この機体が本格的な攻撃前の偵察だとすれば基地が危ない、急いで帰らなければならないだろう。

 

「無茶な近接戦をやり過ぎた、LCってのは細身な癖に案外タフだな」

 

調子の悪い頭部センサに頭を悩ませつつ、ブースターに火を入れて基地へと向かう。強力な敵機を相手取ったとはいえ目立った損傷はあまりない、移動に支障は無さそうだ。

 

そうして暫く巡航速度で機体を飛ばした後、通信妨害の中でノイズ混じりの音声が聞こえ始めた。それは基地に近づくほど明瞭になっていき、段々と嫌な予感が増していく。

 

「…無事で居てはくれないか、畜生!」

 

『強襲艦に頭を抑えられた、これじゃ撃たれ放題だ!』

 

『調査データを持って基地から脱出しろ、成果は持ち…』

 

『敵機降下!来るぞぉ!』

 

補給基地は地獄のようだ、然程規模の大きくないこの場所ですらこの有様とは封鎖機構の本気が伺える。この状況で基地を救うべく突撃するのが最良か、それとも脱出に成功した部隊の護衛に付いて調査データの確保を優先すべきか。

 

「こちらG7シナノ、救援に来た!」

 

『レッドガン…?』

 

『ダメだ来るなァ!やられちまう!』

 

燃料タンクの爆発で吹雪が晴れ、基地の全貌が明らかとなる。通信の通りに強襲艦が基地の頭上に浮遊し、艦首のレーザーで持って対地攻撃を敢行している。

 

『BAWSのMTじゃあ奴らに太刀打ち出来ん、脱出しようにも遮蔽から出れば強襲艦に撃ち抜かれる!』

 

『馬鹿野郎前に出るな!奴らと正面から撃ち合っても…』

 

投下されたLCは旧式機など相手にならないとでも言いたげなまでの戦闘を行っており、数で勝る筈のベイラムのMT部隊は一方的にすり潰されている。

 

「強襲艦を沈めれば隙が出来る、そうだな?」

 

『そりゃそうだが、どうやって!?』

 

『下から撃っても効果が無い、上を狙うにしてもACの上昇力でやれるのかよ』

 

「やれる、やれるさ」

 

機体のヒートシンクを展開させ、アサルトブーストを起動する。大豊のジェネレータに物を言わせた長距離飛行だ、踏み込んだペダルから大きな振動が身体に伝わる。

 

「ぐぅッ…!」

 

強襲艦の弱点など見当も付かない、だが下から撃っても効果が無いなら上から撃つしか無い。敵艦から放たれたレーザーを掻い潜り、機体の高度が強襲艦を超えた。

 

「あるじゃないか、お誂え向きの弱点が」

 

 

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