訓練生はルビコン川を渡ることが出来るか?   作:明田川

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共同戦線

惑星封鎖機構が介入を表明してからそれなりの時が経ち、地獄と化した補給基地から見事生還を果たしたシナノは休息を取っていた。部隊の後退と封鎖機構の追撃に翻弄され、他の部隊よりも長い間戦う羽目になったのだ。

 

「よっ、強襲艦の撃沈おめでとさん!」

 

「…生きてたのか」

 

「基地に辿り着く前にエンジンがイカれてな、不時着してそのまま気を失ってたんだ。MT部隊に拾ってもらえてなきゃ危なかったぜぇ〜?」

 

「凄い悪運だな」

 

「縁起でもねぇや」

 

運が良いのか悪いのかよく分からないが、輸送機のパイロットは無事だったらしい。惑星封鎖機構からの攻撃で大きく戦線が後退した今、彼らは少し後方にて反撃のための準備を進めていた。

 

「まさか敵艦より上に飛び上がって艦橋にグレネードをブチ込むとは命知らずな真似しやがって、噂になってるぜ?」

 

「たまたま上手く行ったんだよ、一度でやれるとは思わなかった」

 

艦橋にメリニット曰く"囀り"らしい威力のグレネードと肩部のミサイル、そしてライフルというACが持ちうる全火力を叩き込んだところ、あっさりと沈んだ。元々上からの攻撃はあまり想定していなかったのだろう、高度をあと少し高く取っていれば無様な姿を見せずに済んだというのはお笑い草だ。

 

あれから腕を上げたお陰だろうか、死ぬことなく封鎖機構との戦いを潜り抜けることが出来た。機体も頭部が歪んだ以外に大きな損傷は無し、扱い方も分かって来たということだろうか。

 

「レッドガンは忙しくなるぜ、何せベイラムはアーキバスとの一時停戦を考えているらしいからな」

 

「…つまり?」

 

「共同戦線だよ、共同戦線。ここに来て横槍入れて来た封鎖機構を叩くんだとさ、上手くいくとは思えないが」

 

これまで殴り合って来た相手と一時とはいえ手を結ぶというのは中々難しいが、それまでに封鎖機構は強大ということでもある。ACを超える性能を持った兵器群は厄介だ、レッドガンやヴェスパーといった精鋭を使って反抗作戦を組み立てたい上層部の気持ちもわからんでもない。

 

「お前さんも前線に出ることになるだろうな、ループザループの調子はどうだ?」

 

「修理は終わってる、問題は武装くらいだ」

 

「…あー、ガトリングか。寒冷地用に調整してたと聞いたが、戻って来てないのか?」

 

「両手に持つ方は届いてる、肩の方は運び出せなかったらしい」

 

両肩には前回と同じようにファーロン製のミサイルとメリニット製の二連装軽グレネードを装備する。フレアを放ってくる相手には少し頼りないが、それ以外には頗る優秀だ。

 

「あの化け物を倒す算段もついてねえのにさ、本当に大丈夫なのかねぇ」

 

「化け物?」

 

「…あー、まだ聞いてなかったのか」

 

ヘリの操縦士が神妙な顔をしながら手元の端末を数回触り、何かの画像を表示してからこちらに手渡した。赤い光を纏った大型兵器、芋虫のような何かは周囲からの攻撃を全く寄せ付けていなかった。

 

「待機が命じられている最大の理由だよ、レッドガンが温存されるわけだぜ」

 

「確かに化け物だな、これは」

 

「コイツの矢面に立たされるのは誰だろうな、生きては帰れ無さそうだ」

 

「縁起でもないことを言うな」

 

「ハハ、回り回ってだな」

 

そんな会話もほどほどに、頭部の修理が終わった愛機と共に彼は戦場へと赴くことになる。シナノが命じられたのは強襲艦の撃破であり、G2から直々に言い渡されたその作戦内容に冷や汗を流すのだった。

 

ーーー

ーー

 

「…遠足の始まりか」

 

事前に設定していたタイマーがコックピットの中でけたたましく鳴り響いたことで、ベイラムとアーキバスの混成部隊が敵大型兵器であるアイスワームとの交戦を始めたことが分かる。指揮はG1ミシガン、現場監督はあのヴェスパーのNo.2という豪華な布陣だ。

 

「アーキバスの部隊も封鎖機構相手に動き始めた、俺達も派手に行こうぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

機体の先には強襲艦が3隻、目の前を航行中だ。アイスワームが戦闘を始めたことで部隊が動き出したのだろう、このまま彼らが進めば作戦に横槍が入るかもしれない。

 

「垂直カタパルトはアーキバスの調査部隊から座標データを預かってる。立派な置き土産だな、活用させてもらおうぜ」

 

元々は高低差の激しいこの区域を調査するために設置されたのだろう、突貫工事だったことは察するに余りある。だが空を飛ぶ強襲艦と戦うのには非常に有用極まりない、エネルギーだって節約出来る。

 

「これがあれば相当楽が出来る、そっちも間に合わせろよ」

 

「言うねえ」

 

待ち伏せをするために被っていた偽装用のシートを引っ剥がし、顕となった機体で垂直カタパルトの上に乗る。そして飛び上がれば艦隊のど真ん中、敵艦の砲身がこちらを向く前に艦橋へと狙いを定める。

 

「子機を展開する前に沈める!」

 

グレネードとミサイルが直撃したことで中央の一隻が制御を失い、徐々に高度を失っていく。残りの2隻は左右に分かれて航行しているが距離はそこまで離れておらず、これならばアサルトブーストで潜り込める。

 

「マジかよ、一隻撃破!」

 

「再装填は間に合わないか、ならばッ」

 

両手に構えたガトリング砲の出番だ。止まることなく敵艦に突撃し、艦橋に全速力と全質量を乗せた蹴りをお見舞いする。分厚い窓が割れ、外装が大きく歪む。そこに砲門を向け、引き金を引いた。

 

「これでぇぇぇええ!」

 

大量の薬莢が甲板に転がるが、そんなことはお構い無しだ。艦橋内部を砲弾で掻き回し、更に船の奥へと被害を広げていく。仕上げに再装填を終えたミサイルを撃ち込み、ゆっくりと落下し始めた船の甲板を蹴って最後の強襲艦へと向かう。

 

「最後!」

 

「待て、LCが来るぞ!」

 

脱出に成功した艦載機がループザループに牙を剥く、数機の狙撃仕様LCが一斉に攻撃を始めたのだ。また最後の強襲艦も二隻が沈められる間に子機を展開したらしく、形勢は一気に不利へと傾いた。

 

「子機も展開された、コイツはキツイぜ…」

 

「プランBは?」

 

「あと1分!」

 

ACが戦っている陰でMT達が何やら垂直カタパルトや自前の推進器で移動を行い、丁度強襲艦を狙える位置へと向かっていた。これがプランBという奴だが、待機地点で砲撃の準備を終えている機体は半数ほどだ。

 

「遅いぞ」

 

「仕方ねぇだろ、装備重量が嵩んでるし雪にも足を取られてんだ!」

 

ヘリの操縦士は通信設備を搭載した四脚MTにてプランBの支援を行っているようだ、通信妨害の中でも通信が出来るのは彼の機材あってのことだ。

 

「後少し時間を稼いでくれ、絶対に叩き落として見せる!」

 

「任せろ!」

 

一度見た相手だ、それにゴテゴテとした追加装備は有していない。しかしそれでもMT部隊にとっては充分な脅威だ、ここで引き付けておく必要がある。

 

「狙撃仕様機の装甲はそこまで分厚くない、これなら…」

 

ライフルで牽制射を放つと相手は回避を行うが、その先に再装填を終えたグレネードを撃ち込む。盾を持っていれば耐えられただろう、だがそうではないのだ。

 

「一機目、次!」

 

ガトリング砲の弾幕は強力だが距離が離れると途端に威力を失う、有効打を与えるのなら敵に接近しなければならない。そう少し悩んでいたところであっという間に一分が経ち、MTから通信が入る。

 

「砲撃準備がほぼ終わった、離れられるか?」

 

「このまま落下する、好きに始めてくれ」

 

「目標敵強襲艦!撃ち方始めェ!」

 

横一列に並んだ四脚MTが背負って来たスナイパーキャノンの砲身を展開、一斉に薬室の砲弾に火を付けた。船の側面にある子機の展開口は開いている、この距離なら何発か中に撃ち込めるだろう。

 

「…流石の火力だな」

 

「MT舐めんなァ!撃て撃て撃てェ!」

 

二脚MTもLCに向けてミサイルを放って援護をしつつ、手に持ったライフルで子機への牽制を欠かさない。ベイラムが得意とする物量と火力による力押し、その体現とも言える戦闘が目の前で起きていた。

 

 

混成部隊によるアイスワーム撃破は無事成功に終わった。その部隊の中には因縁浅からぬ独立傭兵の名もあったが、今ばかりは彼の活躍を祝おうと思わされる。アーキバスが封鎖機構の兵器を多数鹵獲したとの報が飛び交い、ベイラムは戦力的に苦境へと立たされることになるのは、これから少し後の話である。

 

戦場は巨大な地下構造物へと移っていく。その奥深くに何があるのかは、まだ誰にも分からない。

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