巨大な地下構造物の入り口から降下した部隊が次々と蒸発していく、ACですら耐え難い威力のエネルギー砲が下から覗いているのだ。
「足場から不用意に機体を出すな!散開しろ!」
「ダメだ!足場が溶け…」
安全地帯は無い、相手は遮蔽物越しにも照準を合わせてくる。機動性が高いとは言えないMT部隊では狙い撃ちにされるばかりで、この縦穴を降れば降るほど味方の数が減っていく。
「こんな大部隊で入るような場所じゃ無かったんだ、これじゃあ犬死にするだけじゃないか!」
「ギャーギャー喚くな、この足場だって危ないんだぞ!」
士気は崩壊しレッドガンのACが居るというのに混乱は増すばかり、AC数機での降下だったら被害はごく僅かに収まったのは確実だ。封鎖機構の兵器を鹵獲したアーキバスに比べてベイラムは戦力と失っただけ、上層部の焦りは要らぬ犠牲を生んでいた。
「不味い、退避!」
「レッドガン、そこはもう持たないぞ!」
「逃げ場が無…」
六発の砲撃をACが受け切れる筈もなく、盾にしていた足場ごとループザループが蒸発した。
ーーー
ーー
ー
「ハッ!?」
久しぶりのリスタートだ。封鎖機構との戦いで死ななかったので調子に乗っていたのだろうか、存外にも簡単に死んでしまった。
「おい大丈夫か、強襲艦三隻撃沈のエース様がみっともない姿見せるなって」
「…ああ」
「コーラルの汚染地域で戦うことも多いしな、体調には気を配れよ?」
周囲を見渡せば大量のMT部隊が降下の準備を進めていた、降りる前にまで戻されたようだ。封鎖機構の敗北によってアーキバスとベイラムの停戦も終わりを告げ、コーラルを求めた戦いは再び始まっていた。
次の戦場となったのはアイスワームが守っていた広大な地下施設であり、コーラル集積地に繋がる重要な場であることは明らかだった。ここに来て戦争も終盤という訳だ。
「しっかし事前情報も無しで地下に潜れとは無茶言うよな、出来るかってんだ」
「もしもの時は回収に来てくれよ」
「そりゃもちろん、辿り着ける範囲ならな」
このまま降下しても先程と同様に大きな被害を出すだけだ、あの地下深くに設置された砲台を破壊しなければ状況は変わらない。
「…囮になるか」
単独での降下は作戦決行の直前にもなって許可されないだろう、ならば作戦中にやる他ない。幸いエネルギーには余裕がある、ある程度ならば回避も可能だろう。
「突入部隊に参加するレッドガンはG6、G7の二機ってことは、比較的機動力の高い二脚を投入するって頭が上層部にあるってことか」
「そうであることを祈るさ」
「そうかそうか…ってオイ、何処行くんだよ」
「今考えると装備が重過ぎる、レッド先輩との協働を考えて武器を変更するんだ」
「直前に弄ると整備班が怒るぜ〜?」
迅速に降下を行うとなれば装備を持ち替える必要がある、長期戦になると思っていたがアテが外れた。補給部隊に装備していたガトリング砲を預け、ベイラム製のライフルを手に持った。
「パイルバンカーとライフルでいい」
「肩はどうする気です?」
「通常型のミサイル、出来れば片方を軽グレネードにしてくれ」
「機体構成を変えてもパフォーマンスが落ちないなら言うことありませんよ、でも本当に大丈夫なんですかい」
「どうにかするさ」
この数分後、AC二機を先頭にしてベイラム陣営は地下への侵入を開始した。巨大なリフトはMT部隊が乗るのに十分だったが、G7だけはこれが道半ばで止まることを理解していた。
封鎖機構の置き土産も未だ数多く配置されており、MT部隊にとっては大きな脅威になることは明白だ。それらをACである程度排除しつつ先に進むのが目的だったが、あの砲台が砲撃を始めることで全てが瓦解したのが前回だ。
「G7シナノ、共に戦うのは初めてだったな!」
「はい、レッドガンに恥じぬ戦いをするつもりです」
「私も同じ気持ちだ、無事に降下を成功させるぞ!」
G6レッド、自分と同じく中量二脚に分類されるメランダーで構成されたACを駆るパイロットだ。年齢も近いがレッドガンとしての心構えは数段上、見習うべき先輩の一人でもある。
「…はい、成功させますとも」
「下から熱源!」
そろそろリフトが止まるだろう、楽な旅路ではない。封鎖機構が残したと思われるシステムが何やら騒ぎ立て、無人兵器が下から姿を現した。そしてそれと同時にリフトも止まり、その急制動に機体が揺れる。
「これは!?」
「封鎖機構の置き土産ですよ!」
ライフルを発砲して自律兵器を叩き落とすと周囲のMT部隊も同じように武器を構え、多少の混乱はありつつも迎撃を開始した。近距離で炸裂したグレネードが味方を襲い、リフトからMTが転げ落ちていく。
「敵が近過ぎる!グレネードは使うな!」
「四脚MTは下手に動くな、二脚が落ちるぞ!」
二脚MTにもある程度の推進力はある、落下しても減速はある程度可能だろう。だがACのように空中で自在に動き回れる訳ではない、外壁に設置された足場にまで移動するのは難しいだろう。
落下する二脚MT、G1に似て仲間想いなG6、リフトが止まり混乱する部隊。これは良い口実になる、本来やりたかった単独降下が可能になる絶好の機会だ。
「先輩、この場を頼みます」
「G7!何をする気だ!」
「落下したMTを助けると同時に使えそうな移動ルートを探します、先行する許可を」
「…認める、頼んだぞ!」
G6が乗機とするハーミットの武装はバズーカとハンドガンに両肩のミサイル、対AC戦では強力だが両手の武器は長期戦には向いていない。単独で降下するにはループザループの方が少しばかりだが向いているのだ。
「落下したMT、そのままブースターを噴かし続けろ」
「レッドガンか!?」
「足場まで誘導する、どうにか掴め」
落下し続ける機体にどう追いつくか、自由落下よりも早く下に向かって進めば良いのだ。しかしACには降下するための推進器は無い、機体各所に装備されたノズルはいずれも下を向いている。
「実戦でやるのは始めてだ…!」
ならば機体の向きを変えれば良いのだ、この穴に頭から突っ込めば推進器は全て下を向く。アサルトブーストの仕様上真下や真上への加速は難しいが、そこはOSの枷を外して無理矢理可能にする。コックピット内のスイッチを幾つか指先で弾き、操作系統の安全装置を外しておく。
「壊れてくれるなよ!」
真下に向かっての急加速、普段ならば邪魔をする重力が下へ下へと機体を引っ張っているのが嫌でも分かった。いつもよりも揺れるコックピットの中でディスプレイの中央にMTを納め、左手を伸ばした。
「掴め!」
「うぉぉおぉぉ!?」
MTの腕を掴み、機体の向きを直して一気に減速する。エネルギーに余裕は無いが、すぐ近くの足場までは持つ筈だ。
「G7!下から熱源…今までとは比べ物にならんぞ!」
G6からの言葉と同時に警告音がコックピットの中で鳴り響き、憎き砲台の射程内に入ったことを知った。もう猶予は僅かだろう、MTを抱えて移動するだけの時間もエネルギー残量も無い。
「作用反作用だ!今からMTを足場に向かって蹴り飛ばす!」
「マジで言ってるのか!?」
「死なないように蹴るからどうにか着地しろ、こっちはその反動と推進器の全力噴射で回避を試す!」
足先ではなく足裏を添え、蹴るというより押し除けるような動きでMTと離れる。そして2機の間に熱エネルギーの奔流が通り過ぎて行き、あまりの熱量に機体のセンサーが悲鳴を上げる。
「回避ィ!」
MTが足場に着地したことを見届けたかったが、砲台はACに狙いを定めたようだ。連続発射回数は6発、前回死ぬ前に数えておいたのが役に立つ。
まだ距離が離れているのが功を奏した、少しの移動で直撃は避けられる。だがそれでも装甲の表面温度は上がり続け、ブースターも調子が悪くなっていく。
「しまった!」
エネルギー切れだ、残量を示すバーが赤く点灯している。機体の落下軌道は弧を描いており、このまま行けば足場に着地出来る。だが回避は出来ない、砲撃が背を掠めた。
それは背負って来ていたミサイルランチャーに直撃し、内部に格納していた炸薬を引火させてしまう。鳴り響く警告音と鈍い衝撃、背後から殴られたかのような感触がコックピットを襲った。
「G7!無事か!」
「…」
リフトの上からはミサイルの誘爆による煙で機体が視認出来ないのだろう、封鎖機構の無人機を片付けたG6が安否を確認しようと通信を飛ばした。
「無事ならば返事をしろ、G7!」
「……こちらG7…武装に損害あれども行動可能」
機体は動く、ミサイルが無くとも両手の武器とグレネードがある。それに今の砲撃で実感した、最強に思えた砲撃は避けられる。
「戦闘の継続に支障なし!」
武装もリペアキットも使い切っていない、この程度で泣き言を言うのはレッドガン隊員にあるまじき振る舞いだ。