訓練生はルビコン川を渡ることが出来るか?   作:明田川

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作者のACを晒しておきます、Oscarってプレイヤーネームでこの機体を使っていれば恐らく私かと。
A8J676NV4DVQ
PS5版です。


第二話 反撃

「…回避、回避、回避」

 

もう二桁はやり直しただろうか、彼はここに来て才能を開花させつつあった。単純な操作で最大の効果を、傭兵が行なっていたような回避機動や狙うべき攻撃タイミングなどを自分なりに解釈して模倣出来るようになっていた。

 

「ミサイルは引き付けてから…回避」

 

見るたびに怯えていた誘導弾の対処も慣れたもので、コックピットに鳴り響く警告音にも動じない。QB、クイックブーストと呼ばれる瞬間的な加速によりミサイルの誘導範囲から一気に抜け出して避けて見せる。

 

「ライフルは無視、ブレードに警戒」

 

被弾したと機体が騒ぐが、ライフル弾の直撃程度がなんだというのだ。姿勢制御システムが衝撃により使い物にならなくなれば話は別だが、現状であれば大豊製AC自慢の装甲が受け止めてくれる。

 

「そう簡単に殺されてやるかよ、傭兵!」

 

手に持つバーストライフルで敵機の着地や回避後の瞬間を狙って引き金を引き、小さくともダメージを与え続ける。相手は探査用の旧式ACであり、お世辞にも装甲が分厚いとは言えない。このまま互いに撃ち合いを続けた場合、装甲の厚い機体に乗る訓練生が勝つ可能性はあるだろう。

 

「回避、回避だ!」

 

だがそれは軽さ故の機動力を持つ相手の攻撃を退けて射撃戦を強要し続けるだけの技量があって始めたなせる技だ、傭兵が時折見せる巧みな近接攻撃を避け続ける必要がある。

 

「二歩下がって…一歩前に!」

 

当たる筈だったパルスの奔流は大気を掻き回すに留まり、傭兵の機体は一瞬の隙を晒す。今まで自分がやられたのと同じ手口だ、相手のブレードを避けた後に自らの本命を当てる。

 

「喰らえ!喰らってくれッ!!」

 

命中したブレード、奇しくも相手と同型のそれは探査用ACの装甲を切り裂いた。初めて与えた大ダメージ、コックピットに表示されるAPは大きく目減りしただろう。

 

「やった!これだけの損害なら撤退も視野に…」

 

しかし現実は非情であり、相手は機体から青い光を発して見せた。リペアキット、一部の傭兵しか機体に搭載していない応急修理機能だ。その高額さ故にこの機体には搭載されておらず、納入後に初めて与えられることになっていた物だ。

 

「直るのは、聞いてないぞ」

 

あれだけ必死に与えた損傷は目の前で消え失せた、あと在庫が幾つあるのか分からないリペアキット一つで今までの苦労が帳消しだと彼は理解したとしても分かりたくはないだろう。

 

「クソっ、クソっ、独立傭兵が…なんでそんな物を積んでるんだァ!」

 

対立企業であるアーキバスかシュナイダーが独立傭兵を装って破壊工作でもしているのか、機体のお粗末さに反してパイロットが強すぎる。

 

「うわぁぁあ!」

 

ACSが負荷限界を迎え、彼はまたもや死を迎えることになる。

 

 

また数回のリスタートを行った末に、訓練生はまた一段階強くなっていた。樹大枝細の理念に基づいて作られた機体は振り回しても重心が崩れにくく、比較的分厚いコアの装甲は新兵の揺籠としては最高級だったのだ。

 

そして砲弾を受けた独立傭兵の機体が青く光り、リペアキットを消費する。これで使うのは二度目であり、それだけ機体に損傷を受けたと言うことに他ならない。

 

「また駄目だった、か」

 

粘りに粘ったテスターACは傭兵の戦型を読み切ったかのような動きを見せ、何度か有効打となる攻撃を繰り出すことに成功した。それでも実力差は如何ともしがたく、完全に追い詰められつつあった。

 

『ベイラムのMT部隊が接近中か。損害も多いがACに損傷は与えた、撤退しろ621』

 

大豊のACは機体の全身から火花を散らし、更には片腕を失っていた。装甲には夥しい数の弾痕が付いており、今立っていることが奇跡だと言える程だ。

 

『輸送にアサインされた訓練生という話だったが…情報は不確かだったようだ、依頼元には話をつけておこう』

 

強化人間である独立傭兵は飼い主の指示に従い、作戦エリアから離脱していく。それを見たヘリパイロットは歓喜の声を上げ、訓練生は生き残ったことに驚きを隠せないでいた。

 

「生きてる、のか」

 

「本当に訓練生かよ、傭兵を追い払ったな!」

 

「は、はは…」

 

衝撃により身体中がガタガタで、弾け飛んだ内壁の破片で流れる血が妙に熱い。戦場の騒がしさは過ぎ去り、機体の今にも途切れそうなジェネレータの駆動音が鳴るばかりだ。

 

「すみません、もう機体が…」

 

「機体がどうした?」

 

「駄目そうなんです」

 

ブレードにより切断された腕部の基部から放電した上に機体中の配線がショート、機体の背中から黒煙が噴き出した。

 

「この壊れ方ってことは、配線からパルスが入り込んで中から駄目になったのか」

 

「やけに慣れてるがアンタ脱出しないと死ぬぞ!」

 

「いやその、ハッチが熱と衝撃で歪んで開かないんです」

 

「そうならさっさと言え!」

 

ヘリから勢いよく飛び出てきた操縦士の手には、恐らく積み込みの際にそのまま放置されていたらしい工具が握られていた。彼はルビコンの汚染から身を守るためのガスマスクを付け、体勢を崩したACによじ登った。

 

「訓練生がここまでやったんだ、俺がその分働かねぇと総長に顔向け出来ん!」

 

緊急用の脱出機構は外からも操作できる、操縦士はジェネレータの熱で焼き肉が出来るほど高温となった装甲に手をかける。

 

「これか、使うぞ!」

 

「お願いします!」

 

ACの頭部が火薬の炸裂音と共に浮き、二度目の炸裂によって皿のようなそれは背後に飛ばされる。出口が開いたことで操縦席が飛び出し、訓練生はルビコンの空に打ち出された。

 

「使うのは初めてだァーッ!」

 

 

ーー

ーーーー

ーーーーーー

 

 

こうして、訓練生は死神を退けることに成功した。しかしルビコンの戦場は過酷そのもの、所属しているベイラムの司令部は現場の被害を全く顧みないというのが現状だ。

 

「え、ACに?」

 

「ああ、なんでもレッドガンの予備機がお前さんの所に運び込まれてるぞ」

 

戦友となったヘリの操縦士は購買で購入したジュース片手に訓練生の元へ訪れていた。

 

「いやいやいや…僕はまだ実機訓練を終えたばっかりで…」

 

数日間の療養を終えて久し振りにベイラムグループの制服に袖を通し、解放戦線を追い出した後に基地として使っているグリッドの中を歩く。栄えていた頃に作られた骨董品の超巨大建造物だが、その広さからMTやACを運用するのに都合が良かったらしい。

 

「G7、ハークラー…?」

 

「ヘリでの輸送中にパイロットごと撃ち落とされたんだ、コレは基地にあった予備パーツだろうな」

 

運び込まれた機体の構成はレッドガン所属機と瓜二つだが、塗装は錆止めのために行われた灰色一色という飾り気のないものだ。武装も一式揃えられている、今すぐにでも戦えるだろう。

 

「レッドガンは欠員が多過ぎる、見込みのありそうなAC乗りを数合わせで投入ってのは上層部の考えそうな話だな」

 

「待てよ、つまり…」

 

「目指せベイラム碧色勲章ってことだ、お前さんの輸送は俺が担当することになってる」

 

こうして彼はレッドガンではないものの、AC乗りの一人として働くことになった。開いた口が塞がらないが、パイロットとしての仕事は待ってくれなさそうだ。

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