「この機体構成はレッドガン…ではない?」
機体の識別結果から導き出されたのは見知らぬライセンス、たった数日前に登録されたばかりのものだ。
「ベイラムのACであることに変わりはない、撃て!」
アーキバス系列企業であるシュナイダーのMT部隊は、突如戦域に現れたACに対して迎撃体制を整えていた。ACと言えど大量のMTに囲まれれば撃破されるというのは当たり前の話だ、それが並の乗り手であったのならという前提ではあるが。
「こちらオスカー、作戦領域に到達した」
「頼むぜ元訓練生。広域レーダーはこっちで監視する、機体を回収する前に撃ち落とされんことを祈ってくれ」
「縁起でもないなぁ…」
MTは技術力で劣るルビコン3製の物だ、防御力も火力もACには及ばない。大型の四脚タイプともなれば話は別だが、それでも殆どの兵器は決して強い訳ではないライフルの数発で撃破されてしまうのだ。
「番号付きでもないのによくやる!火力を集中させろ!」
ガードメカがワラワラと集まって来るが、肩部の四連ミサイルが彼らに向けて一発ずつ発射される。その爆発によって牽制を務める筈だった戦力は吹っ飛び、後方で砲撃の準備を整えていたMTにACが向かっていく。
「良いようにやられてるぞ!」
「陣形を組み直せ、四脚さえ居れば…」
ベイラム製の装備で身を固めた元訓練生のACは、パイルバンカーと呼ばれる武器でMTを串刺しにしていた。加速した杭をただ相手にぶつけるだけの単純明快な凶器、その威力は見ずとも分かる。
「良いペースで倒せてるな、増援が来る前に終わらせてくれ」
「AC乗りと戦うよりよっぽど楽だ!」
貫通した杭を引き抜き、また敵が居る方向へと飛んでは撃つを繰り返す。独立傭兵との戦闘で培った回避機動、着地と同時に左右へと跳ぶという単純に見えて複雑な動きで敵の射撃を避けてみせた。
「やっぱりか、MTのFCS相手ならこの動きで殆ど避けられる」
「へぇー、何処で覚えたんだそりゃ」
「あの傭兵の真似をしてみたんだ、理にかなってる」
大豊の大容量ジェネレータは連続した跳躍に耐えるだけのエネルギー容量を持っている、このような戦術には合致している構成と言えるだろう。
「あの傭兵は装備に見合わない強さだった、きっと裏がある筈だ」
「他所ごと考える暇は無くなりそうだ、輸送ヘリが四脚MTを運んで来たぞ!」
「到着予定は?」
「グリッドの合間を縫ってレーダーの死角から飛んできやがった、あと数分ってところか」
残っているMT部隊と共闘されるのは厄介だ、到着するまでの間に片付ける必要があるだろう。
「弾はある、そのまま周囲の警戒を」
「任された!」
ー
ーー
ーーー
他のMTとは一線を画す性能を誇る四脚MTがグリッド内部に投下されたが、そこは既に兵器の墓場と化していた。数十機というそれなりの規模の部隊はAC単騎によって壊滅させられており、燃える燃料の臭いが装甲越しにでも伝わりそうな程だ。
「…ランク圏外のACが、ここまでやるか」
「BAWSの四脚タイプ、やっと来たか」
MTは腕に取り付けたレーザーブレードを構えつつ、背中の大口径砲をACに向けて発砲した。コックピットで鳴り響く警告音に対して反射的にペダルを踏み込んだ元訓練生の機体はブースターを噴かし、横に飛んでそれを避ける。
「無理するなよ、四脚MTは他のと訳が違う!」
「分かってる」
「離脱すりゃいいのに、あの傭兵と戦ってからお前さんおかしいぞ!?」
彼の目の前に立つ兵器はACに匹敵する戦力である、これを倒せるのであれば並の傭兵は超えたと言って良い。試金石としては十分な相手だ、これから先戦う機会も多いだろう。
「ブレードの間合いは…」
ACのものよりレーザーの刃は大きく、避けるのは困難だ。しかし機体は最低限の動きで四脚MTの間合いから脱し、ミサイルを撃ち込みながら次の動きに繋げた。
「避けた!?」
「この手の回避は死ぬほどやったんだ!」
前に加速して機体をぶつけ、そのままパイルバンカーに炸薬を装填した。射出装置が大きく展開し、腕をアッパーカットのように振り上げるのと同時に引き金を引く。
「馬鹿な、ただのAC一機に…ここまで…」
「爆発するぞ!」
敵の装甲を貫いた杭と炸薬による爆発は敵の弾薬を引火させ、四脚MTは目の前で吹き飛んだ。機体に装甲や固定用のリベットに、更には大量の機械油が降りかかる。
「…生きてる、残りの敵は?」
「もう居ない。無茶しやがってよ、今から回収に向かうから離脱しろ」
こうして数合わせに投入された筈の訓練生は、並の傭兵以上の働きを見せた。ベイラム上層部のことを考えると見せてしまったと言うべきだが、彼はこれから都合の良い戦力としてルビコンの各地を転々とすることになる。
「大豊の訓練プログラムはBAWS製MTとの大規模な模擬戦でもやってるのか、手慣れたもんだな」
「出撃前にオールマインドの仮想訓練で叩き込んだんだ、なんとかなった」
「準備期間短かったもんな、よくやったよホントに」
ヘリに機体を乗せ、基地へと帰る。彼は機体の清掃は大変だろうなと思いつつ、作戦中に感じたなんとも言えない呆気なさを胸に操縦席で目を閉じた。
「…パイロット、か」
「欲しかったコールサインも貰っただろ、どうだ新しい機体は」
「なんだか実感が湧かない、まだあの傭兵と戦っているような気がするんだ」
「深刻だな、俺もあの時のことは忘れられんが…そっちはもっと根が深いらしい」
あの地獄に囚われないためにも、より強くならなければならない。どんな敵と相対しても、死に続けることがないように。
おまけは無い。