解放戦線が有する要塞、通称壁を落とすべくレッドガンは投入された。アーキバスグループも着々と戦力を整えているため、ここで攻め込まねば後がないと上層部は考えたようだ。
「大量の四脚MTと壁の砲台、そして壁の上にはジャガーノートと来たもんだ」
「早めに投下してくれ、撃ち落とされるのを見たくない」
「俺も死にたくないしな、そろそろ降ろすぞG13」
機体のブースターに火を入れて着地しつつ、反転するヘリが無事に離脱するのを見届ける。後方では本命の部隊が突入を待っているらしい、作戦の行末は自分の行動にかかっている。
「…この空気、また死ぬのかもな」
あの時の恐怖を胸に、ブースターの制御を司るペダルを大きく踏み込む。ただのスペアからレッドガンの一員となった乗機には、憧れだったエンブレムが刻まれていた。
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「大豊ってチャイニーズ系だろ、お前さんもそうじゃないのか?」
「同じアジアの人種だけどルーツは違うらしい、ジャパニーズの方だとかなんとかって聞いてる」
「じゃあジャパンの川だな、どうせならデカいやつにしようぜ」
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自分の新しいコールサインを決めた時の記憶が脳裏に浮かぶ、現実逃避でもしているのだろうか。そんな暇はない、一瞬でも集中力は切らせないのが今この時なのだ。
「G13シナノ、ACループ・ザ・ループ。予定通り壁へ先行し突入する!」
突破口をこじ開けるのが任務だ、壁周辺の敵機も処理しつつ進まなければならない。彼はライフルを歩哨のMTに向け、数発撃ち放った。
「広域レーダーに引っかかったACか!」
「四脚を迎撃に出してくれ、囲んで潰すぞ」
しかし流石は壁の防衛に従事する兵士、士気はそこらの部隊とは訳が違う。既に突入は筒抜けになっており、分散していた敵は集まりつつある。
「ジャミングの効果が出てないのか、待ち構えられてるぞ」
『レーダー照射を受けた、悪いが上空からの支援は無理だ!』
「了解!」
半ば捨て駒だ、敵の戦力も何も分からない中で単騎突入とは正気の沙汰ではない。AC一機である程度の情報が得られれば万々歳とでも上層部は考えているのだろう、使われる側からすればたまったものではない。
「…死ぬのが先か、弾切れになるのが先か」
OSのチューニングにより可能となった蹴りをMT達に向けて叩き込み、怯んだ相手を左手のパイルバンカーで殴り付けた。そして背部のミサイル二種を放ち、部隊を纏めて片付ける。
「レッドガンの奴ら、突入時刻を遅らせる気はないらしい。それまでに壁に行けるか?」
「残骸同然になってもいいなら可能だ」
「縁起でもねぇ…無理だと思ったら主力部隊の到着を待て、G4と協働して戦った方が死なずに済むぞ!」
だが事前情報無しで突入すればACが2機でも殴殺されるのは明らかであり、生きて帰るためには壁の攻略か撤退に値する情報が必要だ。情報を得たからといって上層部が撤退を指示する可能性は低いが、無いよりマシだ。
「歩哨が全滅か、暴れてくれたな」
急行した四脚MTが背負った大口径砲を牽制がてら発射し、咄嗟に回避したものの飛び立った土砂や金属片が機体を叩く。しかしこんなことでは怯まないのがACだ、ACSの負荷は殆ど貯まっていない。
「やはりそこらの傭兵とは比較にならんか、だが一機ではな!」
「四脚が…三機!」
一機がレーザーブレードを振りかぶり、もう一機が両手に装備したガトリングガンで砲弾をばら撒く。そして大口径砲を装備した機体は二機が稼いだ時間で再装填を進めている。
「連携が取れてるな、解放戦線の中でも上澄みか」
ブレードを回避して反撃に転じようとするものの、他の二機がそれを許さないと言わんばかりに攻撃を差し込んでくる。
「多少の消耗は致し方無し、短期決戦が最適解だな!」
両肩のミサイルをブレード持ちに放ち、その直撃によって姿勢制御へと瞬間的に大きな負荷を与える。他の機体の攻撃が放たれるが、それを物ともせずに距離を詰める。
「使うのは初めてだ」
「コイツ何を…!」
機体から青白い火花が飛び散り、背中の装甲が展開され内部構造が露出する。四脚MTが身構えるも、その閃光は電撃を帯びて広がった。OSのチューニングによって手に入れたもう一つの能力、アサルトアーマーだ。
「馬鹿なッ!?」
「貰ったァ!」
エネルギーを最大まで蓄えたパイルバンカーは引き絞った山のように変形し、その杭を爆発と共に射出した。ACSが負荷限界に陥った敵機は直撃を受ける以外に選択肢は無く、杭の貫通を許した胴体は炸薬の力によって内側から弾けた。
「馬鹿な、これが企業のACだとでも言うのか」
「手に負えん、壁の砲撃で潰すか?」
「既に歩哨部隊は壊滅した、引き時だろうな」
残存兵力に通信を繋いだ二機の四脚MTはブースターを使って飛び上がり、そのまま壁へと後退することを選択したようだ。しかし背を向けて逃げる気はないようで、殿として他の味方のために立ち塞がるようにして動いた。
「BAWSの技術力は侮れないな、四脚を相手にするとプレッシャーが違う」
リペアキットを使い機体の装甲を修復し、再装填を済ませた主砲でこちらを睨む四脚MTに照準を合わせる。勝てない相手ではない、そう思った時だった。
「レーダーに反応…これは!?」
「悪いが我々は一人や二人で戦っているのではない、企業の犬が一匹で突っ込んで来たところで壁は不動だ」
放物線を描き飛来した砲弾が一斉に着弾、機体の周囲が衝撃波で埋め尽くされる。リペアキットを使っていなければ即死だった、だがそれでもACSへの負荷は無視出来ない領域だ。
「不味い、やられたッ!」
「そのまま死ね、レッドガンのAC」
この時を待っていたのだろう、満を辞して四脚MTの主砲が放たれる。その砲撃は胴体へ直撃し、その衝撃は受け流すことが出来ず内部へと広がった。
「ぐわはっ!」
メインモニタに亀裂が入り、コックピットの内壁が剥がれて飛び散る。剥がれても良いように保護剤が塗布されているためまだマシな損害だが、それでもパイロットスーツの一部を貫通する威力はあった。
「…久しぶりに、リスタートか」
言うことを聞かなくなった機体と自身の身体に死を悟りつつも、操縦桿を握り直す。そしてペダルを踏み込み、アサルトブーストで突っ込んだ。
「だがまだ!」
「いや、これで終わりだ」
二度目の砲撃が機体の装甲を貫通し、パイロットは原型の残らない肉塊へと姿を変えた。そしてゆっくりと進む時の中で、彼は目の前に迫る砲弾を見ながらリスタートを選択した。