ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか? 作:雲呑麺
「オギャ~!オギャ~!」
なんだこれ!?
どうなってんだ!?
何故俺は赤ん坊になっているんだ?!
「お、覚醒したな。『戦闘力』はどうだ?」
男の声……?
てか、戦闘力だと……?
「出たぞ!戦闘力1600だ!」
「おお、生まれた時から1600はかなり有望だな!」
「流石、中級戦士の血筋だな!」
戦闘力に、中級戦士……。
聞こえてくる単語に聞き覚えがあるんだが……如何せん目が見えなくて分からない。
「早く強くなるんだぞ!お前も栄えある戦闘民族『サイヤ人』の一員なんだからな!」
サイヤ人、だと……!?
戸惑いまくる俺を置き去りに時間が過ぎていく……。
その中で否応なしに情報が入ってきて、自分の状況を叩きつけられていく……。
ここは惑星『ベジータ』――巨匠『鳥山明』のレジェンド漫画『ドラゴンボール』に登場する宇宙の戦闘民族サイヤ人の母星……。
そして俺は、そのサイヤ人として生まれた新生児……。
そう、俺はドラゴンボール世界に転生してしまったのだ――。
まるで意味が分からない。
何の前触れもなかったはずだ。
普通に会社から家に帰って、風呂に入って、ビールを飲んで、ネット動画など見て、そして寝た――ちゃんと覚えている。
起きたら翌朝で、会社に行くために歯を磨いて髭を剃って~と身支度するのだと、信じて疑わなかった。
なのに、気が付いてみればコレだ。
破壊神ビルスか誰かの仕業か?
それとも超ドラゴンボールでも使ったか?
そこの真相は謎……解明される気配もない。
そして俺がどんなに転生の謎に悩んでも、周囲は気づきもせず、配慮もしない。
何しろサイヤ人だ。
3歳にもなれば、とっとと戦闘教育が始まる。
教育というより虐待に近いが……。
サイヤ人は生まれてすぐに戦闘力を測定され、数値が低ければ赤ん坊の内に、文明的・戦闘力的に低レベルと認定された星の生命を絶滅させる為、宇宙ポッドで打ち上げられ送り込まれる。
原作の悟空みたいにな。
しかし、俺の初期戦闘力は1600と高い数値……故に中級戦士と認定され、相応の訓練を受けさせられるのだ。
とはいえ、初期のサイヤ人なんて殆どが戦闘狂の脳筋ぞろい……戦闘力は戦ってれば勝手に上がるものだという認識だ。
だから、3歳の俺は訓練用のロボットと戦わされるところから始まった――。
幸いだったのは、転生チートなのかサイヤ人の戦闘遺伝子なのか分からないが、戦い方が自然と分かり、あっさりロボットを倒せたこと……。
俺の前世の記憶にある、ドラゴンボールを始めとした各種漫画や、あれこれ見てきた動画の知識を、すんなり体の動きに反映できたのだ。
勿論、エネルギー弾や舞空術も自然にできたし、いつの間にか『氣』を感じ取る・高める・消すといったコントロール技術まで出来るようになっていた。
オマケに、スカウターの使い方を覚えさせられて何度か使う内に、スカウターを使わなくても氣を感じれば戦闘力の数値をぼんやりとだが割り出せる様になった。
そうして訓練を受けること1年……次第に転生した事に悩むのも忘れ、戦闘力が1800を超えた頃、上役の先輩サイヤ人から言われた。
「おい、“リーク”。お前も明日から『地上げ』に参加だ」
遂に来た、実戦投入の時が……。
ちなみにリークとは俺の名前だ、何の野菜の名前かは分からない。
口には出さないが、正直、地上げなんて嫌だ。
他所の星を侵略して、その星の人間を絶滅させるなんて、元日本人の倫理観が拒絶する行為だ。
俺だって善人なんかじゃない。
嫌がらせを受ければムカついて殴りたくなるし、時にはぶち殺してやりたいと思う事もある。
だが、一方的な侵略や謂れのない暴力に嫌悪感を抱くぐらいの良心はある。
転生して初めて知ったが、サイヤ人の中にも他の星を侵略することを嫌がる『穏健派』的な連中もいるらしく、そういうサイヤ人達は「軟弱者」「サイヤ人の面汚し」等々蔑まれ、出世の見込みのない後方支援というか雑用として冷遇されているそうだ。
しかし、俺は戦闘力の高さからそっちに行く事は許されない……。
もし地上げへの参加を拒めば、最悪期待外れの『裏切者』扱いで殺される可能性もある……。
流石に死ぬのは嫌だ。
だが、地上げも嫌だ。
「よし、逃げよう!」
未練など無い。
強いて言うならドラゴンボールワールドを、孫悟空を中心に巻き起こる冒険活劇を見てみたい気持ちが多少あったが、それを見ようと思ったら地球に行かなければならない。
地球に行けば、やがて『ベジータ』、『フリーザ』、『セル』、『魔人ブウ』、『破壊神ビルス』といったヤバい奴らとの戦いに巻き込まれる恐れがある。
それは流石に荷が重い……。
俺は平穏を望む。
よって、地球やナメック星、そしてこの惑星ベジータから、思いっきり遠い辺境の地球型惑星を目指す!
持ち物は……戦闘服だけでいいか。
『スカウター』は通信機能があって、地球からサイヤ人の宇宙ポッドで1年近く掛かる遥か遠い星まで通信が出来る。
が、それは同時に盗聴にも使える……下手をすると発信機にもなって俺の居所を探されるかも知れない。
そんな危険物は持っていけない。
そもそも氣を感じる事が出来るから、要らないだろう。
なら準備なんか要らない、すぐ出発だ――。
「……よし」
宇宙ポッドの発着所――近くに俺より強い奴はいない。
警備員もポッドから離れた場所で、よく分からないゲームで遊んでいる。
よし、今ならいける!
シャッ!
全力の高速移動で手近なポッドに接近――ハッチ開閉ボタンを押す。
ハッチが開いたらすぐに乗り込みハッチを閉める。
『ん?!お、おい!?何してやがる!?』
警備が気付いたな、だがもう遅い。
発信スイッチポチっとな!
ゴゥン
すぐにポッドが浮き上がり、垂直に宇宙へと飛び上がる――脱出成功!
一先ず、手動で操作して惑星ベジータから全速で離れる。
宇宙ポッドは惑星への墜落同然の着陸にも傷一つ付かない設計になっている。
宇宙を漂う小惑星ぐらいなら砕き散らしながら進める。
「さて、どっちに向かうか……」
ポッドの中で考える。
一応、宇宙図は見てきた。
地球とナメック星の位置は、ぼんやりと頭に入っている。
今は、その2つの星から遠ざかる方向に飛んでいる。
サイヤ人――というかフリーザ軍の地上げの予定と、新宙域開拓(侵略)計画で、どの方位に戦力を送り込むかも情報を仕入れておいた。
なので必然、俺はその計画でまだ予定の組まれていない未開拓宙域を目指すことになる。
宇宙はハチャメチャ広い――サイヤ人の寿命が、(ドラゴンボール世界の)平均的地球人より多少長くて、150~200年ぐらいと見積もっても、そのぐらいなら何とか隠れて暮らせるだろう。
まあ、不測の事態が起きることも考えられるが……そこは考えていたら禿げそうなので考えない事にしておく。
「よし、セット完了っと」
方位をコンピューターに入力し、長期睡眠装置を起動する。
期間は1年――起きた時には、フリーザ軍の観測域から出ているはずだ。
住み良い星が見つかるといいなぁ。
俺はそんなポジティブ思考に身を委ね、長期睡眠に入った……。
ドラゴンボールの参考は漫画及びアニメ『無印』『Z』を基本とし、『超』は破壊神ビルスの名前ぐらいしか出さない予定です。