ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか? 作:雲呑麺
幹部『三首領』との試合――どん尻はフィン団長。
「それじゃあ――いくよ!」
言うや否やフィン団長が素早く距離を詰め槍を突き出してくる。
まあ速いと思うが、余裕で見切れる。
が――狙いが完全に心臓なのと結構な殺気が込められているのはどういうこと……?!
「ッ!」
体を捻って槍の穂先を躱す。
考えずに躱す事を選択したが、素肌ならまだしも、サイヤ人の戦闘服ならもしかしたら当たっても貫けないかも?
「はあッ!!」
裂帛の気合と言うのか、鋭い槍の一閃――今度は頭狙い、いやこれ眼狙いだ、団長エグい。
首を傾けて最小限の動きで回避する。
「ふッッ!!」
想定内と言わんばかりにフィン団長の動きは止まらない。
連撃、連撃、連撃――止まらない。
穂先を避ければ蹴りが、蹴りを避ければ石突が、石突を避ければ柄の薙ぎ払いが――止まらない。
淀みや硬直が殆どない息つく暇も与えないという気迫が込められた怒涛の連続攻撃が――止まらない。
巧みな槍術と格闘の組み合わせ、激しい攻撃だがどこか洗練を感じる。
てか団長、やっぱり俺を殺しに掛かってるよな……?
纏う殺気がどんどん研ぎ澄まされてるんだが!?
「【魔槍よ、血を捧げし我が
攻撃の手は止めずにフィン団長が何か言葉を紡ぐと、その指先が赤く光る。
その赤い光が槍の穂先の様な形になり、団長はそれを自分の額に当てた。
「『ヘル・フィネガス』!!」
次の瞬間、団長の青い眼が赤く変化する。
同時に、団長の氣が跳ね上がる。
戦闘力――150!
「ガアアアアァァァァッッ!!!!」
フィン団長の様子が変わった――歯を剥き出し、喉の奥から吐き出す様な叫び声、そして攻撃は一層苛烈に、直線的になる。
「グガアァァアァァァァッッ!!!」
さっきまでの洗練された戦闘法じゃない――兎にも角にも、俺に攻撃を当ててぶっ倒す事しか考えていない様な猛烈な勢い、まるで猛り狂う獣だ。
「ウオオォォォォォォォッッ!!!!」
ただ……言っちゃ悪いが、これなら別にどうって事ない。
スピードもパワーも格段に上がっているのは間違いない。
しかし、動きは大雑把、攻撃の繋ぎというかそういう部分に隙があって、俺から見ると反撃し放題という状態だ。
これなら俺としては、さっきのフィン団長の方が攻撃し難い印象だ。
それに……。
「ググ、ウガアァァァ……!!グゥッ……アアアァァッ!!!」
どんどん動きが雑に、遅くなっていっている。
額にも汗が滲み、表情にも苦しさが混じり始めている。
氣も段々減っている……。
これは……所謂“ピークが過ぎた”というヤツでは?
限界以上の『界王拳』を使った悟空の様に、或いは“宇宙の帝王”フリーザのフルパワーの様に――どっちにせよこのまま続けるのは危なそうだ!
「よっ」
「グッ!?」
突き出された槍の穂先を指で摘んで止める。
一瞬の硬直――フィン団長が次の動きに移る前に懐に入り、掌底で胸を打つ。
「ガハッ!?」
肺や心臓を傷つけない様に衝撃は貫通させるつもりで打ち込んだ。
残る威力でフィン団長の体が吹き飛び、ルームの壁に激突する。
「う、ぐぅ……!」
壁からずり落ち、膝をつくフィン団長。
氣が大分落ちた……もう激しい気配もないし、さっきの状態は解除されたと見て良さそうだ。
「団長!大丈夫?」
「はぁ、はぁ……あ、ああ、大丈夫だよ……」
声を掛けると、フィン団長は息を吐きながら応えてきた。
「ふぅ、参ったな……『ヘル・フィネガス』まで使って敵わないどころか、槍が掠りもしないとは……」
気落ちはしていないと思う。
フィン団長も、ガレスのおやっさんやリヴェリア姐さんみたく、悔しさとある種の爽快感が混ざった様な複雑な気配が漂っている気がする。
少なくとも、俺と戦った事で自信喪失という事はない――と思いたい。
「礼を言うよ、リーク」
「え?」
突然なんだ?
「久しぶりに全力を絞り出して、どこかスッキリした気がするよ」
「そうじゃな。このところ闇派閥への対応やらギルドからの
「それに何より、私達がまだまだ未熟である事を思い出せたのが大きい。ファミリアの幹部として過ごす内に、いつの間にか自身が高みを目指す事を忘れていたように思う」
フィン団長、ガレスのおやっさん、リヴェリア姐さんが口々に言う。
とりあえず、俺の戦闘力との差を知って、悲観していないなら良かったか。
手を伸ばしても届かないと思ってしまったら、人によっては絶望してしまう事もある……。
その点、フィン団長達はメンタルの強さが現代日本人とは次元が違う様だ。
「よぉし、次はワシの番じゃ!」
なぬ?
「おやっさん、また相撲か?」
「いいや、今度は戦士として挑ませてもらう。得物も技も、使えるものを全て使わせてもらうぞ!」
そう言っておやっさんは斧を手に構える。
「待てガレス。私が先だ」
え?
リヴェリア姐さん?
「何を言っとる?一巡したなら次はワシに決まっとるだろうが」
「年功序列だ。今度は私も、持てるもの全てを使って挑む」
「勝手を抜かすな、高慢ちきエルフ!何度やっても結果は変わらんとほざいとったのはお主じゃろうが!」
「今度は先程とは違う事を試す!貴様こそ及びもつかんと敗北宣言していただろう、野蛮なドワーフめ!」
また軽口……いや、今度はちょい激しいな。
おやっさんと姐さん、下手すると今にも2人でバトり始めそうな雰囲気だ。
「ハハハ、すっかり火が着いてしまった様だね。まあ、2人の気持ちは分かるけど……」
苦笑いのフィン団長の最後の呟きが聞こえてしまった。
いや、でも、第二ラウンドはちょっと……あ!
ゴギュルルルルル~!
「「「!?」」」
「おう!?」
ヤバ……!
急激に腹が減って腹が鳴った!
そして急激に力が抜けていく……!
「あふ……」
うぅ、腹が減って力が出ない……。
悟空の『
「「「……プフッ……アッハハハハハハッ!!」」」
団長達に揃って笑われた……。
「ハハハハ!2人とも!今日はここまでにしよう!」
「ガッハハハ!そうじゃな!」
「プッ、フフフっ!ああ、子供に無理をさせるものではないからな」
フィン団長も、ガレスのおやっさんも、リヴェリア姐さんも……笑いながら言わないでくれよ……。
「ふぅ、想定外に熱が入って思ったより長く時間を掛けてしまったかな。思えば僕も少し空腹を感じるよ」
「うむ、ワシも随分力を使って腹ペコじゃわい!」
「フフ、下品とは言うまい。私も大分
「まあ、リークの力量に関しては測り切れてはいないけどね」
また苦笑のフィン団長だった。
ともかく、その日はそれでお開きとなり、俺達は
団長達から試合の結果が報告され、ロキはかなり驚いていた。
「はあ~、フィンら3人が束になっても敵わんやなんて……リークたん、もしかして“色ボケ”のトコの『オッタル』より強いんと違うか?」
"たん"止めい。
あと“色ボケ”とは何ぞ?
聞けば、試合の前に聞いた話のゼウス・ヘラの両ファミリアを追放に追い込んだもう一柱の女神『フレイヤ』の事だという。
“美の女神”との事だが、ロキ曰く――気に入ったら男だろうが女だろうが、神だろうが他所のファミリア所属の
そいつが率いるファミリアは、うちと並ぶ現オラリオ最大手の1つ――その戦力もうちと同等かそれ以上。
そして『オッタル』とは、現オラリオにおいて最強のレベル6を誇る冒険者だそうだ……。
「そのオッタルって奴、もしかしてバベルの頂上辺りに住んでたりする?」
「んん?バベル……?ああ、なるほどな!確かにあの色ボケ、バベルの天辺に居を構えとったわ!リーク、ホンマのホンマに気配探せるんやなぁ!」
ロキが言うには、バベルの上層階には神の住居スペースがあり、その中でも最上階に女神フレイヤも居を構えているそうで、ファミリアの団長でもあるオッタルは護衛として女神フレイヤの傍に控えている事が多々あるという。
確かに言われてみればオッタルと思しき氣の傍に、微弱だがロキに似た神と思しき氣を感じる。
これが恐らく女神フレイヤなんだろう。
「リーク。参考までに聞くけど、オッタルの戦闘力は幾らだい?」
「そうだなぁ……110ってところかな?」
「110か……なるほどね、流石『猛者』か」
フィン団長は納得したのか、頷いていた。
さておき、今後のこと――
俺は暫く、団長達『三首領』に交代で面倒を見てもらうことになる。
俺の戦闘力については、当面はなるべく隠し、必要な時が来たら発揮するという事に決まった。
何しろ、オラリオというかこの星において俺の戦闘力は桁違い……現在育成中の団員達に悪影響を及ぼす恐れもあるし、下手に周囲に知れると俺の力を巡って只でさえガタガタのオラリオの秩序が致命的に崩壊する可能性もある。
なので、とりあえずは年齢とオラリオの治安問題を口実に団長達が連れ歩くという事にして、俺が団長達の『特訓』の相手をする。
というのも、俺との試合の後、報告ついでに団長達がステイタスの『更新』とやらをしたら、今までにない程の上昇値を見せたというのだ。
ここで補足的にステイタスについて詳しく教えてもらった。
ステイタスの時点でRPGっぽいと思っていたが、『基本アビリティ』『発展アビリティ』『魔法』『スキル』『レベル』と、聞けば聞くほどRPGっぽい……。
上がり方も大体似たようなもの、訓練や実戦を経て強くなり数値が上がっていく訳だ。
今回フィン団長達が上がったというのが基本アビリティ、読んで字の如く基本的な能力値の部分だ。
恐らく、短いながらも圧倒的実力上位者(俺)との戦闘を経て、上質の
これらの結果を元に、俺は密かにファミリアの戦闘教官役に任命される事となり、先駆けとして団長達が先ずステイタスを伸ばす。
その後、団長達から見て信用できる団員を俺と引き合わせ、同じく特訓を行いステイタスを伸ばす。
そうして徐々に俺の戦闘力をファミリア内に浸透させていくと同時に、ファミリアの戦力強化を図る。
一朝一夕とはいかないが、俺というイレギュラー的存在を活用しつつ、俺を仲間として受け入れる為の策としてフィン団長達が考えてくれた。
なら、俺も協力は惜しまない。
俺の力が役に立つ――こんな実感は、前世からこっちずっとなかった事だ。
必要とされるのは、照れくささも感じるが嬉しいものだ。
俺ももうロキ・ファミリアの一員――仲間の為に、出来る事があれば喜んでやろう。