ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか? 作:雲呑麺
俺がロキ・ファミリアに入団し、秘密の戦闘教官に就任してから約二ヶ月が経った――。
この二ヶ月、オラリオは中々騒がしく、我らロキ・ファミリアはメチャメチャ忙しい……。
全部、
闇派閥はこちらの都合など関係なく、所構わず暴れる。
その鎮圧にオラリオの主要派閥は大忙しだ……街は壊れるわ、負傷者は出るわ、戦闘で物資は減るわ、都市の経済は低迷するわ……何一つ良い事がない。
一体何が闇派閥の奴らをここまで突き動かすのか、どうしてそこまでしてオラリオを崩壊させたいのか、俺にはさっぱり理解できない……。
そんな大忙しの俺達冒険者に追い打ちを掛けてくるのが、味方の筈のギルドだから本当にやってられない!
ギルドは都市運営を担う組織で、オラリオの各ファミリアに
やれ闇派閥を暴れさせるな……やれダンジョンから魔石かドロップアイテムを取ってこい……やれダンジョンの未到達領域を開拓しろ……ふざけるなと言うんだ、まったく……!
拒否すれば
皆忙し過ぎるが、特にフィン団長はオラリオ屈指の頭脳と指揮能力から、治安維持の現場指揮から闇派閥への対策会議の纏め役まで担っていて、本当に尋常じゃないほど多忙を極めている……。
そんな中でも、俺との特訓をこなす事でフィン団長とガレスのおやっさんとリヴェリア姐さんは急速にステイタスを伸ばした。
その事を団長達とロキがかなり喜んでいる。
「リークたんが来てから、フィンらのステイタスがめっちゃ上がっとる!こりゃもしかしたら、近い内にランクアップもいけるんちゃうか!?」
だから“たん”止めいと言うのに……ロキはもう……。
まあそうした特訓の傍ら、俺も出来る範囲で団長達の強制依頼を手伝う様にしている。
ダンジョンに潜ってモンスターの魔石やドロップアイテムの採取する仕事なら、俺の戦闘力を役立てられるからな。
大量の魔石や入手困難なアイテムを取って来て実績を重ねれば、ファミリアの評価も上がる。
ギルドもこちらがきっちり強制依頼を果たせば文句は言わないし、散々面倒を押し付けている手前それらを片付けて実績を上げ実力を示せば俺達に強硬な姿勢は取れなくなる。
都市に所属している以上、この柵から逃れる訳にはいかないから、もう正面から乗り越え正攻法で捻じ伏せていくしかないのだ。
しかし……ステイタスが上がり続ける団長達の一方で、俺のステイタスは全然上がらない。
団長達の特訓の相手や強制依頼でモンスターを倒し続けてきたというのに、二ヶ月で基礎アビリティがトータルで“2”しか上がっていない……。
レベルは元々簡単には上がらないものらしいが、何もしていないならまだしも訓練や戦闘を経ても基礎アビリティすら初期値から殆ど上がらないのは前代未聞だそうだ……。
「考えられるとすれば……実力に開きがあり過ぎて、リークには僕達との訓練やモンスターとの戦闘は、大した経験になっていないという事かな」
フィン団長はそう分析していた。
レベルの上がった冒険者が、上層で弱小モンスターをどれだけ倒しても基礎アビリティが上がらないのと同じ状態だと……。
まあ、言っちゃ悪いが……特訓で強くなってきたとはいえ、団長達の戦闘力は平均80程度……サイヤ人の俺からしたら誤差の範囲になってしまう。
そりゃあ大した経験値にならないのも仕方がない……。
ただ、少しだけおかしな点もある――。
俺もこの二ヶ月、何もフィン団長達の特訓相手やモンスター討伐だけしてきた訳ではない。
年齢の面から都市の見回りの役目を免除されている俺は、空いた時間に自分の修業をしている。
ドラゴンボールの技の再現などをメインに戦闘力を上げる為に試行錯誤した。
ただ、
そこで考えた末に、ある画期的な修業法を編み出した。
名付けて『精神世界修業』――元ネタはドラゴンボールのマジュニア、二代目ピッコロがよく修業の時にやっていた、座禅を組んで目を閉じているアレだ。
俺はアレを『氣のコントロールの修業』と『頭の中のイメージによる模擬戦闘』を並行してやっているのではと解釈している。
頭の中に仮想空間を作り、その中で自分と想定する強者と戦う事で戦闘能力を高めているのではないかと……。
それを思い出して自分なりに再現したのが『精神世界修業』――頭の中で極限までリアルにイメージした仮想敵と戦闘を行う事で疑似的ながら戦闘経験を積むのだ。
氣の力を併用した脳内超リアルシャドー、と言い換えてもいいかも知れない。
俺はこれの効果を実感している。
何故なら、精神世界修業を繰り返したことで俺の氣が確かに上がっているからだ。
自分の戦闘力を客観的に測るのは少し難しいが、少なく見積もっても恐らく戦闘力1900ぐらいには上がった筈だ。
上がった筈なんだが……何故かステイタスの数値はちっとも上がらない。
ロキもこんな事は初めてで、原因がさっぱり分からないと言っている。
「う~ん、ホンマ何でや……?ウチの恩恵はちゃんと刻まれとるし、更新をミスっとる訳でもないし……あー!あかんわ!全然分からん!」
結局、原因は分からず仕舞いのまま現在まで来ている。
まあ俺としては、戦闘力はちゃんと上がっている訳だから、仮にこのままずっとステイタスの数値が上がらなかったしても特に問題はない。
ただロキは……眷属のステイタスが一向に上がらない事で他の神から何か言われて面倒があるかも知れないが……。
「そんなんは好きに言わせとくか、しつこい身の程知らずのアホが出たら黙らせればええだけや。問題無いで、リークたん♪」
だから“たん”言うなと何度も……いい加減にしないと
「ぎえぇぇぇ!!??肩と背中と腰と脚が逝ってまうぅぅぅ!!??ギブギブぅーー!!」
『お~!いいぞいいぞ~!』
と、こんな感じにロキ・ファミリアにも大分馴染んだ俺だ。
そうしてロキ・ファミリアの一員として過ごしていた、ある日――。
「ねえ」
「うん?」
日課の精神世界修業をしようと、庭に出て軽く準備体操をしていたら、声を掛けられた。
振り返ると、金髪に金色の眼の美少女がいた。
俺はその子の名前だけは知っていた。
「アイズ・ヴァレンシュタインさんか」
「うん」
俺が名前を呼ぶと、コクリと頷くアイズ・ヴァレンシュタイン……長いファミリーネームだ。
彼女の事はフィン団長達からそれとなく聞いている。
特にリヴェリア姐さんから『一応、歳も近い事だし、良ければ仲良くしてやってくれ』と前に言われていた。
団長達以外からもアイズ・ヴァレンシュタイン――長いし先輩だからアイズさんと呼ぶか、とにかく彼女の事はそれなりに耳にしている。
二つ名は『剣姫』だが、他にもあだ名で『人形姫』とも呼ばれているとか、オラリオにおけるレベルアップ――こっちでは『ランクアップ』と言うソレの最速記録を叩き出した驚異の美少女だとか、2年ぐらい前までかなり荒れていて団長達(特にリヴェリア姐さん)が頭を悩ませていたとか、屋台で売っている『じゃが丸くん』という一種のジャンクフードが好物とか、彼女に酒を飲ませてはいけない絶対の
本拠内で何度か見掛けたことはあったが、色々と忙しくてちゃんと話した事はなかった。
そんな彼女が、俺に一体何の用なのか?
「あなたは、リーク、だよね……?」
「うん、そう。話すの初めてだな。俺に何か用?」
「……あなたは、強いの?」
「んん?えーと……聞き返してごめん。どういうこと?」
「リヴァリアが、言ってたの。『少しリークを見習うといい』って……」
リヴァリア姐さん……子供に対して『誰某を見習え』はあんまりよろしくない言葉だと思うんだが……。
「それに、フィンやガレスとも、よく一緒にダンジョン行く、よね……」
「それは、うん、行くね」
「何だか、楽しそうだった……」
そう言うアイズさんは無表情に近く、どんな感情で質問をしているのかよく分からない。
元々、他人の感情の機微に敏感とは言い難い俺には、難易度が高過ぎる娘だ。
「……さっきの質問の答えだが、俺は、大して強くないよ」
いや、本当に……。
俺の戦闘力は1900程度、悟空やピッコロやベジータは遥か異次元の高み、地球人のクリリンやヤムチャにだって劣る。
この先死ぬまで修業を続けたとして、果たして戦闘力1万に届くかどうかも分からない。
仮に俺が地球に行って、これから起こるドラゴンボールの死闘に次ぐ死闘に巻き込まれたら、一体何回死ぬ事になるか……考えるのも恐ろしい。
生き返れるからオッケー、じゃないんだよ……。
この星の人間を含む生物は……言っちゃ悪いから口には出さないが、ただ俺よりもっと弱いだけだ。
「……私と、戦ってほしい」
「……ナンデ?」
何言ってんの、この娘?
今の話の流れで何でそうなる?!
「ガレスが言ってた……『いつかリークと戦ってみるといい』って」
おやっさーーーん!?
少女に何を勧めているんだ、あのオッサン!?
「私は、強くなりたい……!」
「っ!」
急に感情を見せた。
目の奥にチラっと黒い炎が見えた気がした……これは、憎しみってヤツか?
それで強くなりたい……すぐに連想するのは“復讐”か?
まだよく分からない……。
俺はまだ、この娘を知らないからな……。
なら、今の俺に出来ることは……。
「……分かった」
アイズさんを拒絶しない事――これぐらいだ。
分からないからこそ、逃げない。
まず知るところから、その一歩としてアイズさんからの申し出を受ける。
「じゃ、やろうか」
「……いいの?」
「君が頼んできたんじゃないか」
「そう、だけど……」
「アイズさんがどうして強くなりたいのか、とかはまだよく分からないが、俺と戦って何か少しでも気が済むならいいよ。でも、思った通りにならなくてもそこは勘弁な?」
「……うん、分かった」
頷いたアイズさんは、持っていた剣を鞘から抜いて構える。
俺も一応、両手の指を鉤爪の様に折り曲げ、片方を腰溜めに、片方を縦にして構える。
アイズさんの武器は細身の剣、レイピアというヤツか?
下手に受け止めたりしたら折れそうだな……。
「あなたは、武器、使わないの……?」
「ああ、俺はもっぱら素手」
「危ないよ……?」
「大丈夫、危ないのは慣れてるから」
何しろ、近頃はフィン団長達も自分の得物を遠慮なく全力でぶん回してくるからな。
ていうかそれ以前に、「危ないよ」とか言いながら迷いなく殺傷武器を構える辺り、この美少女も大概ヤバいのでは……?
今更俺が言えた義理ではないか。
「そう……じゃあ、行くよ」
「おう」
「……フッ!」
俺が応えると、一拍置いてアイズさんが仕掛けて来た――。