ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

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※9/22話数を間違えていました。修正しました。


第12話 吹き荒ぶ風―テンペスト―

「やあぁ!!」

 

 素早い踏み込みからアイズさんの細剣の切先が俺の胸目掛けて飛んでくる。

 こんな美少女まで躊躇なく急所を狙ってくるのは本当にどうなっているのか……?

 まあ、避けるが。

 

「ッ!?」

 

 アイズさんの一瞬の硬直――俺は空いたその背中を軽く押す。

 

「ッ、はあぁ!!」

 

 つんのめりそうになるのを踏み止まり、振り返り様に首狙いの斬撃――その軌道から首を傾けて外す。

 

「はあ!やあ!たあぁぁ!!」

 

 袈裟斬り、右斬り上げ、左薙ぎ、逆袈裟斬り、突き……的確な狙い、当たれば相手に致命的なダメージを与える連続攻撃――前世の感覚で言えば紛れもなく“超人”、間違ってもこんな少女が出来る動きじゃない。

 

 だが、フィン団長の槍術より遥かに遅い。

 宇宙の蛮族、戦闘民族サイヤ人である今の俺には、余裕で躱せてしまう。

 

「――!?全然、当たらない!?」

 

 アイズさんが驚きと戸惑いの表情を見せる。

 仕切り直しか、一旦俺から距離を取った。

 

「あなた……本当にレベル1?」

 

「フィン団長達から聞いたのか?それともロキ?」

 

「どっちも……」

 

 ふむ、その辺りはこの娘に隠さなくてもいいっていう判断になったのか?

 まあ、俺としては別に隠す様なことでもないからいいんだが……。

 

「本当にレベル1だ」

 

 基礎アビリティが全く上がらない、という異常はさて置くとして……。

 

「っ、でも……!私より、強い……!」

 

「ちょっと違うな」

 

「え……?」

 

「君が、今の俺より弱いだけ(・・・・・・・・・)だ」

 

「むっ……!」

 

 アイズさんの目に不服の色が宿った。

 強くなりたいと願うなら、弱い事は不服か。

 

「っ、【風よ(テンペスト)】!」

 

「む?」

 

 風?

 それを感じた次の瞬間、アイズさんの体と剣を何かが覆ったと感じた。

 あれも魔法か?

 氣も上がっている――さっきまで戦闘力30ぐらいだったのが、今は50近くまで上昇した。

 

「はあぁぁ!!!」

 

 さっきより速く地面の上を滑る様に突進――足が地面から浮いている。

 あの状態だと舞空術みたいに空も飛べるのか?

 だが、確かに速いが誤差の範囲だ。

 当たる寸前で体を捻って最小限の動きで回避――

 

ブワッ

 

「うおっ?」

 

 突風!?

 飛ばされはしないが不意の事で驚いた。

 

 そうか、これがあの魔法の効果か――風を体に纏う。

 そして攻撃力・防御力・スピードを上昇させるのか。

 

「やあッ!!」

 

「ッと」

 

 驚いた拍子に反応が遅れた――続いた斬撃を、少し慌ててバク転で避けて距離を取る。

 アイズさんはすぐに追い縋って来た。

 

「たあぁぁぁ!!!」

 

 再びの連撃――斬撃と突きの連続攻撃。

 刃を躱しても風が俺を吹き飛ばそうと、或いは引き寄せようと吹き荒れる。

 だが、その風の強さはもう慣れた。

 これぐらいじゃあ吹き飛ばされも、引き寄せられもしない。

 

「ッ!【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

 

 更に風が強まった――気が上がった。

 戦闘力――65、いや70!

 

「はああぁぁぁぁ!!!!」

 

 更に速くなった――おいおい、そんな無理やり戦闘力を上げて大丈夫なのか?

 無理な戦闘力の引き上げは、後で体に反動が来るっていうのがセオリーだぞ?

 

「っ……やあっ!」

 

 案の定、アイズさんの動きがぎこちなくなってきた。

 痛みに耐える様な表情をチラチラ見せながら剣を振ってくる。

 

 これ以上は危険だ――止めよう。

 

「よっと」

 

「ッ!?」

 

 振り下ろされた剣を摘んで止める。

 すかさず剣の鍔部分を蹴り上げ、アイズさんの手から跳ね飛ばす。

 

「あ!?」

 

 更にすかさずアイズさんの腕を掴み、一本背負いで地面に倒す!

 

「くはっ!?」

 

 背中を打ちつけ息を漏らすアイズさん。

 なるべく衝撃を和らげようと、地面に着く寸前で腕を引いたが、上手くいったかな?

 

 おっと危ない――さっき蹴り上げた剣が戻って来たのでキャッチ、流石に無防備だと刺さるからな。

 

「はい、俺の勝ちな」

 

「っ、強い……!」

 

「だから、俺は強くないって。アイズさんが、俺より弱いだけ」

 

 アイズさんに剣を返す。

 

「……もう一回!」

 

 剣を受け取り立ち上がったアイズさんは、すぐに剣を構え直す。

 ここで『今日はここまで』とか言っても、彼女は納得しなさそうだ。

 なら、気が済むまで相手をしようじゃないか。

 

「いいよ。さあ来い!」

 

「っ!うん、行く!吹き荒れろ(テンペスト)!」

 

 

 

 その後、アイズさんは俺に倒されては「もう一回!」を都合8回繰り返した――。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 地面に大の字で寝そべり、顔に大粒の汗を浮かべ、荒い息を繰り返すアイズさん。

 流石に体力も精神力(マインド)もガス欠の様だ

 

「はぁ、はぁ、全然……当たらなかった……!はぁ、はぁ……!」

 

「うん、当たらなかったな」

 

 俺はその傍に胡坐をかいて座り、アイズさんの呼吸が落ち着くのを待っている。

 

「はぁ、はぁ……リーク、本当の、本当に、レベル1なの……?」

 

「ああ、本当の本当にレベル1だよ」

 

「どうして……ふぅ、ふぅ……そんなに、強いの?」

 

「強くはないが、う~ん……」

 

 何と言えばいいかな……?

 変な嘘をつくのもアイズさんに悪い気がする……。

 言える範囲で、って感じか?

 

「俺はとある戦闘民族の出身でね。戦う事が得意なのは、一族の血だな」

 

「血……?」

 

「うん、戦ってばっかりの蛮族の血。碌でもない一族だよ」

 

 そして、やがて滅亡する一族……滅ぼすのはフリーザだが、サイヤ人の因果応報には違いない。

 他者を虐げる強い力はいつか、より強い力で捻じ伏せられるのだ。

 

「アイズさんは、何の為に強くなりたいんだ?」

 

「っ……怪物(モンスター)を、殺すため……!」

 

 また、目の奥に黒い炎……。

 モンスターを殺すため、か……こんな幼い少女が、こんなに深い怨みを抱えるなんてな……。

 

怪物(モンスター)がいるから、誰かが泣く……!怪物(モンスター)の所為で、誰かが悲しむ……!誰かが……死ぬ……!私は、許せない……!」

 

 誰か、か……多分、泣いているのも悲しんでいるのも、アイズさん自身なんだろうな……。

 

「だから……私は、強くなりたいの……!」

 

「……そうか」

 

 これは、俺が口出しできる問題じゃない。

 怨みや憎しみはそれを抱く各個人の心の問題……「気持ちは分かる」なんて軽々しく言ってはいけない。

 「復讐に意味なんかない」とか「復讐の連鎖を生むだけ」とかよく言われるが、それは他人目線の綺麗事だ。

 果たさなければ前に進めない怨みだってあると思う。

 

「じゃあ、先ず生きないとな」

 

「……え?」

 

「生きてないと強くなれないからな。死んだらモンスターだって殺せない。つまり、生きようとする事が強くなろうとする事って訳だ」

 

 我ながら『何言ってんだ?』とちょっと思う……口をついて出た言葉だ。

 だが、まあ、死に急ぐなっていう話を、マイルドに表現したって感じか?

 『死ぬな』より『生きよう』の方が前向きというか……うん、頭がこんがらがるな。

 

グキュルルル~~

 

「「っ!?」」

 

 ええい、こんな時でもマイペースな俺の腹め!

 しかし変にシリアスな空気も壊れた!

 

「……よし!運動して腹減ったからじゃが丸くんでも食いに行くか!」

 

「!じゃが丸くん……!」

 

 よし、乗ってきたな。

 アイズさんはじゃが丸くんが好物という情報が役立った。

 いい感じに黒い炎も鳴りを潜めた、このままの流れでいこう。

 

「そう!食う事は生きる事!つまりじゃが丸くんを食うのも強くなる事に繋がる!」

 

「っ!!美味しくて……強くもなれる……!?」

 

「そうさ!よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む――これが強くなる秘訣だな」

 

 By亀仙人――あの爺さんは良いこと言った、仙人は伊達じゃない。

 

「さっ、善は急げだ!行こう!」

 

「うん、行く!」

 

 アイズさんは仰向けからうつ伏せに体を回して、立ち上がろうと体を起こす。

 それを見て、俺も立ち上がろうとした――その時。

 

「あ」

 

 疲労からかバランスを崩したアイズさんの手が、俺の尻尾を掴んだ――!

 

「イィィーーー!!??」

 

「っ!?」

 

 掴まれ握られた尻尾から高圧電流が走った様な衝撃――全身が痺れる様に、力が抜けていく……!

 

「あが、が、が……!?」

 

「ど、どうしたの……!?」

 

 わ、忘れていた……!

 サイヤ人の、尻尾の、『弱点』……!

 

「ぁ、ぅ、ぅぅ……」

 

バタリ

 

 ち、力が、抜けて……体が、言う事を、聞かない……。

 

「り、リーク!?」

 

 倒れた俺を見てアイズがオロオロしている……が、へろへろになった俺は暫く答える事もできなかった。

 

 完全に忘れていた、サイヤ人の尻尾が抱える弱点――強く握られると力が抜けてしまう事……。

 無印ドラゴンボール最初期の悟空や、Zになって最初に現れた悟空の兄『ラディッツ』も、尻尾を握られると立つ事もできなくなってしまっていた。

 悟空は後に訓練で克服し、ナッパやベジータは登場時すでに克服済みだった事……そしてその後は尻尾そのものがなくなってしまった事から、ほぼ忘れ去られたサイヤ人の生態……。

 

 事実、俺もその事を忘れていて克服せずに置いた結果、この有り様だ……。

 これから訓練するか……それとも、いっそのこと切ってしまった方がいいか……?

 

 

 

 さて、その後の事だが……復活した俺はアイズさん――いやアイズと街に繰り出し、屋台でじゃが丸くんを買って食べた。

 道すがら、多くはないがぽつぽつ話をする内に打ち解け――

 

「アイズで、いいよ」

 

 と、言われたので、以後はそう呼ぶ事にした。

 

 ちなみにじゃが丸くんを俺は10個、アイズは3個食べた……。

 俺を真似してもっと食べようとしたアイズを、必死に説得して3個に留めた。

 しかし数ある味の中から迷いなく『小豆クリーム味』を選ぶとは恐れ入った……。

 じゃが丸くんって、前世の感覚から言うと“肉の入ってないコロッケ”なんだが……お惣菜系なんだが……。

 まあ、好みは人それぞれ。

 俺もいずれ小倉クリーム味に挑戦してみるのもいいだろう。

 

 

 

 更にその後、アイズも俺と特訓をするメンバーに加わる事になった。

 フィン団長達から正式に許可が下りたのだ。 

 

「丁度、僕達の方から引き会わせようかと考えていたところだったからね」

 

「坊主との訓練なら、ダンジョンに潜らせるより安全かつ効率良く経験値(エクセリア)を得られるからのう」

 

「それに、あの娘には歳の近い者との交流が必要だ。戦う事以外にも目を向ける、良い切っ掛けとなるだろう」

 

 この時知ったが、アイズは現在7歳とのこと……今の俺の2コ上だった。

 そう言えば、よく思い出すと少しアイズの方が背が高かったな…………いいや俺はこれから10年が勝負だ!

 

 

 あと余談――

 

 

「痛っ……!」

 

 尻尾の弱点にどう対処するか……結局、尻尾は切る事にした。

 この二ヶ月……というか転生してから今まで色々あって、尻尾に纏わるもう一つ重大な事を忘れていた……。

 

 『大猿』――サイヤ人は満月を見ると、巨大な猿に変身してしまう。

 

 そしてこの星にも、月がある。

 月の光は太陽光が跳ね返ったもの……月に照り返された時のみ太陽光には『ブルーツ波』が含まれる。

 そのブルーツ波が満月になると『1700万ゼノ』という数値を超える。

 1700万ゼノ以上のブルーツ波を、目から吸収すると尻尾に反応して、変身が始まる……!

 

 ちなみに俺は出来ないが……限られたサイヤ人のみ1700万ゼノを超える満月を自ら作り出す事が出来る。

 星の酸素と『パワーボール』という特殊なエネルギー球をミックスする事で……。

 

 ベジータは変身しても理性を失う事はなかったが、悟空は理性を失い、凶暴性を剥き出しにして目に映るもの全てを破壊する怪獣と化してしまった……。

 そして、意図せず育ての親たる『初代孫悟飯』をその手で殺してしまう事に……。

 

 思い出した時にはゾッとした……!

 俺は一応中級戦士と言われていたが、果たしてそれが理性を失うか失わないかの境界なのかは分からない。

 万が一、俺が理性を失った大猿になってしまったら、オラリオが消滅してしまう……!

 

 しかし、尻尾さえなければ万事解決だ。

 大猿になるには、満月と尻尾の両方が揃っていなければならない。

 尻尾を切り落とした今、俺はもう満月を見ても大猿にはならない。

 

 今まで変身せずに済んだのは本当の本当に運が良かった……!

 これからは気を付けなければ……何しろサイヤ人の尻尾は時間が経つと再生するからな。

 

 

 それから、満月の夜の前には尻尾が再生していないかを確認するのが俺の日課となった――。

 

 


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