ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

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第13話 正義の眷属―アストレア・ファミリア―

「――闇派閥(イヴィルス)だぁーー!!」

 

 あー、もう、またかよ……!

 

 ここ一ヶ月、闇派閥がやたらと活発に暴動を起こしている……。

 フィン団長達も、都市の憲兵『ガネーシャ・ファミリア』も、うちの対抗馬であるフレイヤ・ファミリアも……表の派閥の人間達は過労死するんじゃないかというほどの過密労働状態に陥っている。

 冒険者、一般人を問わず死傷者も多数……ほぼ毎日誰かしらが死傷している。

 これでもフィン団長達に言わせると、ゼウス・ヘラの二大ファミリアが都市から去った『暗黒期』初期の頃より随分持ち直しているというんだから、恐ろしい話だ……。

 

 で、ロキ・ファミリアの一員であり、オラリオに暮らす人間の1人である俺も闇派閥との接触は避けられない訳で――

 

「ふん!」

 

「――ガッ!?」

 

 街で暴れる闇派閥構成員に、思いッッ切り加減した飛び踵落としを脳天に叩き落としたりする事になる訳だ……。

 

 都市の巡回にこそ不参加だが、気分転換に散歩に出る事はある。

 そうして出歩いていると、どうしてもどこかで悲鳴や爆発音が耳に入ってしまう。

 聞きつけてしまった以上、見て見ぬ振りは気分が悪いので俺は現場に向かう――近ければ走り、遠ければ舞空術で空から――そして、暴れている闇派閥どもを見つけてはシバき倒している。

 

 こうした闇派閥の被害は地上の都市だけに止まらない……最近では、ダンジョン内で『冒険者狩り』なる襲撃事件も多数起こっている。

 その都度、うちや他のファミリアの団員達が対処に走っているが、幾ら叩いても次から次へと湧いて出てくる……まるで鼠かゴキブリだ。

 

「よっと……全く、キリがないな」

 

 今日は7人……全員戦闘力10~15程度の雑兵だ。

 全員蹴りかパンチで気絶させた後、両肩と両脚を外して動けなくしてからそこらで縄を調達して縛り上げておいた。

 後はガネーシャ・ファミリアかどこかのファミリアの団員が処理してくれるだろう。

 

 俺はとっとと退散退散――。

 

「ん?」

 

 ふと気づく――オラリオに覚えのない氣が2つ……。

 しかし……よく探ってみると変な位置にいるな。

 少し下の方に氣が感じられる……これは、地下か?

 オラリオに地下水路があるとは聞いているが……だとすれば何故そんな場所に?

 

 居場所の不可解さを一旦置いておくとしても……2つの氣の内、1つは戦闘力150、もう1つは戦闘力155はある。

 この大きさの氣は、今までオラリオ近辺にはいなかった。

 冒険者最強だというフレイヤ・ファミリアの『猛者(おうじゃ)』オッタルさえ110、それに次ぐのはミア母ちゃんの100だ。

 ミア母ちゃんは教えてくれないから知らないが、オッタルがレベル6……なら、この2人はレベル7以上なんじゃないか?

 

 そんな奴らが今まで都市内で隠れ潜んでいたとは考え難い……この星には氣の概念がない、よって氣を消す技術もない筈だ。

 もし都市内に元からいたなら、オラリオに来てから何度となく氣を探ってきた俺が気付けなかったとは考え難い。

 となれば、この2人はオラリオの外からやって来た人間である可能性が高い……。

 闇派閥の動きが活性化している今、外からやって来たと思しき正体不明の高い戦闘力の持ち主達……嫌な予感がする。

 

「……これはフィン団長達に知らせておいた方がいいな」

 

 

 

 俺は急ぎ本拠(ホーム)に帰還し、フィン団長達にこの事を報告した――。

 

 

 

「……正体不明の、オッタルを超える戦闘力の持ち主が2人か」

 

 俺の報告を聞き、フィン団長達は一様に眉を顰めた。

 

「……過去の強豪共(オシリス・ファミリア)の例もある。第一級冒険者並みの戦力を隠し持っていた可能性も捨てきれんが、いずれにせよ近頃の闇派閥どもが以前に増して活発に暴れ回る様になった原因は、そやつらという事かのう?」

 

「……もしそうだとすれば、由々しき事態だ。『猛者』はレベル6、それを上回るとなればレベル7以上の手練れという事になる。そのような者達が闇派閥の戦列に加わったとすれば……!」

 

「……これは、闇派閥の一斉蜂起が近いのかも知れない」

 

「「!?」」

 

 フィン団長の言葉に、ガレスのおやっさんとリヴェリア姐さんが目を見開く。

 

「ガレスが言った通り、闇派閥が攻勢を強めている原因がリークが言う手練れ2人が加入した事によるものだとすれば、一連の闇派閥の動きは、一斉蜂起への準備だと仮定すると説明がついてしまう……」

 

「「…………」」

 

 何やら深刻な雰囲気のフィン団長達三首領……。

 秘密の戦闘教官とはいえ新入団員の俺には、あまり多くの情報を共有されていないから、フィン団長が言う『一連の闇派閥の動き』とやらは詳しく知らない。

 街で聞いた噂の限りだと、あちこちで暴動を起こしているとか、どこかの工場が破壊されたとか、どこそこの冒険者が殺されたとか、そんな程度だ。

 

「……もう、あまり猶予はなさそうだ。ヘルメス・ファミリアからの報告次第だが、次の定例会議では、やはりこちらからの『掃討作戦』を提案しよう。リーク、よく知らせてくれたね。礼を言うよ」

 

「いいよ、これぐらい。それより団長、いざとなったら俺も戦うぞ」

 

 今までこそ闇派閥との戦いには駆り出されていないが、必要とあればいつでも戦う準備はある。

 元より俺はサイヤ人、戦いこそ本領発揮の場だ。

 

「……ファミリア団長として、そして冒険者の先輩として、極めて情けない限りだけど……すまない、今は頼らせてもらう。君の力を貸してくれ、リーク」

 

「水臭いこと言いっこなしだ。任せてくれ」

 

 報告を終えて、俺は一先ずその場を後にした。

 

 

 

 それから2日後――

 

 

 

「今日は晴れたか。“炊き出し”にはちょうど良かったかのう」  

 

 俺はガレスのおやっさんと一緒に街に出ていた。

 ギルド主催で冒険者による一般市民への炊き出しが開催される事になり、闇派閥対策としてガレスのおやっさんに会場の警護の強制依頼(ミッション)が来たのだ。

 俺はその手伝い――勿論、他のファミリアからも冒険者は来ているから、それなりの戦力はある。

 

「――感謝をすれば人は幸せになって、感謝される方も笑顔になれる!これが本当のオラリオの姿なのよ!」

 

 やけに通る明るい女の声――見れば、赤い髪をポニーテールに纏めた活発そうな女冒険者がいた。

 

「おやっさん、あれ」

 

「おお、ありゃあ『アストレア・ファミリア』の娘っ子どもじゃな」

 

 アストレア・ファミリア……チラっと聞いた事がある。

 確か、アストレアは正義を司る女神で、その眷属は全員女で『正義の味方』をこれでもかと実践して見せる新進気鋭のファミリアだったか。

 その在り方と結構な実力、更に女神から眷属まで一人残らず美女・美少女ばかりな事から高い人気を博しているとか。

 実力の面で言うと……あの赤髪の娘は戦闘力35ってところか。

 あ、その横にもう1人――長い金髪のエルフがいた。

 尖った耳に青い吊り目、何となく気が強そうな印象を受けるのと……何故か覆面(マスク)で鼻から下を隠している。

 こっちは戦闘力30……アイズと互角ぐらいか。

 

「ずっと塞ぎ込んでいた空も今日はこんなに晴れてる!太陽も一緒にみんなと笑っているわ!だから、私達も灼熱(バーニング)よ!」

 

 ともすれば暑苦しいとも言える赤髪の娘の熱血ぶりだが、不思議と悪い感じがしない。

 おかしいやら微笑ましいやら、とにかく思わず笑ってしまうような暖かさを感じる娘だ。

 

「ハッハッハ、相変わらず威勢のいい娘っ子じゃわい。どれ、挨拶でもしておくかのう」

 

 そう笑うとガレスのおやっさんはその娘達の方に歩いていく。

 俺もおやっさんに続いた。

 

「よお。相変わらず騒がしいな、アストレア・ファミリアよ」

 

「あ、ガレスのおじ様!」

 

 おやっさんが声を掛けると、赤髪の娘が人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「お、おじっ?おじ様っ?……『重傑(エルガルム)』が?」

 

 エルフ娘が目を丸くする。

 おやっさんの事を「おじ様」なんて気安く呼んでいるのが、かなり意外な様だ。

 俺は寧ろ、赤髪の娘の印象とおやっさんの印象から、妙にしっくり来てしまうんだが。

 

「ガレスのおじ様も炊き出しの手伝いに来たの?」

 

「ああ、ロキ・ファミリアからはわしと若いのが来ておる。ま、わしに限って言えば警備だな」

 

「若いのって、その子?」

 

 お、赤髪の娘が俺に気付いた。

 

「ああ、そうじゃ。少し前に入った新入りで、リークという」

 

 紹介されたからには、自己紹介もしないとな。

 

「リークだ。初めまして」

 

「あら!自己紹介には自己紹介を返さなくちゃね!私はアリーゼ・ローウェル!『紅の正花(スカーレット・ハーネル)』の二つ名を持つ、正義の使者!」

 

 なんか急にポーズを決めて喋りだしたぞ?

 

「弱気を助け強き挫く!たまにどっちも懲らしめる!差別も区別もしない自由平等、すべては正なる天秤が示すまま!願うは秩序、思うは笑顔!その背に宿すは正義の剣と正義の翼!――そう!私こそ、清く正しく美しいアストレア・ファミリア団長よ!」

 

「そ、そっすか……」

 

 あれ?

 なんだろう?

 目の前の娘が急激にアホに見えてきた……。

 なんとなく、そう……『ギニュー特戦隊』っぽいというか……。

 

「ふっふ~ん!今日もまた、この格好良さで幼気な少年の心を圧倒してしまったわ!さっすが私!」

 

「アリーゼ……貴女はもう少し正確に現実を捉えた方がいい。あれは、完全に、その……ちょっと“アレ”な人物を見る目です……」

 

 隣のエルフ娘が、困り顔でおずおずと赤髪の娘――アリーゼに訂正を促す。

 なんだかアリーゼには、さん付けとかする気にならんな……雰囲気的に。

 てか、言葉を濁しているがこのエルフ……仲間相手に“アレ”って……。

 

「そ、それにしても!アリーゼは、『重傑(エルガルム)』とは知り合いだったのですか……?」

 

「私が会う度にはしゃいでいるだけよ!そして私が余りにも煩いものだから、ガレスのおじ様も無視できなくなったの!」

 

「大体その通りじゃが、分かっとるなら少しくらい態度を改めんか、馬鹿娘」

 

 その通りなんだ……。

 でも、不覚にもアリーゼの言う事は分かる。

 

「おやっさん、格好良いもんな」

 

「そう!そうなの!おじ様は格好良いのよ!」

 

 うおっと、凄い食いついてきた?!

 

「おじ様は凄いの!暴漢だろうとモンスターだろうとボカンボカン殴り飛ばしちゃって!私はそんな勇姿に憧れたのよ!」

 

「分かる」

 

 ダンジョンで強制依頼(ミッション)を手伝った時に見た、巨大な斧をぶん回すおやっさんの姿は俺の失くしかけていた“少年の憧れ”を揺さぶったものだ。

 

「リークだったかしら!あなたとは気が合いそうね!ガレスのおじ様に憧れる者同士、仲良くしましょうね!」

 

「おう!」

 

ガシ!

 

 俺とアリーゼは自然と同時に手を組んでいた。

 

「ええー……」

 

「何をやっとるんじゃ、お主ら……」

 

 いかん、エルフ娘はアリーゼの方だが、俺はおやっさんに呆れられてしまった……。

 

「わし相手にはしゃぎ回るのは『紅の正花(スカーレット・ハーネル)』くらいのものだと思っとったが、リーク、お主もか」

 

「何とでも言ってくれ。俺はフィン団長みたいな“王子系”より、おやっさんみたいな“重戦士系”に憧れる派なんだよ」

 

「分かるわ!」

 

 アリーゼが満面の笑顔で言う。

 

「私もドワーフに生まれたかったもの!」

 

「………………」

 

 エルフ娘が物凄い微妙な表情を浮かべている。

 

「凄まじいほど微妙な顔をしておるのう、『疾風』よ……」

 

 おやっさんから見てもそうか。

 『疾風』っていうのは、エルフ娘の二つ名かな?

 

「あ、いや、これはっ……その……!」

 

 慌てた様子で弁解しようとするエルフ娘……だが、それより先にアリーゼが語り出す。

 

「ドワーフの大きい体はみんなを庇える!その頑丈な体は、沢山の人を守ってあげることができる!」

 

「!!」

 

 エルフ娘の表情が変わった。

 気付かされた、そんな顔だ。

 

「私がスラっとしたボディを持つ美少女じゃなかったら、世界は悲しんだかも知れないけど、まあそれはそれよね!私より綺麗で可憐な人は一杯いるし、うん、問題ないない!だから、私はドワーフになりたかった!」

 

「アリーゼ……」

 

 エルフ娘は、何か感じ入る様に彼女の名前を呟く。

 

「その理屈だと、ヒューマンもその身軽な脚で誰かを庇えるかもしれんし、エルフもその歌で誰かを救えるかもしれん」

 

「むっ、それもそうね!やっぱり今のナシナシ!私は別にドワーフになれなくてもいいわ!」

 

 前言撤回早っ!?

 おやっさんの言う事は尤もだと思うが、それにしても意見を覆すのが早過ぎないか!?

 

「アリーゼ……」

 

 ああ、エルフ娘の表情と気配がまた微妙な感じに……。

 アリーゼに振り回されまくってるな、この娘……。

 

「フッハッハッハッ!相変わらず面白い娘だ!自信満々で何でも言うくせに、ちっとも発言に責任を持たん!」

 

「違うわ!非があったのなら、すぐに認められる柔軟な発想を持っているだけよ!」

 

「よく言う」

 

 おやっさん、呆れた風に言っているが良い笑顔だ。

 

 実際、こんな調子でもやっぱり悪い感じが一切しないから、アリーゼは不思議な魅力のある娘だ。

 所謂、大物ってヤツかな。

 恥ずかしいから言わないが、俺はこの娘好き(LIKE)だ。

 

「しかし……ドワーフに生まれたかった、か。年甲斐もなく嬉しかったわい」

 

 おやっさんが笑顔のまま言う。

 

「お主の素直な声はやかましいが、確かに『美徳』だ。その調子で1人でも多く笑顔に変えてやれ。炊き出しの方、任せたぞ。リーク、行くぞ」

 

「ああ。じゃあな、アリーゼ。それと、えっと……?」

 

 エルフ娘の名前を聞いてなかった。

 

「ああ、失礼しました。私は、リュー・リオンといいます。アリーゼと同じく、アストレア様より恩恵を賜り眷属となった、アストレア・ファミリアの一員です」

 

「じゃあ俺も改めて――俺はリーク。ロキ・ファミリアの新入り、以後よろしく。じゃあ、またな、アリーゼ、リューさん」

 

 自己紹介を交わし、別れを告げて俺もおやっさんに続いてその場を離れた。

 

 

 

 それから少し経った時――

 

 

 

「っ!」

 

 俺はこの場にそぐわない嫌な氣の接近を捉えた。

 

「どうした?リーク」

 

「嫌な感じの氣が近づいてくる……!」

 

「何っ?」

 

「結構、強いぞ……戦闘力60くらいのが1つ、他にも戦闘力15前後の似たような嫌な氣が5つ!」

 

「ッ!闇派閥か!案内しろリーク!」

 

「こっちだ!」

 

 走る――その嫌な気に向かって!

 この氣の持ち主が闇派閥なら、炊き出し会場の他の冒険者は多分太刀打ちできない!

 そもそも戦闘力を殆ど持たない一般人も多い!

 

 間に合ってくれ――!

 


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