ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

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第14話 殺帝―ヴァレッタ・グレーデ―

「――いやぁああああああああああああああ!!??」

 

 悲鳴――畜生ッ、間に合わなかったか!!

 

「炊き出しなんて、良い香りがするじゃねぇか~。私達も交ぜろよ、ギルドのクソ共」

 

 鈍いピンク色の髪、毛皮付きのオーバーコートを羽織り、見ているだけでムカッ腹が立つ様な嫌ったらしい薄ら笑いを顔に張り付けた女――その足で踏みつけた倒れた血塗れの冒険者の姿が無かったとしても、あからさまに堅気じゃねえ!

 

「クソはてめえだッ!!」

 

「あん?――ゴッッッ!??!」

 

 なんやかんや考える前に、俺は湧き上がる嫌悪感と怒りの衝動に身を任せ、虫唾が走るその女の顔面に飛び蹴りを叩き込んでいた――陥没して少しは見れた面構えになったな!

 勿論、それだけで終わる様な威力じゃない。

 虫唾女は地面から浮いて水平に吹き飛び、先の建物の壁を突き破り土埃の中に消えた。

 

「「「「「ヴァ、ヴァレッタ様ぁーー!!??」」」」」

 

 変な白装束の奴ら――こっちはよく見た闇派閥の構成員、分かり易い恰好をしてくれて実に結構。

 おかげで迷わず間違いなく叩き潰せる!

 

「ふんッ!」

 

「ゴゥッ!?」

「ゲェッ!?」

「ギッ!?」

 

 ボディブロー――顎蹴り上げ――側頭部蹴り――

 

「らあッ!」

 

「ガッッ!?」

「ゴゲッ!?」

 

 脳天エルボー――腹へ飛び蹴り――

 

 それぞれ一撃ずつ――闇派閥の白装束、始末完了。

 掛かった時間は大体1秒ぐらいか。

 

「リーク!」

 

 あ、おやっさんが追い付いてきた。

 

「おやっさん、こっちは終わったよ」

 

「瞬く間か、流石じゃのう」

 

 ニヤリと笑うガレスのおやっさん。

 おやっさんは俺と何度も特訓しているから、俺の実力をある程度知っているからな。

 

「おやっさん、ここ頼んでいいかい?あっちに蹴り飛ばした奴が埋まってるから掘り出して運んでくる」

 

「おう、任せろ」

 

 その場の諸々の対処をおやっさんに任せて、俺はさっきの虫唾女の回収へ向かう。

 

「強く蹴り過ぎたな、こりゃあ……」

 

 ヤツが飛んで行った方向――建物の壁に穴が開き、更に向こうの壁まで貫通していた。

 あまりにもムカッ腹が立ったもので、思わず力が入ってしまった。

 

「あ、いたいた」

 

 やっと見つけた、手間取らせやがって……地面に寝そべっていい気なもんだ。

 顔面は陥没して血みどろでもう原型を留めていないが、土埃に塗れてはいても服装と髪色と髪型でさっきの虫唾女だと分かる。

 ピクピクと僅かに動いているから、死んではいない。

 死んでもいいんじゃないかと思うが、闇派閥の野郎共が『ヴァレッタ様』なんて呼んでいたからには、それなりに上役の人間なんだろう。

 尋問でもすれば情報を搾り取れるかもしれない。

 この世界にも『ポーション』という、『仙豆』みたいな便利な回復アイテムがあるから、死んでなければ回復させることが可能な筈だ。

 

 俺は虫唾女――ヴァレッタとやらの足を掴んで引き摺りながらガレスのおやっさんのところに戻った。

 

「ただいま~」

 

「おう、戻ったか――ッ!?そやつは!?」

 

 引き摺って来た虫唾女(ヴァレッタ)を見て、おやっさんが目を剥く。

 

「おやっさん、この虫唾女知ってるのか?」

 

「……虫唾女か、ハッ、言い得て妙じゃな。面は潰れておるが、その髪と恰好で分かる。その女はヴァレッタ・グレーデ。『殺帝(アラクニア)』の二つ名を持つ、長らくギルドのブラックリスト筆頭に名を上げ続けた闇派閥の最高幹部の1人じゃ」

 

「へえ……」

 

 こいつが闇派閥の……もう2・3発蹴り入れておいた方がいいか……?

 

「こいつは大手柄じゃぞ、リーク。こやつを捕縛できたとあれば、闇派閥の動きを大幅に鈍らせる事が出来るかもしれん」

 

「じゃあ早速ギルドに持っていく?」

 

「そうじゃな、頼めるか?お主なら万が一もあるまい」

 

「おう、任せてくれ」

 

 おやっさんにその場を頼み、俺は舞空術で虫唾女をギルドに運ぶ。

 

『ざわ、ざわ……!』

 

 飛びながら、街がざわめいているのを感じる……。

 血みどろの女を足掴んでぶら下げながら空を飛ぶ小さな子供――そりゃあ注目・二度見必至だろう。

 俺としては別に構わない。

 いつまでも隠していたらまともに動けないし、今は急ぎだ。

 ただ、こういう特殊な技能を持つ団員を抱えているという点で、フィン団長やロキに面倒がいくのは不本意ではある……。

 俺の方で出来る対策でもあればいいが、正直、思いつかない。

 

 そうこう考えている内に、中央広場(セントラルパーク)を抜けてバベルの入り口に到着――着地して、ギルドの受付に向かう。

 

「おーい!誰でもいいからちょっと来てくれー!」

 

「き、君は……!確か、ロキ・ファミリアの……!」

 

 受付にいた職員が俺に気付いた。

 

「ああ、新入りのリークだ。闇派閥の幹部っていう女を捕まえたから運んできた」

 

「や、闇派閥の!?ま、待ってくれッ!――おーい!誰か!大至急ギルド長にこの事を伝えろ!!あ、あとガネーシャ・ファミリアにも連絡をッ!それとアダマンタイト製の枷とブラックリストの資料を持ってこいッ!」

 

『は、はいッ!』

 

 ギルド職員達がバタバタと駆け回り始める。

 

「り、リーク氏!す、すまないがこのままここで待ってもらえるだろうか?!」

 

「うん?ああ、そういう事か。心配いらない。こいつは俺が捕まえておくから。『重傑(エルガルム)』のおやっさんに任されてるから信用してくれていいよ」

 

「か、感謝するっ!」

 

 

 

 その後、ギルドの最高責任者――白髪メタボエルフ爺の『ギルドの豚野郎(ロイマン・マルディール)』がその憎たらしい腹を揺らしながら現れ、虫唾女(ヴァレッタ)の姿を見て目を剥き、ギャーギャーブーブー喚き散らして五月蠅いから聞き流してやった……。

 

 続いてフィン団長とうちのファミリアの団員達、それにガネーシャ・ファミリアの団長で青髪クールビューティーの『シャクティ・ヴァルマ』さんが団員達を引き連れて登場――虫唾女を引き取ってもらった。

 ガネーシャ・ファミリアが管理する地下牢獄にぶち込んで厳重に拘束し、これから尋問にかけるそうだ。

 

「本当によくやってくれたよ、リーク。闇派閥からこの女を引き離せたのは極めて大きな功績だ」

 

 そう言って褒めてくれたフィン団長だが、虫唾女を見る眼の奥に何か赤黒くヤバめの光が迸っていた気がした……。

 

「後の事は、僕やガネーシャ・ファミリアに任せておいてくれ……」

 

 その謎の凄みにちょっと引いた……あんなフィン団長は、初めて見る。

 

 

 

 ともあれ、虫唾女の事はフィン団長とガネーシャ・ファミリアに任せ、俺は炊き出し会場に戻りガレスのおやっさんと合流した。

 会場の被害は軽微――虫唾女を蹴り飛ばした後、散発的に闇派閥の構成員が暴れた様だが、すぐに鎮圧されて怪我人は少々出てしまったが死者は無し。

 炊き出しは続行され、日が暮れるまで活気ある風景が続いた――。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 地下牢獄にて……。

 

「ぅぅ……こ、ここ、は……?!」

 

 ポーションによってリークから受けたダメージを回復させられたヴァレッタ・グレーデ……。

 辺りを見渡し、自身が捕縛され投獄された事をすぐに悟った。

 

 そして、次の瞬間――

 

「――やあ、ヴァレッタ。お目覚めの気分はどうだい?」

 

「――ッ!?フィン!?」

 

 鉄格子の向こう側……魔石灯によって薄っすらと姿を見せたのは、ロキ・ファミリア団長フィン・ディムナ――ヴァレッタにとって最大の怨敵であり、尋常ではない執着を見せる相手でもある。

 

「会えて嬉しいよ。君とは、こうして1対1でじっくり話がしたいと思っていたからね」

 

「……はッ、あたしもだぜぇ、フィン~。てめえのその澄ました面を、じっくり嬲りてぇといつも思ってたぁ……!」

 

 自身が捕縛されている事を忘れているかのように、ヴァレッタは顔を歪ませ、狂気的な笑みを浮かべて口を動かす。

 内心には、自身の策謀への自信があった。

 

(ドジ踏んじまったが、まあ仕方ねえ……。あたしがいなくても例の作戦発動の手筈は整ってる……!騒ぎさえ起きちまえば、こんなトコ逃げ出すのは訳ねえ……!勝ち誇ってられるのも今の内だぜぇ~……フィン~……!最後に笑うのは、このあたしだからなぁ~……!!)

 

 そう思っていた――しかし、次の瞬間にはその表情は凍り付く事になる。

 

「……は……?」

 

 ヴァレッタが見たもの……それは、赤く、鈍く、鋭く輝くフィンの瞳だった。

 

「おや?どうかしたかい?ヴァレッタ……」

 

「て、てめぇ……その眼……!?」

 

「眼?ああ、これかい?フフ……“(あいつ)”との特訓の成果、かな?」

 

 フィンは、その瞳を度外視すれば一見穏やかに微笑んでいるように見える。

 しかし、ヴァレッタは明らかな恐怖を感じていた……。

 

(な、何故だ……!?こいつの『魔法』は、発動すれば能力(ステイタス)を激上させる代わりに、碌な判断が出来ねえ凶戦士に成り下がる……知性も何もないただの獣になる筈の代物だ!なのに……なのに!何故こいつはいま理性を保ったままでいやがるッ!??)

 

「“あいつ”との中々苛烈な特訓を経て、近頃は魔法(コイツ)をある程度制御できるようになってな……。それから初めて知った事だが……どうやら、怒りが突き抜けると魔法(コイツ)を使用しても、逆にかろうじて理性を保ってしまうらしい」

 

 フィンは自分の額を突きながら、至って平坦な口調で説明する。

 

「こうしてお前を目の前にして……今、相当にキている(・・・・)ようだ。自分でも驚いている。()がこんなにも、身勝手な激情持ちだったなんてな……。今日までお前をこの手で捕えられなかった、自分の無能を棚に上げて……()はお前を血祭りに上げたい。今日までお前らが奪い、踏み躙って来た命の分を……兆倍にして報復したい……!」

 

(こいつ……!理性を保ちながら……狂ってやがるッ!?)

 

 フィンから発せられる、凍える様な冷徹さと、底知れぬ狂気と、焼け焦げる様な憤怒をその身に叩きつけられ――ヴァレッタは魂の奥底から湧き上がり抑えられない恐怖に、その体を震わせ始めた。

 

 やがてフィンは、槍を手にゆっくりと立ち上がり、鉄格子の鍵を開け檻の中に足を踏み入れる。

 

「情報なんか吐かなくていい……寧ろ、1秒でも長く、今まで通りのお前でいてくれ、ヴァレッタ」

 

「ッ!?く、来るなぁ……!?来るなぁあああああああああああああ!!??」

 

「その方が……()も遠慮なく嬲れる」

 

 

 

「――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれぇ?ヴァレッタちゃん……?………………え、マジで?」

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 


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