ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか? 作:雲呑麺
「ヘルメス・ファミリアの調査で、
闇派閥幹部『
先だって開催された表派閥の主要メンバーが一堂に会する
作戦案が決議されるに至った要因として、ヘルメス・ファミリアが闇派閥の本拠地と思しき地点を探り当てた事が一つ……そして、あの虫唾女を捕えた事が一つ……。
「ゼウスとヘラが君臨していた頃から、闇派閥の参謀役として暗躍していた『
そう言って肩を竦めたフィン団長から、何か背筋が冷えるものを感じたので、詳しく聞くのは止めておいた……。
とにかく、後手に回り続けてきた闇派閥との抗争――その流れがこちらに傾きつつあるとして、この機を逃さず一気に攻勢に打って出るという訳だ。
判明した拠点は3ヶ所――それを俺達ロキ・ファミリアが1ヶ所、フレイヤ・ファミリアが1ヶ所、そしてアストレアとガネーシャの二派閥混成部隊が1ヶ所ずつ担当し、一気に強襲・制圧する。
この拠点判明が罠である可能性も考慮して、ヘルメス・ファミリアを初めとした都市に存在する有力派閥全てに協力を要請し、都市全体に警戒網を敷く。
この戦局を決定づける重要大作戦――その中で俺は、フィン団長から別の任務を頼まれた。
それは作戦当日、前に俺が報告していた戦闘力155と150の奴らを探し出し、必要とあれば無力化して捕える事――団長が言うには、定例会議で他のファミリアからその2人と思しき人物の存在が報告されたそうだ。
1人は生粋の戦士……たった1人で他派閥の混成ながら第二級冒険者を揃えた守備隊を瞬殺・全滅させ、超硬金属アダマンタイトで作られた工場の壁を純粋な“力”のみで破壊する手練れ……会議で見積もられたその戦士の実力は、レベル6以上……。
もう1人は魔導士、或いは魔法剣士だと思われる正体不明の女……ガネーシャ・ファミリアが『
「その2人がリークの見立て通りの戦闘力の持ち主だとすれば、僕達は勿論、オッタルですら太刀打ちできない相手になる。更に、その2人がもし闇派閥に与しているとして、いずれかの部隊の前に立ち塞がったとすれば、この作戦は最悪の形で失敗する事になる……」
今のオラリオに、俺以外にその2人に対応できる戦力がいない。
その2人が固まっているにしろ、分かれたにしろ、作戦当日にどこか俺達以外の部隊に遭遇してしまったら……その部隊は返り討ちに遭い、最悪全滅する事も考えられる。
都市の主要派閥のどこかが落ちたとなれば、その戦力的欠落を闇派閥に突かれ、オラリオが一気に瓦解しかねない……。
そうならない為の俺だ――。
「引き受けてくれるね、リーク」
「任せてくれ、フィン団長」
団長とそんな会話をした時、俺は妙な高揚感を感じていた。
大きな戦いになる……そんな事を望む気質は持っていなかった筈だが、やはりサイヤ人の性なのだろうか?
ともあれ、その日から作戦に向けて準備が進められた。
闇派閥にこちらの動きを悟られない様に細心の注意を払い、武器・防具の整備やポーション類の調達に団員達が都市を巡った。
勿論俺も、このサイヤ人パワーを活かして、準備を色々と手伝った。
そして時間は過ぎ……俺達は、作戦当日を迎える――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夕刻……都市の外れにて……。
「……なあ、アルフィアよ」
「……なんだ、ザルド」
人目に付かない路地の裏で、1人の男と1人の女が佇んでいた。
男の名はザルド、かつてオラリオに君臨したゼウス・ファミリアの幹部にしてレベル7、『暴食』の二つ名を持つ戦士……三大
女の名はアルフィア、同じくかつてオラリオにゼウスと並び君臨したヘラ・ファミリアの幹部にしてレベル7、『静寂』の二つ名を持つ魔導士……閉じた目、輝くような銀の髪、身に纏う黒のドレス、一見すれば美しき令嬢の姿……しかし、その実態は『才禍の怪物』『才能の権化』と謳われ、ザルドと同じく三大
そんな人類最強クラスの強者である2人は、今、揃って額から汗を流し、緊張に身を強張らせていた。
「今から馬鹿げた事を言う……鼻で笑ってくれて構わん」
「奇遇だな……私も馬鹿げた事を考えていたところだ」
「そうか……。じゃあ言うぞ……今、目の前に、ガキの姿をした『化け物』がいる……!」
「……笑えん話だな。私も、同じことを考えていた……!」
「……そうか、同じか」
「ああ……同じだ」
最大級の警戒……2人の視線の先には、1人の小柄な少年の姿があった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
作戦当日、空が夕陽で赤く染まる頃……フィン団長達が作戦の為に部隊を展開し始めている中、俺は任された別任務で都市の外れの裏路地に来ている。
そこにいたのが、目的の戦闘力155と150の奴ら――銀髪で黒いドレスを着た美女と黒い全身鎧の大男……少し驚いたが、戦闘力が高いのは女の方だった。
空から見つけてすぐに高速移動で背後に立ったが、奴らは瞬時に俺の存在に気付き同時に振り返った。
そして俺を見て奴らはすぐに臨戦態勢に入った。
かなりの緊張と警戒……どうやら勘もいい様だ。
俺は特に氣を消したりはしていなかったものの、その反応速度は中々のもの……かなりの修羅場を潜り抜けてきたと見た。
残念ながら、確かにフィン団長達では歯が立たなかっただろう。
俺が来て正解だった。
さて……凡そ確定だとは思うが、一応聞いておくか。
「聞くが……あんた等、闇派閥に与する者か?」
「「……っ」」
沈黙と微かな反応……それはもう肯定だよな。
「……だとしたら……」
と、女の方が口を開いた。
「だとしたら……どうする?」
はい、確定――。
「こうする」
シャッ!
高速移動で2人の背後へ――
「――ッ!?【
先ず女の後頭部に蹴りを入れる。
すかさず――
「――ッ!?なん――ごおッッッ!!??」
宙で体を捻って大男の後頭部にも蹴り――
ドサァ!
ドサァ!
ほぼ同時に吹き飛び、うつ伏せに倒れる2人。
「へえ」
ちょっと感心――この2人、直感か何か知らないが、そこそこ力を入れた俺の蹴りに微かに反応してみせた。
女は回避――何か叫ぼうとしつつ屈んで避けようとしたし、男は防御――衝撃に耐えようと体に力を入れていた。
結構長く特訓しているフィン団長達でも中々反応できないのに、初見で反応するとは……!
と、感心している場合じゃない。
さっさと確保を――
「……ッ、ぐぅ、くッ……!」
「……ぅ、ぐ、ぉッ……!」
マジか!?
2人とも起き上がろうとしている!
加減し過ぎたか?
それとも、この2人が想像以上にデキる奴らだったか?
いやいや、だから感心している場合じゃない!
「ふんッ!」
「ぐはッ……!?」
「がはッ……!?」
起き上がろうとしたところ悪いが、それぞれ首筋に肘を叩き込んで意識を刈り取る。
念の為、少しの間様子を見ていたが、今度こそ気絶した様だ。
思ったより手こずった。
2人の気絶を確認してから、フィン団長から預かった最硬金属『オリハルコン』製の鎖を体に何重にも巻き付け、同じくオリハルコン製の枷を両手両足に嵌めて拘束――これで任務完了だ。
「よし、後はこいつらをギルドに届けて……」
俺もフィン団長達の元へ行こう――そう考えた時だった。
ボォォン……!
「なんだ!?」
遠くの方で爆発音が聞こえた。
すぐ空に昇り、辺りを見回すと、少し遠くに黒煙を上げている場所を見つけた。
あそこは確か……今日の作戦で襲撃を仕掛ける地点の1つだ!
担当しているのはガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアだった!
闇派閥の抵抗か!?
こちらの作戦の中に、制圧後に敵拠点を爆破する予定はなかった筈だ!
どうする!?
俺も行った方がいいか!?
でも、拘束したとはいえ戦闘力の高い女と大男を放っておく訳にも……て、運べばいいだろ!
突然の事で混乱して判断が遅れた。
すぐ降りて、拘束した2人を両肩に抱え上げ、再び空へ――しかし。
ドォォン……!
ボォン……!
ドカァン……!
「な、何ッ!?」
再びの爆発――今度は一度ではない、まるで連鎖する様に次々爆発が起こる!
しかも、都市のあちこちで!
「な、なんだ……!?何が起きているんだッ!?」
思わずその場に止まってしまう……。
宙に浮く俺の眼下で、都市が、炎と黒煙に包まれ始めた――。