ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

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 ダンメモ『アストレア・レコード』は凄いです……。


第16話 絶対悪―エレボス―

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

「――何ぃ!?ザルドとアルフィアが捕えられただとぉ!?」

 

 爆発音が響くオラリオの一角にて、男の叫び声が響く。

 男の名はオリヴァス・アクト、乱れた白髪、狂気的な瞳、死者の如く白い肌をした『白髪鬼(ヴェンデッタ)』の異名を持つ闇派閥の幹部である。

 

 闇派閥の一斉蜂起作戦が開始され、炎と悲鳴に包まれるオラリオを眺め上機嫌だったオリヴァスだが、部下からの報告でその表情を一変させた。

 

「馬鹿なッ!?奴らは揃ってレベル7だぞ!?今のオラリオに奴らと渡り合える戦力はなかった筈だろうが!!」

 

「そ、それはそうなのですがっ……ど、同志からの報告では、確かに拘束されたザルド様とアルフィア様が運ばれて行くのを見たと……!」

 

「馬鹿な……そんな馬鹿な……!?」

 

 盛大に顔を顰め、狼狽えるオリヴァス。

 先の同志である『殺帝(アラクニア)』ヴァレッタ・グレーデの捕縛に続き、今回の作戦最大の切り札であったはずの、元ゼウス・ファミリアのザルドと元ヘラ・ファミリアのアルフィア……今回の一斉蜂起の引き鉄でもある最強の援軍の、まさかの捕縛の報……。

 都市を崩壊させ闇派閥が勝利を収める為には、都市全域に配置した“人間爆弾”と元々の闇派閥の戦力だけでは足りなかった。

 多少の傷を強いる事は出来ても、やがて戦況を立て直され、結局最後は屈強の冒険者を抱えるオラリオ側が勝利、闇派閥(自分達)は敗走する――その総力戦の前提を覆すのが、闇に下ったかつての最強であるザルドとアルフィアだった。

 彼らならば、現オラリオ最強の『猛者(おうじゃ)』をも打ち倒す事が出来る――だからこそ、“あの邪神”の『脚本(シナリオ)』に乗ったのだ。

 

 しかし、今、その『脚本(シナリオ)』の土台が崩れた……。

 元々の総力戦の前提が復活してしまう……。

 

「お、オリヴァス様っ!我々はどうすれば……!?」

 

「ッ!狼狽えるな!」

 

 オリヴァスは自身の狼狽を押し込め、部下に檄を飛ばす。

 

「例え奴らが捕らわれようが、我らのやる事は変わらん!!――殺れ!1人でも多く!!オラリオに真の絶望をもたらすのだ!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 持ち直した闇派閥構成員達が周囲に散り、破壊と殺戮を繰り広げ始める。

 オリヴァスは1人、思考を巡らせ自身を落ち着けた……。

 

(そうだ、まだ負けてなどいない!あの邪神(かみ)の『脚本(シナリオ)』において、地上の蹂躙など前戯に過ぎん!真のオラリオ崩壊の策は、既に動いている!!)

 

 その時、都市全体を震わす衝撃と、炎より遥かに強烈な光が周囲を照らした――。

 

 それは光の柱……それは『神の送還』――地上に降りた神は、人間に等しい地上での肉体が死を迎えると、神の力(アルカナム)の光の柱によって天界へと送還される。

 そして、一度地上から送還された神は、二度と地上には降りて来られない。

 

 光の柱、神の送還は更に続き、その数は計九柱……。

 それは、地上の冒険者達から『神の恩恵(ステイタス)』が消失する事を意味する。

 どれほど名を馳せた強者であろうと、恩恵を失った冒険者はもはや只の無力な人間……。

 

 容易く蹂躙できる――!

 

 

 

『――聞け、オラリオ』

 

 

 

 神の送還に続き、都市に響き渡る声――それは不可視の威圧を孕む、邪神の宣誓。

 

 

 

『――聞け、創設神(ウラノス)。時代が名乗りし暗黒の名のもと、下界の希望を摘みに来た』

 

 

『【約定】は待たず、【誓い】は果たされず。この大地が結びし神時代の契約は、我が一存で握り潰す』

 

 

『全ては神さえ見通せぬ最高の【未知】――純然たる混沌を導くがため』

 

 

『傲慢?――結構。暴悪?――結構』

 

 

『諸君らの憎悪と怨嗟、大いに結構。それこそ邪悪にとっての至福。大いに怒り、大いに泣き、我が惨禍を受け入れろ』

 

 

『――我が名はエレボス。原初の幽冥にして、地下世界の神なり!』

 

 

『冒険者は蹂躙された!脆き神の恩恵を失い、いとも容易く!』

 

 

『神々は多くが還った!自身の安泰を過信する余り、耳障りな雑音となって!』

 

 

『貴様等が『巨正』をもって混沌を退けようというのなら!我らもまた『巨悪』をもって秩序を壊す!』

 

 

『告げてやろう。今の貴様等に相応しき言葉を』

 

 

 

『――脆き者よ、汝の名は『正義』なり』

 

 

 

滅べ、オラリオ。

 

――我らこそが『絶対悪』!!

 

 

 

 それは、闇の勝利宣言――。

 

 

 

「……くふふッ、そうだ、もう止められん!止められるものかあ!!オラリオの崩壊は、もう既に始まっているのだあ!!フハハハハハハハハハッッ!!!」

 

 オリヴァスは、目前に迫った勝利に酔いしれ、高らかに嗤い続けた――。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 夜が明けた……。

 

 本当ならフィン団長達が闇派閥の拠点を潰して、凱旋して、いよいよ闇派閥を追い詰めるぞと士気を上げていたはずだった……。

 

 なのに……結果はどうだ?

 都市は燃え、冒険者も一般人も、とんでもない数が死んだ……。

 

 あの夜の邪神の宣言で、闇派閥は何故か一時撤退……。

 

 昨日俺が捕えた銀髪の女と大男は、既にフィン団長達の手に引き渡した。

 地下牢獄の最奥に、見張りを付け厳重に投獄されていると聞いた。

 その時に知ったが、銀髪の女は『静寂』のアルフィア、大男は『暴食』のザルドといい、8年前に追放されたヘラ・ファミリアとゼウス・ファミリアの幹部だった奴ららしい。

 どちらもレベル7……大方の見立て通り、立ち塞がれば俺以外は勝てなかった。

 フィン団長やガレスのおやっさん、リヴェリア姐さんは驚きと共に『大手柄』と俺を褒めてくれた。

 

 だが、俺は喜ぶ気にはなれなかった……。

 あの都市の惨憺たる様を見てしまっては……。

 

 炎に包まれた都市、響き渡る爆発音と悲鳴、そこら中に転がる冒険者や住民達の死体……思い出すと頭の中がグチャグチャに掻き乱される……。

 

 闇派閥が退いた今、あちこちで生き残ったファミリアの団員達が懸命に救助活動をしている。

 フィン団長から教えてもらったが……昨日の掃討作戦、俺達は罠に嵌められていたらしい。

 拠点が判明した事から仕込みだったのか、どこかから作戦が洩れたのかは分からないが、襲撃した拠点で闇派閥の信者達が『火炎石』という一種の爆弾で自爆攻撃を行い、こちら側に多数の死傷者が出てしまった。

 特にガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアの合同チームに被害が大きく、ガネーシャ・ファミリア団長のシャクティさんの妹『アーディ』さん、そしてアストレア・ファミリア団長のアリーゼが重傷を負い、一命は取り留めたものの現在も治療中……。

 

 そんな中、闇派閥は俺達を休ませない様に都市のあちこちで散発的な襲撃を繰り返し、その度にどこかの派閥が出撃しなければならず、じわじわと追い詰められている状態に陥っている……。

 

 更に追い打ちを掛ける様に、どこからか湧いて出た闇派閥の軍勢が都市を包囲した――。

 

 なのに、昨夜の戦火を恐れ、都市外に逃げ出そうとする住民達が門に詰めかけ、ギルド職員や冒険者が対応に追われ、闇派閥と住民達の板挟みに……。

 

 

 

 その現状を打開する為、俺はフィン団長から、都市の外を包囲する闇派閥の殲滅を任された――。

 

 

 

「うおおおおおおおッッ!!!」

 

ズガアアァァァァァンッッ!!!

 

『ぎゃああああああああッッ!!??』

 

 気功波の連発――技名など無い、只管オラリオの市壁の外を取り囲む、闇派閥の軍勢を薙ぎ払う攻撃!

 都市の外はほぼ建物がなく、また立っている人間は闇派閥のみ――被害を気にする事なく気功波の技が使える!

 

「ひぃぃ!??ば、化け物だぁああ!!」

 

「お前らにだけは言われたくねえ!!ばッ!!」

 

ズガアアァァァァァンッッ!!!

 

『うわああああああああッッ!!???』

 

 エネルギー波で前方に広がる闇派閥の軍勢を爆破――サイヤ人中級戦士のナッパが地球で街を消し飛ばしたり、悟空との戦いで使用した、俗に『クンッ』などと呼ばれる無名の技だ。

 威力は加減したが、この一撃でこの辺りの闇派閥の輩共はこれで殲滅できたようだ。

 

「よし、次!」

 

 舞空術で移動――闇派閥の奴らは都市の門の前に部隊を配備し、逃げ出そうとする住民達を狙う。

 

 更に、手が回り切らない市壁の上からも爆弾や魔法を撃って、門の内側に詰めかけた住民達と冒険者を翻弄する。

 

 だから俺は移動のついでに、そいつらも片付ける――!

 

「だりゃあッ!!」

 

「ぐああッ!??」

「げはあッ!??」

「ごああッ!??」

 

 市壁の上の奴らは、肉弾戦で排除する。

 爆弾や魔法を撃つアイテム『魔剣』に誘爆すると、市壁が崩れて内側の誰かに瓦礫が当たる恐れがあるし、何より不必要な混乱を招く。

 

 たった1人での連戦――実のところ、この采配は有難かった。

 

 昨夜、こちらの作戦を逆手に取られ、都市を破壊され、冒険者や住民が殺され……あの光景を見せられてからずっと、俺は腹の底が煮える様な苛立ちに苛まれ続けていた。

 

 こうして普段抑えているパワーを幾らか解放して暴れさせてもらう事で、少しは苛立ちを解消させてもらえる……。

 フィン団長がこれを狙ってたかどうかは知らないが、とにかく俺は感謝している。

 団長達の役にも立てて、俺の憂さ晴らしにもなる――一石二鳥だ。

 

「だから――」

 

 精々、派手に吹き飛んでくれ、闇派閥共――!!

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 リークが都市外の闇派閥を蹴散らしている一方、都市中央バベルの一室にて……。

 なし崩し的に都市の総司令官的役割を担うフィン、その主神ロキが現状を整理しつつ、敵の狙いを思案し、対策を協議していた。

 

「敵はオラリオを包囲していた。だが、リークのおかげでその包囲網は瓦解寸前。状況が落ち着けば、援軍も見込めるし、補給路も復活する。港街(メレン)に民衆を避難させる事も叶う」

 

「ああ、下手すりゃあウチ等が『兵糧攻め』、或いは『籠城戦』を強要されるところやった」

 

「負傷者の看護に、瓦礫の撤去、食料の調達……やるべきことは山積みだが、このままいけば持ち直せる。懸念事項だった、不安感を募らせた民衆についても、今を乗り切れば何とか暴発の危機は回避できそうだ」

 

「極限状態の負荷(ストレス)ほど怖いもんはない、か。なんも打開策がなかったら、最悪は民衆の錯乱(パニック)か暴動か……守るべき(モン)に後ろから刺される~なんて洒落にならんで、ホンマに……」

 

 そう言って肩を竦めるロキだが、その表情は未だ厳しさが抜けない。

 

「港街の方も何とかしようとしとるみたいやけど、今んとこ全部闇派閥に潰されとる。いざとなったら、リーク派遣するか?」

 

「するとしても、それはこっちが片付いてからだね。まだまだ気が抜ける状況でもない」

 

「せやな。んで、そのこっちの事やけど……闇派閥の奴ら、戦力差を理解しとるからか、それとも巨大都市(オラリオ)を包囲すんのに手勢の大部分を割いたからか、今んとこ内側(こっち)へ派手に攻撃してこん。それは正直、助かるっちゃあ助かるんやが……」

 

「――どうにも敵の目論見(・・・)が見えてこない」

 

 敵の首魁は邪神エレボス――この大抗争の筋書(シナリオ)を書いたのは、あの男神であるのはほぼ間違いない。

 しかも、最強のゼウス・ヘラ両ファミリアの生き残りであるザルドとアルフィアを引き連れて……リークによって2人が初手で捕られられるという想定外こそあったものの、これら絶対的戦力と『原初の幽冥(エレボス)』の智謀知略があればこそ、ここまで大規模な一斉蜂起が決行された。

 

 そして、都市に大きな損害を与える事には成功した――が、現状の成果はそれだけでしかないとも言える。

 

 一時的に劣勢に立たされたものの、オラリオは徐々に態勢を立て直しつつある。

 

「……敵の狙いは十中八九、バベルだ」

 

「せやな、ダンジョンの『蓋』たる神塔(バベル)を落として、モンスターを地上に流出させる……大方、そんな腹積もりやったんやろ」

 

「ああ。それがオラリオを崩壊させるには、最も手っ取り早い。あの大抗争の日、敵方の動きから言ってもそれは間違いない筈だ。あの夜、闇派閥が攻め込まなかった理由としては、ザルドとアルフィアを欠くという想定外の事態があったからだろう。神の連続送還によって、多くのファミリアが瓦解し、オラリオは窮地に立たされた……が、僕らロキ・ファミリアもフレイヤ・ファミリアも主戦力は悉く健在。レベル7の戦力を失った闇派閥には、そこからとどめを刺しにいく事は出来なかった。ヴァレッタという頭脳を失い、決定力の核たるザルドとアルフィアをも失い、闇派閥は撤退を余儀なくされた……今もなお、現状は刻一刻と僕らの有利に傾きつつある――にも拘らず、敵は消極的ながら攻勢を維持し続けている」

 

 敵の現状分析から浮かぶ不可解な行動……フィンは何か情報の見落としがあるのではという考えが拭えなかった。

 

(神の遊戯(ゲーム)だと言われればそれまで、と言う事もできなくはないが……エレボスは敗色が徐々に濃くなっている現状を理解できない程、思慮の浅い男神(おとこ)には思えない。ザルドとアルフィアを欠いても尚……この盤面を覆す『何か』があるのか……)

 

 

 

 結局この日、フィンも決定的な解答を導き出せず、都市は闇派閥の散発的な襲撃に耐える形で一日を終えた……。

 

 しかし、状況は確実に好転している。

 その日の内にリークの手により、都市外を包囲していた闇派閥は殲滅され、補給路が復活した。

 ヘルメス・ファミリア及びデメテル・ファミリアが中心となり、不足していた物資が幾らか供給され、民衆の不安も一時的に和らいだ。

 

 また、これは一部への朗報になるが、アストレア・ファミリア『紅の正花(スカーレット・ハーネル)』アリーゼ・ローヴェル及びガネーシャ・ファミリア『象神の詩(ヴィヤーサ)』アーディ・ヴァルマが重傷状態から回復――戦線に復帰し、各ファミリアの士気が盛り返した。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 


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