ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

18 / 25
 何とか書けた……。
 文章とはなんて難しい……。

※誤字報告をいただき、誤字修正いたしました。
あんころ(餅)様、ご報告ありがとうございました。


第17話 超克の時―オッタル―

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

「……想定外、と言わざるを得ないなぁ……」

 

 オラリオの地下深く、闇の中……邪神エレボスは頭上を眺めながら呟く。

 

「やれやれ……とんだ茶番になってしまったか」

 

 頬杖をつき、溜め息をつく。

 燻ぶっていた闇派閥(イヴィルス)を焚きつけ大抗争を引き起こし、オラリオに戦火を撒き散らし、一応は同胞である神さえも送還(殺害)し……そして、辺境に隠れ潜んでいたかつての覇者達を説得し引き込んでまで事を起こした。

 

「……ザルドとアルフィアには、悪い事になってしまったなぁ……」

 

 しかし、大抗争初日でザルド・アルフィアは“謎の圧倒的存在”によって捕縛され、二日目には都市を包囲させた闇派閥の兵も同じく“謎の圧倒的存在”によって全滅……。

 結果、都市の補給路は復活し、時間が経てば援軍すら見込めるまでに戦局を巻き返された。

 

 『絶対悪』を標榜した闇派閥の一斉蜂起……最初の勢いは何処へやら、今では戦力も半分以下にまで減少し、エレボスが来る前と同様の散発的かつ小規模の遊撃(ゲリラ)戦を仕掛けるのがやっとの状態……。

 

 それでもどうにか闇派閥が士気を保っているのは、最後にして最大の一手(・・・・・・・・・・)が今尚進行中だからである。

 

「……当初の予定から大幅にズレたが、今更、止める選択肢はない。例え道化に成り果てたとしても、最後まで走り抜けようじゃないか……それが俺の責任だ」

 

 エレボスの呟きは、闇の中に消えていった……。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 また一夜が明け、都市は緊張が解けない朝を迎えた……。

 

 度重なる闇派閥の襲撃も『勇者(ブレイバー)』フィンの采配の下、各派閥の冒険者達により撃退され、戦況はオラリオ側のやや優勢と言える程度に巻き返している。

 また、少しずつ物資が補充され、避難民への炊き出しなども行われ、民衆の不安も若干ながら緩和されている。

 

「…………」

 

カツ、カツ、カツ……

 

 そんな中、オラリオの地下牢獄へと続く階段を筋骨隆々の巨漢、猪人(ボアズ)の男が1人降りていた。

 現オラリオ最強の冒険者、フレイヤ・ファミリア団長『猛者(おうじゃ)』オッタルである。

 その表情は、普段に増して険しく、苛立ちを隠せていない……。

 

 歩みを進めた先……牢獄の最奥、最上級危険犯罪者を投獄する為、鉄格子から壁面、天井に至るまで超希少にして最硬を誇る金属オリハルコンで造られた檻の前で、その足は止まる……。

 

「……ああ、ようやく知った顔が来たな」

 

 その中にいたのは、鎧のまま鎖で幾重にも縛り上げられたゼウス・ファミリア幹部『暴食』のザルド……。

 

「出来れば戦場で会いたかったが……久しぶりだな、クソガキ」

 

「ザルド……!」

 

「――煩い」

 

 その声が聞こえたのは隣の牢――ザルドと同じくオリハルコンの牢に捕えられていたアルフィアだった。

 

「存外心地よい静寂に身を委ねていたというのに……耳障りな荒い鼻息を響かせおって……」

 

「アルフィア……!何故、お前達が……!」

 

「俺達が何故ここにいるか、か?そんなくだらん事を聞きに、わざわざこんな穴倉の奥まで来たのか……?」

 

「……!『陸の王者(ベヒーモス)』の戦い、そして『黒竜』の戦いを最後に行方を暗ませ、死んだとまで噂されていたお前達が、何故今になって……」

 

「亡霊にでも見えるか?俺もアルフィアも足は付いているぞ?」

 

「……わからん」

 

「何がだ?」

 

「俺には学がない。しかし、それを差し引いてもわからない……。かつては隆盛を極め、都市を守ってきた眷属(お前)達が、何故今になって唐突に姿を現し、闇派閥につきオラリオを脅かそうとしたのか……。その矛盾は……一体なんだ!!?」

 

「…………」

 

「おいおい……何かと思えば、本当にくだらんな。この期に及んで、敵の動機など知って何になる?知らなければ、この先戦えないとでも抜かす気か?……何たる惰弱、何たる脆弱。派閥は違えど、お前の『泥臭さ』を俺は評価していたが……見込み違いだったか」

 

「……っ!」

 

 自身の問いにアルフィアは沈黙を、ザルドは溜め息を返す……その姿に、歯噛みするオッタル。

 

「……まあいい。今更だ、暇つぶしに語ってやろう。俺の、俺達の矛盾とは、今のお前に抱いた様に――全て『失望』の延長だ」

 

「失望、だと……?!」

 

忌まわしき神々(ゼウスとヘラ)の増長を許し、この現世に甘い幻想(ゆめ)を見せた。ならば、眷属たる俺達に一端の責任はあるだろう。だから……その幻想ごと潰そうと思い至った。このぬるま湯の様な神時代を、ふやけ腐り果てたお前ら冒険者どもを、終わらせようとな……」

 

「く……!」

 

 オッタルは気圧された。

 鎖と枷に拘束され、檻に入れられている筈のザルドとアルフィアから発せられる、衰えを感じさせない最強の眷属のオーラに……。

 

「ふん、つくづく惰弱、とことん脆弱……話は終いだ。失せろ、クソガキ」

 

「ッ……最後に問う!お前達を捕えたのは何者だ!?」

 

「「――ッ!」」

 

 最後と称したオッタルの問いに、主に会話に応じていたザルドのみならずアルフィアさえも強い反応を見せた。

 

「今の話を差し引いても、お前達が自ら降ったなどあり得ん!お前達を!かつての最強をっ!降したのは一体誰だッ!?」

 

「……やはり“アレ”はあの女神(フレイヤ)の眷属ではないか」

 

 そう呟いたのはアルフィアだった。

 

「……ザルドとの問答で凡そ察しは付いていたが……これだけ情報が規制されている様子を鑑みるに、あの小僧(パルゥム)が噛んでいるな。となると、ロキの眷属か……」

 

(パルゥム……フィン……ロキ・ファミリア……!)

 

 アルフィアの呟きから、オッタルは昨日の事を思い出す。

 都市の市壁の外を包囲していた闇派閥の軍勢が、半日にも満たない時間で殲滅され、オラリオの補給路が復活した。

 それはロキ・ファミリア団長『勇者(ブレイバー)』フィン・ディムナの策と“切り札”によって成功したと公表されたが、その策と切り札の詳細は伏せられていた……。

 

 フレイヤ・ファミリアは基本的に、主神である女神フレイヤに心酔し、忠誠を誓う女神至上主義の戦闘集団……団員は精強の強者揃いであるが、情報収集能力はそう高くない。

 更に策謀に長けたフィンとギルドが速やかに情報統制を行った結果、オッタル達は都市外で起こった闇派閥殲滅戦の詳細な情報を掴めていないのである。

 

 しかし今、アルフィアが呟いた事で、僅かな情報が繋がりを見せた。

 

(フィンが隠す切り札……それがザルドとアルフィアを捕えた……それもたった1人……!)

 

 思い至った事柄にオッタルは身を震わせる……。

 

 8年……いやそれ以上の過去になるが、オッタルはザルドとアルフィア、その両方に敗北している。

 傷一つも付けられず蹴散らされ、死の淵すら彷徨い、その屈辱を糧に自身を鍛え抜き、強くなった。

 しかし、戦士としての勘が告げている……レベル6に昇った今の自分でも、目の前にいる男と女に劣っていると……戦えば敗北必至であると――。

 

 そんな2人を生かしたまま捕える――それには、2人と互角の実力では足りない。

 更に上の、圧倒的な力がなければ実行不可能……。

 

 そんな人間が、知らぬ間にオラリオに存在していた――。

 

「――ッッ!!!」

 

 瞬間、オッタルは血が沸騰する様な灼熱を感じていた――それは憤怒、自身を焼き焦がさんばかりの激怒。

 

 知らぬ間に、自身を上回る者が存在していた――。

 知らぬ間に、自身を上回る者など存在しないと信じ込んでいた――。

 

 いつしか敗北の泥に塗れていた過去の事実を、ただの過去の記憶へと風化させていた――。

 いつしか屈辱と感じていたはずの『最強』の二文字を、漫然と受け入れていた――。

 

 何たる思い上がり……!

 何たる恥知らず……!

 

 己はいつからこれ程までに腐り果てたのか――!

 

(――今、かつてない程にッ、己が憎い!!)

 

「……どうした?猪……血が零れているぞ」

 

「――ッ!!」

 

 ザルドに言われ、オッタルも気づく。

 舌に感じる血の味、両の拳に感じる鈍い痛みと滴る血の熱……。

 

「この『空気(かおり)』……分かるぞ、今のお前の『状態(あじ)』が――お前、怒っているな?俺が今まで目にしたことがない程に」

 

 ザルドは、相対する存在の状態を味覚や嗅覚を通して感知できる。

 レアスキル『神饌恩寵(デウス・アムブロシア)』――自らの二つ名『暴食』の文字通り、獣・人・モンスターなど万物を食らうことでスキルの発動中、自身の能力を向上させる。

 長年に渡り、あらゆるものを食らい、悪食を極めた事で身に付けた異能である。

 

「そんなに俺達を己の手で捕えたかったか?それとも、語ってやった俺達の動機が癇に障ったか?」

 

「――黙れ……!」

 

「何?」

 

「御託は、もういい……!」

 

「……?」

 

「御託だと?……何を言っている?」

 

 オッタルの絞り出す様な声に、ザルドは怪訝な表情を浮かべる。

 隣の牢で沈黙を保っているアルフィアでさえ、オッタルの言葉に微かな反応を示した。

 

「ザルド……お前の御託に、投げかける俺の言葉など、無いと言っている……!もし、問う事があるとすれば、それは――」

 

 オッタルは目を見開き、ザルドに指を突き付ける。

 

「――ザルド!その鎧の下、どこまで侵されている?!」

 

「――っ!」

 

 今度は、ザルドが目を見開く番であった。

 

 投獄されているザルドが、鎧姿そのままである理由……端的に言えばそれは、強者への恐怖ゆえである。

 捕縛当初、リークによって意識を刈り取られていたものの、いつ目覚め暴れ出すか分からない恐怖から、ザルドを拘束するオリハルコンの鎖を緩められなかったのだ。

 アルフィアも同じく……。

 

 そしてオッタルが言う、ザルドの鎧の下――肉体は、とある地上最強の『猛毒』に侵され、蝕まれていた。

 

 『黒竜』との敗戦以前に行われた、三大冒険者依頼(クエスト)の一角『陸の王者(ベヒーモス)』の討伐……ザルドは、その大戦の中でベヒーモスの『猛毒』に侵されていた。

 先述のザルドのレアスキル『神饌恩寵(デウス・アムブロシア)』――強大なベヒーモスに勝利する為、ザルドは猛毒を司る巨獣の肉を、全てを蝕み、全てを溶かし、全てを殺す古の怪物の毒肉を、直接食らった。

 それにより能力を増強したザルドの渾身の一撃でベヒーモスは討てたものの、大きな代償が残った。

 取り込んだベヒーモスの毒肉は、呪いの如くザルドの肉体を内から腐らせ、蝕むようになり、ザルドは後の戦線離脱を余儀なくされた……。

 

「お前もだ、アルフィア……!“あの病”、癒えてはいまい!」

 

「――っ!」

 

 アルフィアもまた、閉じていた目を見開く。

 

 アルフィアは生まれた時から大病を患っていた。

 それは恩恵を得ても改善できず、寧ろとある『悪種(スキル)』として発現し、より悪化する結果を招いた。

 『才禍代償(ギア・ブレッシング)』――ステイタスの常時限界解除(リミット・オフ)を約束する代わり、交戦時及び発作時、『毒』『麻痺』『内臓機能障害』を始めとした複数の『状態異常』を併発し、発動中は半永久的に能力値(アビリティ)、及び体力・精神力の低下を伴い続ける……文字通り、逸脱した才能の代償……。

 魔法や道具を駆使しても決して癒える事のなかった、アルフィア唯一にして最大の制約……。

 アルフィアもまた三大冒険者依頼『海の覇者』リヴァイアサン討伐の立役者であるが、その大戦により、病状を悪化させるに至った。

 

 スキルの内容も相俟って極秘情報となっているこれらの事実を知る者は、現在のオラリオではごく僅か……オッタルの他、フィン・ガレス・リヴェリア達ロキ・ファミリア『三首領』など、8年以上前のオラリオを知り、ゼウス・ヘラの両ファミリアに挑み続けた古参にして上位の冒険者に限られる。

 

「お前の言った通りだ、ザルド……!俺は、腐り果てていた!ここに来て、お前達に相対するまで……俺は、惑い、苛立つばかりで、いつしか停滞を受け入れていた己に気付きもしなかった!!今も俺は弱いまま!!こうして再び、お前達を立ち塞がらせた(・・・・・・・・・・・)、この身が憎い!!」

 

 それは悔恨……或いは、慟哭……。

 かつて目標とし挑み続けた先達に失望を抱かせ、その手で護り続けた都市(故郷)に牙を剥くを決意させた――

 

「なんたる惰弱!なんたる脆弱!――俺は!お前達の失望以上に、俺の『無様』を呪う!!」

 

「……それで?」

 

「だからこそ!!俺の歩む道は変わらん!!」

 

「それは?」

 

「お前達を超える!!」

 

 それは宣誓――壁を乗り越え、限界を打ち砕き、前人未到を踏み越える――弱者(挑戦者)の咆哮。

 

「俺は最早、俺に立ち止まる事を許さん!!この身が燃え尽きるまで!!高みに昇り続ける!!」

 

「ほざいたな――俺達に一度として勝てなかった(わっぱ)!生涯負け続けてきた畜生め!!」

 

 オッタルの魂の叫びと、ザルドの強者の咆哮がぶつかる。

 

「そうだ!今までもこれからも、俺は数多の屈辱と敗北の『泥』に塗れる!身の程など弁えず壁に挑み続け、倒れては土の味を噛み締めながら何度でも立ち上がる!!俺は『泥』を、『礎』に変える!!『超克の礎』に、変えてのける!!」

 

「やってみせろっ、クソガキがぁ!!吐いた唾は飲めねえぞ!!吠えたからにはその身をもって示せ!!『勝者は敗者の中にいる』と、証明してみせろぉ!!」

 

「ああ!見せてやる!!――見届けるがいい!!英雄どもよ!!」

 

 オッタルは踵を返し、振り返る事なく、牢を後にした――。

 

 

 

 そして、地上への階段の前に来た時――

 

 

 

「……フィン、ガレス、リヴェリア……」

 

 そこにいたのは、ロキ・ファミリア三首領……その面持ちは、揃って険しい。

 

「ここまで響いていたよ、君の咆哮がね」

 

「……好きにしろ。俺は進む――進み続ける」

 

「ああ」

 

 オッタルは階段(・・)を昇っていく――その場に残ったフィン達もまた――

 

「進むさ、俺達(・・)も」

 

「いつまでも立ち止まっておれるものか」

 

「ああ、停滞はもう十分だ」

 

 同じく階段(・・)を昇る――。

 

 地の底から『高み』を睨みつけながら――。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。