ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

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 なんとか間に合った、というか間に合わせました……。

※10/3誤字報告を頂き、誤字修正いたしました。
牛乳魔人様、ご報告、ありがとうございました。


第18話 迷う正義―リュー・リオン―

 都市の外を包囲していた闇派閥を全滅させた次の日……俺はフィン団長から休息を言い渡された。

 

「あれだけの大仕事を任せてしまったからね。都市の巡回などは気にしなくていい。ゆっくり休んでくれ」

 

 そう言われたものの……正直、やる事がなくなって逆に落ち着かなくなった。

 

 だからという訳ではないが、俺は街を歩いていた。

 勿論、ちゃんと団長に許可をもらった上でだ。

 

「…………」

 

 街は、まだまだ酷い状態のままだ。

 建物は壊れ、瓦礫が散乱し、ガネーシャ・ファミリアを中心に冒険者が忙しなく行き来している。

 正しく戦争中の街の風景……思わず気分が滅入りそうになる。

 落ち着かないからと街に出たのは失敗だったか……。

 

「……ん?ここは……」

 

 ぼうっと歩いていたら、俺はいつの間にか工業区に来ていた。

 住宅や商店とは建物の種類が違う。

 だが、壊れているのは同じ……。

 

「……そういえば、この辺りだったか」

 

 あの掃討作戦の襲撃地点の1つ……正確にどの建物かまでは分からないが、作戦前に見せてもらった地図と今見えているバベルの位置から考えて、確かこの辺りだったはずだ。

 思い出すと、裏を掻かれ都市を火の海にされた悔しさが蘇る……。

 

「……あれ?」

 

 ふと、近くから覚えのある氣を感じた。

 

「この氣は……確か、アリーゼと一緒にいたエルフの……」

 

 リュー・リオンさん、だったか。

 種族が違う所為か、氣の波長が結構違うので覚えやすかった。

 都市の巡回にしては1人でいる様だが、何をしているんだろうか?

 

 少し気になったので、俺はリューさんの方へ向かった。

 そこは焼け焦げ、崩れかけた工場……その中にリューさんの氣がある。

 やはり、リューさん以外にこの工場に人はいない。

 

 入ってみると中も外と同じくボロボロ、微かに焦げ臭さが残っている。

 瓦礫を踏み越え、リューさんの氣を辿って奥へ進む――と、薄暗く広い空間に、リューさんが1人佇んでいた。

 

「……アリーゼ……アーディ……」

 

 微かに呟きが聞こえた。

 アリーゼの名前に……アーディって、確かガネーシャ・ファミリア団長のシャクティさんの妹さんだったよな。

 重傷を負っていたが、治療の甲斐あって昨日の内に回復して戦線に復帰したと聞いたが……。

 今考える事ではないが、重傷が1日で治るって凄いな……ポーションや治癒魔法も一種のチートだと思える。

 

 さて、どうしよう?

 恐らくは自分の意志で1人でいるのだと思うが、果たして放っておいてあげた方がいいのか……それとも一声かけた方がいいのか……。

 

ガラ

 

 あ、しまった……!

 

「っ!誰だ!?」

 

 くそ、足元の瓦礫が崩れてしまった……こうなっては仕方ない。

 

「……俺だよ、リューさん」

 

 逃げ隠れする意味もないので、素直に出ていく。

 

「貴方は……ロキ・ファミリアの……」

 

「ああ、リークだ」

 

 何となく勘だが、彼女が余り近寄ってほしくなさそうな気がしたので、一定距離を取って止まる。

 

「……何故、こんなところへ?」

 

「それは俺も聞きたいところなんだが……まあいいや。フィン団長から、休んでていいって言われてね。やる事が無くて落ち着かないから街を歩いてた。で、偶然この近くを通ったら、リューさんの氣を感じた。こんな場所で1人でいるのが気になって、様子を見に来た」

 

「……そう、でしたか」

 

 どうにも、リューさんに覇気がない。

 元々活発な性格でもなさそうだが、それを抜きにしても前に見た時より雰囲気が弱弱しい。

 アストレア・ファミリアは掃討作戦で敵拠点の1つを担当していた……そして裏を掻かれ、闇派閥(イヴィルス)の一斉蜂起を許し、団長のアリーゼも重傷を負った……。

 

 今でこそ戦況は持ち直しているって団長が言っていたが……リューさんは、自分達のミスだと悔やんでいるのかな?

 

「「…………」」

 

 こ、困ったぞ……何を話せばいいのか分からない。

 襲撃チームに参加していない俺が、団長達から聞いた話だけで作戦の時の事を蒸し返すのも如何なものか……。

 かと言って場違いな話も出来ないし、そもそも俺に気の利いたトークなんて無理!

 

 ここは強引でも、このまま立ち去るのが無難か?

 

「……貴方が、『殺帝(アラクニア)』を捕えたと聞いた」

 

 と、思ったらリューさんの方から話しかけてきた。

 立ち去るのは止めだ。

 

「まあね」

 

「その幼さで、レベル5の『殺帝(アラクニア)』を捕えるとは……凄まじい、そして素晴らしい働きだ」

 

「どうも」

 

「しかし……貴方の功績を称える声は、殆どない……」

 

「ん?ああ……」

 

 確かにあの一件、俺があの虫唾女(ヴァレッタ)を蹴り飛ばしてひっ捕らえた事は公には伏せられている。

 混乱を避ける為に、フィン団長がギルドに手を回して情報規制をしたと聞いている。

 あと俺が高速で動いて虫唾女も闇派閥の奴らも倒したから、一般の人々には何が起きたか分からなかったというのもあるらしい。

 情報規制について、表立って俺の功績を称えられない事を団長に謝られたが、俺は別に気にしていない。

 

「貴方のおかげで、あの炊き出し会場での被害は大きく抑えられた。闇派閥の襲撃を許して尚、死者が出ずに済んだ……。それだけ大きな功績を上げたのに、然るべき賞賛を得られないなんて……貴方は、不服ではないのか?」

 

「いや、別に」

 

「っ!ど、どうして……?!」

 

「いや、だって、うちのフィン団長やガレスのおやっさん、それにリヴェリア姐さん達は認めて褒めてくれたしな。それに、あの後、炊き出しも無事に続けられたんだろ?だったら俺はそれで十分さ」

 

「っ!!…………貴方は、高潔なのだな」

 

「は?」

 

 俺が高潔……?

 

「貴方は、賞賛よりも民衆を守れた事を誉れとしている……!それは、正しき“正義の在り方”だ!」

 

「んん~……?」

 

 なんだ?

 正義?

 一体、リューさんは何を言っているんだ?

 

「幼くして正義を体現する貴方に比べ……私は……」

 

 暗がりでも分かるほど、リューさんの顔が暗く落ち込んでいる……。

 これは、何かあったな……多分『正義』云々に関わる何かが……。

 アストレア・ファミリアの主神である女神アストレアは、『正義』を司る神だと聞いている。

 だからか、うちのロキはアストレア様を嫌っているとも……。

 

『あんなやつ様付けなんかして呼んだらあかん!』

 

 とか、最初ロキに言われたな……。

 それは置いておくとして。

 

「……リューさん、何かあったのか?」

 

「っ、そ、それは……」

 

「俺で良ければ話ぐらい聞くぜ?まあ、聞いたからって大した事は言えないが……誰かに話すだけでも、少しは気分もマシになるかもよ?」

 

「……っ……」

 

「勿論、無理にとは言わない。ファミリアの問題で、他所のファミリアの人間には言えない事もあるだろうしな」

 

「っ、い、いえ、ファミリアは関係ない!これは、私個人の問題で……」

 

「そうなのか。で、話す?止めとく?」

 

「…………」

 

 俯くリューさん。

 かなり言い難そうだ……これは相当根の深い悩みか……。

 

「…………聞いて、貰えますか……?」

 

「!――おう」

 

 そして、徐に、ポツポツと……リューさんは語った。

 

 事の始まりは、この大抗争が始める前の事――

 

 リューさんはアリーゼと都市を巡回中、スリに遭った男神に出会う。

 スリはそこに駆け付けたガネーシャ・ファミリアのアーディさんの手で捕縛――されたかと思えば、アーディさんは二度と悪事を行わない事を条件にスリを解放した。

 初め、リューさんはその行為に納得がいかなかったという。

 罪を起こした者には相応の報いがあって然るべき、そうでなければ周囲に示しが付かず、秩序が乱れる――それがリューさんの意見だった。

 

 それに対してアーディさんは――

 

『……リオン。私はさ、君が言っていることは強い人だから言える事だと思う』

『私達が“正論”を言えるのは、私達が力を持ってるから』

『だからじゃないけど……リオン、赦すことは『正義』にならないかな?』

 

 そう訴えた。

 しかしリューさんは、何かを感じたものの、その場で答えは返せなかった。

 

 その時、スリの被害に遭った男神が声をかけてきた。

 助けられた礼を言い、自らを『エレン』と名乗り、そしてアストレアの眷属であるリューさんに興味を示してきた。

 神エレンはリューさん達を賞賛する一方で、その“正義の在り方”を、まるで観察するような態度を見せる。

 

――潔癖で高潔。しかし未だ確たる答えはなく。まるで雛鳥。正しく在りたいと願う心は誰よりも純粋――

――こんな時代に、(リューさん)達がどう考え、どう染まるのか。そして、どんな『答え』を出すのか――

 

 悪意もなく、敵意もなく、見下してもいない……だがリューさんは、神エレンの捉えどころのない態度に奇妙な不快感を抱いた。

 

 そんな神エレンとは、また後日出会うことになる――

 

 それは、またリューさん達が巡回を行っている最中の事――再開早々に剽軽な態度を取った神エレンだったが、唐突にこんな事を聞いてきた。

 

――その巡回は、いつまで続けるのか?――

 

 その質問の意図を図りかねたリューさんが尋ね返すと――

 

――君達は毎日オラリオの為に無償の奉仕をしている。では、君達が奉仕をしなくなる日は、いつなのか?――

 

 そう改めた神エレンの問いに、リューさんは思うまま『悪が消え去り、都市に真の平和が訪れるまで』と答えた。

 

――君達の『正義感』が枯れるまで、ではないのか?――

 

 そう聞き返され、リューさんは明らかな不快感を抱いていた。

 明確ではなかったが、その時にはもう『この神は自分達の行いを否定している』と感じていたそうだ。

 

 そんな神エレンは言葉を止めない。

 

――見返りを求めない奉仕とは、きつい。自分から言わせればすごく不健全で、歪、だから心配になった――

――君達が元気な内は、いいかもしれない。しかし、もし疲れ果ててしまった時、本当に今と同じことが言えるか?――

――君達が儚く崩れ落ちた光景を目にした時……とても悲しくて、そして禁断めいた興奮を抱くのだろう――

 

 もはや隠す気もないのか、明らかにリューさん達を煽る様な言動……リューさんも一緒にいた仲間も一様に不快感と怒りを示し、神エレンを無視して立ち去ろうとする。

 

 それに対して神エレンが最後と称して、この問いを口にする――

 

――正義とは、何か?――

――自分は常々考える。下界が是とする『正義』とは何かと。全知零能の神の癖に、未だ下界へ提示できる絶対の『正義』というものに確信が持てない――

――だからこそ君達に問いたい。正義を司る女神、その眷属たる君達に――

 

 応えず、立ち去る事を提案する仲間を振り切り、リューさんは半ば意地で答えた。

 

『無償に基づく善行。いついかなる時も、揺るがない唯一無二の価値。そして悪を斬り、悪を討つ――それが私の正義だ』

 

――善性こそが下界の住人の本質であり、『巨悪』ならぬ『巨正』をもって世を正す――

――善意の押し売り、暴力をもって制す――力尽くの『正義』――

 

 そうではない。

 巨悪に立ち向かうには、相応の力が必要――でなければ何も守れず、救えない。

 

 言い返すリューさんを、再び飄々とした態度で受け流し、神エレンは去っていった……。

 敵意も悪意もないどころか、いっそ好意すら持って接してくる……その姿は、リューさんは不気味に感じたという。

 

 ここまでの話で、俺は一つ気付いた事がある。

 

「なあ、リューさん。そのエレンって男神(かみ)……もしかして?」

 

「……そう、邪神エレボスです」

 

「やっぱり……」

 

 『巨悪』に『巨正』、その言葉を使っていた辺りで察した。

 あの邪神野郎……大抗争の前から陰でチョロチョロしてやがったか……。

 

「エレボスは、あの炊き出しの日にも姿を現しました……」

 

 リューさんは再び語り出す。

 

 それは俺があの虫唾女を蹴り飛ばした後の事――

 

 闇派閥の襲撃とあって、やはり炊き出し会場周辺に混乱が広がり、怪我人は出た。

 リューさん達が救助と治療に奔走する中、エレボスはふらりと現れ、転んだのか膝から血を流し涙を流す少女を助けた。

 その姿に、リューさんは感謝を述べた。

 しかし、エレボスが次に口にした言葉で、その感謝も吹き飛ぶ事になる――

 

――傷付いた者、弱き者を助けると、こんなにも心が満たされる。充足する、喜びを感じる、これは病みつきになる――

――君達の行いを『見返りのない奉仕』と言った事を謝罪する。これは無償などではない――

――『代価』はある。他者を助けてやったという優越。感謝されるという快感。施しを授ける満足――

――こんなにも気持ちいい。君達の献身は不健全などではない――

 

 エレボスの言葉に、リューさんは激怒した。

 それは侮辱、自分達は自尊心の為に『正義』を利用しているのではない。

 

 そう訴えても尚、正義を問うエレボスに、リューさんは前と同じ答えを返した。

 周囲に広がった、混乱の光景を指し示しつつ……。

 

 しかし、エレボスはそれを『自己満足』と称した。

 働いても金も貰えず、パンもスープも分けて貰えず、富と名誉だけでなく、一時の感謝さえ求めていないというのなら、リューさん達が言う『正義』とは、ただの『孤独』である、と……。

 

 自分達の掲げる『正義』を汚す言葉に怒りを露わにするリューさんに、エレボスはまた“あの問い”を投げかける。

 

――君達の『正義』とは、一体何なのか?――

――答えられないのなら……君達が『正義』と呼んでいるものは、やはりとても歪で、『悪』よりも醜悪なものだ――

 

 怒りが頂点に達したリューさん……仲間の制止がなければ、どうなっていたか分からない……。

 

 これ以降、リューさんの中に“迷い”が生じたという。

 エレボスの言葉が頭から離れず、悩み、自問自答を繰り返す……。

 

 そしてある時、アーディさんに悩みを打ち明ける機会があった。

 リューさん曰く、アーディさんは自分よりもずっと深く、重く、『正義』について考えている人だという。

 杓子定規の『正義』を妄信し続けようとしていた自分の一方で、アーディさんは普遍の『正義』の在りどころをずっと探していた……。

 

『……『正義』って難しいよ、リオン。押し付けてはいけない、背負ってもいけない、そして秘めているだけでも、何も変えられない時がある。真の『正義』なんか本当はないんじゃないかって、そう思っちゃう』

 

『難しい事なんか考えないで、誰も傷つかないで……みんなが笑顔で、幸せになれればいいのに』

 

 彼女の願いは子供染みていて、何よりも尊かった。

 とても簡単で、難しいものだった。

 

 そしてアーディさんは悩むリューさんの手を取り、突然踊り始めた。

 訳もわからず、アーディさんに振り回される形で踊ってしまうリューさん――しかし、その周囲には次第に笑顔が溢れた。

 

 闇派閥に怯えていた住民達が、踊るアーディさんとリューさんを見て、笑顔になる。

 それを見てアーディさんはより一層、笑顔を輝かせた。

 

『――リオン!『正義』は巡るよ!』

 

 アーディさんは言った――。

 

『たとえ真の答えじゃなかったとしても、間違っていたとしても!姿形を変えて、私達の『正義』は巡る!』

『私達が伝えた正義は、きっと違う花になって咲く!もしかしたら、花じゃなくて星の光になってみんなを照らすかも!』

『私達が助けた人が、他の誰かを助けてくれる!今日の優しさが、明日の笑顔をもたらしてくれる!』

 

『だからリオン、笑おう!巡っていく『正義』の為に、今日を笑おう!』

 

 その時、リューさんも笑っていた。

 アーディさんの笑顔から、言葉に出来ない大切なものを受け取った気がしたという。

 


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