ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか? 作:雲呑麺
「『正義』は巡る――か。なんか良いな、それ」
リューさんから聞いた、アーディさんの話――なんだかほっこりしたというか、聞いていて不思議と気分が良くなった。
上手く表現はできないが……そう、気持ちの良い言葉だと思う。
アーディさんとはまだ会った事がない、会ってみたいな。
「……ですが、あの日……」
「ん?」
嬉しそうに微笑んでいた表情が一転、また暗い顔になるリューさん……どうやら、話のポイントはここからの様だ。
話は、あの『掃討作戦』の日に移る――。
事前の打ち合わせ通り、リューさん達アストレア・ファミリアはガネーシャ・ファミリアと連携して闇派閥の拠点を襲撃した。
初めの内は順調だった――敵の抵抗はあっても、冒険者のレベル差による戦力の差は大きく、闇派閥構成員達は次々に無力化され、捕縛され、敵拠点制圧は時間の問題と思われた。
しかし、事態は敵拠点の最奥に辿り着いた時に一変する――。
待ち構えていた闇派閥を変わらず順調に制圧していくリューさん達だった……が、そこでアーディさんが1人の信者と対峙してしまう。
それは子供、少女だった……。
アーディさんは、自身にナイフを向ける少女を説得し、武器を捨てて投降するよう促した。
優しい彼女らしい行動だった。
その時、アリーゼが何かに気付き、アーディさんの元へ全速で飛び込んだ――。
そして次の瞬間――少女は、
「っ!?それって、例の“人間爆弾”か!?」
「ッ……そうです。言葉巧みに洗脳し、我々冒険者や無辜の民を道連れにするよう仕込まれた信者達……!」
「ッ……反吐が出るッ……!!」
フィン団長から話は聞いていたが、そんな子供まで……!
どこまでも胸糞悪い……!!
闇派閥のクソッタレ共が……どいつもこいつも、命を何だと思っていやがる……!?
幸いと言うべきか、アリーゼが間一髪ギリギリのところで間に合い、2人とも重傷を負ったものの命は助かった……。
しかし、その少女の爆発を皮切りに、敵兵が次々と自爆を始め、リューさん達は撤退を余儀なくされた。
闇派閥は予め、最初の一発の爆発を『合図』として、一斉に自爆する様に信者達を洗脳していたという事だ。
俺があの2人――ザルドとアルフィアとか言った2人を捕まえた後に起こり、都市を火の海にした爆発の連鎖は、それだったのだ。
炎に包まれる都市、響き渡る爆発音、悲鳴を上げて逃げ惑う住民達、そして……重傷を負い意識を失ったアリーゼとアーディさんの姿……。
そしてとどめ――あの“神の連続送還”に続く邪神エレボスの宣言……。
一気に、怒涛の様に押し寄せる地獄の光景、そしてエレボスに叩きつけられた『正義』の現実に、リューさんは足元が崩れ落ちる様な絶望を感じたという……。
夜が明ければ、日に照らし出される更なる地獄……瓦礫の下、道端、あちこちに転がる死体の群れ……。
救い出せず、命を落とす住民達……助けられなかった無念に泣く仲間達……。
俺も散々見てきたから、リューさんの絶望も少しは分かる……。
あれはキツい……俺みたいな鈍感でもそうなんだ、真面目で繊細そうリューさんには発狂モノだろう。
事実、その光景を目の当たりにして、リューさんは『正義』とは何なのか分からなくなったという。
自分達が追い求めていた秩序は、こんなにも容易に『悪』に屈してしまうのか、と……
更に悲劇は続く……。
時間が経てば経つほど心身ともに疲弊していく自分達……それでも闇派閥は襲ってくる。
更なる被害拡大を防ぐため、リューさんは無事な――まだ動けるという意味――仲間と巡回に出る。
そして、とある仮設キャンプに行きついた時――避難民達が、リューさん達に罵声を浴びせた。
――アストレア・ファミリアは正義の派閥ではなかったのか?
――みんなを助けてくれるのではなかったのか?
――みんなを守ってくれるのではなかったのか?
最初の一言を皮切りに、次々と巻き起こる批難の声――まるで『全てお前達の所為だ!』と言わんばかり……挙句には、石まで投げつけられる有り様……。
なんだ、この仕打ちは……?
これが戦った者に対する返礼か!?
戦い、傷つき、倒れ、それでも必死に都市を守ろうとした者達に向けるのが、罵声と石礫……?!
瞬間、とめどなく湧き上がる“怒り”と“悲しみ”――リューさんは、今度こそ自分の中で砕けた音を聞いたという……。
砕けたのは、罅だらけでボロボロで、今まで辛うじて保っていた『正義』……。
リューさんは、そこで気を失ったそうだ。
その時に、暗くなった目の前に現れたのは、邪神エレボスの幻影……。
蘇ったのは、リューさんの根幹を揺るがした“あの問い”……。
――君達の『正義』とは、一体何なのか?――
その悪夢から目覚めた時、リューさんはアストレア・ファミリアの
気を失ったところを、仲間達が連れ帰ってくれたと、すぐ傍にいた仲間から知らされた。
その仲間――アストレア・ファミリア副団長『ゴジョウノ・輝夜』さんは、起きたばかりのリューさんにすぐに都市に出る準備を急かした。
いつもと変わらない表情、口調……それが酷く癇に障ったリューさんは、輝夜さんを問い詰めた。
『……どうして、あんな事があったのに、平然としていられる?』
『多くの者が散ったのに……守れなかったのに……それを責められ、石さえ投げられたのに!』
『アリーゼやアーディが傷つき倒れたのに!!どうして、そんな顔をしていられる!?』
そんなリューさんに、輝夜さんはそれこそいつもの調子で『馬鹿め』と一蹴した。
『『正義』を名乗る時点で、批判、中傷、叱責、そして『犠牲』など覚悟して然るべきものだ』
『私達は皆、覚悟していた。お前だけは、覚悟していなかった』
その言葉が、リューさんの胸を抉った。
『今の状況が堪えていない訳がなかろう。しかし、あらかじめ覚悟していたなら、受け止める事は出来る』
続く輝夜さんの言葉に、リューさんは納得がいかなかった。
あらかじめ犠牲を見据えた覚悟など、『正義』と呼んでいい筈がない――
少なくともアストレア様が掲げる『正義』は違う――
『『現実』を見ろ。『世界』というものを知れ。誰しも『選択』する日を迫られる。……そう言っても、今のお前には届かんな』
『どれだけ強くとも、やはり私達の中で、お前の心が最も弱い。お前は、潔癖で……青過ぎる』
溜め息交じりに返され……侮辱されたと感じ、リューさんは激昂した。
激情に駆られ掴みかかろうとした時――仲間からアリーゼが意識を取り戻した事を伝えられ、踏み止まった。
しかし、リューさんは……その時の自分の『無様』を見られたくない一心から、アリーゼには会わず、本拠を飛び出してしまったという。
そして、街を彷徨い、偶然ガネーシャ・ファミリアの一団に出会い、アーディもまた意識を取り戻した旨を知らされた。
安堵と共に湧き上がる『自己嫌悪』……正義に迷い、苛立ちと失意に苛まれ、仲間に八つ当たりをした挙句飛び出してきた自分が、無性に恥ずかしかった。
アーディさんに合わせる顔がなかった……無様な自分の姿を見られたくなかった……。
そしてまた、リューさんはその場を逃げ出してしまう……。
そうして無我夢中で都市を走り回り……息を切らして立ち止まり、気付いた時、今のこの場所にいた……。
「……そうか……そうだったのか」
経緯は分かった。
リューさんが思い悩んでいた事も……全てなんて烏滸がましい事は思わないが、ほんの少しぐらいは理解できたと思う。
話を聞いて、俺がリューさんに言える事……。
「……リューさんは、アリーゼやアーディさん、それにその輝夜さんの事も、凄く好きなんだな」
「は?」
俺が思った事を言うと、リューさんが目を丸くした。
「な、何を……?今の話を聞いて、何故そうなる?!」
「いや、だってさ。アリーゼやアーディさんは言わずもがな。輝夜さんに対して怒ったのだって、輝夜さんに犠牲を“切り捨てる”様なことを言ってほしくなかったからだろう?」
「そ、それは……まあ、そうですが……」
「それってつまり、リューさんは輝夜さんなら“諦めない事”が出来ると思っている。期待している。そういう事だと思う」
「期待……?」
「端から期待してない奴が何かを投げ出す様な態度を取っても、それこそ“仕方ない”と諦めがつくじゃないか、『こいつはそういう奴だよな~』って。でも、リューさんにとって輝夜さんはそうじゃない。気が合わなくても、いがみ合っても、心の深いところで信頼と期待を寄せている。だから怒るんだ、『お前はそんなもんじゃねえだろ!』ってな。きっとそれは、輝夜さんから見たリューさんも同じだと思う」
「っ!?」
「今まで色々と言われてきたんだろ?ダメ出しとか、馬鹿にされたりとか……でも、よくよく思い返して、癇に障るのを我慢して言葉だけ拾ってみるとどうだ?アドバイスになってたりしないか?」
「……ぁ……」
リューさんの目が、また少し開いた。
「輝夜さんはきっと、犠牲を諦めてるんじゃない。どれだけ手を伸ばしても、どうしても届かない場所がある『現実』を知っていて……それでも自分の死力を振り絞って、出来る事を全てやり尽して、一つでも多くの命を救える限りを救い続ける。命の『選択』をして犠牲を出してしまった時、不甲斐ない自分の腹を掻っ捌きたくなるのを必死に堪えて、
「――ッ!!?」
リューさんの話を聞いた限りだが、輝夜さんという人は自分自身にこの上なく厳しい人だと感じた。
自分に一切の甘えを許さないと決めている……そういう印象を受けた。
腹の据わり方が尋常じゃない……そうなるまでにどんな経験をしてきたのか、興味もあるが恐ろしくもある。
「ッ、わた、しは……私はっ……!輝夜のッ、そんな覚悟も、知らずに……!」
見れば、リューさんは涙を流していた……。
「ぁぁ、どうして……っどうして、気付けなかった……!?どうして、私は……今までッ、何を見てきたんだッ!?」
ダン!
床を叩く音が鈍く響く……膝をつき、拳を床に叩きつけるリューさんの姿は、痛々しい……。
だが――
「――そこで涙が流せるならいいじゃないか」
「え……?」
リューさんが顔を上げる。
俺はしゃがみ、その涙でぐしゃぐしゃの顔を正面から見据える。
「悔しくても、悲しくても、辛くても、涙を流すほど
「――ッッ!!」
「だから、リューさんの中に正義はある!
「――ッッうわあああああああああぁぁぁぁ~~~~~~!!」
俺が差し出した手に、両手で必死にしがみ付き、顔を伏せて泣き声を上げるリューさん――でも、さっきと雰囲気が全然違う、まるで子供みたいだ。
だから、ついもう片方の手でその頭を撫でてしまう。
本当は立ち上がる支えになればと手を差し出したつもりだったが、こうなっちゃったか……まあ、でも、勘だが、リューさんはもう大丈夫だろう。
はぁ~、それにしても……我ながらクッサイ台詞をベラベラ語ったもんだ。
元日本人で、サイヤ人の俺が、正義がどうのこうのなんて……烏滸がましいっつーの!
あ~思い返すと恥ずかしいな!
リューさんの話に、当てられたか?
これも一応『正義は巡る』って事……なのかな?