ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

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 12時には間に合いませんでしたが、書けたので投稿します。



第19話 巡る正義―リュー・リオン―

「『正義』は巡る――か。なんか良いな、それ」

 

 リューさんから聞いた、アーディさんの話――なんだかほっこりしたというか、聞いていて不思議と気分が良くなった。

 上手く表現はできないが……そう、気持ちの良い言葉だと思う。

 アーディさんとはまだ会った事がない、会ってみたいな。

 

「……ですが、あの日……」

 

「ん?」

 

 嬉しそうに微笑んでいた表情が一転、また暗い顔になるリューさん……どうやら、話のポイントはここからの様だ。

 

 話は、あの『掃討作戦』の日に移る――。

 

 事前の打ち合わせ通り、リューさん達アストレア・ファミリアはガネーシャ・ファミリアと連携して闇派閥の拠点を襲撃した。

 初めの内は順調だった――敵の抵抗はあっても、冒険者のレベル差による戦力の差は大きく、闇派閥構成員達は次々に無力化され、捕縛され、敵拠点制圧は時間の問題と思われた。

 

 しかし、事態は敵拠点の最奥に辿り着いた時に一変する――。

 

 待ち構えていた闇派閥を変わらず順調に制圧していくリューさん達だった……が、そこでアーディさんが1人の信者と対峙してしまう。

 それは子供、少女だった……。

 アーディさんは、自身にナイフを向ける少女を説得し、武器を捨てて投降するよう促した。

 優しい彼女らしい行動だった。

 

 その時、アリーゼが何かに気付き、アーディさんの元へ全速で飛び込んだ――。

 

 そして次の瞬間――少女は、爆発(・・)した。

 

「っ!?それって、例の“人間爆弾”か!?」

 

「ッ……そうです。言葉巧みに洗脳し、我々冒険者や無辜の民を道連れにするよう仕込まれた信者達……!」

 

「ッ……反吐が出るッ……!!」

 

 フィン団長から話は聞いていたが、そんな子供まで……!

 どこまでも胸糞悪い……!!

 闇派閥のクソッタレ共が……どいつもこいつも、命を何だと思っていやがる……!?

 

 幸いと言うべきか、アリーゼが間一髪ギリギリのところで間に合い、2人とも重傷を負ったものの命は助かった……。

 しかし、その少女の爆発を皮切りに、敵兵が次々と自爆を始め、リューさん達は撤退を余儀なくされた。

 

 闇派閥は予め、最初の一発の爆発を『合図』として、一斉に自爆する様に信者達を洗脳していたという事だ。

 俺があの2人――ザルドとアルフィアとか言った2人を捕まえた後に起こり、都市を火の海にした爆発の連鎖は、それだったのだ。

 

 炎に包まれる都市、響き渡る爆発音、悲鳴を上げて逃げ惑う住民達、そして……重傷を負い意識を失ったアリーゼとアーディさんの姿……。

 

 そしてとどめ――あの“神の連続送還”に続く邪神エレボスの宣言……。

 

 一気に、怒涛の様に押し寄せる地獄の光景、そしてエレボスに叩きつけられた『正義』の現実に、リューさんは足元が崩れ落ちる様な絶望を感じたという……。

 

 夜が明ければ、日に照らし出される更なる地獄……瓦礫の下、道端、あちこちに転がる死体の群れ……。

 救い出せず、命を落とす住民達……助けられなかった無念に泣く仲間達……。

 

 俺も散々見てきたから、リューさんの絶望も少しは分かる……。

 あれはキツい……俺みたいな鈍感でもそうなんだ、真面目で繊細そうリューさんには発狂モノだろう。

 

 事実、その光景を目の当たりにして、リューさんは『正義』とは何なのか分からなくなったという。

 自分達が追い求めていた秩序は、こんなにも容易に『悪』に屈してしまうのか、と……

 

 更に悲劇は続く……。

 

 時間が経てば経つほど心身ともに疲弊していく自分達……それでも闇派閥は襲ってくる。

 更なる被害拡大を防ぐため、リューさんは無事な――まだ動けるという意味――仲間と巡回に出る。

 

 そして、とある仮設キャンプに行きついた時――避難民達が、リューさん達に罵声を浴びせた。

 

――アストレア・ファミリアは正義の派閥ではなかったのか?

――みんなを助けてくれるのではなかったのか?

――みんなを守ってくれるのではなかったのか?

 

 最初の一言を皮切りに、次々と巻き起こる批難の声――まるで『全てお前達の所為だ!』と言わんばかり……挙句には、石まで投げつけられる有り様……。

 

 なんだ、この仕打ちは……?

 これが戦った者に対する返礼か!?

 戦い、傷つき、倒れ、それでも必死に都市を守ろうとした者達に向けるのが、罵声と石礫……?!

 

 瞬間、とめどなく湧き上がる“怒り”と“悲しみ”――リューさんは、今度こそ自分の中で砕けた音を聞いたという……。

 砕けたのは、罅だらけでボロボロで、今まで辛うじて保っていた『正義』……。

 

 リューさんは、そこで気を失ったそうだ。

 その時に、暗くなった目の前に現れたのは、邪神エレボスの幻影……。

 蘇ったのは、リューさんの根幹を揺るがした“あの問い”……。

 

――君達の『正義』とは、一体何なのか?――

 

 その悪夢から目覚めた時、リューさんはアストレア・ファミリアの本拠(ホーム)にいた。

 気を失ったところを、仲間達が連れ帰ってくれたと、すぐ傍にいた仲間から知らされた。

 

 その仲間――アストレア・ファミリア副団長『ゴジョウノ・輝夜』さんは、起きたばかりのリューさんにすぐに都市に出る準備を急かした。

 いつもと変わらない表情、口調……それが酷く癇に障ったリューさんは、輝夜さんを問い詰めた。

 

『……どうして、あんな事があったのに、平然としていられる?』

『多くの者が散ったのに……守れなかったのに……それを責められ、石さえ投げられたのに!』

『アリーゼやアーディが傷つき倒れたのに!!どうして、そんな顔をしていられる!?』

 

 そんなリューさんに、輝夜さんはそれこそいつもの調子で『馬鹿め』と一蹴した。

 

『『正義』を名乗る時点で、批判、中傷、叱責、そして『犠牲』など覚悟して然るべきものだ』

『私達は皆、覚悟していた。お前だけは、覚悟していなかった』

 

 その言葉が、リューさんの胸を抉った。

 

『今の状況が堪えていない訳がなかろう。しかし、あらかじめ覚悟していたなら、受け止める事は出来る』

 

 続く輝夜さんの言葉に、リューさんは納得がいかなかった。

 

 あらかじめ犠牲を見据えた覚悟など、『正義』と呼んでいい筈がない――

 少なくともアストレア様が掲げる『正義』は違う――

 

『『現実』を見ろ。『世界』というものを知れ。誰しも『選択』する日を迫られる。……そう言っても、今のお前には届かんな』

『どれだけ強くとも、やはり私達の中で、お前の心が最も弱い。お前は、潔癖で……青過ぎる』

 

 溜め息交じりに返され……侮辱されたと感じ、リューさんは激昂した。

 激情に駆られ掴みかかろうとした時――仲間からアリーゼが意識を取り戻した事を伝えられ、踏み止まった。

 

 しかし、リューさんは……その時の自分の『無様』を見られたくない一心から、アリーゼには会わず、本拠を飛び出してしまったという。

 

 そして、街を彷徨い、偶然ガネーシャ・ファミリアの一団に出会い、アーディもまた意識を取り戻した旨を知らされた。

 安堵と共に湧き上がる『自己嫌悪』……正義に迷い、苛立ちと失意に苛まれ、仲間に八つ当たりをした挙句飛び出してきた自分が、無性に恥ずかしかった。

 アーディさんに合わせる顔がなかった……無様な自分の姿を見られたくなかった……。

 

 そしてまた、リューさんはその場を逃げ出してしまう……。

 

 

 

 そうして無我夢中で都市を走り回り……息を切らして立ち止まり、気付いた時、今のこの場所にいた……。

 

 

 

「……そうか……そうだったのか」

 

 経緯は分かった。

 リューさんが思い悩んでいた事も……全てなんて烏滸がましい事は思わないが、ほんの少しぐらいは理解できたと思う。

 

 話を聞いて、俺がリューさんに言える事……。

 

「……リューさんは、アリーゼやアーディさん、それにその輝夜さんの事も、凄く好きなんだな」

 

「は?」

 

 俺が思った事を言うと、リューさんが目を丸くした。

 

「な、何を……?今の話を聞いて、何故そうなる?!」

 

「いや、だってさ。アリーゼやアーディさんは言わずもがな。輝夜さんに対して怒ったのだって、輝夜さんに犠牲を“切り捨てる”様なことを言ってほしくなかったからだろう?」

 

「そ、それは……まあ、そうですが……」

 

「それってつまり、リューさんは輝夜さんなら“諦めない事”が出来ると思っている。期待している。そういう事だと思う」

 

「期待……?」

 

「端から期待してない奴が何かを投げ出す様な態度を取っても、それこそ“仕方ない”と諦めがつくじゃないか、『こいつはそういう奴だよな~』って。でも、リューさんにとって輝夜さんはそうじゃない。気が合わなくても、いがみ合っても、心の深いところで信頼と期待を寄せている。だから怒るんだ、『お前はそんなもんじゃねえだろ!』ってな。きっとそれは、輝夜さんから見たリューさんも同じだと思う」

 

「っ!?」

 

「今まで色々と言われてきたんだろ?ダメ出しとか、馬鹿にされたりとか……でも、よくよく思い返して、癇に障るのを我慢して言葉だけ拾ってみるとどうだ?アドバイスになってたりしないか?」

 

「……ぁ……」

 

 リューさんの目が、また少し開いた。

 

「輝夜さんはきっと、犠牲を諦めてるんじゃない。どれだけ手を伸ばしても、どうしても届かない場所がある『現実』を知っていて……それでも自分の死力を振り絞って、出来る事を全てやり尽して、一つでも多くの命を救える限りを救い続ける。命の『選択』をして犠牲を出してしまった時、不甲斐ない自分の腹を掻っ捌きたくなるのを必死に堪えて、犠牲となった命の重み(・・・・・・・・・・)を背負いながら生きていく――輝夜さんの覚悟っていうのは、そういう事じゃないか?」

 

「――ッ!!?」

 

 リューさんの話を聞いた限りだが、輝夜さんという人は自分自身にこの上なく厳しい人だと感じた。

 自分に一切の甘えを許さないと決めている……そういう印象を受けた。

 腹の据わり方が尋常じゃない……そうなるまでにどんな経験をしてきたのか、興味もあるが恐ろしくもある。

 

「ッ、わた、しは……私はっ……!輝夜のッ、そんな覚悟も、知らずに……!」

 

 見れば、リューさんは涙を流していた……。

 

「ぁぁ、どうして……っどうして、気付けなかった……!?どうして、私は……今までッ、何を見てきたんだッ!?」

 

ダン!

 

 床を叩く音が鈍く響く……膝をつき、拳を床に叩きつけるリューさんの姿は、痛々しい……。

 

 だが――

 

「――そこで涙が流せるならいいじゃないか」

 

「え……?」

 

 リューさんが顔を上げる。

 俺はしゃがみ、その涙でぐしゃぐしゃの顔を正面から見据える。

 

「悔しくても、悲しくても、辛くても、涙を流すほど他人(ひと)を強く想えるなら、その想いは本物だ。本物の想いを向けられる相手なら、それは本物の仲間だ。仲間の覚悟に気付きたかったと本気で悔やめるなら、もうその覚悟を共有したも同然だ。覚悟を共有できるなら、想いも共有できる。きっとそれが、『想い(正義)は巡る』って事だ!」

 

「――ッッ!!」

 

「だから、リューさんの中に正義はある!正義(仲間)へ想いがある!仲間から受け取ってきた正義(想い)がある!リューさんが生きている限り、その正義も生き続ける!間違えたって良い、迷ったって良い――でも、その想い(正義)だけは死んでも手放すな!」

 

「――ッッうわあああああああああぁぁぁぁ~~~~~~!!」

 

 俺が差し出した手に、両手で必死にしがみ付き、顔を伏せて泣き声を上げるリューさん――でも、さっきと雰囲気が全然違う、まるで子供みたいだ。

 だから、ついもう片方の手でその頭を撫でてしまう。

 

 本当は立ち上がる支えになればと手を差し出したつもりだったが、こうなっちゃったか……まあ、でも、勘だが、リューさんはもう大丈夫だろう。

 

 はぁ~、それにしても……我ながらクッサイ台詞をベラベラ語ったもんだ。

 元日本人で、サイヤ人の俺が、正義がどうのこうのなんて……烏滸がましいっつーの!

 あ~思い返すと恥ずかしいな!

 リューさんの話に、当てられたか?

 

 これも一応『正義は巡る』って事……なのかな?

 


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