ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか? 作:雲呑麺
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リューがアストレア・ファミリアの
紫檀色の和装に身を包んだ黒髪のヒューマンの美女と、桃色の癖毛をした子供の様に小柄な
アストレア・ファミリア副団長『大和竜胆』ゴジョウノ・輝夜と、団員『
彼女達は、本拠を飛び出してしまったリューを探しながら、街を巡回していた。
それぞれ性格から口には出さないが、彼女達がリューを懸命に探す理由はひとえに、リューが仲間であり、友であるからである。
「ったく、リオンの奴、どこに行きやがった……?アタシ達がこんなに探してるってのに、見つかりゃしねえ……」
「日も跨いでしまったな。道中で会ったシャクティも、見ていないと言っていたし……」
「なあ、輝夜」
「なんだ、ライラ」
「リオンの初めての家出、何日で終わると思う?」
「或いは二度と帰ってこないかもしれない。エルフの中でもあれは繊細過ぎる。しかも時期が時期だ……」
そう口にしつつ輝夜は内心、『それも仕方ない。寧ろその方がリューの為かも知れない』とも考えていた。
自身で口に出した通り、リューは余りにも潔癖で繊細……正義の二文字を背負うには、脆すぎると言ってもいい。
清濁を併せて吞む覚悟を決められないのなら、それは重荷となり、リューを圧し潰してしまう……。
それならば、いっそ逃げ出してしまった方が楽だろう――輝夜は逃げる事を恥とは思っていない。
というよりも、仲間であるリューが壊れてしまうぐらいなら、全て投げ出し、逃げて生きている方がマシだと……。
「お前はホントに醒めてんなぁ。いや、『楽観』と『希望』をとことん自分に許してねえ」
輝夜の様子に肩を竦めつつ、ライラは溜め息交じりに言う。
「ずっと前から思ってたが、お前、極東でどんな面倒くせえ人生を送ってきたんだ?」
「……ライラ。この際だから言うが、私はお前と2人でいるのが嫌いだ。その鼠の様な目が、無遠慮に何もかも見透かそうとするからな」
輝夜の言葉……それは、ライラの言葉が的を射ている証拠であった。
見透かされている事実、そしてライラの見透かす観察眼を認めている発言であった。
「そんな大っ嫌いなアタシと一緒にいてまで探そうとするなんて、リオンは愛されてんなぁ~?」
「……だからお前といるのは、嫌いだ」
ニヤリと笑ったライラの言葉を、輝夜は否定しなかった。
やがて2人は、とある
そこは、リューも含めた3人で、避難民達から罵声と石を投げつけられた場所であった……。
「……いけね、見覚えのある場所に来ちまった」
「ここの住民と接触するのは、得策ではないな……」
ライラと輝夜は、すぐに避難民の目に触れないよう物陰に身を隠した。
念の為、リューがいないかを確認しようとしたその時――ある光景が2人の目に留まる。
「――はい、どうぞ。あったかいスープです」
そこでは1人の少女が、避難民にスープを配っていた。
「俺にもくれ!」
「ちょっと!押さないでよ!」
「皆さん!喧嘩はしないでください!まだまだ沢山ありますから!」
灰色の髪をしたその少女は、鍋の前に並ぶ避難民達に声を掛けながら、器にスープを盛り付けていく。
「炊き出しか……」
「しかもギルドの配給じゃねえ。すげえな、多少物資は回ってきたとはいえ、まだまだ余裕ってほどじゃねえこの状況でやるなんて……」
輝夜もライラも、その光景に目を見張り、思わず感心していた。
「炊き出しなんて、ありがたいよ……みんな、どこも大変なのに……」
「困ってる時はお互い様です、それに心配しないでください。このスープは『豊穣の女主人』というお店の差し入れですから」
少女が言った『豊穣の女主人』――それはリークがオラリオにやって来た際、空腹で立ち往生していたところを、そこの女主人たるミア・グランドに連れて行かれ、食事を振舞われた店であった。
「すごく怖くて、でも都市で一番安全な酒場なんです。皆さん、もし困ったら西のメインストリートに来てくださいね!」
「嘘でも、嬉しいです……そんなこと言ってもらえて」
「ああ……今のオラリオに、安全な場所なんて……」
僅かな希望、多くの悲観……戦況は僅かながら好転しつつある事実はあるが、都市を破壊され多くの死傷者が出たのもまた事実……。
戦えない一般人からすれば、戦況を冷静に捉える余裕などないのが現実である。
「う~ん、嘘を言っているつもりはないんですけど……皆さんを明るくするには、先にお腹一杯になってもらった方がいいですね」
そう言って、少女はスープ配りを再開しようとした――その時だった。
「――こんな炊き出しなんか、意味ねえよぉ!!」
1人の男の叫びが、その場を凍らせた。
「俺たちはもうおしまいだ!家も何もかもぶっ壊されて、これからどうしろってんだよ!?」
「……おしまいなんて、そんなことないと思います。そうならない様に今、冒険者様たちが……」
「冒険者……?そんなの頼りにならねえよ!闇派閥の奴らにいいようにやられたじゃねえか!!」
「それは……」
「『守ってみせる』なんて調子のいいこと言って、期待させておいて……あいつらは、俺の妹を守ってくれなかったじゃねえかッ!!」
『…………』
涙ながらに叫ぶ男の様子に、避難民達の表情は暗く落ち込んでいく……。
その慟哭は、数日前、リューや輝夜やライラも投げつけられたものであった……。
「……」
「……石、投げられる方がまだマシだったな」
陰から様子を窺っていた輝夜とライラにも、その叫びが突き刺さる……。
「……どうせ守れないなら、最初から期待なんかさせるなよ!口だけの『正義』なんてただの自己満足だろ!だから、俺は、
「――じゃあ、みんなで死んじゃいましょうか?」
『は……?』
「「はっ?」」
少女の余りに唐突な衝撃発言に、周囲の避難民、そして輝夜とライラの言葉が重なった――。
「辛くて、悲しくて、苦しいから、そんなことを言うんですよね?それなら死んでしまえば、きっともう、何も感じなくなります。天に還れば、貴方の妹さんにも会えるかもしれません。大丈夫、神様達の話が本当なら、いつか生まれ変われますから!」
「え、あ、いやっ……な、なにを……」
にこやかに語る少女に、叫んでいた男も戸惑い、声を詰まらせる。
しかし、少女は止まらない。
「みなさーん!この方とご一緒に、死にたい人はいらっしゃいませんかー?もう苦しむことはありませんよー!」
ざわ、ざわ……
「「…………なんだ、あの女……ヤベえ」」
避難民達も、輝夜とライラも、ドン引きであった……。
「お、俺は……何も、死にたいわけじゃ……」
「はい、そうですね。意地悪でごめんなさい」
さっきまでの勢いを消沈させた男に、少女は笑顔のまま謝罪する。
「――でも、冒険者様達も、皆さんを決して死なせたいわけじゃない」
「っ!!」
「冒険者様達は、今も頑張っていますよ?誰よりも傷つきながら、皆さんを守ろうとしてる。勿論、守れなかった人達もいる。そして、その事を誰よりも責めているのは、あの人達自身……。私の場合は、意地悪な勘違いだけど……皆さんはどうか、冒険者様達のことを、勘違いしないで上げてください」
『…………』
少女の言葉に、避難民達は何も言えなかった。
誰もが実は分かっていたのだ……少女が言った事を。
しかし、それでも、悲しいものは悲しい……そこで誰かに責任を求めてしまうのが、人間である。
「……だけど……だけどよぉ!守れないのに、守るなんて言うのは嘘じゃねえか!騙しじゃねえか!だから俺は石を投げたんだ!あんな奴らを、『偽善者』っていうんだ!!」
「――『偽善者』、結構じゃないですか」
「え……?」
「簡単に人が死んでしまって、みんな自分を守る事で精一杯。そんな中で、それでも誰かを助けようとする『偽善』は――とても尊いものだと、私は思います。例えそれが、上辺だけの『正義』だったとしても。こんな状況で、『偽善者』になれる人こそ、『英雄』と呼ばれる資格がある。私はそう思う」
『…………』
「冒険者様達が戦っている様に。皆さんも、苦しみや悲しみと、戦ってみませんか?『英雄』にはなれなくても……『英雄』の力になれる様に」
その場にいた誰もが、少女の言葉に聞き入り、そして今度こそ何も言えなかった……。
そして――
「……おい、『英雄』だってよ」
「……よせ。体がむず痒くなる。それは、私にとっては最も縁のない言葉だ」
――少女の言葉に
と、その時だった。
ボオォォンッ!
突然の爆発音――次いで起こる避難民達の悲鳴。
「い、
一気に恐慌状態に陥り、避難民達が逃げ惑う。
そこに現れる、白装束の集団――闇派閥の構成員達。
「都市内地だからといって油断しきりおって……護衛も用意していない、愚かな民衆め――我らはまだ負けてなどいない!お前達の断末魔の声をもって、冒険者どもに絶望を与えてやる!!」
「――みなさん逃げて!早く!」
灰髪の少女が避難民達を逃がそうと声を上げる。
しかし、それは闇派閥の注目を集めてしまう。
「シャアッ!!」
「死ねえ小娘ぇッ!!」
「っ!」
凶刃を振り上げて迫る闇派閥――しかし。
ザシュ!
「「ぐげえッ!?」」
凶刃は届かず、飛び込んだ
「「――輝夜/リオンッ!?」」
方やエルフのリュー・リオン――方やヒューマンのゴジョウノ・輝夜――
探されていた者と、探す者――
奇しくも、1人の少女を救うために飛び出すという全く同じ行動を取る事で、再会する2人――それもすぐに3人となる。
「――リオン!お前、今までどこに!?」
やや遅れながらもライラも駆けつけ、アストレア・ファミリアの3人がそこに集まった。
「貴方達は……!」
「「「っ!」」」
再会のやり取りは後回し――リュー・輝夜・ライラはすぐに表情を引き締める。
「なぁに――ただの『偽善者』だ」
輝夜のその言葉で合図に、3人はそれぞれ闇派閥に躍りかかり――程なく鎮圧した。
「……片付きましたね」
「これだけの騒動、ガネーシャ・ファミリア辺りがすぐ来るだろう。残った連中の捕縛は任せるか」
「ああ。リオンも見つかった事だし、他所へ――」
混乱が収束したことを確認し、揃って立ち去ろうとした時だった――。
「あ、あんた達……」
「……私達、あんな酷い事をしたのに……守って……」
避難民達が集まり、リュー達を遠巻きに見つめていた。
一様に、罪悪感を漂わせた表情を受かべて……。
「…………行くぜ、輝夜、リオン」
ライラがそう声をかけ促すと、輝夜とリューも、無言で避難民達に背を向け、今度こそ3人揃ってその場を立ち去った……。
そして、避難所から離れた通りを歩きながら、輝夜が先を歩くライラに声を掛ける。
「……良かったのか、何も言ってやらなくて?石を投げられて、お前も相当に腹を立てていただろう?」
「バーカ、何も言わずに立ち去るのがミソなんだ。あいつらの顔を見たか?勝手に罪悪感に苛まれて、胸も超すっきりってもんだろ?」
「うわぁ……本当に性根の腐った
「それに、アレだ――こっちの方が、『正義の味方』っぽいだろう?」
「……違いない。性には合わんがな」
ライラと輝夜、2人は揃って曇りの晴れた笑みを浮かべる。
が、それも束の間――すぐに2人は後ろを歩くリューに向かって振り返った。
「それはともかくとしてだ――よぉ、家出エルフ。ほっつき歩いて散々迷惑かけやがって、アタシ達に何か言う事はあるか?」
ライラが茶化すように言う。
「ええ、勿論あります」
リューは振り返り、真っ直ぐに2人を見据え、迷う素振りもなく頭を下げた。
「輝夜、ライラ……本拠を飛び出し、自身の責務を放棄して今まで姿を暗ませていた事、心より謝罪します。申し訳ありませんでした」
「「……?」」
リューの余りにも素直な謝罪に、輝夜とライラはそれぞれ疑問符を浮かべた顔を見合わせる。
「……おやおやぁ、これは殊勝なことでぇ。いつぞや、わたくしに掴みかかってきたエルフ様が随分と様変わりされましたなぁ。空腹に耐えかねて、何か悪いモノでも拾い食いなされたのではぁ?」
「フフ、今、貴方に言われるまで、空腹など忘れていましたよ、輝夜」
「「……??」」
いつもの皮肉にも反論する事なく、寧ろ自然に受け止め冗談めかして返すリューの姿に、輝夜とライラは疑問を強める。
「……では、どこぞで頭でも打たれたのでは?正直、その変わり様が不気味だぞ……何があった、リオン?」
相手を煽る、皮肉を利かせる時の口調も続けられず、素で聞き返す輝夜。
リューはあくまで動じることなく、自然に語る。
「私が……愚かだったと、やっと気付けたのです」
「何?」
「私は、調和や秩序、そして『正義』というお題目ばかりを唱えるのに夢中で……本当に大切な事なんて、何一つ分かっていなかった……。輝夜、貴方が言った通りだ。私は、青過ぎた……」
語りながらリューが思い返すのは、今までの己の姿……。
「アストレア様は正義を司る女神様だから……アストレア・ファミリアは正義の眷属だから……『正義』を標榜し、その体現に邁進する事が当然だと思っていた」
正義とは何か……疑わない事こそ美徳と考え、己で考える事を避けてきた。
思い悩み、迷う事を恥と捉え、思考を半ば放棄してきた……。
「無償に基づく善行。いついかなる時も、揺るがない唯一無二の価値。悪を斬り、悪を討つ……何の具体性も無い。耳障りの良い言葉を並べただけの、外見だけを取り繕った中身のない張りぼて……それが私の正体だった」
邪神エレボスに見透かされ、図星を突かれ、狼狽し、翻弄された……。
「輝夜、貴方は言った。『正義』を名乗る時点で、批判、中傷、叱責、そして『犠牲』など覚悟して然るべきものだ、と――私はあの時、この言葉の意味するところを理解できなかった。ただ犠牲を諦め、自身が楽になる為に切り捨てる……諦観を気取った怠惰の言葉だと、何も考えず決めつけ、ただ感情のままに否定した」
そんな訳がなかった……。
犠牲をただ切り捨てる様な者が、正義を掲げ、力を尽くし、命を懸けて戦い続ける筈がない。
「いつだって貴方達は先を行き、その背中で示し続けていた……『
愚かしい……正義とは言葉で示すものなどではないのだ。
自分は、こんな事すら分かっていなかった……。
恥ずべきは自身……他者の考えに否定を述べるばかりの癖に、他者に分かり易い答えを求め続けた。
主神たるアストレア……親しみと尊敬を寄せるアリーゼ……友情を交わしたアーディ……。
常に答えは示されていた。
ただ、自分が気付けなかっただけなのだ。
そんな自分の濁った目を拭い、自分の中に『正義』がある事を教え導いてくれた、ロキ・ファミリアの少年リーク……。
幼い容姿に見合わない賢さ、自分の話だけで輝夜の覚悟と正義の在り方まで見抜いた。
アリーゼとはまた違う、尊敬を抱いたヒューマン……彼からもまた、大切なものを受け取った。
その小さくも
「私は……私は!そんな貴方達に報いたい!ようやく気付けた、貴方達から受け取ってきた
「「…………」」
リューの叫びにも似た告白、それは心からの言葉だったと輝夜もライラも感じていた。
そして、リューが心の葛藤を乗り越え、覚悟を決め、大きく一歩を踏み出したことを――。
「…………フッ、ぶわぁ~~かめッ!」
「っ!?」
「青臭い台詞をペラペラと!全く少しはマシな面をするようになったかと思えば、相変わらずの青二才め!聞いてて背中が痒くて堪らんわ!」
「っ、何とでも好きに言ってください!私は、この
「言うではないか!ポンコツ妖精めが!言っておくが、サボりのツケはきっちり払ってもらうぞ!しばらくお前の仕事は、我々の下僕だ!ぶぁーかめ!」
「っ、ポンコツ呼ばわりは不服ですが、望むところです!幾らでも借りを返しましょう!」
いつもの、そして何かが変わった輝夜とリューのやり取り――それを見て、ライラもいつも通り、肩を竦め、皮肉めいた笑顔を浮かべてからかう。
「はぁ~、やれやれ……お前ら、相変わらず仲良しこよしだな。イチャイチャしやがってよぉ」
「っ、い、イチャイチャなどしていないっ!ライラ!貴方はまたそのような戯れ言を――!」
「おやおやぁ、そちらの性根の腐った
「お~、こえーこえー」
口には出さない――しかし、3人ともそのやり取りを心地よく、嬉しく思っている。
正義の眷属に、『希望の光』が帰ってきた瞬間であった――。
「ところでよぉ~リオン。さっき話の途中で、チラっと顔が赤くなってたのはどういうことだぁ~?」
「ッ!?そっ、そんな事実はないっ!」
「い~や、あったね。アタシの目は誤魔化されねえぜ。さては、男だなぁ!」
「ち、違うっ!いや確かに彼は男性だが、ライラが考えているような事ではありませんっ!!」
「おやおやおやぁ、自白した事に気付いてらっしゃらないのでぇ?流石はポンコツ雑魚エルフ様ですことぉ~」
「か、輝夜まで!?あとポンコツ雑魚エルフ言うなッ!」
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