ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか? 作:雲呑麺
さて、街に入ったはいいが、これからどうしよう?
ダンジョンに入るにはギルドで登録しなければならない。
登録するにはどこかのファミリアに入って神から
なら問題はどこのファミリアに入るか……。
ぶっちゃけ拘りはない、というか拘れる程この星の神様を知らない。
この街の状況とか、各ファミリアの立ち位置とか、全然知らない。
でも、入るならやっぱり人間関係が良い所がいい。
前世日本のギスギスしたブラック企業みたいなファミリアは御免だ……。
というか、そもそも、俺を入れてくれるファミリアなんてあるのか?
中身はともかく、今の俺は5歳児、外見だけで判断すれば多少筋肉の発達した子供だ。
見慣れない恰好の5歳児……そんな怪しげなの、自分の組に入れたいと思うだろうか?
いかん……先行きに暗雲が立ち込め始めたぞ。
いやいや、挫けるな!
まだ何も始まっていない内から挫けてどうする!?
しかし、どうすれば……?
グギュルルルル
「ヤベ、腹減った……」
思えば昨日の夕方、猪の丸焼きを食って以降何も食ってなかった。
しかし、手持ちの食料は無し……金も無し……。
いかん、詰みじゃないか。
どうする……?
何か早急に金策を……或いは食料確保の策を……。
しかし……金策と言っても売れる物など持ち合わせていない。
働くにしろ、5歳児のこの見た目で雇ってもらうのは難しい気がする。
食料確保だって、街中に狩れる獣などいる訳がないし……盗んだり食い逃げするのは前世日本人の倫理観が許さない。
今の俺にあるものは……サイヤ人の戦闘服、前世の知識、サイヤ人としての戦闘能力、氣のコントロール技術……。
戦闘服は技術力が違い過ぎて売れる代物じゃないし、戦闘能力は冒険者にならなければ発揮して稼げない……。
クソォ、冒険者がもっと簡単になれるものなら……!
ゴギュルルルル!
「うおぉ……!」
おい俺の腹よ、そこまで激しく空腹主張しなくてもいいだろう……!
激しく空腹なのは分かってるって……!
「――なんだい、坊や。腹が減ってんのかい?」
「え?」
突然の声に振り向くと、えらくガタイのいいおばさんが俺を見下ろしていた。
今の俺がチビなのを差し引いてもデカい……腕も太いし、肩幅も広いし、身長180センチはありそうなマッチョなおばさんだ。
結構強い、戦闘力100ってところか。
「随分威勢のいい腹の音だったじゃないか」
「あ、うん……けど、金が無くて……」
「来な」
「うえ!?」
いきなり脇に抱えられた!?
「ちょっ!?何っ!?」
「いいから大人しくしてな。いい所に連れて行ってやるよ!」
ひ、人攫いー!?
「さっ、冷めない内に食べなっ!」
「……なんで?」
何が何だか分からない内に連れて来られたのは、木造建築のこじんまりとした酒場っぽい店……。
俺はカウンター席の一つに座らされて、少ししたら目の前に山盛りのナポリタンに似たスパゲティが盛られた大皿がドカンと置かれた……。
う、美味そう……!
って、いやいやいや!?
「お、おばちゃん!だから俺、金無いって!」
「子供が一丁前に遠慮しなさんなっ!あたしの奢りだよ!」
笑ってそう言うと、おばさんは店の奥に行ってしまう。
残された俺は唖然とするしかない……。
文無しの腹ペコで立ち往生状態だったのに、いきなり大盛りスパゲティを奢られるって、何この棚ぼた……?
ギュルルルル~!
「うっ!」
目の前にこんな美味そうなナポリタンっぽいスパゲティを置かれて、腹が理性をぶち壊しにかかってきた!
うぅ……食欲を刺激するケチャップっぽい匂い、太めの麺に濃い赤とオレンジ色のソースが絡んで、玉ねぎやピーマンが良い塩梅に散りばめられて、分厚く切られて焦げ目のついたベーコンが肉汁を滲ませて……!
ゴギュルルォオォォォ!!
我ながらどんな腹の音だ!?
あーでももう俺自身も限界だ!
これだけ腹ペコで目の前にこんな美味そうな物ぶちかまされて我慢なんて出来るかぁー!!
「ズゾゾゾゾ!!!」
美味ぁ!!
腹ペコを差し引いてもこれは美味いぞぉ!!
「ズボボボボ!!!」
フォークを使うのも面倒だ!
サイヤ人の肺活量を見よ!
「ズババババ!!!ズルン!」
あ、終わった。
夢中で食べていたらあっという間だった……なんか寂しい。
でも、腹は満たされた。
「ゲフゥ~……」
いやぁ、美味かったぁ~。
食ってしまった、ピーマン1本たりとも残さず。
美味い料理は、満足感が違う。
腹が満たされた感じはあるのに、まだまだ食べられそうな腹具合に感じる。
思えばこの星に来てから、初めてのまともな食事だな。
これまでは野で狩った獣の丸焼きだの、モンスターの魔石(極小)で交換したぼそぼそしたパンや塩辛くて硬い干し肉だの、侘しい食事ばかりだったからな……。
食事は大事だよ、マジで。
「大した食いっぷりじゃないか!」
おばちゃんが奥から戻ってきた。
俺は、姿勢を正して向き合う。
「ご馳走様でした。メチャメチャ美味かったです」
「そうかい!そりゃあ食べさせた甲斐があるってもんだ!」
豪快に笑うおばちゃん。
肝っ玉母ちゃんって表現がドンピシャだな。
こんな気の良いおばちゃんに奢られて「ありがとうハイさようなら」なんてのは俺が俺を許せないぞ。
「母ちゃ――ッ、おばちゃん!」
「何だい?」
「さっきも言ったけど、俺、金がない。奢りって言ってもらったけど、こんな美味い飯をタダ食いなんて俺には出来ない。だからせめて、この飯の分だけでも働かせてくれないか!お願いだ!」
テーブルに手をついて頭を下げる。
すると、おばちゃんの笑い声が聞こえてきた。
「アッハッハッハ!なんとまあ律義な坊やだね!どっかのボンクラ共に見習わせたいもんだ!いいだろう!なら今日一日、働いてもらおうかね!」
「っ!ありがとう!おばちゃん!」
「おばちゃんは止しな。一日でもここで働くからには、あたしのことは“母親”と呼びな。さっきみたいにね!」
「うッ!?」
誤魔化せてなかった……!
「アッハッハッ!ああ、そうだ。名乗ってなかったね、あたしはミア――ミア・グランドってんだ。あんたは?」
「あ、俺はリーク」
「そうかい!じゃあ坊や、早速働いてもらおうかね」
聞いたのに名前呼ばんのかい!?
そうして俺は、肝っ玉母ちゃんことミア・グランドの店でアルバイトする事になった――。