ダンジョンにサイヤ人が入るのは間違っているだろうか?   作:雲呑麺

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※9/13誤字報告を受け、微修正しました。
あんころ(餅)様、ご報告ありがとうございました。


第6話 悪戯の女神―ロキ―

 ミア母ちゃんの紹介で出会った小人族(パルゥム)のフィン・ディムナさん――彼が団長を務めるファミリアに入れてもらえる事になり、俺は彼について夜の街を歩いた。

 

 夜が更けも賑わっている酒場が立ち並ぶ通りを抜け、段々と静かになっていく道をフィンさんの後ろについて行く。

 

「さあ、着いたよ。ここが僕らの本拠(ホーム)『黄昏の館』だ」

 

 辿り着いたのは、城だった……。

 

「え……マジで?」

 

「ハハハ、驚いたかい?」

 

「うん、驚いた。こんな本拠地構えるぐらい儲かってるのか、ロキ・ファミリア……」

 

「まあ、儲かっていると言えば儲かっているけれど、団員の人数もそれなりに多いし、『遠征』に出掛ける事もあるから、維持費やら消耗品費やらロキの酒代やらロキの無駄遣いやらで経済状況はカツカツというところかな、ハハハ……」

 

 フィンさんの苦笑いが印象的だ……。

 そのロキって神様、そんなに金遣いが荒いのか?

 

「さっ、中に入ろう。ロキの事だから、まだ起きているはずだ」

 

「あ、うん」

 

 フィンさんに先導されて黄昏の館へ――館をぐるりと囲む高い塀、そこに設置された門に進む。

 

「あ、団長!おかえりなさいっす!」

「お、おかえりなさい!」

 

 門の両端に立っていた、鎧を着た若い男達が背筋を伸ばしてフィンさんに一礼する。

 戦闘力は、どっちも30前後か。

 ミア母ちゃんの酒場にいた冒険者と同格ぐらいだな。

 

「ああ、ご苦労様。門を開けてもらえるかい?」

 

「は、はいっす!」

「すぐに!」

 

 男達はワタワタと2人で門を開ける。

 

「「どうぞ!」」

 

「ああ、ありがとう」

 

 フィンさんが先に中へ進み、俺も続く。

 

「あ、あの、団長!その子供は……?」

 

「彼は新入団員さ。君達の後輩になる」

 

「は、はあ……」

 

 戸惑いの表情を浮かべる男達……。

 当然か、大手ファミリアの団長ともあろう者が子供を新入団員だといって連れてきたんだから……。

 初手から俺も変に目立ってしまったか……。

 

 いやいや、人目を気にして縮こまったら自由じゃない。

 堂々としよう。

 

「まあ、今日は遅いから、また明日の朝にでも改めて紹介するよ」

 

「お疲れ様でーす」

 

「お、お疲れ様っす……?」

「お、お疲れ様です……?」

 

 困惑の男達を置き去りに、フィンさんと俺は館の玄関へ。

 そこでふと、玄関の上に描かれたピエロのマークが目についた。

 

「フィンさん、あのマークは?」

 

「あれは僕らロキ・ファミリアの団章(エンブレム)だよ」

 

「へえ~」

 

 中々洒落たデザインだ。

 

「さあ、中へ」

 

「あ、うん」

 

 館の中に入る。

 玄関を抜けると広いエントランスに迎えられる。

 本当に城だな……下手をすると迷いそうだ。

 

「こっちだ」

 

 フィンさんに従い、階段を上がって上階へ――。

 長い廊下を進み、とある一室の扉の前でフィンさんが立ち止まる。

 

 中から気を感じる、誰かいる様だ。

 けど、フィンさんに比べたら全然弱い。

 氣が小さくて逆に戦闘力が測れない。

 

 あと、何か笑い声が聞こえてくる……。

 

「はぁ……探す手間は省けたみたいだけど、これは酔ってるかな……?」

 

 溜め息のフィンさん。

 フィンさんも中に人がいるのに気付いた様だ。

 どうやら部屋の中で誰かが酒を飲んでいるらしい。

 

「仕方がない。場合によっては明日の朝だな……リーク、入ってくれ」

 

「う、うん……」

 

 フィンさんが扉を開けて中に入ったので、俺も続く。

 

 壁には天井まで届く高さの本棚が置かれ、びっしりと本が詰められている。

 その前に立派な机、部屋の中央に向かい合わせに置かれたソファとテーブル――社長室か執務室といった風情、天井のシャンデリアや暖炉の上の花瓶に壁の絵画など過剰でもなく貧相でもない落ち着きと気品のある装飾、床も絨毯が敷かれていて、豪華だが嫌味がない。

 

 ただ……。

 

「ゴッキュ、ゴッキュ、ッカァ~~!たまらんわ~!やっぱ『神酒(ソーマ)』は最高や~!」

 

 テーブルに酒壺とツマミの皿を並べ、グラスを片手にご機嫌な様子の……女?男?が部屋の雰囲気を結構台無しにしている。

 閉じているような細い目、後ろで纏めた赤い髪、へそ丸出しにホットパンツにニーソックス(だったか?)という大胆な恰好なのに大股開きという恥じらいの“は”の字もない恰好……。

 

 え、ナニコレ……?

 

「はぁ~……ロキ」

 

「んあ~?お~フィン~!おかえり~!」

 

 フィンさんの溜め息交じりの呼びかけに、グラスを持った手を挙げて答える細目赤髪。

 ん~、何となくだが……顔の輪郭や腰つき、それに微かに……本当に微かに胸の膨らみが有る様な無い様な無い様な……だから、女かな?

 あと、よくよく感じてみると、不思議な氣だ。

 これまで感じたどの氣とも違う……。

 勿論、氣はそれぞれ違って当たり前なんだが、種族毎に似た感じがあるものだ。

 この細目赤髪女(半信半疑)の氣は、人間に似ているが何かが決定的に違う……曖昧と明確が同居している、何とも違和感が拭えない氣だ。

 

「ん~~?その坊や誰や~?」

 

 おっと、向こうが俺に気づいた。

 

「彼はリーク、入団希望者さ。リーク、彼女はロキ。こんなだが、僕らロキ・ファミリアの主神だ」

 

「こんなってなんやねん!?いけずやなぁフィン!」

 

 軽いコントの様なやり取りだ。

 それはともかく、あの細目赤髪女(確定)が主神ロキか……。

 主神という事は神な訳で、人間に見えるが人間ではない。

 氣の違和感もそこから来るものか?

 

「まあええわ!そんなワケでウチがこのファミリアの主神をやっとるロキや!よろしくな~!」

 

「り、リークだ、よろしく……」

 

 この……何故か関西弁を喋る、1人で酒盛りに興じていた細目赤髪女が、神か……う~ん。

 

「しっかし、フィンが直接入団希望者連れてくるなんて、珍しいなぁ?」

 

「なに、出会いは偶然だよ。ミアの店に飲みに行ったら、そこで働いていたんだ。話を聞く内に、ミアからうちへの入団を勧められてね。僕も話していて好感を持ったから連れて来た」

 

「へえ~!あのミア母ちゃんのお勧めか~!そら一見の価値アリやな!どれどれ~?」

 

 言うが否やロキ様(一応神として敬意を払う)が近寄って来て、俺をジロジロ見始める。

 うわ、酒くさ……。

 

「ふ~むふむ~、背は小っこいけど中々ええ筋肉しとるなぁ~――ん?なんやこの鎧……?」

 

 ロキ様が俺の戦闘服に気付いた……!

 

「見た目もそうやけど、こんな素材、見た事もない……よう見たら、このシャツもそうやな?なあ、坊や……自分これ、どこで手に入れたん?」

 

 ロキ様の気配が少し張り詰めた。

 ついでにフィンさんの気配も……多分だがフィンさんも、ていうかフィンさんこそ俺の戦闘服の事は気づいていた筈だ。

 

 なら、丁度いい。

 俺の事を話しておこう。

 変に隠すより先に話しておいた方が、お互いの為に良いだろう。

 信じてもらえなければ、その時はその時だ……。

 

「ロキ様、フィンさん、ちょっと長くなるけど、俺の話を聞いてくれるかい?」

 

「……ああ、聞こう。ロキもいいだろ?」

 

「……せやな。聞く前に水一杯飲まして。酔い覚ますわ」

 

 

 

 2人の用意が整ってから、俺は自分の事情を話した――。

 

 惑星ベジータ出身のサイヤ人という戦闘民族であること……。

 元は別の世界の人間で、この世界というか宇宙に前世の記憶をもったまま転生したこと……。

 サイヤ人の悪行と、それに加担するのが嫌で逃げ出してきたこと……。

 宇宙の旅の果てにこの星を見つけ、定住したいと思い、降り立ったこと……。

 

 空を飛ぶ舞空術やエネルギー弾といった氣のコントロール技術についても、軽く実演して説明した。

 

「カァ~……こりゃあ、流石にたまげたわ。残っとった酔いが一気に吹っ飛んだわ……」

 

 ロキ様が座っていたソファの背もたれに寄りかかって脱力する。

 

「……正直、色々と受け止めきれないんだけれど……ロキ、リークが話した事は……」

 

「少なくとも嘘は1コも言うとらん」

 

「真実、という事か……」

 

 ロキ様とフィンさんの妙なやり取り……何故、フィンさんはロキ様に今みたいな確認を……?

 それにロキ様も、どうして俺が嘘を言っていないと断言する?

 勿論嘘は言っていないが……ロキ様にはそういう特殊能力でもあるのか?

 

「なあ、今のはどういう……?」

 

「うん?ああ、そうか。リークは知らないんだね。神々は僕ら下界の人間の嘘を見抜けるんだよ」

 

「もちっと正確に言えば、あくまで言っとる事が嘘かホンマかが感覚的に分かるだけやで。子供らの心の中が読める訳やないから、そこは安心しとき」

 

 なるほど、予想は凡そ当たっていたか。

 ぶっちゃけて言えば、この星の神は嘘発見器搭載という事だ。

 便利といえば便利だが、怖いと言えば怖い……。

 

 しかし、今回に限っては助かった。

 信じてもらえない事も覚悟していたから、少し安堵……。

 

 ただ、問題はここからとも言える……。

 

「それで……どうかな?」

 

「うん?」

「何や?」

 

 なんだか、2人――いや1人と一柱?にキョトン顔された。

 漠然とし過ぎて伝わらなかったか……。

 

「いや、その……こんな俺でも、ロキ・ファミリアに入れてもらえるのかなぁって……」

 

「ああ、そういうことか」

 

「んな心配いらんで。寧ろリークたんには是が非でもうちに入ってもらうわ!」

 

 リーク……『たん』!?

 

「星の海――宇宙からやって来た子を眷属にした神なんて、天界広し・下界広しと言えどウチが史上初間違いなしや!まあ大っぴらには言えへんけど、こんな未知も未知な体験逃がせへんわ!いや~下界降りてきてホンマ良かった~!」

 

 何やらよく分からないが、俺の事情はロキ様のお気に召した様だ……。

 

「僕としても酒場で言った通り、君をファミリアに迎えたい。さっき見せてもらった空を飛ぶ術や、氣の事にも非常に興味があるしね」

 

「おお!」

 

 フィンさんにも受け入れられた!

 有難い!

 入団を断られたらどうしようかと思った。

 

「ほんじゃリークたんの気が変わらん内にちゃっちゃと恩恵(ファルナ)あげとこか!ささっ、リークたん!上着脱いで背中出してや!」

 

「うん……ところでロキ様?」

 

「なんや?あ、様とか要らんで?愛情込めてロキ~って呼んだって♪」

 

「……じゃあ、ロキ。俺も、そのリークたんって呼び方止めてくれない?」

 

「え~!?なんで~!?」

 

「……なんか嫌だ」

 

「え~!?え~やんか~!この呼び方は新入団員が必ず受けなあかんロキ・ファミリアの伝統なんやでえ!」

 

「ロキ、そういう嘘は眷属としてもファミリア団長としても止めてほしいな」

 

「え~!?フィンかて昔はそう呼んどったやん!」

 

「僕もすぐ拒否した覚えがあるけど?」

 

「ぐぬぅ、この場にウチの味方はおれへんか……!」

 

「ファミリアの総意と受け取ってもらっていいよ」

 

「ぐあ~!フィンのいけずぅ~!」

 

 またコントみたいなやり取り――こうしてみると、ロキとフィンさんの間の親しみというか信頼関係が見える様だ。

 こういう気安い雰囲気は嫌いじゃない。

 

「よっと。はいよ、脱いだぜ」

 

「よっしゃ!お~、リークたん脱いだら凄いぁ……!可愛え女の子の柔肌もええけど、少年の意外な筋肉も悪ぅないなぁ……!ジュルリ……!」

 

「…………」

 

 もしかして俺は、ファミリアの選択を間違えたか……?

 

 

 

 その後ちょいちょいコントを挟みつつ、俺はロキから恩恵(ファルナ)を授けられ、無事ロキ・ファミリアの一員となった。

 記念という形で、ステイタスの写し紙を貰ったが……この星の文字――『共通語(コイネー)』が読めなかった……。

 会話はできるのに何故だ……?

 

 さておき、団員達への紹介と部屋の割り振りは明日するという事で、今日はフィンさんの部屋に泊めてもらう事になった。

 

「そうだ、リーク。一つ頼みを聞いてもらえるかな?」

 

「何だい?フィンさん」

 

「明日、僕ともう2人――ファミリアの幹部3人と戦ってもらいたいんだ」

 

「はい!?」

 

 唐突になんだ!?

 

「別の星という未知の領域の戦闘民族出身という、君の戦闘能力を把握しておきたい。ファミリアの団長としての責務という面もあるけど、その前に一冒険者として、僕自身も君という“未知”に大いに興味がある。それに君の出自や特殊な事情を、その2人の幹部達にも共有しておきたいんだ。構わないかな?」

 

「あ~……まあ、そういう事なら」

 

 あまり言い触らされるのはよくないが、フィンさんが同格と称するほど信頼を置いている人達になら、寧ろ知っておいてもらった方がいいと思う。

 俺の戦闘能力についても、氣で感じ取れる限り、この星の常識からは逸脱している可能性が高いから、信頼できる人達にオラリオでの立ち回りについて相談できるようになる点も、俺には有難い。

 

「ありがとう。入団直後に無理を言ってすまないね」

 

「いいよ。俺としても知っておいてもらった方が助かるから」

 

 そんな話をして、その日は就寝――フィンさんの部屋のソファを借りて休ませてもらった。

 ベッドも勧められたが、他人のベッドは落ち着かないので遠慮した。

 

 明日は少し忙しくなりそうだ……。

 


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