【一章完結】美少女アンドロイドへのTS転生から始まる、たのしい地球征服っ!   作:水品 奏多

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10 逢魔が時

 空がオレンジ色に染まり、底冷えするような風が頬を撫でる。

 そんな何処か物悲しい雰囲気に包まれた住宅街の中を俺たち三人は歩いていた。

 

 目的は”黒い影”とやらの目撃例があった旧佐々田家。

 店にいた老婦人の話によると、丁度今朝、真っ黒い何かがそこに佇んでいるのを見かけたらしい。そして襲われそうになった恐怖で目を瞑れば、いつの間にかいなくなっていたとのこと。

 自分でも半信半疑なのか、彼女は「なんだったのかしらねえ、あれ」とどことなく軽い調子で語ってくれた。

 

 正直、俺個人としては「ただの見間違いだろう」と流す話ではあった。

 怪盗との関連も見いだせない上に、似たような話を幾つか知っていたから。

 それに待ったをかけたのは団員のひなた。「もし本当ならみんなが危険だぞっ」という彼女の熱い思いによって、俺たちの活動は「黒い影の調査」へと姿を変えたのだった。怪盗関連は完全に行き詰っていたし、まあ三人で楽しめればいっか、というのが俺と志穂の考えだった。

 

「だ、大丈夫かな? 危なくないかな?

 襲ってくるんだよね、それ?」

 

「大丈夫、大丈夫。あたし知ってるんだ。

 こういうのは大体驚かすだけで危害は加えてこないんだぞっ」

 

 不安そうに体を寄せてくる志穂に、ひなたが自信満々に胸を張る。

 その横で俺はちっちっと指を振った。

 

「そうとも限らないよ、ひなた。

 貞〇とか呪いのビデオとかのレベルになれば、わりとこっちの命もやばい。しかも犠牲になるのは大体わたしたちみたいに好奇心で首を突っ込む人たちだよ」

 

「むぅ、確かにっ。

 それなら数珠とか塩とか持ってきた方がよかったか?」

 

「どうなんだろ。

 何となく効かなそうな気もするし、祖父から貰ったお守りを持ってたから一人だけ助かったみたいなパターンもよく見る気がする。

 ただ一番の対処法はその怪異特有の性質を突くことじゃないかな、多分」

 

「あー、終盤に怪異の意外な弱点や過去が分かるとかあるあるだもんね。

 それに気付いた主人公たちが解決に向けて動き出す、みたいな」

 

「……もし最初に気づいてたら、こんな悲劇にならなかったんじゃってやつだな」

 

 神妙な様子で頷くひなたの横で、志穂と二人で確かに、と笑いあう。

 悲しきかな、ホラー作品に犠牲は付き物なのである。

 

「あ、そういえば、夢で――」

 

 志穂が空を見上げたその時だった、彼女の動きが止まったのは。

 志穂は限界まで目を見開かせると、震える腕で前方を指さした。

 

「ね、ねえ、空ってあんなに赤かったっけ?

 それにあそこにいるの……」

 

 志穂の指の先にいたのは、一人の人間。

 薄汚れた甲冑に身を包み、頭頂部が剃られた長い髪を不規則に揺らすそれの名前はーー

 

「落ち、武者……?」

 

「?? あれ、今日は仮装イベントでもあったか?」

 

 あまりに意味不明な光景に、ひなたが強く目を擦る。

 さりとていくら待っても、その幻影は消えてくれない。血のように真っ赤な空を背に、それは小刻みに体を震わせていた。

 それの、落ち武者の真っ白な瞳が、ぎょろりとこちらを捉える。

 

『あら、あなたがこの時代の守護者なの?

 違うの? 風が騒がしいから、てっきりまた選ばれたんだと思ったのに』

 

「っ、逃げようっ」

 

 二人を手を取って、奴の反対側へと走り出す。

 全く以て意味が分からないが、あれは危険なものだと直観が告げていた。

 

 くそったれ、何が起こってる?

 これも地球侵略の一環なのか? それともまったくの別件?

 

 混乱のままに後ろを振り返れば、奴の姿が道の奥へと消えていくのが見えた。

 あんな見た目だからか、足は速くないらしい。よし、これだけ離れれば追いつかれないはず。後は出来るだけここから離れて――

 

「ね、ねえ。おかしいよ、アンちゃんっ。

 ほら。あそこのミラー、それにここもついさっき通ったよね?」

 

「っ」

 

 志穂の悲鳴に、思わず声が漏れそうになる。

 

 交差部に両面ミラーが設置されたT字路。

 そうだ、確かに俺たちは正面から来てこのT字路を右に曲がったはずだ。なのに何故か、目の前に同じT字路が鎮座している。

 冷や汗に駆られて何度も右や左に曲がってきても、結果は変化なし。必ずここに戻ってくる。

 

 まさか、閉じ込められた?

 最悪な想像が浮かぶと同時、かちゃかちゃと金属がこすれる音が後ろから鳴る。

 

「っ、ひとまずあっちに隠れよう」

 

「う、うん」

 

 二人と一緒に近くの家の敷地に入り、背丈の半分ほどの生け垣に身を隠す。不法侵入かもしれないけど、今みたいな異常事態なら許してくれるだろう。

 

「な、何が起こってるの? さっきのあれは何? 出るのは黒い影じゃなかったの?

 意味、わかんないよぉ……」

 

 志穂が涙目で混迷を零し、ひなたが黙り込んだまま俺の服の裾を掴む。

 ああもう。多分一番情報を知っているし、俺がリーダーになるしかないか。

 

「とりあえずは様子を見よう。あいつらに見つかったらやばい気がする。

 あとは……不審者がいたって警察に通報するとか?」

 

「あ、そうだね。ええーと……あはは、圏外だって。意味わかんない。

 ね、ねえ私たち何に巻き込まれてるの?」

 

 スマホを取りだした志穂が、不安定な光を宿した瞳で聞いてくる。

 

 何に巻き込まれているの、か。俺も分かんねえんだよな。

 せめてここにキャロがいれば――ってそうじゃん。今もキャロは俺を監視してるんだやな?

 

 おい、キャロ。これはお前のせいなのか?

 

 ……。…………。

 ああもう、ほんとどうなってんだよっ。

 

「なんだあ、これ? うわ――」

 

 刹那、近くの道路から見知らぬ男性の悲鳴が聞こえた。同時に何かがぶつかったような鈍い衝突音も。

 

 まさか俺たちの以外の人間も閉じ込められてるのか?

 

「二人はここで隠れてて。ちょっと様子を見てくる」

 

 立ち上がろうとした俺を強く優しい感触が止める。

 いつの間にか、顔面蒼白となったひなたが震える体で俺の手を掴んでいた。

 

「や、やだぞ。もしアンに何かあったら、どうするんだよぉ……」

 

 弱弱しい声で、そう囁いてくるひなた。

 続いて、志穂が表情を引き締めてこちらを見た。

 

「私もひなたちゃんと同じ意見、かな。

 状況が分からない以上、別行動するべきじゃないと思う」

 

「っ……分かった。

 ただし危険があったらすぐに逃げよう、いい?」

 

 まあそれも一理あるか、という俺の言葉に何かを堪えるように頷く二人。

 そうして俺たちは生け垣からそろそろと顔を出した。

 

 視界に映ったのは、近く――50mほど離れたの道で、気絶した中年の男性をどこかへと運ぼうとしている一体の落ち武者の姿。

 どうする、助けるか? いやでも二人を危険に晒すわけにもいかないし、そもそも目の前のこいつに物理攻撃が有効なのかも分からないし……。

 

 おいこら、謎の屋上少女っ。

 俺は守護者なんだよな? だったら何か特殊能力が覚醒したりしないのか? それともこれはただの想定外なのかっ?

 

『なんでお――どこ――さ――』

 

「アンちゃんっ!? て、手がっ……」

 

「ふあっ」

 

 キャロの掠れた声と同時、右腕が疼く。

 見れば、右腕があるはずのそこに全く別の物体があった。肘から先が何か気持ち悪い具合に展開して、その中から黒い銃身が覗いているのだ。

 

「……まさかアンはロボットだったのか?」

 

 ひなたの呆然とした声に、ああそうだった、と今更ながら思い出す。

 俺の体、こんな状態になってたんかよっ。先に言えよ、キャロの野郎っ。

 

 そんな鬱憤を小さく息を吐いて追い出す。

 とにかく今は目の前のこれとひなたたちのことだ。

 

 でもどうしたらいいんだ? 流石にこれは誤魔化せないよなあ。

 ま、まあ多分宇宙人的なあれで記憶と消せるんだろうし、適当に言っておこう。

 

「これが終わったら全部話すから、今はスルーしてくれると助かる」

 

「わ、わかったぞ。

 ……その、これはアンが起こしたわけじゃないんだよな?」

 

「うん、多分そのはず。

 でも元は言えば、わたしのせいかもしれない……」

 

 恐る恐る聞いてきたひなたの顔が見れなくて、俯く。

 守護者やらアンドロイドやらこの怪奇現象に繋がっていそうなのは間違いなく俺だ。それにもし俺がキャロにちゃんと聞いていれば、少しは対処しようがあったかもしれない。

 全ては俺の選択の結果だった。何も考えずに行動して、二人を危険な目に合わせてしあった。

 

「わかった。信じるぞ、友達だからな」

 

「うん、私も。

 アンちゃんが本気で私たちを守ろうとしてたのは伝わったもん」

 

「ありがと」

 

 そんな俺の前で、そう屈託なく笑う二人。

 俺はじんわりと温かくなった胸を左手で押さえ、右手の銃口を落ち武者へと向けた。

 

 うおおお、俺のガトリング砲(ガチ)が火を引くぜェ。 

 何か出ろっ。何もわからんけど、目の前のこいつを吹っ飛ばすんだっ。

 

 あてずっぽうに体の色んな部位に力を入れていく。

 右手を握りしめるように動かしたその時、とうとう銃先が白く光り、手のひら大の球が射出された。

 空気を切り裂き、落ち武者へと突き進んでいく白い球。それは武者の体と衝突すると、小さく爆発してその体をずたずたに引き裂いた。

 

 「やたっ」「すごい」とか歓声を上げる二人。

 さりとてその歓喜も長くは続かなかった。崩れゆく落ち武者のオオオォォォォという唸り声が、周囲の落ち武者たちを呼び寄せ始めたのだ。

 

 かちゃかちゃかちゃかちゃ。四方八方を恐怖の声に囲まれる。

 

「ど、どうするんだぞ?」

 

 赤い世界に、背中にしがみついたひなたの戦慄がこだました。

 

 

 

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