【一章完結】美少女アンドロイドへのTS転生から始まる、たのしい地球征服っ!   作:水品 奏多

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「あの時、俺は既に死んでいたんだな」

 

 周囲に四散する青い光を背後に、大きく見開かせるキャロ。

 張り詰めた沈黙が二人を包み、彼女は観念したように重たい声音で話し始めた。

 

「……どうしてわかったのよ? 過去でも思い出したのかしら?」

 

「え、うっそ。俺の勘違いじゃなくて?」

 

 対して俺の心にあったのは純粋な衝撃だった。

 実のところ、自分でも半信半疑だったのだ。もしそうなら色んな出来事に説明がつくけど、他の疑問に沸いてくるし……とかそう程度。

 正直彼女が「馬鹿じゃないのかしら?」と否定するのを期待してすらいた。

 

 でも……まじかあ。俺もう既に死んでいるのか。

 急速に広がっていく、体の中が空っぽになったかのような虚無感。今明かされた衝撃事実に悲しめばいいのか、喜べばいいのか分かんねえよ。

 

「お、前、はっ」

 

 目尻を吊り上げ、怒気を孕んだ声でこぶしを握り締めるキャロ。

 ついで、体がびきびきと嫌な音を立てて軋み始めた。

 

 い、いたいいたいたい。

 なんだこれ、こんな種類もあるのかよっ。ほんとこの体は不便だなっ。いやまあ体があるだけで本来なら万々歳なんだけどさっ。

 

 暫くそんな拷問が続いた後、キャロは投げやりにため息をついた。

 

「それで、どうしてそんな馬鹿なこと思ったのよ?」

 

「いや、黒い影を見た時に何となく思ったんだよ。まるで昔の俺みたいだなって。

 そしたら急に自分が偽物っぽく感じられて、それで……」

 

「……案内するのかしら」

 

 俺の曖昧な根拠にも、キャロは表情を変えずそう言った。

 

 

 

 

 

「あ、あれが例の黒い影だな」

 

 奴の姿を見つけたのは俺たちが助けられた場所――ではなく、最初の目撃例があった旧佐々田家。

 相当なダメージを受けたのか、荒れ草に倒れ伏す奴の体は半透明に消えかかっており、内部からは青い星核が覗いている。

 

「……どうやらここに残っていたお前の両親の魂が願ったみたいなのよ。

 死んだ息子が生き返るように、もう一度ここに戻ってくるようにって」

 

 キャロの声には確かに慈悲の感情が籠っていた。

 

 老夫婦の話によれば、ここに住んでいたのは父母息子の三人家族。

 息子は約2年前に交通事故、父と母はそれに引きずられるように約一年に病気で亡くなったらしい。

 つまり黒い影騒動は悲劇に見舞われた家族の最後の抵抗だったわけだ。

 そして彼らが呼び戻そうとしたのが、ここにいる息子(おれ)だと。うーむ、両親の話っていうのに何だか全然現実感がないな。

 

「お前の魂は既にナナの中にあったから、お前は黒い影にならなかったのよ。

 目の前のこれは、ただ昔のお前を再現しただけの抜け殻かしら」

 

「そ、それじゃあ俺たちの助けてくれたのは?

 最初に聞いた話じゃ、ただ見ていただけで突然襲ってきたらしいぜ?」

 

「幻想体――星核で生み出された超常生物は発端となる感情に従うかしら。

 最初の噂は分からないけど、お前たちを助けた理由は簡単なのよ。

 ――両親から見たお前が、そういうお人好しの人間だったのよ。襲ってきたのも周りに危険を知らせたかったとかそんな感じじゃないかしら?」

 

 お人好しだった、か。

 確かにそうじゃなければ、こうまでして誰かを助けようと思わないよな。

 

 感傷に浸るように、ボロボロになった黒い影の体に触れる。

 

『いいかい? 困っている人がいたら――』

 

 脳裏にセピア色の記憶が蘇る同時、影が消えて星核が地面に落ちる。

 大した内容を思い出したわけじゃなかった。年老いた大人が幼い子供に優しく話しかける一場面が頭に浮かんだくらい。

 さりとて、確かにあれは俺だった。何となくそんな気がするのだ。

 

「もし俺がここにいなかったら、俺は普通に蘇っていたのか?」

 

「……魂は本物の器が無ければ正常に存在しえないのよ。

 例え仮の器を用意したとしてもそう長くは持たないかしら。最も今のお前は謎に安定していて、あと数百年しなければ輪廻を外れないけれど」

 

 酷く不服な声音で、キャロが言う。

 

 最初はキャロが何の関係もない俺を巻き込んたのだと思った。そのせいで元の体を失ってしまったのだ、と。

 でも違う。本当は俺は彼女に助けられていたのだ。

 キャロのおかげで今俺はここにいて、普通の学生として生活できている。もしあの森にキャロが来なかったら、俺はただ浮遊霊として漂っていた。

 

「どうして一番初めにそれを言わなかったんだ?

 助けたっていう恩を売りつければ、俺ももっと協力的になったと思うぜ?」

 

「言ったはずなのよ、お前の助けなんか必要ないって。

 それに……もし自分の運命を悲観してヤケでも起こされたら、堪ったものじゃないのよ」

 

 そう視線を落とすキャロの口元には、慈しむような微笑が湛えられていた。

 

 ああ、くそったれ。俺は今まで何を見てきたんだよっ。

 落ち武者の大将と対峙した時、キャロは自分の体に傷がつくことすら厭わず奴を倒そうとしていた。相変わらず真意は分からないけど、何かのためにはそれが出来る奴なのだ、キャロは。

 そもそも俺は、キャロが市民を危害を加える光景を一度だって見てはいないじゃないか。

 

「なあキャロ。

 お前の地球征服とやらが完了すれば、こんなことはもう起こらなくなるのか?」

 

「そこは間違いないのよ。星核災害を防ぐのも「港」の役目かしら。

 逆に各地に散らばった星核を回収しなければ、これからも起こり続けるのよ」

 

「なるほどな。もしかして市内に広がった怪盗の噂って……」

 

「……私としたことが、不覚なのよ」

 

 心底悔しそうに、身を縮こませるキャロ。

 何だかその姿が可愛らしくて俺はつい失笑を漏らした。

 

 まさか味方次第でこうまで印象が違うとはなあ。恩人だと思えば今までの行動も全部許せ、許せ……いや流石に我儘すぎだよな、うん。

 まあいずれにせよ、困っている人がいたら助けねばなるまい。

 

 ――それが、両親と自分(かれら)と交わした約束なのだから。

 

「キャロ。俺はお前の地球征服を手伝うよ。

 今度は、自分の意思でお前の指示に従ってな」

 

「……勝手にすればいいのよ。

 お前は私の――」

 

「奴隷なんだから、だろ? 

 いいぜ、やってやろうじゃねえか。こっちは一度死んでるんだ、奴隷になるくらい怖くないさ」

 

 渋い顔を隠そうともしないキャロに笑いかける。

 かくして、俺と彼女の地球侵略は本当の意味で始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

「も、もう二人ともどこに行っていたのっ?

 みんな、落ち武者とかのことを忘れちゃってるし……」

 

「結局あの後はどうなったんだ? ニュ〇ラライザーなのかっ?」

 

 ――困惑した様子で待っていた志穂とひなたを加えて。

 

 

 





 少し短いですが、これにて一章完結です。
 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 
 いかがでしたでしょうか?
 作者としては想定通りなことも予想外なこともありつつ、何とか予定していた結末までたどり着けたという印象です。
 書き貯めをしていなかったので、色々と設定が甘かったり、展開が雑だったりしたかもしれません。ごめんなさいです。

 さて、次は二章についてですが……実はまだほとんどプロットが出来ていませんので、暫く先になるかもです。ごめんなさい。
 どうか気長にお待ちくださいませ。

 最後に。ここまで読んでいただいたことに再度の感謝を。
 少しでも「面白そう!」「期待できる!」と思っていただけましたら評価や感想いただけると作者が泣いて喜びます。「○○な展開希望」とか伝えていただけると反映されるかもしれません。
 それでは、また。二章でお会いしましょう。

 水品 奏多
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