【一章完結】美少女アンドロイドへのTS転生から始まる、たのしい地球征服っ!   作:水品 奏多

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4 クラスメート

「えー、それでは朝のHRも終わります。起立、礼」 

 

「「ありがとうございました~」」

 

 安藤先生の号令の後、一斉に騒がしくなる教室。

 「今日の1限って何だっけ?」とか楽しげな声が響く中、俺たちの周りには如何ともしがたい空気が広がっていた。好奇に満ちた視線はあちこちから感じるものの、実際に話しかけてくる人は一人もいない。まるで腫物を触るような、あるいは突然現れた珍獣を見て面白がるような、そんな空気。

 

 まあ……うん。気持ちは分かる。

 俺だったらこんな奴ら絶対に関わらないもん。

 

 それもこれも全部お前のせいだ、と左隣のキャロを睨んでみても、当の本人はどこ吹く風。職員室で渡された教科書を真剣な表情で読みこんでいた。

 今の状況はどうやら全部彼女の思惑通りらしい。

 

 暗澹たる気分もまま、キャロの奥に窓に広がる空ヶ丘市の街並みを眺める。

 俺たちが用意された席は最後列の窓際2つという通称ぼっちゾーン。人間、第一印象での評価は早々変わらない。自己紹介であれだけ暴れ回れば、正味ぼっち確定である。

 あーあ、折角なら2度目の学校生活も楽しみたかったんだけどなあ。

 

 あれ、まてよ。そうじゃん、全然覚えてないけど前は多分学生だったんだよな?

 それなら「誰々が昨日の夜に行方不明になった」って今この瞬間にも騒ぎになってるんじゃ……?

 

「ちょっと、ひなたちゃんやめようよ~。

 奴隷とか言ってたし、絶対やばい人だって。ひなたちゃんなんか簡単にぺろぺろされちゃうんだよっ」

 

「大丈夫、大丈夫。

 もしそうなってもあたしが返り討ちにしてやるからさ」

 

「でもぉ」

 

 そんな疑問は可愛らしい声に遮られる。

 近づいてきたのは金髪ショートの背丈の小さい少女と、緑髪ロングの大人しそうな少女。その片方、金髪少女がずいと顔を近づけて聞いてきた。

 

「なあなあっ。さっきのあれ、どこまでほんとなんだ?

 本当にアンはキャロの奴隷なのか?」

 

「い、いえ。あれはただの冗談ですよ。

 最近の日本だとああいうのが流行ってるってキャロが教えてくれたんですよ。まあ

反応を見るに大失敗だったみたいですけど……」

 

「あ、そうだったんだ? キャロさんが……」

 

 どこか安堵した様子で隣を見る緑髪少女。

 さりとてキャロは我関せずといったように教科書に目を落とすばかり。

 

「あはは、そうなんですよ。

 この子、よく(たち)の悪いいたずらを仕掛けてくるのでわたしとしても困ってーーいえ、何でもありませんともっ」

 

 調子に乗って意趣返しを試みれば、絶対零度の視線に射止められる。どうやらこれ以上は許されないらしい。

 全く、器量の狭いご主人様だなあ。

 じゃじゃ馬でももうちょっと扱いやすいと思うぜ、多分きっと。

 

「にひひ、二人とも本当に仲良しなんだなっ」

 

「「はあ? 誰がこんな奴とっ」」

 

「ほら、やっぱり」

 

 揃って声を上げる俺たちに、それみたことかと胸を張る金髪少女。その後ろで緑髪少女が忍び笑いを漏らした。

 しかし俺たちの心情は全く別。仲良しなんぞ以ての外、どちらかというと仇敵とか目の上のたんこぶとかの方が近い。

 お互い物凄い表情で睨みあい、どちらともなく視線を外した。

 

「おまえら席に着け。授業を始めるぞ」

 

「残念、もう時間切れかっ。

 それじゃあまた休み時間に話そうな~」

 

「はい、それではまた。話しかけてくれて嬉しかったです。

 あ、二人の名前は何て言うんですか?」

 

 教室に入ってくる初老の男性教員。

 彼の言葉に従って席に戻ろうとした二人を呼び止める。こんな雰囲気の中果敢に話しかけてくれたのだ、今後の学校生活のためにも、この細い縁を大事にしたい。

 

「あたしは末成(すえなり) ひなた。生まれも育ちもここ、生粋の空ヶ丘市民だ。

 これからよろしくな、アン。キャロ。それと同い年なんだし、普通にため口で大丈夫だぞ?」

 

「わかった。よろしく、ひなた」

 

「おぅ」

 

 と、サムズアップして教えてくれたのが金髪少女、ひなた。

 その活力に満ちた瞳とこんがりと焼けた黄金色の肌が何とも健康的である。

 

「私の名前は久之(ひさゆき) 志穂。私とひたちゃんも二人と同じ幼馴染なんだ~。

 え、えーと、ぶっ潰されない程度には仲良くしてくれると嬉しいな」

 

「あ、あはは。さっきのあれは忘れてくれていいから。

 いや、ほんとに」

 

 遠慮がちにそう笑いかけてきたのが緑髪少女、志穂。

 どれだけ誤魔化してもまだ硬さは抜けないようだし、あれが齎した影響がどれだけ大きいかが窺い知れる。許すまじ、キョロ。

 

 ともあれ、かくしてこの体初めての友達をゲットしたのだった。

 

 

 

 

 

 4限の現代文の授業を終え、待ちに待った昼休みに俄かに活気づく教室。

 俺たちはどうするんだろう、とキャロに聞こうとしたところで朝の二人が近づいてきた。あの後の休み時間とも二人ともちょくちょくこうして顔を見せに来てくれているのだった。

 

「はああ、疲れた~。

 二人は今日の授業大丈夫だったか? 向こうとは多分内容とか違うよな?」

 

「わたしは付いていけたかな。一応、通信教材とかで事前に予習してたから。

 キャロも……うん、何とかなったみたい」

 

 無言でノートを見返してるキャロに目を向けながら、嘘を織り交ぜて返す。

 ただ付いていけたのは本当だった。授業中に何度かあった先生の質問にも難なく答えられたのだ。

 この体が優秀なのか、それとも元の俺がすでに習っていたのか。いずれにせよ、強くてニューゲームみたいでめちゃくちゃ楽しいぞ、これっ。

 

「おお、すごいなっ。

 あたしなんか日本人なのに全然理解できなかったぞ」

 

「あはは、数学とかは二年生になってから一気に難しくなったもんね……」

 

 そしてそんな俺たちに対し、純粋な好意を向けてくる二人。

 「良ければ教えようか」とか出過ぎたことを言ってみれば、嬉しそうに頷いてくれた。うう、めっちゃ良い子たちな分、騙してるみたいで気が引けるぜ。

 

「そういえば二人とも昼はどうするの?

 私とひなたちゃんは食堂で食べるけど……」

 

「あーと、わたしたちは……」

 

 志穂至極もっともな疑問に、キャロの方を見る。

 お腹を蝕む空腹感。されど俺の生殺与奪の権は文字通り彼女に握られている。彼女の許しが無ければ俺は何もできないのだ。

 

 ノートから顔を上げた後、キョロは不思議そうに志穂たちを見た。

 

「食堂? ここって給食が出ないのよ?」

 

「? 高校だと普通そうなんじゃないのか?」

 

「ほら、海外(むこう)だと違うんじゃない?

 久しぶりに日本に帰ってきたって言っていたし」

 

「なるほど、そういうことかっ。

 ここは給食なしの食堂制で、メニューはAセットかBセットの2つを選べるんだ。

 献立の基本日替わり。ただAは肉で、Bは魚が多いぞ」

 

「そうなのよ。因みに値段は?」

 

「ワンコインの半分、消費税込みの250円。

 それがここ空ヶ丘高校の魅力でもあるんだぞ」

 

「……わかったのよ。私もそこで食べるのかしら」

 

 一瞬だけ逡巡し、おもむろに立ち上がるキャロ。

 それなら、と俺も続こうとして彼女の鋭い視線に遮られる。

 

「何勘違いしてるのよ。

 奴隷につかってあげるお金はないかしら。お前はそこでお留守番なのよ」

 

「え……?」

 

 俺だけお留守番? それもこんな腹が減った状態で?

 どうしようない怒りに引きづられ、キャロはこそこそと直談判する。

 

「さ、流石にそれはひどくないか?

 もし本当に俺が死んだらどうするつもりだよ?」

 

「大丈夫なのよ。お前の体はすでに充電済み、何もしなくてもあと1日は動き続けるのかしら。

 それに一応食事機能や空腹機能もついてるけど、ただの人間の模倣に過ぎないのよ。食べたところで微々たるエネルギーしか得られないかしら」

 

「そ、そうなのか……」

 

 SFの話を言われたら、黙るしかない。

 無力感に苛まれ、すとんと椅子に腰を下ろす。

 

 時間が経つにつれ、凶悪に暴れ回り始める腹の虫。

 いくら疑似的なものとはいえ、そんなに長く味わいたいじゃない。

 うう、この状態で半日耐えるのか。まさかここでアンドロイドになった弊害が出るとはなあ……。

 

「?? アンちゃんが自分でお金を出せばいいんじゃ……?」 

 

「ぐっ……いや実は今日、たまたま財布を忘れてさ。

 キャロに立て替えをお願いしていたんだ」

 

 適当に嘘を吐きながら、再びキャロに小さな声で詰め寄る。

 どうにか考え直してほしかったし、一連の流れで思い出したことがあったから。

 

「な、なあ俺の荷物とかどこにあるんだ? そこにいくらか入っていたはずだぜ?

 いや、それ以前に、だ。前の俺はどうなってるんだ? 家族とかからしたら俺は行方不明扱いになってるはずだよな?」

 

「……それは心配しなくて大丈夫なのよ。

 宇宙人的なあれで周囲の記憶が改変されて、お前という存在が最初からいなかったになってるのよ。お前の荷物もその影響で消えたかしら」

 

「まじで……? 

 え、本国とやらに行けばちゃんと元に戻るんだよな?」

 

 絶望を孕んだ言葉に、「当たり前よ」とキャロが鷹揚に頷いた。

 

 よ、よかった。ってか、そんなやべー事態になってたのね。

 それなら俺の実家とかもあてにできない。キャロの手伝いを頑張らないといけないといけないのかあ。

 

 うーんでも、記憶がないせいで全然やる気になれないんだよなあ。

 

「さ、ひなた、案内してくれるかしら?」

 

「おぅ、任せろっ」

 

 足早に教室を出ていくキャロとひなた。

 

 ぐーぎゅるぎゅる、と空腹に痛むお腹を右手で押さえながら、俺はそんな二人を恨めしげに眺めていてーー

 

「あの、良ければ食事代くらいなら貸そっか?

 返すのはいつでも大丈夫だからさ」

 

「あー……お願いします」

 

 ーー志穂の好意に甘えることにしたのである。

 バイトでもしてちゃんと返そう、と心に決めて。

 

 許しまじ、キャロっ。

 

 

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