ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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06 Detective-B

 

視覚映像でしかないはずの山肌を覆う雪が僅かな寒さを感じさせる。エアコンが常時稼働し続ける室内で肌に触れる空気は寒すぎない。それでも視覚が映し出している映像が寒さを脳に与えてくる。

視覚の奥に見える海、流れる川と滝も冷やされ、暗くとも清らかなそれらがスジボリされたプラモデルのように戦場にディティールを加える。

 

雪と冷風によって冷やされ、微生物の活動を抑止させる事で透き通った水は僅かに揺れ揺蕩う。それは上空で行われている戦闘の音がここまで響いているからか、それとも吹きすさぶ風に揺られているだけなのか。

 

濁りのない清らかな水が遥か上空で線を描く様々な色を水面に映し出す。

モビルスーツ単機が持ちうる全砲門の一斉射撃、ハイマットフルバーストが唸り敵機を貫いた。

 

しかしその一撃は決して命を奪うものではない。コクピットを外し、手足を狙ったその攻撃は的確に部位を撃ち抜き衝撃でバランスを崩した機体がもんどりうちながら落ちていく。大気圏内飛行可能機体をコンセプトに、シグーの半分程度の重量しかないディンでも致命的にバランスを失えばそのまま墜落する他ない。

 

次に現れた地を這う四脚のモビルスーツ、バクゥを掠めるようにして放たれたビームライフルがバクゥの片足を千切り取る。推力でもある足の一つを失ったバクゥが派手に転倒し動かなくなった。

 

第二波を処理しきり一息つく。

地に降りず、戦艦にも戻らず空中に漂う間もエネルギーが爆発的な速度で回復していくのをモニターから読み取る。際限なく動く為にニュートロンジャマーキャンセラーはこの機体の必須要素だ。

 

青い翼を広げ雄々しく佇む姿は次世代の白い悪魔、否自由を求める生きとし生ける者の答え。罪なき者の守護者にして闇を照らす光の剣。

ZGMF-X10A、フリーダムガンダム。

 

輝く刀身のような白くすらりと伸びた足に力を入れ、第三波を待ち構える。敵の最大戦力を前に息を整え待ち構える。

 

 

「敵の増援が来るわ!注意して!」

アラートが第三波の襲来を伝えてくる。慣れ、あるいは癖で目を配ったレーダーに表示される中で突出した一機に警戒する。何が来るかは彼にはもうわかっている。

 

「アンタは俺が討つんだ!今日、ここで!」

戦闘機の翼のようなストライカー、正確にはシルエットを携えてフォースインパルスが突貫する。

こちらではないどこかへと向かって。その進路を遮るようにビームライフルを鼻先に掠めてやると動きが止まりこちらを見る。

 

「フリーダム!」

自機の姿を捕捉したフォースインパルス、シン・アスカの怨嗟を込めた声が向けられる。向かう方向とは違う方向にフリーダムがいたという違和感をシン・アスカは考えもしない。

 

ビームサーベルを展開しブーストを吹かしながら肉薄してくる。

どちらかと言われれば射撃戦に重きを置くフリーダム相手に少しでも勝機のある接近戦を選択するのは腐り切ってもネームドキャラと言ったところか。しかしだからと言ってそのまま斬られて敗北するなどフリーダムに、キラ・ヤマトにはあり得ない。

 

振り下ろされたビームサーベルをコーティングされたシールドで受け止める。突き出され佇んでいただけの防壁は激突の瞬間、巧みな操作によって急激に角度を変え、サーベルの刃を弾いた。

 

次に飛んできたのは白い鉄塊。感情のままに繰り出されたインパルスの回し蹴りを超反応で避けながら差し出された足をサーベルで切り飛ばす。

それだけで終わる相手ではないことは十分わかっている上であえて追撃をしなかった。

 

「ミネルバ、レッグフライヤーを!」

インパルスの下半身が切り離されミネルバから射出された新たな下半身、新たなレッグフライヤーと接続する。

パーツを入れ替えたインパルスは当然五体満足であり実質片足を切り落としたのが徒労となった。

 

これがこのステージの特色だ。

ガンプラバトルではまず再現できない修復機能。原作でもシン・アスカはキラ・ヤマトがコクピットに攻撃しないのをいい事にインパルスの換装機能でダメージを回復しながら戦い続けていた。

 

だからこそ、このステージは手足を攻撃するのではなくさっさとコクピットに一撃を叩き込んでシン・アスカを殺害する事がお勧めの攻略であるとされていて、逆にコクピットを破壊しない限りいくらでも嬲れる最高のサンドバッグとも巷では絶賛されている。

 

しかし彼はそれでは満足しない。

確かに殺すのが一番楽だ。しかしキラ・ヤマトは人を殺さない。

アークエンジェルの護衛というプレッシャーから解放されたキラ・ヤマトであればそんな手を取るまでもないはずだからだ。

それを今から証明してみせる。

 

「くっそう!アンタは一体何なんだ!」

「僕は、スーパーコーディネイター!キラ・ヤマトだ!!」

そう。僕はキラ・ヤマトだ。このフリーダムで、悪夢と呼ばれた時間の中で、それを証明してみせる。

 

「いっつもそうやって、やれると思うなぁ!!」

縦回転しながらこちらを切り裂きにかかる盾を横に動いて回避し、その直後真横を通り過ぎるビームを感じ取る。やはりそう来るかと安心しながらサーベルをあらぬ方向に振ると、不意にこちらに飛んできたビームが刀身に当たり霧散した。

 

シールドにビームを反射させ、視界の外からビームを叩き込む曲射。

それでも世界最高レベルの空間認識能力を持つキラ・ヤマトであれば十分見切れるものだ。

向かってくるビームをサーベルではじく動作もキラ・ヤマトが実践したそれだ。

 

プログラム上の存在でしかない筈のシン・アスカの動揺がモニター越しに伝わってくる。本来であれば戦況を変える一撃だったものなのだから当然だが、こちらもあの時とは状況が違う。

 

今この勝負は後にキラ・ヤマトがそう言っていたようにアークエンジェルの護衛さえ無ければ勝てていた勝負だ。

例え相手がフリーダムよりも圧倒的に性能が上のインパルスであろうとも、キラ・ヤマトの癖を利用した卑怯な盤外戦術を使おうとも負ける筈が無い。

 

反撃とばかりにビームサーベルをインパルスの胸部僅か下、コクピットを横薙ぎに狙う。そのまま当たれば一撃で相手を殺害するものだが、不殺を諦めたのではない。

彼の読み通り、その一撃は突然現れた空を斬る。一瞬前までそこにあったコクピットは、上半身ごと視界の上に飛んでいた。

 

インパルスガンダムは上半身のチェストフライヤー・下半身のレッグフライヤー・コクピット部分となるコアスプレンダーの三つのパーツで構成されている。先ほど下半身を交換したのもその仕様を利用した回復術だ。

 

それを応用すればコクピットを狙う一撃を、上半身を分離させる事で回避する事も可能だ。

他のガンダムではまず出来ない、奇跡の手と思われたその一瞬がシン・アスカの敗北に直結する。

 

「そこだ!」

燕返し。空を飛ぶ燕が身を翻すように、振り払われた刃が瞬時に返されコアスプレンダーの一部を切り飛ばす。

キャノピーを破壊せず、動力と推力だけ狙ったその一撃はシン・アスカの悲鳴と共にインパルスの全てを地に引き摺り落としていった。

 

いくら手足を交換できたとしても心臓部は交換が効かないたった一つの部位だ。それを露出させてしまえば敗北しかない。それを突くだけの技量がスーパーコーディネーターたるキラ・ヤマトにはある。ただそれだけの話だ。

 

戦闘不能になり墜落したインパルスの反応がレーダー上から消滅して数秒、彼のコクピットに通信が入る。通信の発信源をフリーダムのカメラアイが捉えるともう一機のフリーダムがこちらを向いているのがモニターに映った。

 

「君のおかげで助かったよ。ありがとう」

「MISSION COMPLETED」

憧れの人からの労いの言葉。そこから沸き立つ感無量の喜びをファンファーレが助長する。

 

VRヘッドセットの中央にこれ見よがしに表示される勝利の証。その後に表示される戦績・評価共に最高を表示し何の文句も付けようがない。

全ての情報が出揃い、消える最中にコクピットが不意に開き意識せずとも身体がコクピットから押し出された。

 

高度18m前後、更にそれ以上の高さまで飛んでいるアイカメラからではひび割れのようにしか見えなかった川も、地を這う160cm前後まで視界がダウンサイジングされる事でそれが自分の身体の二つや三つは軽く呑み込む水流と知る。

それと同時に視覚から得られる寒さの感覚が更に強まったようにも感じ取った。

 

ここはガンプラバトルシステムとは異なるサービス、ガンプラユニバースフェデレーション。

かつて放送されたガンダムビルドダイバーズの影響で正式な名称で呼ばれる事はまず無く、GBNと呼ばれる世界だ。

 

市販のガンプラスキャナーとVRゴーグルを使い、歴代のガンダム作品の世界観を再現した広大な全体マップを各プレイヤーが設定したアバターと自身が作ったガンプラを操り駆け巡る、メタバース型のフルダイブ式オンラインゲーム。

 

GBNがそうであったように獣人タイプやハロ型のアバターも選択肢にある中でフリーダムを駆る彼は人型で、青と白を基本色にしたパイロットスーツを着用している。理想の自分の手や腕を見まわし、決意を新たにする。

 

この戦闘は通過儀礼だった。自分の力を確認する為の、自分の成功までのシミュレーションの為に行われた試験だ。自分がキラ・ヤマトの、誰かを守る力がある事を確認する為の試験だ。

 

「僕は、あの子を守りたい」

 

自分の意志を再確認する。意図的に口調を真似る事で自分と彼を同調させようと試みる。否、既に同調している。

 

不殺を貫きながら戦闘を終結させる技術力と優しさ、そして強い意志。

フリーダムの傑出した性能を最大限引き出す状況判断能力、複雑な機動を予測する高度な空間認識能力、複雑なシステムを運用し使いこなすパイロットとしての純粋な技術。

それら全てが、あくまでGBNというゲーム上ではあるが既にキラ・ヤマトと同等にまで引き上げられていた。

 

それは彼のガンダムSEEDへの愛が成した成果であり、彼の根底だった。

キラ・ヤマトの在り方は既に彼の人生に大きな影響を及ぼしている。ラウ・ル・クルーゼがかつてそう言ったのとは別の意味で、彼はキラ・ヤマトのようになりたいと強く願うようになっていた。

 

覚悟はある。僕は戦う。守りたい世界(ひと)があるから。

ワダ・エイチは決意を改める。サザミヤ・マユを、クラスメイトの可哀想な女の子を僕が守る。

 

キラ・ヤマトがフレイ・アルスターを守ったように。

キラ・ヤマトがラクス・クラインを守るように。

ワダ・エイチ少年にとって同い年のクラスメイト、サザミヤ・マユがフレイ・アルスターでありラクス・クラインだった。

 

しかしマユは今、悲しんでいる。

マユは今、泣いている。

ならば自分は戦わなければならない。

守る力がある事を、キラ・ヤマトが認めてくれた。自分も彼のように世界(だれか)を守るのだ。

 

その決意のままガンプラユニバースフェデレーション(愛称GBN)からログアウトする。

広い自室を見渡して現実に感覚が戻った後でも混ざり合ったキラ・ヤマトが剥がれ消えることはなかった。

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