ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

15 / 27
フリーダムに搭載されたNジャマーキャンセラーの位置を間違えていた為、お話を大幅に修正しました。
ドレッドノートガンダムの特徴から頭部にあると予想していたのですが、腰部にあるそうです。(ソースはWikipedia、週刊ガンダム・ファクトファイル 第99号)

一番調べやすい所を見落とし、設定を間違えていた事をお詫び申し上げます。


08 Denoting a freedom-A

「ごめんなさい」

その日その一言でいつもの学校の中、非日常が始まった。蹴りを入れてくるクラスメイト、陰口ですらない悪口を並べるクラスメイト達が、先生に呼び出されたあの日よりずっと暗い表情で謝罪の言葉を口にした。

 

「ふざけてて、面白いって思ってた。でもそれは間違いだったんだ」

「いくらアレがアレでもアレを好きという人を傷付けちゃいけないよな!」

「ワダ君から言われて、僕たちようやくそれに気付けたんだ」

そう言って、ごめんなさいとまた頭を下げた。先生に言われるまでもなく自主的に。だからこそマユは困惑した。どういう心境の変化が彼らをこうまで動かしたのかと。

 

「よし。これで僕たちはまた友達だ!」

その困惑に水を差す同行者、ワダ・エイチ。やり切ったと言わんばかりの顔をする彼を見て、これが彼の差し金なのだと理解する。何とかするというのはつまりこういう事なのだとようやくわかった。

 

「ワダくん」

「怖かったけど、頑張ったんだ。こんなの絶対止めなきゃいけないって思って」

ワダはやり遂げた。下手をすれば今度は自分がいじめのターゲットにされるリスクがあったにも関わらず、俗な言い方をすれば彼が今いるクラスカースト上位の立場を失う可能性を恐れず、彼はいじめを止める事が出来た。どちらの立場でもない第三者として、地球連合に所属していたコーディネーターというどちらの立場でもあるキラ・ヤマトがそうしてきたように。

 

だが彼は知らない。ガンダムという界隈そのものが落ち目になった今、ガンダムを自己正当化に使えなくなっている。万が一いじめが知れ渡った時、誰も守ってはくれないのだと。そうなる前に一度プライドを捨て頭を下げて手を引けば罪を問われる事もないと、クラスメイト達が考えたのだと思い至れていなかった。

わかり合った、通じたと思い込んでいるそれが、打算・損切りでしかないという事をワダは知らない。

 

「ワダくんありがとう。でも変わってるね」

「そんな事ないよ。それに、君が好きだから」

口を滑らせたように出たその一言が、互いの視線を磁石のように引き付けた。

 

「今なんて?」

「君の事が好きなんだ。だから、今までで一番頑張れた」

頬を赤らめつつもこちらをじっと見つめるワダに思わず目を逸らす。その言葉の意味を知らないわけではないし、むしろ最近は興味しかない。

好きだ、と言われた時、それは交際の申し込みの瞬間だ。彼氏・彼女の関係、恋人の関係になりたいと言われているのと同義。それをマユは十二分に理解していた。

 

「えっと…今はちょっとそういうのよくわからなくて」

お気に入りの漫画、ふと見かけたドラマ、あらゆる所で見た事がある恋愛という概念。わからないなんて言うのは嘘だ。興味しかないし憧れがある。しかし、望む相手はワダではない。

 

「ちょっと考えさせて!」

かといって助けて貰った手前断り辛く、その場から安易に逃げられる言い訳を口にする。ワダはそんな逃げの一手にも笑顔で頷いた。惚れた弱みというものか、それとも時間をかけようが自分が受け入れられると確信しているのか。助けられた女が助けた男に惚れる、そんな物語がこの世には溢れているのだから。

 

空気から逃げるようにスマホを見る。メッセージの通知を視界の隅に捉えると飛びつくようにアプリを開いた。またゲームセンターに行けるようにしよう。そう書かれたメッセージを見て、気持ちが完全に切り替わる。

送り主は兄の友人を名乗っていたフォースインパルス使い。つまり、ガンプラバトルの招集だ。

 

 

学校の問題は片付いた。次はもっと大事な問題を片付ける時だろう。ウタダやネーナとの大切な時間をこれからも作る為に、自分達の疑いを晴らす時だ。

 


 

フレームアームズの襲来。その日から徐々にフレームアームズが店舗から消えていった。しかし忘れ去られていったのではなく、逆に話題にならない日はない。簡潔に言えば今までよりも売れ始めている。

 

フレームアームズの好評を聞かない日はなく、ガンダムの悪評を聞かない日はなかった。一度ガンダムに触れてしまったが故に、ネットワークのAIは毎日毎日ガンダムの悪口をおすすめとして押し付けてくる。

 

曰くガンダムフレームはフレームアームズの技術を盗もうとした劣化品。

曰くガンプラは価格が安いからこそ民度が悪い。

価格の高さは品性を買っている。

曰くガンダムの民度の低さを身をもって知っているから自分達の民度が低いわけがない。

 

三人寄れば慈愛と智栄の神に匹敵するとの諺通り、多くの人々によって豊富な語彙による自己正当化が次々と生み出されては消費されていった。

 

ついにはフレームアームズを取り扱う模型店でガノタが暴れ回ったという情報が出てはそれが精査される事もなく真実として拡散される。

哀れで絶対なる被害者を支えようと誰かがフレームアームズを買う、模型店を買い支えようとする。

それを見てまたどこかで事件が起こる。

事件が起こる度に人々は自分の解釈が間違っていなかったのだと再確認をする。

ガンダムはやっぱりろくでもないのだと。

 

その異常性に気付いたガンダムのファンが声を挙げては、事実は小説よりも奇なりという言葉に黙殺された。そして最後にどこからか現れた両方のファンを名乗る誰かが現れ、ガンダムだけを批判した後拍手喝采の中消えていく。

 

あの日獣人の一団が拡散した動画は、今度は日本中にしっかりと広がった。ガンダム界隈はその事実に対して触れずに過ごすわけにはいかなかった。それが世間からは大規模な内ゲバと見做され嘲笑されるという事を知らないまま。

 

それに呼応するわけでは無かったのだろうが、それでもそれは世に出た。

ガンプラバトルシステムの大型アップデート。三対三の枠を越えた集団戦の実装。世間はガンプラバトルシステムがGBNを潰そうと足を引っ張っていると批判し、戦場の絆の失敗を繰り返すと揶揄し、フレームアームズに押されて苦し紛れの一手を打ったのだと嘲笑した。

しかし開発者の真意と周囲の反応がどうあれ、これから戦争は変わる。

 


 

ゲームセンターに通う権利。生きていてそんな言葉を目にも耳にもする事は普通はないだろうが、それを取り戻す為に三人はインパルスから指定された場所に到着する。

集められた数人を前にインパルスから出た言葉は歓待の言葉ではなく、士気向上の演説だった。

 

「そもそも今こうなっているのは誰のせいか?考えてみればすぐに答えがわかるはずだ。フレームアームズが持ってきたあの動画はガンダム全体の責任とされているがそんな事はない!あの動画に出ていたのは全員種信者だからだ!」

ある種間違ってはいない。

あの動画は、ガンダムSEEDのファンの行動記録だ。そしてガンダムの名を冠した作品はガンダムSEEDだけではなく、コミュニティは一つではない。

 

「奴らがいたからこんな事になった!ガンダムの民度の為に、今ここで奴らを叩く!」

故にガンダムSEEDを切り捨てる。

縁を切れば無関係と主張はできる。その大義名分の下集まった人々の多くは以前からガンダムSEEDを嫌っている人々だ。

マユの兄で生粋の種アンチであるケンイチロウを友人と呼ぶインパルスもつまりはそういう人間だ。彼らからしたらこの事件は絶好の好機でもあったのだ。

そしてガンダムSEEDのファン達も、下郎に愚弄されたままでは面子が立たない。極道のような理念を彼らが持つが故に彼らをガンプラバトルという戦争に押し込めた。

 

「僕の友人、サザミヤ・ケンイチロウは数ヶ月前事故にあった。何故か!今思い返してみれば答えは明確だ!奴らが!意図的に彼を轢いたんだ!」

インパルスの断言に集まった人々も、マユ達もざわめく。他人を人殺し呼ばわりしていた癖に人殺しはそっちの方じゃないか、と声が上がる。しかし三人は怒る余裕も無く困惑する。マユからあれは事故だったと聞いていた。無関係な彼がそれを殺人未遂だったと言い切ったのだ。

大義を元に怒りを胸に人々が筐体に入り込むのを見計らい、マユはインパルスに声をかける。

 

「あの、兄の事故の事どこでわかったんですか?」

「あいつらは人が死のうが、自分達の仲間が死のうが悲しむどころかそれを利用してこっちを叩きにくるんだぞ? ケンイチロウをわざと轢いたっておかしくはない」

それはつまり全て妄想だと言っているのと大差が無い。

 

「わたしは、運転していた人と会った事があります。あの人が、わざとやったなんて思えない」

正直な所思い出したくない記憶だがよく覚えている。あの事故の後、加害者と顔を合わせる機会があった。顔を合わせたなりすぐに土下座をして床に頭を付けたのをよく覚えている。同伴していた彼の親は、初老に差し掛かったくらいの年齢だっただろうか。彼の親は彼の謝罪の言葉に続き自分も土下座をした。そして土下座ではまだ足りないとばかりに自分の子供の後頭部を掴み、床に叩き付ける。

 

僅かな弾力と歩くに足る硬さを兼ね備えた床は頭と激突し鈍い音を立てる。血が出ることはない。持ち上げ、叩き付け、鈍い音を立てる。ごめんなさいと言わせ続けながらそれが何度も何度も繰り返された。

 

「人は嘘をつける。君の見た事が必ずしも合っているとは限らないんだ」

回想がそのノイズで中断される。インパルスは一つも迷いなくそう言い切った。運転手のあの土下座も全て嘘。ケンイチロウを轢くという目的が達成された以上、後は適当に終わらせようとしただけなのだと。

確かに彼の事をそれ以外では全く知らない。多額の賠償金を返済する日々を送っているのだろうが、それも推測でしかない。

その一瞬の迷い、あまりにも力強く嘘と確信する意志に怯み言葉が詰まった。つまり、論破された。沈黙から納得を感じ取ったインパルスはマユの肩を掴み、諭す。

 

「勝とう。これはケンイチロウの仇撃ちでもあるけど君自身が好きなものを好きと、ちゃんと言える世界を作るために必要な戦いなんだ」

 


 

重さのある操縦桿、ダメージレベルマックス、もうやり慣れた環境に一つ大きな刺激がある。大型アップデートによって実装された軍対軍の戦い、それを成立させる為のネットワークを通じた通信対戦機能。

一対多の経験はあるものの、まともな戦いはこれが初めてだ。そしてもう一つ。

 

「フリーダム…」

自分と同じ名前の少女を焼き殺し、シン・アスカの信念を挫き尽くした機体。CE世界の絶対正義の象徴であり、敵対する者にとっては悪夢そのもの。

 

「そういえば今まで戦った事なかったな」

「勝てるかな」

「正直わからない。相手はフリーダムかストフリ、インジャあたりで固めてくるだろ? 作中最強の高性能機がそれだけ集まってやって来るのに絶対勝てるなんて言えないよ」

ガンプラバトルはガンプラの出来で勝敗が左右される、と豪語する人は多いがそれは正確ではない。工夫だけではどうにもならない壁がガンプラバトルには存在する。それは機体の設定、そして武装だ。

ザクにいくらスジボリを施そうがフェイズシフト装甲は付かない。ジムにいくら銃を持たせようが弾をばら撒く一斉射撃は出来てもロックオンして全弾当てるフルバーストは出来ない。

 

それらはフリーダムがフリーダムガンダムだからこそできること。故にガンプラとして、モビルスーツとして絶対覆せない優劣は確かに確実に存在する。そしてフリーダムはどんなゲームでも常に最上位に存在し続けている。古今東西どこを探してもフリーダムが弱い世界は存在しないのだ。

 

「ただそれでも、やりようはある。あいつらが御大層に振り回す武器に最大の弱点がある」

その現実を受け入れつつ、ウタダは勝算があると言わんばかりに言い切った。

 

「ネーナを守るぞ。この戦いの鍵はマユのデスティニーでも俺のAGE1でもない、ネーナのスローネドライだ」

カメラが映し出す映像越しにウタダとネーナの視線が重なった。事前に聞いていたのだろうか、ネーナは自信満々にウタダの視線に視線を絡めた。

 

「お前がいる限りこっちに勝ち目がある。マジで頼りにしているから」

「そう? アタシ、終わったらス・イ・イ・ツ食べたいな?」

「わかった。いくらでも奢るよ」

弱みを握ったとばかりに悪戯っぽく笑うネーナを見て肩の力を抜く。こんな時でも彼女はネーナ・トリニティであり続けている。それが頼もしくあり、嬉しくもある。

 

「その代わり頼むよ。俺が指示を出すから、すぐに動けるようずっと準備してて」

 

警報が心を冷やし、気を引き締められる。脳に再現されるスイーツの甘みが武骨な煙と鉄の匂いに上書きされ消えていく。それは開戦の合図、出撃の告知。

オペレーターから発進どうぞと声がかかる。いよいよ始まる。初の集団戦であり今後の自分達の行く末を決める一戦が始まる。

 

「AGE1ダブルバレットはウタダ・エリオで行きます!」

「ネーナ・トリニティ、スローネドライ行くよ!」

「サザミヤ・マユ!デスティニー!行きます!」

 

その言葉と共にカタパルトが駆け巡り機体が宇宙に放り出される。スラスターを吹かせ、三機が密集隊形を取るとレーダー上にいくつもの青い矢印が浮かび上がっていった。

周囲を見渡すと右にも左にも様々な機体が自分達と同じ方向を向きながら飛んでいるのが見える。これが集団戦。ガンダムの戦争にまた一歩近付いた新たなガンプラバトルの形。

 

三機小隊という小さい戦場に慣れてしまったからかまるでア・バオア・クーの決戦だとウタダは大げさに感じたあとすぐに止めた。まるで風車を化け物と思い込んで突っ込むドン・キホーテになったかのような気恥ずかしさがあったのと自分達と相手どちらがジオンなのかなど考えたくなかったからだ。

 

どちらがジオンかと言われればこちらがジオンなのだろう。雑多な機体で戦うジオンに対し地球連邦の主戦力がジムとボールで統一されていたように、一面に並びながらこちらに向かってくる先陣、フリーダムの列を見て決意を固める。

そのフリーダムの一団が不意に一瞬立ち止まったように見えた時、ウタダは考えた。向こうのパイロットは今何を考えているのだろうな、と。

 

 

合図を聞いたフリーダムのパイロットは自分の手が震えているのを自覚していた。恐怖ではない。歓喜の武者震いだ。

集団戦が実装されると聞いた時彼は大層喜んだ。まるでN(ニュートロン)ジャマーキャンセラーを手に入れたムルタ・アズラエルのように雄叫びを上げた。この一瞬を、その一瞬をどれだけ待ち望んでいた事か、彼はそれをいつ頃から始めたかも覚えていない。

ハイマットフルバースト、それはガンダムSEEDの代名詞でありフリーダムの代名詞でもある。たった一機で何十何百もの機体を撃墜していく様はまさに無双、まさに主人公の絶対なる力の象徴に見えた。だからこそ彼はハイマットフルバーストにずっと憧れを抱いていた。

 

「俺の夢、受け取れ…!」

今までもハイマットフルバーストは使えたがそれはフルバーストとは名ばかりの単体に向けた一斉射撃でしかなかった。しかし集団戦が実装された今原作通りのフルバーストを放つ事が出来る。

フリーダムのコクピット内に大型レーダー画面が現れる。赤い矢印で記された種アンチ達に一つ一つ鉤括弧が付いていくのを目で追う。キラ・ヤマトがそうしていたように無双の砲撃を放つ準備を着実に進めていく。

 

複数のフリーダムによるハイマットフルバーストの一斉掃射、それが指示された作戦だった。

例え一機が外したとしても別のフリーダムによる攻撃が当たる。種アンチを原作通りこれで壊滅させ、あとは掃討する。シン・アスカのように、もう二度と歯向かえないように、シン・アスカのように徹底的に圧倒的に叩き潰す。自分達には絶対に勝てないと思い知らせてやる。

ロックオンの限界数まであと少し、早く来い、早く来い。そう待ち望んでいると思いもよらぬ事態が巻き起こる。鉤括弧が消えて行く。ロックオンが外れていくのだ。今まさに夢を掴もうとしたその瞬間誰かがその夢を吊り上げていった。

 

「何でロックオン切れた!? バグってんだろぉ!!」

否、天国に至る糸が切れた。運営に全ての責任を押し付け激昂する間に、ブラストインパルスが放ったケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲が直撃する。フルバーストを撃つ為に仁王立ちになっていたフリーダムの中心を綺麗に撃ち抜き、コクピットを破壊し尽くすその一撃によって彼の戦争は終わった。

失望と怒りの中彼は最期の一瞬まで戦場に視界を巡らせる。少しでも不備を見つけ、運営を批判してやろうという強い意志によって眼球が目まぐるしく動く。その意地が彼に答えを示した。宇宙に赤い雨が広がっていた。

 

 

「今だ行け行け行けぇー!!」

フルバーストが不発に終わったのを見届けてから対処に移るフリーダムではなくフルバーストにひるまず突貫していたインパルス達が先手を取る。その後ろでスローネドライが両手を広げながら漆黒の宇宙を赤いGN粒子で染め上げていた。

 

スローネドライのGNステルスフィールドは味方すら制限を受ける広大で強力なジャミングだ。フルバーストの制御をマルチロックオン、つまりセンサーに頼るフリーダムはその影響をモロに受ける。

フルバーストを最大の武器とするフリーダムの天敵は、それを完全に無力化するスローネドライだったのだ。

フルバーストを撃つ為のロックオン完了までアニメの演出から計測しても数秒の待機時間がある。その貴重な時間をスローネドライによって完全な徒労にでき、ロックオンが外れた原因に気付かなければ更に時間が稼げる。こちらはその間に接近し、撃ち落す。

フルバーストは全身の武装をこちらに向ける都合上仁王立ちをしなければならないので万が一不発で終われば立て直すまでの間はただの的だ。

 

 

「このクソビッチがァァ!」

後続から飛び出したインフィニットジャスティスがスローネドライを捉える。接近戦主体のジャスティスであればステルスフィールの影響を多少は受けずに戦える。そしてスローネドライはネーナの一機のみ。ネーナを落としてしまえばまたフルバーストを使う事が出来ると考えるのは当然だ。

 

「やらせない!!」

「マユちゃんお願い!!」

そしてそれを阻止しなければいけないと考えるのも当然。射出されたファトゥムの腹をバスターソードが串刺しにする。バスターソード、つまりマユのデスティニーを見てインフィニットジャスティスの目がぎらりと光った。

 

「テメェ…サザミヤ・マユ! テメェ!テメェェェー!!」

通信から聞こえてくるのは常軌を逸した怨嗟の声。常軌を逸しているからこそ、その記憶に辿り着くのは簡単だった。初めてガンプラバトルに触れた日、兄のデスティニーを破壊する為に戦わされたインフィニットジャスティス、アスラン・ザラ。

 

「あの時のインフィニットジャスティス!?」

「お前さえいなければ俺は英雄だったんだ…! 英雄(アスラン)になれたんだァ!!」

「お兄ちゃんのデスティニーは壊したでしょ!?」

「テメェが、ゲーセンなんかにいるからよぉ、俺は種アンチ扱いされてんだよ!!」

は?と声が出た。シン・アスカを憎み、デスティニーを嫌った彼がシン・アスカのファン、彼らが言う所の種アンチである筈がない。

 

「お前あの動画が今どういう扱いか知っているか? 工作だとよ!種アンチの!それに出てた俺達も種アンチなんだってよォ!!」

アスラン・ザラの脳内に情景が色濃く浮かび上がる。日が経って浅いというのもあるが、その事を考えない日は無かった。オザキが殺されたあの日、マユ達が犯人だという事はすぐにわかった。皆でゲーセンで待ち構え、罪を突き付けた。ガンプラバトルオンライン上でその様子が盗撮されたと知ったあの日、ファンコミュニティの対応は迅速だった。あの一件は全てガンダムアンチと種アンチが結託して行った工作だとされた。種アンチはガンダムSEEDを憎むあまり、ついに一番手を組んではいけない相手と手を組み、卑怯にもガンダムSEEDのファンになりすまして大義名分を作ろうとしている。それがファンが用意した自己正当化のカバーストーリーだ。

 

つまり、アスラン・ザラは成りすましの工作員とされたのだ。

何故ならガンダムSEEDのファンが、あんなに心優しいキラ・ヤマトが好きな人々があんな事をするはずがないから、何よりあの日の中心人物だったカスガは種アンチだ。それと肩を並べているなど自分も種アンチだと言っているようなものだ。そう言われアスラン・ザラは卑劣な成りすまし工作員とされ追い出された。

 

殺人犯を追い返した武勇伝を称賛していた人々は掌を返し、中指を立てて来る。あいつは最初からおかしかった。途中から狂っていった。何の的も得ていない妄想が真実とされ、まるで自分達が一切関わっていないかのように振る舞い、誰もが好き勝手な解釈でアスラン・ザラを責め立てる。そこにはあの日一緒になってデスティニーを破壊した、イージスやジャスティスのパイロットもそこにいた。

 

「あんなにガンダムSEEDの為に頑張ってきたってのに、オカシイよなぁ!? 笑えるよなぁ!?」

そうだ。不倶戴天の敵、種アンチの代表格であるサザミヤ・ケンイチロウのガンプラを破壊したのも自分だ。その功績があるにも関わらず、アスラン・ザラはその日からガンダムSEEDのファンを名乗る事を許されなくなった。

ミーティアを奪われ、残ったのはこの自慢のインフィニットジャスティスだけ。それも近い内に破壊されるだろう。ガンプラバトルでなくとも直接的な暴力によって。逃れる事は出来ない。逃れるには遅すぎた。彼らに心を開き過ぎていた。情報を与え過ぎていた。

その前に全てを滅茶苦茶にしてやる。自棄と憂さ晴らしの破壊衝動のままに、筐体から一人締め出し乗っ取った。自分を傷付けるだけの存在などこの世にいていいものじゃない。だから全て滅茶苦茶にしてやる。

 

「馬鹿じゃないの? 悪い事をしたあんたの自業自得じゃない」

スローネドライからの通信がアスラン・ザラの激情に冷や水をぶっ掛ける。

 

「人を選べば何をしてもいいって思っているからそんな事になるんじゃないの?」

しかし、水と高温の物質が触れた時発生するのは冷却ではない。水蒸気爆発だ。その一言が破壊の衝動となり、叫びに変わる。

お前が言うな。そう叫んだ瞬間胴体に赤い亀裂が走った。その亀裂はインフィニットジャスティスの腕、腰、足、頭に走り、一斉に分離していく。上下左右に散らばるバラバラ死体の後ろから、逆手に二本のビームサーベルを構えたフリーダムが現れた時ようやく何が起こったのか察しがついた。

裏切者、否工作員が紛れていると向こうも気付いたのだろう。背後から容赦のない致命の連撃で、アスラン・ザラは死んだ。

そしてデスティニーとフリーダム、絶対的な敗者と絶対的な勝者が再び敵同士として相対した時、フリーダムから通信が入る。

 

「マユ…!?」

その一言は、若く、マユを知っている人間のものだった。もっと言うのであれば今朝聞いたばかりの声。流石に忘れられるものではない。

 

「ワダくん?」

フリーダムに乗っているのは、ワダ・エイチだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。