ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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08 Denoting a freedom-B

 

「何でこんなところに」

互いが互いの事をそう思った。片方は大切な人と大切な時間を紡ぐゲームセンターを取り戻す為、片方はネット仲間からの必死の頼みに応える為。そんな事情はお互いが知る由もない。

 

しかしこの場で敵として立っているという事実だけは確かで、そこから推測する事はできる。

ワダはマユの敵に対して、マユはワダの敵に対して、それぞれが同情しているという事だ。

 

「やめようよ!こんな事して何になるんだ!?」

ヘリオポリスでキラ・ヤマトと敵対したアスラン・ザラのように、或いはキオ・アスノのようにワダはマユに問いかけた。

 

「いじめは止めたじゃないか!これ以上やったって何の意味もない!」

「あるよ。この勝負に勝ってあなた達がいなくなればゲームセンターでまた遊べる。わたしはその為だけに今ここにいる」

「そんなの間違ってる!」

「何が!?どう間違ってる!? デスティニーを使ってるってだけで人殺し呼ばわりなんてされたくないんだよ!」

 

激しい言葉とは裏腹に、絶妙な角度とタイミングで射出されるビームによってデスティニーは突撃の機会を奪われている。牽制以上の事をワダはして来ない、話し合う為の射撃だと感じ取る。

 

「だからって、彼らに手を貸す事はないじゃないか!」

ワダ・エイチは幸福な少年だった。それはキラ・ヤマトを最初から好いていたという事も大いに関係があるが、サザミヤ・マユとは異なり誰かに虐げられる経験も誰かを虐げた経験も無かった。

 

自分の好きを語り、誰かと好きを語り合い、キラ・ヤマトの身に降りかかる苦難と不幸を嘆き、悲しみ、仮想空間上とは言え憧れの人物に自身を投影しその人物になりきる。その幸福を享受していた。その幸福を否定する人は誰も居なかった。

上辺だけを、上澄みだけを見て生きていけた。それは彼が最初からキラ・ヤマトを好いていたという事が大いに関係している。

 

しかしフレームアームズの登場により状況は一変した。彼の幸福を支えていた環境は今崩れかけ、彼は戦場に立たざるを得なくなった。

自分達の好きを壊そうとする連中がいる。オーブに攻め込む地球連合軍のような、ヘリオポリスで戦闘を始めるザフトのような、どうしようもない悪がいるとだけ聞かされて彼は戦場に立った。その戦場で彼は悪に手を貸す思い人の姿を見てしまったのだ。

 

その姿にワダは胸を痛めた。これ以上続けたらマユはもう戻れなくなる。他人の趣味を踏み躙り狂人のように笑う外道、種アンチになってしまう。ワダはそう確信していた。

そうならないように、そうなる前に自分が救い導かなければならない。デスティニープランを信じてしまったシン・アスカをそうしたように。

 

「僕たちは同じ、ガンダムSEEDのファンじゃないか!」

「そのファンが、デスティニーとシンを否定するんだけど?」

「それは、本心じゃない!!」

ワダの断言に思わずは?と声が出た。アスラン・ザラが先ほど宣った言葉と同じくらい、マユには理屈も意味もわからない断言だった。

 

「みんなガンダムSEEDが好きなんだ!だから、シンの事も好きなんだ!悪意なんて持ってない!」

数秒の間、言葉にならないうめき声。ワダはマユを納得させる為に必死に言葉を考えた。

 

「じゃあ、私が今まで受けてきたものは何?」

 

「そりゃあ、一部は本気の人もいたかもしれないけど…でもそんなのは少数だ!」

「みんなふざけてやってるんだよ!みんな! だから、本気にして怒らないで!!」

 

そうして捻り出した言葉はマユの中のある記憶と一致する。そして、その記憶に引き連れられて薄々感じていた可能性が言葉となって顕現した。

 

「ワダ君、わたしがいじめられているって先生に言ったでしょ」

「言った。だって、止めなきゃいけなかったから」

「でもいじめは止まらなかった。先生に呼び出された時、あの人達が何て言ってたか聞いた?」

 

いいや、と否定の言葉が返ってくる。

そうだろうなとマユは思う。わざわざそれを伝える理由が先生には無い。何より本心から出た言葉ではないのにどうして他人に言いふらす必要があるだろうか。

 

「いじめのつもりじゃなかった」

「お互いふざけてた。全然本気じゃなかった」

「仲間に入れてやろうと思って遊んでいただけむ」

 

「まるで今のワダ君みたいな事を言ってたよ」

 

最後の嫌味ったらしい言葉が、ワダを金縛りにする。

いじめではなくいじり。彼らは自己弁護の論点をそこに置いた。

思いやり、友愛故の行為であり悪意ではないとした。だから自分は悪くない。悪いのは被害妄想を拗らせた相手だ、と。

 

ワダは今、自分可愛さにあの時のいじめっ子たちと全く同じ言い訳で自己正当化を図ったのだ。

 

コミュニケーションとは最終的に受け手がどう受け取るかが最重要だ。ましてそこに暴言や暴力が伴うのであればそれが許される土壌、関係性が試される。

それがない暴言や暴力はただ他人を使って気持ち良くなる自慰行為に過ぎない。

 

いじめっ子達はあれをコミュニケーションだと誤魔化した。しかしマユはあれをコミュニケーションとは思っていない。

 

彼らが種アンチと呼ぶシン・アスカのファン達もそうだった。

百歩譲ってシン・アスカやデスティニーに対する揶揄や否定が愛のあるいじりだったとしても、それが相手に伝わらなければそれはただの悪意だ。足りないのは語彙か思慮か或いは嘘なのか、それは事例によって異なる。

 

しかし確実に言えるのは、自分の好きを一方的に否定され、受け入れろと強制される日々にシン・アスカのファン達は耐えられなかったという事だ。

それがこの戦争の引き金となった。

 

 

お前はあのいじめっ子達と何も変わらない。

マユが伝えたい事は何一つ捻じ曲がらずにワダに伝わった。

 

ワダの告白に動揺してときめいて答えを保留していたマユもようやく決意が固まる。彼の告白にどう答えるか、はっきりと決意した。

その決意が記憶の中の意思の答えを頭の中に映し出す。自分がワダの目を見て彼の事を信用できないと思った理由を。

 

何の根拠もなく自分の思い通りになると思っているからあんな目ができる。

自分が動けば自分の思い通りに事が動くという確信があるからあんな目ができる。

 

いじめっ子も、今思えばマユの好意も、自分の思う通りに動かせると思い込んでいたのだろう。自分が救ってやったのだから、自分に惚れるだろうと。

 

まるで物語のヒロインが主人公に惹かれるように、それが当然と思い込んでいる。

 

つまりワダの好意が本物だとしても、彼にとってのサザミヤ・マユとは自分の凄さを他人に見せつけるための勲章だ。

彼自身がそう思っていなくても無意識下でそう捉えている。少なくともマユは彼の振る舞いからそう感じ取った。

二人の関係の問題であるが故にそれが全てでもある。

 

或いは、ガンダムSEEDのファン達がシン・アスカを好きという理由もそこにあるのではないかという考えをよぎらせた。

 

シン・アスカの事を好きとは言うものの『何故好きなのか』までは代表面したワダも語っていない。

それが、キラ・ヤマトに屈服したから好き、つまりキラ・ヤマトの凄さを証明する勲章が好きであって本当にシン・アスカが好きなのではないのだろう。

 

だからこそ彼らはキラ・ヤマトと敵対していたシン・アスカやデスティニーを否定する。

シン・アスカも好きという大義名分の下、いじりという、そういうキャラ(運命)だという逃げの手段を用意しながら本当に好きなキラ・ヤマトを持ち上げる事で気持ち良くなる為だけの自慰性具、それがガンダムSEEDファンにとってのシン・アスカというキャラクターなのかもしれない。

 

そして、だからこそ、ガンダムSEEDのファン達にアンチと揶揄される、シン・アスカの人間性に惹かれたファン達は怒り、憎んだ。

 

 

ウタダはそうではなかった。

シン・アスカを否定しない。

そしてずっと一緒にいてくれると約束をしてくれた。

こちらを安心させる為に無理に笑顔を作り、目線を合わせて言ってくれた。マユを救うことはできないが隣にいてくれると、それがどれだけ滑稽であろうともマユにとってそれが一番の救いだった。

 

思い返せばその時からなのだろう。サザミヤ・マユという女がウタダ・エリオという男を異性として好きになったのは。

 

そういう意味でもワダの好意を受け入れられない。受け入れたくない。自分の事を神に愛される主人公だと思い込んでいるこのガキに、現実を叩き込んでやる。

 

 

「あの時の返事、今するね」

トランザムによって赤く輝くデスティニーが接近しているにも関わらずフリーダムは動けない。システムのトラブルではなく、ましてはサイコフレームの影響などでもない。

 

精神の不調。

人生最大の落胆。

それによる戦意の喪失。

 

「これが返事だよ」

フリーダムのコクピット、その中のパイロットにビームサーベルが突き刺さる。

垂直に突き刺さるよう形成されたビームの前にはセーフティーシャッターも脱出機能も意味を成さない。パイロットは一瞬の激痛の後、身体が溶け蒸発し消えてなくなった。

 

敵意の伴う拒絶、それが愛の告白に対する返事だった。

 


 

破壊の螺旋がジャスティスの脇腹から潜り込み、パイロットを焼き殺しながら突き抜けた。切り離した、否切り離されたドッズライフルを見捨て戦域から離脱する。

狭まった喉が急に膨らみ、肺に入る空気が少し痛く感じた。

 

危なかった。左腕を吹き飛ばされ追い詰められた時、ドッズライフルのワイヤー操作を思い出せなければ今デブリになっているのはジャスティスではなくAGE-1だ。

自分の趣味で組み込んだ戦術だったがそれに助けられた。

 

だが自惚れる余裕すらない。ミーティアまで繰り出される戦場は一瞬の油断が死に繋がる。

ネーナのGNステルスフィールドによって一瞬で全滅する恐れは今の所無いが、それだけで勝てる相手ではない。フルバーストが無くとも、ミーティアとのドッキングによる純然たる弾幕の暴力に味方が吹き飛ばされる様子を何度も見た。

 

それは敵陣に近づけば近づくほど激しさが増していく。その度に上がる心の悲鳴を確信に変え、ただ突き進むしか最早出来ない。退けばその場で死ぬだけだ。

 

片腕を無くしたAGE-1は、滅茶苦茶にスラスターを吹かせながらも遂に防衛ラインを突破した。その更に奥に鎮座する敵艦アークエンジェルを捉える。集団戦において新たに実装された敵艦への攻撃機能は勝敗を決める大きな要因だ。

 

「AMEMBO!ノーマルウェアを!」

呼応し、呼び寄せられた輸送機はAGE-1の四肢を取り外し新たな四肢を機体に与える。壊れた左肩もジョイントから切り離し、新たに用意された白い肩を取り付けた。

最もシンプルで何の特徴も無い四肢、ライフルとシールド以外に何の武装を持たないノーマルウェアを。特徴がないからこそ、ウタダにとって一番動かしやすくもあった。

 

艦を護衛するはずの敵機がそれぞれのモビルスーツ戦に手を取られている今、ここで母艦を落とす。電流のように駆け巡った思考がペダルと操縦桿に力を込めた。

 

スラスターから限界ギリギリまで炎が吹き出し、高速でアークエンジェルに肉薄する。

対空砲を掠めるようにかわし、シールドで軌道を逸らす。

それでも受け流しきれず、シールドが砕かれ左腕がまた吹き飛ぶ。

操縦桿を引っ張る衝撃を堪えつつ、前のめりになりながら操縦桿をただ前へ前へと押し込む。

 

ここで敵艦を潰せば、俺達の勝ちだ。逆にできなければまだ負けるかもしれない試合が続く。

 

勝てばまたガンプラバトルができるしマユの母親との約束も果たせる。

ネットワークがフレームアームズに制圧されつつある今、居場所は現実に作るしかないのだ。戦線と共にする味方とは違う意味で、ウタダ達もまたこの戦いに勝たなくてはいけない。

 

プレッシャー、文字通り一瞬ちらついては消えていく対空砲の弾幕、高速で移り変わる世界が脳のメモリを食い潰していく。

後ろから飛んできたバラエーナプラズマ収束ビーム砲がAGE1の後頭部から頭を丸ごと吹き飛ばす。

衝撃を三肢で受け止め、堪え、癇癪を起こした子供のようにぐちゃぐちゃに動きながら体勢を整える。

 

メインカメラが潰された。それでも前に突き進む。追撃は来ず、その頃射手はよそ見の代償を己の命で払っていた。

 

勝つ、潰す、アークエンジェルのブリッジにドッズライフルを叩き込む。

不可能だ、勝て、勝つ、勝つ、勝つ!

潰す、潰す、潰す、潰す潰す潰す潰す潰す潰す!!

 

その瞬間を夢想し、理性のリソースを食い潰し、野生になるその一瞬、ウタダは声を聞いた。

 

いるな。

 

自分の声ではない。誰かの声で我に帰った。

同時に処理が終わった情報を削除し脳の空きメモリを確保する。AGE-1は対空射撃を潜り抜けつつ確実にアークエンジェルに近付いていた。誰かから通信が入ったわけではない。

それにも関わらず、誰かが自分に話しかけたような気がした。

 

身構えている時には死神は来ないものだ。

 

また、声がした。

聞こえてくるはずがない、聞き間違えるはずもない、憧れの男の声。そんな事はありえない。こんなものはまやかしか、自分が本当にドン・キホーテになってしまったかのどちらかだ。

だが、もうそれでも構わない。

 

後ろにも目を付けるんだ。

 

もう聞こえてくる事への疑問は捨てる。

自分に彼のような力は無い。そもそも現実にニュータイプだのXラウンダーだのその他諸々の超常的な存在もいない。

どれだけ好いてもどれだけ憧れてもただのアニメで、作り話で、虚構で、嘘っぱちだ。

 

だが、その虚構が今自分の背中を押した。

自分でも自覚できなかったくらい小さく僅かな予感を現実に存在しないはずの彼が肯定してくれたと思う事にした。

 

彼はウタダが何をするべきかを示してくれた。それで外れて負けるのならば、もうそれで構わない。

所詮はまやかし。所詮は遊び。その程度のものだ。

そんな、程度の低い何かに身を委ねて、根拠の無い確信をもってウタダは彼から貰った意志だけを胸に、完全に思考を停止させた。

 

 

雄叫び、野生のまま操縦桿を動かし一瞬できた弾幕の穴を突いたAGE-1はついにアークエンジェルに接敵する。ドッズライフルは勿論、やろうと思えばサーベルやパンチすら当たる距離。

アークエンジェルのブリッジの様子がサブカメラから僅かに見えた。誰かが己の死期を悟り、逃げ出そうとしている。

 

右手で握るドッズライフルを構える。肘をぴんと張ったままその銃身が持ち上げられ、銃口が空間を掬い上げるように上がっていく。

しかしその銃口はブリッジを素通りし、半月を描く。

狙いを定めた先は目の前のブリッジではない。自分の真上。

 

 

「そこだ」

天高く突き上げられたドッズライフルから螺旋のビームが更に上へと飛んで行く。その先にいた、フリーダムへ向かって。

 

あ、と声が聞こえた。

次の瞬間に聞こえてきたのは、ドッズライフルがフリーダムのコクピットを貫く音、そして爆音。爆発四散したフリーダムは破片となり、煙を撒き散らしながら降り注ぐ。

聖剣は、舞い降りる事は無かった。

 

ウタダの時間が止まる。ライフルを天高く掲げたAGE-1は、そのまま止まっていた。自分がやった事を噛み締める。

 

アークエンジェルに取り付きブリッジを撃つ時、敵はどう動くか。

敵は自分の上方に待ち構え迎撃してくる。

理屈は無く、あの声を聞いた時にそれを確信した。

 

或いは敵もまた誰かの声を聞いてそうしたのか。どうあれ舞い降りる剣がブリッジを撃とうとする自分の武器を貫く。

そうなればAGE1はアークエンジェルを沈める最初で最後のチャンスを失うのだ。であれば、やらないはずがない。

 

であれば自分はどうすればいいのか、持ち前の武器で上空のフリーダムに対抗するのならばこれしかない。

標的を目の前にある最優先目標、アークエンジェルのブリッジから、いるかどうかもわからない上方の敵に変え、撃ち抜く。

ガンダムが上方で待ち構えるジオングを撃ち抜いたように、アムロ・レイがそうしたように。予感を確信にしてただ上を狙って撃つ。

 

奇しくもガンダムと同じように頭部と左腕を失いライフルを天高く突き上げるAGE-1のその姿は、ガンダムの終わりであり始まり、ラストシューティングの姿そのものだった。

 

「まさかこんな所で叶っちゃうなんてな」

その独り言に答える声は何一つ無い。自分を導き勇気付けた彼、アムロ・レイはもうそこにはいなかった。

 

歓喜が入り混じった雄叫びと共にドッズライフルを捨て、リアアーマーに懸架されていたシグルブレイドをブリッジに叩き込んだ。その中で呆然としているクルーを緑の刃が一人残らず切り裂く。

引き抜いた時、シグルブレイドで削ぎ落としへばりついた女の首が刃を滑り宇宙の果てに飛んでいったような気がした。

 


 

「アークエンジェル轟沈」

 

その報は両陣営に衝撃を与えた。片方に絶望を、片方に勝利の確信を。

 

艦を失った部隊に完全勝利はあり得ない。良くて相打ち、最悪かつ大抵の場合は何もできずに自分達もまた全てを失う屍となる。

 

劣勢側は戦況を変える為に無理にでも動かなければならず、優勢側はそれを迎撃するだけで勝てる。逆転・戦況の巻き返しというシチュエーションは物語における王道のスパイスとなっているが、それが美味であればあるほど一度決まった流れを断ち切り逆転するという事が現実においてどれだけ難しいかを物語る。

 

ミーティアが反撃とばかりに敵艦ミネルバに突撃しては的になり、四方八方からビームライフルに撃ち抜かれ爆散する。

距離を取って仕切り直そうとするインフィニットジャスティスが背後から飛んできたフラッシュエッジに両断される。

アークエンジェルを失った事で生まれた流れは彼らを確実に敗北に誘っていた。

 

「畜生!畜生!畜生!!」

そんな中でストライクフリーダムが持てる武装を周囲の敵機に乱射していた。全射撃兵装を文字通り全て使うそれは一見フルバーストのようで、戦況を変える一手のように見える。

 

しかし戦域は未だスローネドライのGNステルスフィールドが満ちている。フルバーストに必要なロックオンが封じられている以上これはフルバーストたり得ず、ただの一斉射撃に過ぎない。

つまり、この攻撃は何十もの敵の動きを予測しつつも決して殺さず戦闘不能に留める精密性を持たない。その弾幕はうっかり当たった敵を沈ませはするものの本質は距離を詰められない為の牽制に過ぎない。

まして、ミーティアという強大な力を失った、たかが一機の一斉射撃に価値は無かった。

 

フルバーストを撃てていれば或いはここからでも逆転の芽はあるかも知れない。

しかしスローネドライがそれを許さなかった。最強の武器に対する最高に最悪な対策、その上でアークエンジェルの轟沈によって圧倒的な差ができている。

 

まだ勝負は決まっていないものの、ストライクフリーダムは敗北を味わっていた。傷一つ負わず完全勝利を収めた最強の機体のはずなのに、何故こうなったのだ。

 

ストライクフリーダムは負けてはいけない。

最強と書いてストライクフリーダムと読まんばかりのガンダムSEEDに対する強い想い、そして何よりここで負けたらどうなるのか、それを彼は十分わかっていた。

 

ガンダム無双、スパロボZ、あの悍ましく許されるべきでない悪意が再びこの世に顕現する。

商業的価値を投げ捨て、大金を叩いてまで幼稚な悪意を振り翳しコンテンツを殺す奴らがまた台頭する!

スパロボを死に体にした次は、ガンダムというコンテンツそのものを殺すに違いない!

GBNをそうしたように!それだけは絶対に許さない!!

 

「やらせるか! お前ら種アンチの好きにさせてたまるか! ガンプラは自由だ! お前らなんかに自由を奪わせてたまるかぁ!!」

 

キラ・ヤマト達が運命より自由を選んだように。

ガンプラビルドファイターズでそう言われているように。

自分達も自由であるべきだ。その自由を奪うものは何人たりとも許されるべきではないのだ!

 

「自由、ねぇ。お前の言う自由って何だ?」

 

エクスカリバーを持つフォースインパルスの問いかけがストライクフリーダムの火に油を注ぐ。

自分が作り出した燃え盛る炎を他人事のように、対岸の火事のように眺めつつそれを肴にとどめの準備を着々と進めていく。

かつて言われた言葉、いつか言ってやろうと思っていた言葉、それらの辻褄を頭の中で合わせていく。

 

今までの屈辱と理不尽を思い出す。

同じ趣味・同じ好きであるはずなのに、扱いが全然違う。片方への愚痴は封殺され、片方は何を言っても許される。そんな理不尽を味わい続ける日々。

それでも好きだと言い続けろと言われながら、価値観を嘲笑され否定される日々。

常に不本意な耐久テストを受け続ける心は、ただ折れないように耐えるだけだ。

豊かさを求めて飛びついた趣味の世界にも関わらず、だ。

 

「知ってるか? 自由ってのは二つある」

「『何でもできる』っていう自由と、『何をしても許される』っていう自由だ。その二つは似ているようで全然違う」

その抑圧された状況から繰り出され続けた綺麗事は彼を一つの答えに導いた。

自由という言葉の意味。同じ言葉で表されるそれが表す二つの世界はあまりにも違う。

 

「何でもできるってのはやりたいと思ったことができる自由だ」

そして自分達が求めていた自由。求めていたが、手に入らなかった自由。

求めようと藻掻けば藻掻くほどアンチというレッテルを貼られ、愛を否定され、自分の好きを否定される。

自分達が求めていた自由、それは言い換えれば平等だ。誰もが否定されず、同じであって欲しかった。それを妨げてきたのはもう一つの自由。

 

 

「何しても許されるってのは法や倫理を逸脱してもいいっていう最悪の自由だ。お前らの言う自由は、こっちなんだよ」

もう一つの自由の本質は綺麗事に隠された悪意。FREEDOMという名に隠された本音。

誰にも縛られず、誰にも指図されず、他者に責任を押し付けて自分は何の責も負わない。理不尽とも呼ばれる、自由とは正反対のそれを他人に押し付ける自由。

 

ガンプラが齎す自由を踏み躙るフリーダム。好みや癖に合わせたカスタムも持ち前の強さだけで否定するフリーダム。

他人の自由を踏み躙る自由という、悍ましい自由がある事を彼と彼の仲間は苦痛の中で知った。

 

「そんなわけないだろ!」

「何を根拠に! 自由を言い訳に誰かを殴れるから好きなだけ。キラが好きって言ってればシンや他のガンダムを殴りたい放題だものな? そう言えば人を殴ってもいいんだからそりゃ人が集まるよな! それが群れなして、人気があるように見せかけて、そう見えるからまた人が寄っていただけだ!」

その絶望に、その失望に、勝利という火がくべられ復讐という名の業火に変わる。

 

「ストライクフリーダムって名前もぴったりだなぁ!ストライク(殴る)フリーダム(自由)!他人の自由を踏み躙っても許される自由ってか!」

否定された分、否定してやる。

お前達がそうしてきたのだからそうされても文句は言えない。

望んでいた自由を、平等を手にした今、平等に報復してやる。

 

「何が自由だ!どの口で好きにさせるかなんてほざける!? 他人の自由を否定し続けた分際で、反吐が出る! 他人を踏み躙り続けてきたお前らが綺麗事並べて被害者ぶる権利なんてねぇんだよ!!」

エクスカリバーのビーム刃が波打ち噴き出す。感情に答えるかのように破壊のエネルギーを携えたそれを携え、備わった全ての力を出し切ってインパルスが加速する。

 

「地獄に堕ちろ!キラ・ヤマトォ!!」

かつてフリーダムにそうしたように、エクスカリバーがストライクフリーダムに突き刺さった。

あの時とは違い、コクピットに突き刺さったそれはパイロットを殺害する為に念入りに熱を入れる。

 

「Cockpit Destroy」

そしてその表記が、殺害を完遂した事を証明した。

 

 

「やったぞ…」

途端に戦場に静寂が訪れる。

周囲に夥しいデブリ、お互いの陣営の機体だったものが辺り一面に漂っていた。

その静寂と、誰かが吐き出したその言葉がある確信を与える。

 

「俺達は、勝ったんだ! 勝ったんだ!!!」

音が割れ、マイクの許容量を越えた歓喜が完全に途切れながらも響く。

 

犠牲は多く、彼らの中の半分以上は撃墜され、そのガンプラは修復不可能になった。

しかしそれでも、それは無駄ではなかった。それで十分だ。

 

ストライクフリーダムは、キラ・ヤマトは今ここで死んだ。それで十分だ。これからは自分達が自由を謳歌する時代が始まるのだ。

 

 

その絶叫にも近い歓喜の雄叫びをウタダも、マユも、ネーナも通信越しに聞いていた。彼らもまた、ガンダムSEEDの失墜と共に、無理矢理付けられた殺人犯のレッテルも剥がれ、ただの個人としてガンダムを享受できるだろう。

 

背もたれにもたれ掛かり、目を閉じ息を吐く。

行きつけのゲームセンターで見かけた少女を助けた事から始まった一連の戦いは、もうこれで終わるだろう。理屈を言葉にする事もできないまま、ウタダはただそう思った。

 

「しばらく戦いはいいかな…疲れた」

 

その勝利によって得た別の成果達を、見ないまま。




このお話の1話を投稿したのは2023年09月06日。劇場版ガンダムSEED発表を受けて見切り発車的に始めたものでした。

劇場版公開前に、何なら日付だけを見れば公開日当日で、今の今まで突貫で肉付けしてギリギリもギリギリですがなんとかここまでは…という所まで漕ぎつけました。


劇場版楽しみですね。おやすみなさい。(2024年01月26日(金) 00:24)
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