ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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01 Departure-B

 

お前そこまで、と冷静さと空気を欠いた言葉が掠れて漏れ出した。

 

 

超巨大支援機ミーティアはプラ板やパテで構成されたスクラッチ作品ではない。作品の人気の高さから正式に販売され市場に出回ったれっきとしたガンプラだ。

しかしその巨大さ故の敷居の高さにより再販の機会は少なく、今やプレミア。数万円の価値が付き、滅多にお目にかかれるものではない。

 

それを目にするのはAGE-1もスローネドライも初めてだった。しかしその脅威は深く理解している。

その情景がAGE-1の脳裏で再生されると共に、彼の視覚にも、現実にもそれが反映された。各部位のハッチが開き赤い円柱が顔を覗かせる。

 

「ネーナ全力で逃げろ!!」

彗星が紫煙を上げて毛羽立つ。ハリネズミが毛を逆立てるようにミサイルが飛び出していく。ミサイル群は何の狂いもなく3機のモビルスーツに均等に顔を向けた。

いくらステルスフィールドでセンサーを狂わせていたとしても限度がある。そして一撃でも当たってしまえばそのリスクは一生涯尾を引く。

 

「この手のミサイルは、引き付けてまとめてから!!」

「上昇しながら進んで避ける!!」

元々距離が離れていたスローネドライにはそれが可能だ。

標的がひたすら後ろに下がり続ければそれを追うものは纏まらざるを得ない。そうなれば回避は十分可能。

 

しかしデスティニーはそうはいかない。

ド素人かつダメージが酷く、そこまで距離も離せていないデスティニーにミサイルが直撃する。複数の爆発に紛れ近付いた一本がデスティニーの顔面にめり込んだ。

デスティニーがもんどりうちながら転がり吹き飛ばされていく。

カメラアイの一部が砕け、砂のようなきらめきが宇宙空間に散らばる。

 

イッヒヒと常軌を逸した笑みが通信から響き、その鼓膜の振動が神経を逆撫でる。何がそんなに嬉しい、と。

 

 

「初心者相手に3対1どころかミーティアまで持ってくるとかマジで何考えてんだよ!? この人が何をした!?」

「お前も同じだ!存在している事それ自体が罪!!」

「何が罪だよたかがゲームに!!馬鹿馬鹿しい!!」

「たかが!?たかがだって!?」

当たり前だこんなもの。そう伝える前にその言葉が塗り潰された。 

 

「お…私は救われたんだ!ガンダムSEEDという作品に!!」

これは論争でなければスポーツでもない。そこに攻守交替は無い。

 

「希望の見えない毎日に輝きをもたらし!生きる意味をくれたのだ!!」

類似物で例えるならば犬の喧嘩、それ以前の前戯、吠え合いだ。

 

「ガンダムSEEDとは素晴らしい作品だ!後世に語り継がれるべき名作は人すら救う!!」

声の大きい方が全てに優る。大きい声を出し続けたものが全てに優る。

 

「しかしコイツは!それを否定するんだよぉ!!俺の生きがいを!!世界が誇る名作を!!!」

意味は無くとも吠えた方が全てだ。吠え続けた人物こそが勝者だ。

 

 

「デスティニーは!シン・アスカは死ねぇ!!!」

 

そこに倫理も論理も必要無い。

そして勝利した者が全ての主導権を握る。

デスティニーに振り下ろされた大型ビームソードはその軌跡の途中で割って入ったAGE-1とそれが掬いあげるように振り上げたレイザーブレイドと激突した。

 

有質量とビームが激突し均衡する奇妙な光景がその場を支配する。

作品間で異なる近接武器同士の鍔競り合い現象の有無はガンプラバトル上では一貫して成立するものとして扱われている。

 

故にこの世界では有質量とビームは激突する。そして激突したのであれば、後は全力を尽くして切り裂くか逆に切り裂かれるかだ。

激突していたはずのレイザーブレイドがビームの中へと食い込んでいく。そして切り抜けた。

 

「ネーナ!ファングだ!!!」

返す刃を発振機に叩き付けると巨大な剣が大根のように切り落ちる。

レイザーブレイド、その基になったシグルブレイドはAG世界におけるビームサーベルの上位互換だ。

適度なメンテナンスさえ怠らなければビームサーベル以上の破壊力を誇りその緑の刃はビームを切り裂く。

 

とはいえ巨大なビームを相手にすれば無事では済まない。その上発振器に叩きつけたことがとどめとなりレイザーブレイドが完全に破損した。

 

 

一拍遅れて無数の赤い牙がミーティアに突き立つ。それはまるで吠え合いで負けた犬が暴力によって相手をねじ伏せるかのようだった。

ダメージが限界に達したミーティアから電気が漏れ出し始め爆発の前触れを演出する。

 

 

爆発に弾き出されるようにインフィニットジャスティスがミーティアを切り離し、AGE-1に接敵する。

 

「死ねだの殺すだの人前で叫んでんじゃねぇよ!」

「黙れゴミが!死ね!!」

ミーティアの破壊と引き換えに大破した腕のレイザーブレイドを捨て、脚のレイザーブレイドとグリフォンビームブレイドが激突する。

 

双方待ち望んでいた刃のキック対決が始まったがそれを楽しむ余裕は両者には無い。

相手を破壊して殺す、相手を黙らせる、その為だけにスラスターを吹かしぶつかり合い押し付け合う。

 

ミーティアのビームソードに比べればグリフォンビームブレイドの出力は低い、しかし脚部のレイザーブレイドもまた腕のそれと比べれば小さく重さも無い。

僅かな差はあるものの、両者はほぼ拮抗した。刃をぶつけては姿勢を変えまた刃をぶつける。

 

その激突の最中インフィニットジャスティスの背部ユニット、ファトゥムが正面を向き二本の砲塔がAGE-1を捉える。

視界の上辺から逃れようと飛んだAGE-1の右足をハイパーフォルティス、文字通り『強力な』ビームであるフォルティスが強化され『超強力』となったビームが千切り取った。

 

レイザーウェアにおける四肢の破損は致命傷だ。脚を失った途端にコクピットが爆発するだとかそういった話ではない。

四肢の重さを動きの前提に組み込まれている故に片方を失えばまともな機動ができなくなるからだ。

片足を無くしバランスを崩したAGE-1がもんどりうちながら飛び回る。

 

 

通信から驚きの悲鳴が聞こえてくる事にインフィニットジャスティスは勝利を確信した次の瞬間、アロンダイトがインフィニットジャスティスの腹部に突き刺さった。

光の翼を携えたデスティニーが正面にいた。

 

AGE-1との戦いと、自分の一撃でバランスを失った敵機の機動に完全に気を取られていた。ましてこの戦いにあんな初心者が近づいてくるなんて思ってもいなかった。

或いは、今この瞬間も散布され続けているGNステルスフィールドがその不意打ちを助けたか。

 

 

「上だ!」

「そのモビルスーツのコクピットは胸だ!そのまま上に切り抜け!!」

 

乱れた通信から飛ぶ号令がアロンダイトに活力を与え、不安定なビーム刃が少しずつ機体を溶かしていく。

その刃は確実にコクピットに向かってずぶずぶと進んでいく。

 

かつてフリーダムを、インフィニットジャスティスのパイロットを仕留め損なった男の意志が乗ったかの如く、今度こそ確実にコクピットを破壊し敵を殺害せんとデスティニーのカメラアイが輝いた。

 

 

「ふざけんな」

ゆっくりと刃を進めるアロンダイトの有様は己の死期をインフィニットジャスティスのパイロットも悟らせるには十分だった。

 

「ふざけんな」

 

「デスティニーが、ジャスティスに、勝てるはずがねぇだろォ!!」

 

無関係な他者の怒り、しかしそれすら乗せたようにアロンダイトは装甲とフレームを切り裂き、その場でデスティニーは活動を停止した。

 

 

「Cockpit Destroy」

 

画面に浮かぶ文字の意味を理解する気力は彼女には無かった。しかしそれでも現実にはそれが示す事実が存在する。

 

人の乗る兵器であるモビルスーツには操縦者を納めるコクピットが必ずどこかに存在する。

だからこそ、そのコクピットが破壊されれば兵器は動かなくなる。ありとあらゆる物語があるガンダムシリーズでもこれは共通だ。

作中の戦いを模するガンプラバトルシステムにおいても敵機撃墜の条件の一つがこれにあたる。

 

そしてコクピットの破壊が意味するものはもう一つ、それは操縦者の死。

ビームに焼かれて液体となるか、爆発や質量に身体を裂かれて苦痛と共に永遠に意識を手放すか。あらゆるパイロットが作中でそうやって死んでいった。

 

 

つまりこの表記が意味する事は、今この場で、アスラン・ザラはデスティニーに敗北しアロンダイトにより焼かれ溶け死んだという事だ。

己の絶対的な正義を信じながら、他人を否定したまま、かつての友のようにビームの刃によって、永久脱毛で焼き切られる毛根のように、アスラン・ザラは死んだ。

もちろんそれは妄想を含む感覚とデータ上での話だが。

 


 

隔てた先からごわんという音がかすかに聞こえた。幻聴かも知れなかったが高揚した精神が冷えていく中で成程これは動物園だとある種の現実を受け入れる。

 

リザルトの表記、次なる戦いに誘う輝かしく物々しい表記も今は喜ばしくない。

ナビゲーションとして設定した青臭くも落ち着きのある男の労いの言葉も、録音されたデータであるとわかっていても聞く度に喜んでいた賞賛の言葉も、今は話半分にしか聞き取れない。

 

 

デスティニーとインフィニットジャスティス達の戦闘を見て我慢が出来なくなった末にネーナと筐体に飛び込んだ。

そこから今までに得てきた情報。それらを冷えた頭が読み解き予想する未来はどれも暗い。

キャラクターになりきる為に防音処置まで施された筐体の中からは伺い知れないが一歩外に暗闇がある事は間違いない。そこに踏み込むのが怖かった。

 

 

「ねぇ、どうしたらいい?」

 

筐体の扉が開かれ問いかけられた。癖のある赤髪をツインテールでまとめた女がこちらを見ている。自分と一緒にゲームセンターに遊びに来たスローネドライのパイロットだ。

 

先に外に出たのであろう彼女は、やはりいたたまれない表情でこちらの対応を伺っている。

 

彼も観念し、覚悟を決めて筐体の外に出る。

ある程度わかっていたとはいえ見たくはなかった。だからこそ心が痛んだ。質量の無い何かが心臓を貫き穴を開ける感触は何度経験しても苦しさしか感じない。

 

 

共闘相手が持つデスティニーガンダムは、頭部と片腕片足が砕かれていた。

ディティールアップの為に貼り付けられたプラ板が何もせずともぼろっと剥がれ落ちる。

パイロットの女の子の表情からは何が起こったのか一切理解できないという感情と、取り返しのつかない事をした絶望が読み取れる。

 

 

何が起こったのかは二人にはよく分かっていた。

ガンプラバトルシステムにはある種奇特と言えるシステムが存在する。それがダメージレベルシステムだ。

 

ガンプラをデータ化して動かすネットゲーム式とは違い、ガンプラバトルシステムはセットしたガンプラを実際に動かす。

動かしたガンプラの動画写真をデータとして取り込みフィールドに即時反映させる事でバトルを成立させている。

 

そしてシステムはダメージの衝撃すらも再現する。否、そのシステム上再現せざるを得ない。

モビルスーツの戦いは無敵のゾンビ同士が互いの都合を擦りつけ合う殴り合いではないからだ。

 

蹴られれば飛ぶ、撃たれれば穴が開く、切られれば切られる。あまりにも文字通りで当たり前の事象、それが自然であり何があっても避けられない事実だ。

 

 

つまりガンプラバトルシステムとは機械任せのブンドドだ、それ故に加減が効かない。遠慮の無い機械は容赦なくガンプラを折り砕く。

 

丹精込めて作成したガンプラが一瞬のうちに砕かれる。

時間をかけた表面処理も頭を悩ませたスジボリも、その模型に投入した技術の何もかもを無駄にする。

故にネットゲームユーザーからはダメージレベルシステムは不評であり、ガンプラバトルシステムをそれの下位互換と見下す理由付けにもなっている。

 

 

開発陣はこれを改善すべくあらゆる手段を採り、成功した。

しかし、『だがそれがいい』と言う変人が一定数以上存在する現実にも直面しなければならなかった。

 

陸戦型ガンダムの頭部をジムに置き換えたり、破損したエクシアのパーツをティエレンのカメラアイで補ったりとリペア機体の魅力はガンダム内でも多分に語られている事もその変人を正当化する一助となっている。

わざわざゲーム中で切られたアンテナをニッパーで切断して再現するなどと言った奇特中の奇特な人物まで存在した。

 

切り捨てるにはあまりにも奇人の割合は大きい。切り捨てるのはコンテンツの自殺と同義だ。

結局開発陣はダメージレベルを区分けする事でそういった連中の満足も得られる選択肢を設けた。

 

 

今回はその仕様を利用した罠だ。相手が初心者なのをいいことに気付かれないようにダメージレベルを最大まで上げる、あるいは予め上げておいて誘き出す。

 

そして相手のガンプラを完膚なきまでに破壊する。

あのアスラン・ザラ達の本当の勝利条件がそれだった。

 

このデスティニーを破壊する事。それが事故による当人の欠席と、何も知らない初心者の代理人を無理やり戦わせる事で完全に実現した。

 

ミーティアを用意していたのもそれが理由だ。回避が難しい弾幕を当てる事で少しでも破壊する為だけに、数万の価値あるガンプラを持ち出した。

とはいえ今回はハンデ戦、向こうのダメージレベルは0だ。数万のガンプラが爆発しようが切り裂かれようが大した損壊は無い。

 

偶然が重なったとはいえノーリスクで勝利を掴みに来たのだ。

細かな矛盾や倫理観の欠如は誰も気にしない。

見て見ぬふりをし都合のいい妄想を事実として拡散する仲間が彼らには沢山いるのだから。

おそらく予想外の介入を受け勝利に至らなかった事すらも無かったことにされるだろう。

 

「生意気なデスティニーを正義の俺達が完膚なきまでに破壊してやった」

彼らはそうとしか言わないだろう。

 

 

だから彼らはもうそこにはいなかった。




劇場版ガンダムSEED発表前から少しだけ作っていたものでしたが、ネタ的に劇場版発表前に出したい(なるべく完結させたい)ので見切り発車しました。

ちょっとした賭けではありますが、まぁ大丈夫だろうと考えています。
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