一方的であろうが戦いは戦いであり戦争は戦争だ。虐殺と戦争を分別するものが互いの解釈と精神性にあるのなら尚更それは戦争だった。客観的に見れば虐殺に見えるそれも、誰かがそれを口にしなければ何一つ疑いようの無い潔白で真っ当な戦争行為になる。
そう言いたくなる程呆気なく、一方的に終わった。
分裂し思想も無くただ味方を撃ち合うだけのフレームアームズ達、そして最強のモビルスーツを一つに合わせたジャスティスフリーダムの存在、それらが完全な勝利をガンプラに齎した。
負けじと撃ち返そうとするフレームアームズを背後から別のフレームアームズが撃ち抜く場面も多々あった。あまりにも自分達に都合が良すぎるその行動もガンプラ達は自分の正しさの証明と思い見逃した。
デスティニープランを掲げるギルバート・デュランダルの下から離反しキラ・ヤマト達の利の為に動いたイザーク・ジュールやルナマリア・ホークがいたように、正しいものは普遍的かつ絶対的でありそれに従うのが人間の本能であり、それが自分達なのだと確信するだけだった。
そしてガンプラしかいなくなった拠点の中、先陣にいたG3ガンダムが勝鬨を上げる。
「みんな!ご苦労だった!これでGBNの平和は守られた!!しかしこれは終わりじゃない!!新しい戦いの始まりだ!!」
その場に残ったガンプラの注目がG3ガンダムに集まる。安堵の最中に現れた次の責務。仕事を済ませた途端に次の仕事を積み込まれたかのような不快感と、言葉にせずとも感じていた不安が彼の言葉で表面化する。
「あいつら自身も白状していたが、あいつらの行動原理は正義でも何でもない!ただ自分達が気に食わないからガンダムを潰したいだけだ!」
「懲りずにまた現れるだろう!その時々のガンダムを叩くのに都合の良い作品を持ち上げ、まるでそれが好きかのように振る舞いこちらを攻撃してくる!!」
その場にいる多くが予感していた事が言語化されていく。彼らはまた現れるだろう。しかしその時の姿は今とは全く違う。フレームアームズを捨て、新しいコンテンツ新しいプラモデルを使いまたガンダムに攻め込んでくるだろう。
長所と短所は紙一重という言葉を悪用し、短所を無理やり長所に言い換え語彙力の全てを注ぎ込み、あらゆる要素をガンダムより上と褒め称えながら。
しかしその根幹にはその作品への好意など一切なくガンダムへの悪意しかない。どれだけ褒め称えようがそれはガンダムを潰すための便利な道具でしかなくそこに愛などありはしない。
根拠は今回の一件だ。首謀者の個人情報という秘密兵器の登場によってガンダムのアンチ、フレームアームズ達の好きの裏側にある本心、悪意という打算が露呈した。
ガンダムを潰したいからこそ好きだと言い張る。その口からひり出す称賛の全てが嘘であるにも関わらずそれが真実の愛だと吹聴する。あまりにも哀れであまりにも愚か。
しかし例え客観的に見てそれがどれだけ愚かに見えてもガンダムWのゼクス・マーキスが言うように『馬鹿は来る』のだ。
G3ガンダムがまた外敵が現れると確信しているのはそれ故であり誰もが感じていた不安の原因もこの理屈からだった。
『馬鹿は来る』。ガンダムを受け入れられない馬鹿は居なくならない。皆、それは既に現実として受け入れていた。
「みんなにはこれからも力を合わせてアンチと戦ってほしい!」
新たな決意を促す声に歓声が上がる。相手がどれだけの馬鹿であろうとも、それが事前に止められないものであろうとも、自分達であれば勝てる。
好きを、ガンダムを守る為に自分達はこれからも戦い続けるのだ。
「その上で、まず目先の問題について考えてくれ。そもそもどうしてこいつらがやってきたと思う!?」
「ガンダム嫌いなこいつらが、GBNの仕様を把握し、ハッキングして動画を拡散したそのやり方を一体誰から教わったのか!?」
新たな問いかけが想像力を刺激する。『フレームアームズ達にガンプラユニバースフェデレーション(愛称GBN)の知識がない』という前提を崩さず物事を考えるならば、ある一つの可能性に辿り着くのは容易い事だった。
「アンチに手を貸す、ガンダムに詳しい内部犯…裏切り者がいる!!」
合いの手のように周囲が一斉にざわめいた。
ガンダムを愛していながらアンチに手を貸す、そんな不届者がいるという事実。しかし無能なガンダムアンチが単独でできない事を今実際にやってのけた以上、裏切り者が手引きしたからというのは彼らの中では理屈が通っている。
であればその裏切り者は誰か。
各々が恐る恐る可能性を考えては、今求められている都合の良い答え、もとい正解を口にする人々がぽつぽつと現れる。
それを見計らいG3ガンダムの傍からジャスティスフリーダム、パイロットのワダが割り込み彼の前に立った。
「ここから先は僕が」
G3ガンダムからの相槌を受けた上で、ワダは注目の的に成り代わる。ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスを素体とした、改造元がわかりやすいそのガンプラに皆が目を奪われる。圧倒的な力でフレームアームズを殲滅したその力を先程間近で見ていた者も少なくはない。そういう者は尚更ワダから目を離せなくなる。
「初めまして。僕はワダ・エイチと言います。僕の話を聞いてください」
「今回の件、裏で糸を引いているのは種アンチです」
ワダは躊躇なく言い切った。
「ガンダムSEEDは今やファーストに並び立つ代表作品です。それが嫌いな種アンチはついに組んではいけない相手と組んでしまった。ガンダムSEEDをガンダム諸共潰す為に」
ワダが示す推論はこうだ。
種アンチはガンダムSEEDを、キラ・ヤマトが活躍する様を見たくないが故にガンダムというコンテンツを破壊しようと考えた。絶大な人気を誇るガンダムSEEDを見ないで済むには、キラ・ヤマトを見ないで済むには、もうそれしか方法が無い。
最早ガンダムというコンテンツを終わらせなければ、ガンダムSEEDを見たら憤死しそうになる病気を持つ彼らが苦痛から逃れる術は他に無いのだ。
だからこそシン・アスカのファンとガンダムのアンチは利害が一致し手を組んだ。そしてそこから起こった出来事は全て彼らに都合の良いものになった。
「思い出してください。フレームアームズが大義名分として出してきたあの動画は、種アンチにとっても都合の良いものだったじゃありませんか?」
サザミヤ・マユという種アンチを糾弾する動画。その動画を嬉々として晒し上げる有様をマサル達フレームアームズは捉え、晒し上げて悪とした。
あの映像はガンダムのアンチにとって自分達の攻撃を正当化できる非常に都合の良いものであり、ガンダムというコミュニティにとっては毒でしかない。
しかしガンダムのコミュニティの中でただ一つだけそれが毒にならない例外がいる。
それが公に種アンチと呼ばれているシン・アスカのファン達だ。
自分達の扱いが不適当なものと見做されれば自分達の立場向上に繋がる。ガンダムというコミュニティを脅かすあの動画は、彼らにだけは喜ばしいものだった。
だからコミュニティが害されるにも関わらず、それを喜んで受け入れた。ワダはそう考えた。
「現に奴らはあれが公開された後、混乱に紛れてガンダムSEEDのファンにガンプラバトルをふっかけ卑怯な手段で勝ちを奪った。バグを利用してフルバーストを使用不可能にしてだ!」
事実彼らはこれ幸いと勝負を仕掛け、フリーダム軍団に勝利した。その戦いには動画を晒されたマユも参加していたのもまた事実。
ワダは思い返す。あの戦いが全てを狂わせた。あの戦いで負けたからこそ、全てがおかしくなってしまった。自分達は負けてはいけなかったのだ。
ガンダムSEED DESTYNYの最終回、レクイエム発射を巡る決戦でキラ・ヤマト達は無傷で勝利を収めた。
戦争という状況にいながらまずあり得ない、神の手が入ったとしか思えないその結果は考えてみれば当然のものだった。
キラ・ヤマトが無傷で勝利したのは彼が正しいからだ。だから完全な勝利を収めることができた。
何故正しいものが勝利を収めるのか。それは正しいものが負けてはいけないからだ。ガンダムSEEDのファン達は長年、あの一方的な戦いをそう考察している。
しかし自分達は負けた。集団戦という新しい機能の脆弱性を突かれフルバーストが役に立たなくなってそのまま引き摺り込まれるように負けた。
正しいものは負けてはいけない。正しいものは勝つのが道理。だからキラ・ヤマトは完全勝利を収めた。にも関わらず自分達は負けた。
その結果、彼の人生は狂った。摂理に反した、歪みの代償と言わんばかりに。
「彼の両親はその後、調子に乗った種アンチに襲われて一生消えない傷を付けられている。奴らはそれすらもあの動画を言い訳にしているのだ!!」
補足と言わんばかりに、ワダを思いやるようにG3ガンダムが口を出し、周囲がまたざわつく。
それを聞いたワダも未だ鮮明に残っている記憶を思い返し心をざわつかせる。その記憶は悪に負けた、彼が生み出してしまった歪みの代償だった。
失恋した上に戦いでも負けた後、ワダの周囲で嫌がらせが始まった。最初は違和感程度だったそれを不気味に思うだけに留まっていたが、ある日それは突然刃になった。
割れた窓ガラス、倒れたワダの母親、あたりに散らばる破片と石と血飛沫。
母の顔に深々と残ったその傷はもう火葬されるまで消える事はない。医師から残酷な事実を突き付けられ、ワダと母親は泣いた。
どうして自分達がこんな目に遭わなければいけないのか。答えを求めるわけでもなくただ二人でそれだけを考え続けていた。
その状況から真相を聞き出せたのは彼にとって意外な伝手からだった。何故自分達が狙われたのか。何故今になってなのか。その全てを教えてくれた人がいた。
ガンプラユニバースフェデレーション(愛称GBN)でいつも共に遊ぶ、フォースの同僚。思い返せばガンプラバトルへの参加を要請してきたのも彼だった。
まず彼から聞いたのはサザミヤ・ケンイチロウという種アンチがガンダムSEEDのファンに嫌がらせをして回っているという事だ。そしてサザミヤ・ケンイチロウの妹がクラスメイトのサザミヤ・マユであるともそこで知った。
彼女が自分達の個人情報を仲間、つまり種アンチにばら撒いたのだ。だから自分達が狙われた。
最初から利用されていたのだ。種アンチとしていじめられる彼女を自分が止めに入る事も、全て想定され利用されていたのだ。フレイ・アルスターがコーディネイターへの憎しみを晴らす為にキラ・ヤマトを誘惑し戦わせたように。
彼女は最期に改心した。しかし現実はフレイ・アルスターのように改心することなく、その恩を仇で返された。何故ならマユはフレイ・アルスターではない、種アンチだからだ。
「それだけではない。奴らは言葉巧みに人を騙し、幼い女の子にわいせつ行為を働き言いなりにしている!奴らはアニメ好きなどではない、立派な犯罪者だ!!」
先程マサルの素顔を映し出したビームフラッグに違う画像が映り出す。幼女、マユと大人、ウタダが公園のベンチでキスをしている。G3ガンダムはそれを新たな犯罪の証拠として提示しているが、ワダからすればそれは裏切りの確固たる証拠以外の何者でもない。
ワダは全てを知っている。これを撮影したのも流したのも自分がやったからだ。だからマユから唇を重ねた事を知っている。それに対してG3ガンダムはウタダがマユに無理やりキスをしていると説明をしている。
もし二人がそれぞれの解釈の異なる点を指摘し合ったならこの状況は一瞬で破綻する。
しかし擦り合わせなどワダにとっては無駄な事でしかなかった。そしてそれはこの場にいる人々全員にも当てはまっている。
この千載一遇のチャンスに事実確認を持ちかけて水を差す奴はSEEDファンではない。種アンチの工作員だけだ。
「種アンチ!シン・アスカ!奴らを根絶やしにしない限り、また同じような事が起こるぞ!」
「そうか!シンのモチーフはカツだ!あいつがカツだったから繋がりがある!パズルのピースがはまったぞ!!パズルのピースがはまったぞおおおおおおぉおおおおお!!」
「そうだ!プラモ屋に殴り込んだとかいうのもあいつらの工作だろ!俺たちがそんなことするわけがない!!」
「俺達の世界を!俺達の好きを守るんだ!種アンチを殺せ!種アンチを殺せ!!」
常軌を逸した過激な発言も聞こえない、或いは聞こえないフリをされていた。そもそもシン・アスカと種アンチを直結できていない人もいる。
ただガンプラユニバースフェデレーション(愛称GBN)を守る為にここにいる人もいた。
しかしそれを指摘し否定する事は自分達の戦いの否定にも繋がる。ここで否定するという事は即ち種アンチとして蜂の巣にされる事にも直結する。
故に『多少のズレ』は誤差であり許容範囲内に過ぎない。そんな些細な事の為に己の正義を無かったことにはできないし、させない。
「SEED FREEDOMは確かに素晴らしい作品だった。だが一つ、ただ一つ、やってはいけない大きな過ちを犯してしまった」
「それはシンを殺さなかったことだ」
魑魅魍魎かつ乱雑なざわめきの中、原初の感情とも言えるそれが人の耳では聞き取れないが誰よりも大きな叫び声を上げていた。
加齢によって聞こえなくなるモスキート音のように、ヒトが物心ついた時に名目上消えてなくなるその感情は、それでも世界には間違いなく存在していた。
赤ちゃんから玩具を取り上げたらどうなるか、想像できるだろうか。自我を持ち始める生後1歳前後の赤ちゃんにそのような事をしたら、彼彼女が泣き出す事は容易に想像できるだろう。
では何故彼彼女は玩具を取り上げられて泣くのか、想像できるだろうか。その最大の理由は『言語を知らないから』だ。
空腹を始めとした身体の不調や僅かな不安を感じた時、赤子は泣く。彼彼女はそれでしか他者とコミュニケーションを取る手段がないのだ。
何故なら彼彼女にはまだ言語が無い。世間を知らない。故に泣く事で状況の解決を図る。彼彼女にはそれしか選択肢が無い。
玩具を取られた赤ちゃんが泣く仕組み。それは玩具を取られたという怒りに対して彼彼女は泣く事で不快感を払拭しようという試みだ。
そんな彼彼女も成長と共に泣く事は少なくなっていく。それは感情が希薄になるからだろうか。もし成長した彼彼女らから何かを取り上げたとしても何とも思わないだろうか。
答えは、『そんな事は無い』だ。
彼彼女が10代を越え、20代、40代、死の間際になったとしても変わらない事はある。玩具を取り上げられたら赤子と同じように不快に思うのだ。
赤子というカタチから不完全変態を果たした彼彼女から泣き叫ぶという行動パターンがなくなるのはそれ以外のコミュニケーション手段を得たからでしかなく、玩具を取られた時の怒りの感情を捨て去ることは無い。
そしてそれが有効と捉えた途端、もしくはそれ以外の手段を見つけられなかった場合、彼彼女はそれまでの経験すら投げ捨て赤子のように泣き喚く。
しかも生まれた時には僅かしか持ち合わせていなかった、しかし今となっては末期癌のように全てを覆い尽くした知性と言う名の自尊心と嗜虐性と残虐性を以って。
彼らはまさにそれだった。十数年持ち続けていたシン・アスカという、いくらでも殴れる玩具をある日突然失ったのだ。
ガンダムSEED FREEDOM、劇場版という存在が彼らの世界を大きく変えてしまった。
スーパーコーディネーターを超える存在アコード、ストライクフリーダム以上の性能を持つエース専用機ブラックナイトスコード、それを四機相手に終始圧倒し無傷で勝利したデスティニーとシン・アスカ。
それまで彼らの悪意は保証されてきた。
ガンダムSEED DESTYNYが提示したものはキラ・ヤマトによる無傷の完全勝利、手も足も出ず完敗するシン・アスカ。
デスティニーガンダムは欠陥機。
デスティニーガンダムの強さは宇宙世紀の量産機以下。
シン・アスカは弱い。
シン・アスカは何もかも間違っている。
その全てが『公式』という名で保証されてきた。
だがそれが一瞬にして崩れ去った。
デスティニーガンダムの強さを見せつけられてしまった。
シン・アスカの強さを見せつけられてしまった。
それまで否定してきたものを否定する事を否定された。
『公式』という名の知らない何かによって、永遠にあると思っていた安らかな日常はヘリオポリスのようにあっけなく崩されてしまった。
十数年、ずっと共にあったそれがたった一日で。
ファンはそれを受け入れざるを得なかった。
ある者は虎の威を借っていたが為に、ある者はもっと強大なモノへのマウントの為に、ある者は数十年待望した作品を持ち上げる為に、またある者はそれまで振りまいた悪意と傷付けてきた他者の存在をすっかり忘れて。
更に不幸な事に、ガンダムSEEDのファン達は十数年という長い期間コミュニティの中で延々と正当化と揶揄を繰り返した結果快楽を貪るスパゲティコードと化したシン・アスカへの感情を、一つ一つ解く間もなく鷲掴みにして引き千切りゴミ箱に突っ込まざるを得なくなった。
最早どれがどれに繋がっているかすらわからないが故に、根幹を走っていたものも諸共に捨てるしかなかった。
つまり彼等の自覚無自覚問わず、かつてのファンの変節には大きな犠牲を伴った。
『シンは敵じゃない』という新たな環境に適応出来なかった哀れな同士を一方的に切り捨て、指を指す。
昨日まで由緒正しいファン活動の一環であったシン・アスカを嘲笑し卑下する行為をアンチと決めつけ、愛を全否定し、排除する。
それまでシン・アスカのファン、種アンチにそうしてきたように。
そしてそこに『公式』という名で保証された、自分達が種アンチと称してきた人々からの報復も入り込む。
それでも『公式』という印籠に平伏すしかなかった。今まで自分達がそうして来れたのは『公式』の力があったからだ。
一度絶頂を味わった後に屈辱を受け入れられる者は少ない。昨日までの友に迫害される身でも、改宗を強制された身でも、それまで見下していた連中に踏み躙られる身でもそれは同じだ。
彼らは燻る感情を押さえ付けながら生きていかなければいけなくなった。
ガンプラバトルシステムが開発され、ガンダムというコンテンツが世界中に広まるまでは。
ガンプラバトルが現実のものになり、ガンダムというコンテンツに初めて触れる人が爆発的に増えるそのタイミングで彼らは、或いは彼らの遺志を受け継いだ誰かが賭けに出た。
『DESTINYだけの話』、『FREEDOMで脚本家が交代しただけ』。その時々の逃走経路を確保した上で自分達の価値観を広めて回った。
かつての屈辱を晴らす為に。かつての玩具を取り返す為に、赤子が泣き喚くように時も場所も考えずにただひたすら拡散し続けた。
反論を試みる連中は多彩な逃走経路に翻弄され、無言を貫く連中は事実上の応援であり黙認であり肯定になった。
表立ってやる勇気は無くともそれを見逃せば誰かが動いてくれる。そんな無言の人々の甘えも受け入れ、意志は拡散していく。
歴史を知らない新参が都合の良い解釈をして『ガンダムとはそういうもの』と理解し自分達の劣化模倣を始めた時、擬似餌の肉壁は厚みを増す。
そして数が増せばそれに反抗する集団も過激化していく。願ってもない事だ。原因を省みる事なく過激化したそれを叩くだけで自分達の正当性が主張できるのだから。
「僕たちの帰るところを守るんだ!!」
「俺達は俺達の好きを諦めない!!」
シン・アスカといういくらでも殴れる玩具を再び手に入れる為に彼彼女は言葉を尽くし、他人を操る。
玩具を取られたという、赤子の頃から持ち続けている原初の怒りを糧に。その玩具で遊ぶ感性を否定された屈辱を糧に逆境に立ち向かった。
「立てよガノタよ!!」
人は成長などしない。
人は進化などしない。
ゴキブリが数億年の間その姿を保っているように。
人は赤子のまま一生を終える。彼らが今の自分達を幼年期と嘯くのであれば、その幼年期に終わりなど来ない。
「種アンチとシン・アスカに、Noを突き付けるのだ!!」
しかし昼も夜も問わず延々と泣き続けた赤子達の喚き声が遂に世界に届く。
今、彼等の心は受け入れられ、その精神は黄金期を迎えた。